惜しくも先ごろ亡くなられた、ゾンビ映画の父と賞賛される映画監督、ジョージ・A・ロメロ!もちろん、ゾンビ映画以外にも様々な作品を残しているのだが、ファンにとってはやはりゾンビ三部作が思い出深いのではないだろうか?
それにしても、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」、「ゾンビ」に続き、三部作のラストを飾るこの「死霊のえじき」が、まさか公開当時日本でコミック化されていたとは!今回はロメロ監督追悼の意味を込めて、「死霊のえじき」コミカライズ版を紹介することにしよう。
「死霊のえじき」ストーリー
死者と生者の数が逆転し、地上にゾンビが蔓延する世界となったアメリカ。フロリダ州郊外の地下基地では女科学者のサラを初め、少数の人間達が立て篭もり、ゾンビの研究と生存者の捜索を行っていた。科学者達は状況を打開すべく、ゾンビの研究に打ち込むが成果をあげることができず、軍人グループの指揮官・ローズ大尉はいらだっていた。圧倒的多数のゾンビに支配された世界で、数少ない人類は生き延びることができるのか・・・?
ゾンビ映画の名作「死霊のえじき」とは?
「ナイト・オブ~」ではゾンビという新興勢力の出現を、続く「ゾンビ」では生きる死者と人間との戦いと、物質文明と物欲に捉われた現代社会を描いて来たロメロ監督。

ジョージ・A・ロメロ監督晩年の写真

「死霊のえじき」劇場版ポスター
「ゾンビ三部作」のラストを飾るこの「死霊のえじき」では、遂に人間側が少数派(セリフによれば、ゾンビと人間との比率は、もはや40万対1!)となっていて、対抗策としてゾンビを研究し飼い慣らそうとする科学者が登場する。
実は三部作それぞれが、60年代・70年代・80年代のアメリカの現実の問題を描いており、これ以降に製作された作品群においても、常にその時代の社会問題や政治を織り込んで描こうとして来たロメロ監督。この点が、年月を経れば経る程、逆にその評価を増す要因となっているのだ。

「死霊のえじき」撮影中のロメロ監督とゾンビ!
死霊のえじき - Wikipedia
注:「死霊のえじき」について、更に詳しく知りたい方は、↑上のリンクからどうぞ。
単なる「ゾンビが人を喰うのが見所の映画」では終わらない、この「死霊のえじき」。
果たして、公開当時のコミカライズ版では、どんな内容になっていたのだろうか?
「死霊のえじき」コミカライズ版の概略
本作が掲載されたのは、月刊ハロウィン1986年5月号。作者は阿部ゆたか先生。

月刊ハロウィン1986年5月号の表紙

「死霊のえじき」なのに、何故か「デモンズ」の写真が!

「死霊のえじき」が収録されているコミックスの表紙
ちなみに「死霊のえじき」のコミカライズ版は、阿部ゆたか先生の単行本「トライアングル・ハイスクール」の第1巻に収録されている。
嬉しいことに、第2巻にはあの名作「ゾンバイオ・死霊のしたたり」のコミカライズ版も収録されているので、ホラー映画マニアの方は要チェックだ。
幸い2冊とも電子書籍化されているので、気になった方は是非ご購読を!
実はこのコミカライズ版以外にも、「死霊のえじき」はノベライズ版が当時発売されている。

講談社のX文庫から出版されていた、ノベライズ版の表紙。
講談社のX文庫から出ていたこのノベライズ版、運が良ければ古書店の100円コーナーで発見出来るかも?
「死霊のえじき」コミカライズ版内容紹介

本編の扉絵。

いきなりゾンビ登場!

研究材料としてゾンビを捕獲する描写は、映画通りに描かれている。

本作の名キャラクター、バブもちゃんと登場!
「死霊のえじき」に登場して観客に強烈な印象を残す、人気キャラクターのバブ。
ご覧の様に、冒頭部分は2色カラーで掲載されていた。

ヒゲ剃りのマネをするバブ。

独裁者と化すローズ大尉!

阿部ゆたか先生独自の解釈が光る!

映画には無いこの描写!

閉鎖環境での人間同士の対立も描かれる本作。

死んだクーパー大佐の死体を与えていたことがバレた!

博士の仇を討とうとするバブ!

エレベーターから押し寄せるゾンビの大群!

映画最大の見せ場もちゃんと登場!

バブとの悲しい別れ

迫力満点の逃走シーン!

ジープで決死の脱出!果たして彼らは、ヘリまで辿り着けるのか?

え、コミックではここで終了?
ラストはご覧の様に、車でゾンビの群れを突破する所で終了。映画の様なサプライズと、謎を残すラストにはなっていないのが、ちょっと物足りないとも言える。
ちなみに作者である阿部ゆたか先生は、翌年再びこのハロウィン誌に、「ゾンバイオ・死霊のしたたり」のコミカライズ版を、前編後編の2回に渡って掲載することになる。実はこちらの作品も、「トライアングル・ハイスクール」の第2巻に収録されているので、気になった方は是非お読みになってみては?
最後に
いかがだっただろうか?
何といっても驚いたのは、ヒロインとバブとの少女マンガ的な交流が描かれている点!映画ではバブを演じたハワード・シャーマンの名演技もあり、まるで人間の様に感情豊かなバブが見られるのだが、このコミカライズ版では敢えてバブを無機質な物として描いており、逆にそこが死後も行き続けなければならないゾンビの悲しみを表現していて、実に見事!
ローガン博士の復讐に際して、ゾンビとして襲い掛かるのでは無く、最後まで生前の記憶に従って銃で攻撃したバブ。その人間としての誇りを忘れない姿勢にこそ、我々観客は興奮させられた訳だ。
今まで散々銃で頭を吹き飛ばされて来たゾンビ側が、本作のラストでは悪人を銃で撃つ!この部分だけ見ても、ロメロ監督作品の素晴らしさがお分かり頂けると思う。
実はこの時期の月刊ハロウィンには、毎月こうしたホラー映画のコミカライズ版が掲載されており、ホラー映画ファンには「えっ、これがコミックに?」と思わず口に出してしまいそうな、マニア好みのラインアップが組まれていたのだった。
次回以降、そちらも随時紹介して行く予定なので、どうぞお楽しみに!