先頃、惜しくもこの世を去った野際陽子を始め、千葉真一、 谷隼人、大川栄子、丹波哲郎、川口浩(第60話より加入)など、豪華メンバーが毎回繰り広げるハードボイルドアクション!それがこの、日本のTVドラマ史に残る不朽の名作「キイハンター」だ。

「キイハンター」モノクロ版OPタイトル
注:「キイハンター」について、詳しくは以下のリンクをご参照下さい。
キイハンター - Wikipedia
1968年4月のスタート当初こそモノクロ放送だったが、2年後の1970年4月放送の第105話よりカラー放送となり、1972年9月の放送終了まで、実に4年半の長きに渡って、土曜夜9時のお茶の間を楽しませてくれた本作。
ミドルエッジ世代にとっては、前番組の「8時だヨ!全員集合」からの流れで、ちょっと夜更かし気分で大人の世界を覗き見る。そんな感じで毎週ご覧になられていた方が多いのでは?
ただ、かなり長期に渡る放映だけに、その全エピソードは実に262話を数える。その中には、現在の放送倫理規定では放送出来ないエピソードもあり、残念ながら未だに全話収録の映像ソフトは発売されていないのが現状だ。
しかし幸運なことに、現在東映チャンネルではこの「キイハンター」を、モノクロ時代の第1回から毎週2話ずつ再放送しており、嬉しいことにその中には再放送不可能で欠番扱いだったエピソードまで含まれている。そこで今回は、現在まで放送された物の中から、「キイハンター」放送エピソードの中でも、屈指の問題回を紹介することにしよう。

第77話の次回予告より。
そのエピソードとは、第77話「人喰い人間現わる」!
もう既にタイトルの時点でヤバイ空気が漂うこのエピソード、果たしてどんな内容だったのか?
「人喰い人間現わる」ストーリー紹介

第77話の冒頭シーン。

大川栄子の絶叫!
本編冒頭、いきなり黒マント姿の室田日出男が、女の首にキバを突き立てて血を吸う!
それに続く、悲鳴を上げるユミ(大川栄子)のアップ!
おお、今回は西洋妖怪軍団VSキイハンターの対決なのか、と思いきや、次のカットでいきなりネタバレ。
なんと今のは、黒木キャップ(丹波鉄郎)お得意の怪談噺だったのだ。

キイハンターの面々。
実は真っ暗な一室にキイハンターのメンバーを集めて(何故か、谷隼人は今回不在である)、ロウソクの炎だけの中で、「奇譚会」つまり肝試しをやろうという趣向。
「キイハンターたる者、いついかなる時も冷静な行動を取るために、常に精神を鍛えておかなければならない。」
(確かに丹波鉄郎が言うと非常に説得力があるが、それにしても強引な導入部だ。)
くじ引きで順番を決めた結果、当然の結果として最年少のユミが最初に行く事に。

夜の外人墓地と、忍び寄る怪しい手!
霧が立ち込める森の中、外人墓地に花を供えたユミの背後から、不気味に忍び寄る怪しい手!
思わず叫んで逃げ出すユミ。

吸血鬼の犠牲者。
実は怪しい手の正体は、死ぬ間際に助けを求めて手を伸ばした女性の物だった。
その場で息絶えた彼女を追って現れたもう一人の女。
実は二人は姉妹であり、死んだ女性は彼女の妹だった。
この外人墓地の近くで姿を消した妹を、追って来た姉の朝子が見つけたのだ。
死んだ妹の首には、冒頭のシーンと同じキバの痕が・・・。

本編サブタイトル。
それを見て「吸血鬼!」と叫ぶユミの顔にタイトル。
「人喰い人間現わる」

森の中に佇む怪しい洋館。
何故か妹の死体をそのままにして森をさまよう二人の前に、死んだ妹が落とした十字架のネックレスが!
その時、何故か聞こえて来るオオカミの遠吠え!急いで逃げる二人の前に現れたのは、見るからに怪しい雰囲気の洋館だった。

いきなりモンスターの人形が!
「助かった!」
急いで屋敷の中に入った二人の前に、何故かあの有名モンスターたちの蝋人形が!
屋敷の中を探検しようと部屋を出た二人の後ろで、何故か動き出す人形たち・・・。

ユミを探しに来た二人。
一方、中々帰らないユミを追って来た、津川啓子(野際陽子)と吹雪一郎(川口浩)の二人は、墓に置かれた花束を発見する。

埋められた死体と腕のイレズミ!
更に墓の近くには、今埋葬されたばかりの朝子の妹の死体が!
首筋には例のキバの痕、そして死体の腕には、ナチスのカギ十字のイレズミが・・・。

棺から現れるドラキュラ!
その頃屋敷の中。
ある部屋で見つけたドラキュラの棺の前で、疲れから眠ってしまっていたユミと朝子。
いきなり棺の蓋が開き、中からドラキュラが現れる!

迫るモンスターから逃げるユミ!
必死に逃げるユミの前に、ついに本性を現した例の人形達が現れた!
あまりの恐怖に気を失うユミ・・・。

吸血鬼の下僕と化した朝子。
やっと気絶から目覚めたユミ。その前には吸血鬼と化した朝子の姿が!

ユミを間一髪助け出す啓子。
やっと啓子も、例の洋館にたどり着いた。
吸血鬼と化した朝子に追われ、暖炉の煙突に逃げ込んでいたユミを、間一髪で助け出す啓子。

外人墓地に集まるモンスター達。
一方その頃、森を探索する吹雪の前には、墓地から棺を掘り起こす3体のモンスターと朝子の姿が。
掘り起こした棺は、モンスターたちによって次々と屋敷に運び込まれていた。

「お前達は吸血鬼のマネをしていったいここで何をやっているんだ?」
モンスター達を追って洋館に潜入した吹雪と合流したユミだったが、二人の前にまたもモンスター達が現れる。
吹雪がモンスター達を外へおびき出し対決している間に、ユミはドラキュラの棺を探して、寝ているドラキュラの胸に杭を打とうとするのだが・・・。

突然現れたヒットラーの死体!
しかし、棺の中は蝋人形だった!では、本物のドラキュラはどこに?
屋敷の中を探索するユミの前に、何とナチスの旗と安置されたヒットラーの死体が!

意外なドラキュラの過去とは?
更に現れたのは、ナチスの制服に身を包んだ例のドラキュラ男!
実はベルリン陥落の直前、ヒットラーは30年後に蘇ると言い残し、自ら毒薬を飲んで自決。
このドラキュラ男の正体は、アウシュビッツの収容所でユダヤ人から血を抜いて生体実験をしていた、メンゲル医師だった!

ヒットラー復活計画!
血を吸われて吸血鬼化していた人達も、実は催眠術で吸血鬼に仕立て上げられていたことが判明!
ヒットラー復活には大量の若い女の血液が必要なため、こうして生贄を運び込んでいたのだった。
ユミと朝子も捕まって、大量に抜かれた朝子の血液がヒットラーの口元に注がれて行く・・・。

ドラキュラ男の最後。
間一髪で駆けつけた吹雪の活躍により、モンスターに化けていたナチスの残党たちも全員壊滅。
敗北を悟ったメンゲルも、ヒットラーが自決に使ったのと同じ毒薬を自ら飲んで、自ら命を絶つのだった。

意外過ぎる事件の真相とは?
更にラストで語られる、意外過ぎる真実!
実はヒットラーの死体はニセ者で、メンゲルと名乗っていた男もニセ者。
狂信的なナチズムの信奉者が、ニセ者のヒットラーを祭り上げて、ネオナチズムの再興を計画したのでは?との説明が吹雪の口から語られて、本エピソードは結末を迎える。
本作での野際陽子の活躍について

今見ても綺麗!
放送当時、彼女は33歳。しかし、とてもそうは見えない程若々しく、華麗なファッションとアクションを披露してくれている。

背後からオオカミ男が!
本作での彼女の見せ場は主に二つ。
一つは夜の森でオオカミ男に襲われるシーン。

野際陽子の華麗なアクション!
背後から襲って来たオオカミ男を、空手チョップとキックで倒す!

迫る吸血鬼!
もう一つの見せ場は、ドラキュラとの対決シーンだ。

アップも綺麗!
棺を叩き壊そうとする二人の前に現れたドラキュラ。ユミを逃がして立ち向かおうとする啓子だったが、その眼力に捉えられ血を吸われてしまう。
「おお、これで野際陽子の吸血鬼姿が見れる!」そんな視聴者の期待を裏切って、何と彼女はこのまま途中退場・・・。
しかし、ラストではまた普通に現れるので、残念ながら彼女の吸血鬼姿はお預けのまま・・・。
冒頭とラストにしか登場しない丹波哲郎&千葉真一といい(谷隼人は登場すらしない)、放送当時の製作スケジュールが、かなり厳しかったことが判る。
本作成功の要因である二人の俳優の名演!

エンドクレジットより。
本作がこれほどのトンデモ回でありながら、素晴らしい内容を保っていられるのも、二人のゲスト出演者、室田日出男と新井茂子の名演による所が大きい。

室田日出男のドラキュラ男!

ドラキュラ男全身と棺の中。
後の東宝作品における岸田森の和製ドラキュラとは違い、室田日出男のドラキュラはクリストファー・リー版を基礎としながら、ベラ・ルゴシ版ドラキュラの品位も忘れていない。正に和製ドラキュラのベスト候補だと言えるだろう。

ナチスの将校姿の室田日出男!
ドラキュラから一転してナチス将校の軍服姿になっても、その迫力と違和感の無さは見事!

名演技を見せる新井茂子。
もう一人の立役者、朝子を演じた新井茂子は、放送当時26歳。東映ニューフェイスで同期の千葉真一との共演作も多い。

怖い!

ジワジワ迫る女吸血鬼!
吸血鬼と化してからの彼女の演技は、正に絶品!
佐藤肇監督の独特の演出もあって、本当に怖い!
子供の頃に見たら、確実に夜寝られなくなるレベルだ。
「吸血鬼ゴケミドロ」の佐藤肇監督が、やりたい放題やった本作!

「吸血鬼ゴケミドロ」ポスター。
さて、この素晴らしすぎる脚本と異常に怖い演出を担当したのは、あの普及の名作「吸血鬼ゴケミドロ」を撮った佐藤肇監督&高久進の名コンビ。

本編エンドクレジットより。
1968年の8月に公開された「吸血鬼ゴケミドロ」からちょうど一年後、1969年に放送されたのがこの第77話「人喰い人間現わる」と言うわけだ。

洋館の中でドラキュラの本を発見するユミ。
しかし、そもそも何でナチスのヒットラー復活計画に、ドラキュラやモンスターが絡むのか?

オオカミ男、マジで怖い!

フランケンシュタインの怪物、微妙・・・。

ミイラ男、怖過ぎ!
非常にもっともな、視聴者のこの疑問!だが、それも本作が「吸血鬼ゴケミドロ」と同じ監督・脚本だと知れば、何となく納得がいくような気が?
しかし、もちろんそれには充分な理由があるのだ。

新井茂子の吸血鬼演技の素晴らしさ!

ユミちゃん、危機一髪!
実は本編中には、これらの画像でも明らかな様に、ロマン・ポランスキー監督の「吸血鬼」からの引用・オマージュが数箇所登場する。
不思議に思って調べた結果、この第77話の放送日が1969年9月20日、対してポランスキー監督の「吸血鬼」日本公開が1969年9月14日と判明!
そう、ポランスキー監督の映画「吸血鬼」公開から一週間後に、本作は放送されているのだ。

モンスター対川口浩!
「吸血鬼ゴケミドロ」で観客に強烈な印象を植え付けたあの恐怖演出に、ポランスキーの「吸血鬼」が見せた「笑い」の要素と、ゲスト出演の室田日出男と新井茂子の名演が加わり、本作はどこかコミカルで明るいが、恐怖シーンは異様に怖い!という、文字通り奇跡のバランスを保った傑作エピソードとなっている。
「吸血鬼ゴケミドロ」により、新たな発想と独自の映像美で日本に「吸血鬼物」を移植した、佐藤肇監督&高久進脚本コンビが、ポランスキー監督の「吸血鬼」に刺激を受けて、テレビで再び日本に「吸血鬼」を蘇らせた作品。そんな見方が出来るのが、この第77話「人喰い人間現わる」だと言えるだろう。
或いは、映画「吸血鬼」との何かしらのプロモーション絡み?などなど、その製作の裏側への勝手な想像は膨らむばかりだ。。
最後に
確かに本作は面白い!
だが内容的には全く意味不明であり、最後まで見ても謎だらけ・・・。更には、特定の国や宗教に対する差別的セリフが登場するため、恐らく地上波での再放送はムリかと思われる。
とにかく、何でネオナチがユニバーサル映画のモンスター達の変装をして、墓場から棺を運び入れるのか?(必要なのは女性の生き血であって、死体は必要無いはず)しかも、ドラキュラの格好で催眠術にかけ、さらに首に噛み付く意味って?(これも、後から吹雪の解説により語られるだけで、犠牲者に生えているキバも、実はニセモノ。そんな手間をかける必要あるのか?)
正直、ストーリーの辻褄はまるで合って無いし、恐ろしくトンデモな展開を見せる本作。だが、そこを楽しんで見るのが、本作の正しい鑑賞方法だと言えるかも知れない。
恐らく将来的には、全話の映像ソフト化が成されるであろう、この「キイハンター」。
この第77話の他にも、実はまだまだトンデモ無いエピソードや、再放送の際に放送されなかった「欠番回」が存在するので、今後も紹介して行きたいと思っている。