あんなに異常で殺気立った試合は見たことがない。1968年9月18日甲子園での阪神・巨人戦

あんなに異常で殺気立った試合は見たことがない。1968年9月18日甲子園での阪神・巨人戦

2019年の9月14日、ジーン・バッキーさんがお亡くなりになりました。阪神タイガースのバッキー投手、覚えていますか?そのバッキー投手が引退するきっかけになった試合なのが、まさに異常な雰囲気の中の試合となりました。引退のきっかけとなった大きな事件が、1968(昭和43)年9月18日の阪神vs巨人戦です。


壮絶な首位攻防戦

この年のプロ野球セリーグ。2位に付けていた阪神タイガースは、首位の巨人に逼迫し、1964年以来遠ざかっていた優勝が目の前に近づいてきた時でした。そして1968年9月18日、この日から甲子園球場に巨人を迎えて、首位をかけた4連戦が始まります。阪神も巨人も、ペナントレースを左右する重要な試合だったのです。

9月17日に行われた天王山の第1戦。阪神タイガースの若きエース江夏豊投手が、稲尾和久の日本記録を更新するシーズン354奪三振を王選手から奪うという記念すべき試合で、1対0で阪神が完封勝ちをして1ゲーム差まで迫ったのでした。

そして翌日はダブルヘッターになっており、1試合目はミスタータイガース村山実投手が、巨人を5安打完封して阪神タイガースは読売ジャイアンツと同率で首位となったのです。

ダブルヘッダー2試合目

ここで一気に巨人をたたいて単独首位に抜けだしたいダブルヘッダーの第2試合。先発マウンドに立ったのは、阪神タイガースにおける主力投手の一人、ジーン・バッキー投手でした。江夏・村山の両投手の好投に、バッキー投手も燃えていたに違いないでしょう。

ところがバックがバッキー投手の足を引っ張ってしまいます。立ち上がりの1回表、一死から巨人の高田選手が打ったなんでもないサードゴロを、三塁手がトンネル。このプレーで投球リズムを壊したバッキーは、3番の王選手に死球を与えてしまいました。更に動揺したようで、4番長嶋選手と5番末次選手に連続四球を出して自滅の先取点を与えてしまったのです。

その後なんとか立ち直ったバッキー投手でしたが、4回2死からまた三塁手がトンネル。そこから連打を浴びて5点を失ってしまい、二死2塁で3番の王選手を迎えます。

ビーンボール

これ以上点をやれないバッキーは、初球が王選手の顔面すれすれのボールになってしまい、王選手から「危ないじゃないか!」と抗議を受けます。1回に死球を受けた王選手ですから、ビーンボールまがいの投球が投げられたことに怒り、辻佳紀捕手にも注意していたのです。

これで収まったかと思った2球目、再び投球が膝元に向かってきたのです。さすがに温厚な王選手も、バットを持ったままマウンドに駆け寄り「危ないじゃないか」と注意しますが、バッキーは「サイン通りに投げただけで、わざとじゃない」と弁明しました。

とりあえずバッターボックスに戻ろうとした王選手ですが、より怒り狂っていたのが巨人ベンチでした。その時一斉に巨人の選手たちが、マウンドに向かい飛び出したのです。同時に阪神ベンチも飛び出し、マウンド上は大乱闘の場と変わりました。

王選手が意識不明に

乱闘の輪の中では、巨人の千田内野手がバッキーに体当たりし、続いて荒川コーチも血相を変えてバッキーの太ももを蹴飛ばしたのです。バッキーもお返しとばかりに荒川コーチの顔面にパンチを繰り出し、永遠に乱闘が続くような勢いでした。

結局、バッキー投手と荒川コーチが退場処分となり乱闘は収まったのですが、甲子園球場の雰囲気は異常な状態になっていたのです。そんな緊急状態で、急遽リリーフに立ったのが権藤投手でした。相当なプレッシャーがかかる場面で王選手に投げた3球目が、なんと王選手の頭部に直撃してその場に崩れ落ちました。


バッターボックスに倒れ込んだ王選手は、意識不明のままタンカで運び出され病院に搬送されます。そして、再び大乱闘が始まったのです。

異常な雰囲気

王選手が病院に向かい試合もなんとか再開。しかしグランドだけでなく観客席においても、全てが殺気立つ異様な雰囲気に包まれていました。そしてその時にバッターボックスに立つのは4番の長嶋選手。最高の緊張感の中で、長島選手は目が覚めるような35号のホームランを放ち、一気に球場内を鎮静化させたのでした。結局乱闘の4回は、巨人が7点を取り試合を決めたのでした。

実は乱闘騒ぎで退場したバッキー投手は、荒川コーチを殴った際に右手親指を複雑骨折していました。そのためシーズンを棒に振ることになり、阪神タイガースもエース級の先発投手を欠くことになり、掴みかかっていた優勝を逃すことになりました。

乱闘で骨折したバッキー投手は思うように回復せず、翌年近鉄に移籍をして再起をはかりましたが、結局は位置も勝利投手になることができず引退となったのでした。

関連する投稿


【野球選手から俳優!?】板東、長嶋、イチロー・・・人気ドラマに出演した元プロ野球選手!

【野球選手から俳優!?】板東、長嶋、イチロー・・・人気ドラマに出演した元プロ野球選手!

プロ野球選手が引退後、タレントとして新たな道を歩むケースは数多く見られます。その中には、俳優業にまで進出し、映画やドラマで活躍する人も少なくありません。今回は筆者の独断と偏見に基づき、人気ドラマに出演した元プロ野球選手の中から、特に印象に残っている面々をご紹介します。


緊急刊行!長嶋茂雄さんの追悼特集号『NumberPLUS 長嶋茂雄』(仮)が6月26日に発売決定!!

緊急刊行!長嶋茂雄さんの追悼特集号『NumberPLUS 長嶋茂雄』(仮)が6月26日に発売決定!!

6月3日に長嶋茂雄さんが89歳で死去したのを受け、文藝春秋が刊行するスポーツ総合誌『Sports Graphic Number』より、「ミスタープロ野球」としてファンに愛された国民的スーパースターである長嶋さんの功績をたたえた追悼特集号『NumberPLUS 長嶋茂雄』(仮)の発売が決定しました。


【訃報】巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄さん死去。3月には大谷翔平との“対決”が話題に

【訃報】巨人軍終身名誉監督・長嶋茂雄さん死去。3月には大谷翔平との“対決”が話題に

プロ野球界における伝説的存在“ミスタープロ野球”こと長嶋茂雄(ながしま しげお)さんが3日、肺炎のため東京都内の病院で亡くなっていたことが明らかとなりました。89歳でした。


【藤川球児】広末涼子と同級生!? 火の玉ストレート誕生前の球児の球歴

【藤川球児】広末涼子と同級生!? 火の玉ストレート誕生前の球児の球歴

2025年より阪神タイガースの監督に就任した藤川球児。現役時代は、"火の玉ストレート" と呼ばれる "魔球" で活躍した名投手ですが、魔球誕生以前にもたびたび話題になっていた選手でした。球児という名前、ドラフト1位、広末涼子と同級生など、火の玉ストレート誕生前の藤川球児のエピソードを振り返ります。


【13球団から勝利!?】日本のプロ野球史で工藤公康だけが達成したとんでもない記録!

【13球団から勝利!?】日本のプロ野球史で工藤公康だけが達成したとんでもない記録!

現役生活29年、通算224勝、MVP2回の大投手で、選手として監督としてチームを何度も日本一に導いてきた人物といえば、もちろん工藤公康投手。実はあまり知られていませんが、日本のプロ野球史上、工藤投手だけが達成したとんでもない記録があります。セ・パ両リーグで活躍した、工藤投手ならではの意外な記録とは?


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。