「愛とは何か?」をおとぎ話チックに描いた名作ドラマ『世紀末の詩』
『世紀末の詩』(1998年・日本テレビ)は、これまで野島伸司が手掛けたどのドラマとも違う異色の作品でした。たとえば、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994年・TBS)や『聖者の行進』(1998年・TBS)などのような、過激な暴力描写を含んだ社会派ドラマではありません。
まして、『101回目のプロポーズ』(1991年・フジテレビ)や『ひとつ屋根の下』(1993年・フジテレビ)などに見られたような、少々野暮ったい一途な愛を謳ったドラマでもありません。どこか現実離れした、おとぎ話のような雰囲気の作品なのです。
もともと構想自体は、ドラマの放送7~8年前からあった模様。
野島曰く「これまでのどのドラマの種類にも入らない寓話(ぐうわ)的な作品にしたい」という理念のもと描かれた本作は、たしかに全話を通して寓話的なムードに包まれたおり、そして、すべての野島作品に共通した主題ともいえる「愛の追及」をより戯画的に表現しようとした作品でもありました。

『世紀末の詩』タイトル
人生に絶望した2人の主人公と、不思議な少女の共同生活が描かれる
物語は、大学教授の主人公・百瀬夏夫(山崎努)が、学長選挙で落選したショックにより、ビルの屋上で飛び降り自殺しようとするところから始まります。その際、向いのビルで同じように飛び降りようとする、もう一人の主人公・野亜亘(竹野内豊)を発見。2人は自殺を思いとどまり、同じ場所に居合わせた不思議な少女・ミアと共に、奇妙な共同生活を始めるのです。

山崎努と竹野内豊の共演で話題になった
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主人公の一人を山崎努が演じる
まずは『世紀末の詩』における主要な登場人物を振り返っていきます。主人公の一人は山崎努演じる百瀬夏夫(ももせなつお)。バラック小屋で野亜と共に「旅に出るため」潜水艦づくりに取り組む元大学教授です。スケベでユーモアのセンスがあり、生真面目な性格の野亜とは、ボケとツッコミのような掛け合いをしてみせます。

山崎努演じる元大学教授の百瀬夏夫
世紀末の詩 (The Last Song) 第8話 恋し森のクマさん 1/2 (持田真樹) - YouTube
もう一人の主人公は、当時27歳の竹野内豊
もう一人の主人公は、竹野内豊演じる野亜亘(のあわたる)。婚約者に裏切られた失意から「もう誰も愛さない」と言いながらも、どこかで愛の存在を信じているナイーブで自惚れ屋な青年です。「なんでボクがこんなことを…」と言いながらも、百瀬の潜水艦づくりに協力していきます。
なお野亜は、竹野内がこのドラマ以前に『ビーチボーイズ』『WITH LOVE』などで演じてきたクールな役柄とは異なる、ちょっと陰キャラっぽい性格をしており、当時の女性ファンをやや困惑させました。

竹野内豊が演じたのは、フィアンセに裏切られた青年・野亜亘
ドラマ「世紀末の詩」見てた方 | ガールズちゃんねる - Girls Channel -
木村佳乃・坂井真紀・吉川ひなのなどの女優陣がわきを固める
その他の主要キャストも今から振り返ると、けっこう豪華です。百瀬・野亜と共に共同生活をする天真爛漫で片言の日本語をつかう少女・ミア役は、坂井真紀。

ミアを演じた坂井真紀
世紀末の詩 (The Last Song) 第9話 僕の名前を当てて 1/2 (大沢たかお) - YouTube
ひょんなきっかけでバラック小屋へ遊びに来るようになる、野亜が密かな恋心を寄せる小学校教師・羽柴里見役には、木村佳乃が抜擢されます。
また、野亜に一目ぼれする百瀬の娘・百瀬祐香役を松本恵(現・松本莉緒)、同じく野亜に片想いしている貧しい兄弟の長女・牧野千秋役を吉川ひなのが演じています。

吉川ひなの、木村佳乃、松本莉緒がレギュラーキャストとして、ドラマを盛り上げた
Kayo Kyoku Plus: John Lennon "LOVE" - Theme song to 『世紀末の詩』/"Seiki Matsu No Uta" (1998)
“野島伸司オールスターズ”ともいうべき豪華なゲスト俳優陣
世紀末の詩は、各話ごとにゲスト俳優を起用しています。その陣容は、“野島伸司オールスターズ”ともいうべき豪華な顔ぶれでした。
第1話『この世の果てで愛を唄う少女』では、『聖者の行進』(1998年・TBS)に出演していた広末涼子が登場。

広末涼子
世紀末之詩 第一話 - YouTube
第2話『パンドラの箱』では、『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』(1994年・TBS)と『家なき子』(1994年・日本テレビ)でのイジメ役がハマっていた斎藤洋介は、心優しいピエロを演じます。

斎藤洋介
Kayo Kyoku Plus: John Lennon "LOVE" - Theme song to 『世紀末の詩』/"Seiki Matsu No Uta" (1998)
第3話と第5話には、『この世の果て』(1994年・フジテレビ) で共演した、清水紘治と三上博史がそれぞれのエピソードにおける主役として出演します。

三上博史
【ドラマ】 世紀末の詩 The Last Song 第05話 「車椅子の恋」 - YouTube
野島ドラマの代名詞的存在の一人・桜井幸子は、第7話に登場しました。

桜井幸子
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中には、狂気じみていたエピソードも…
さまざまな「愛」にまつわるちょっと極端なエピソードが毎話展開される中で、特に狂気的だったのが第8話『恋し森のクマさん』。
科学者の影山(田中健)は、自分に愛想をつかせて出て行ってしまった家族のクローンを誕生させます。自分だけに付き従う複製した妻や子と共に森の中の小屋へ住み、自分が理想とする家庭、自分が理想とする「愛」を実現しようと試み、結果、破滅していくのです。

狂気の科学者を田中健が演じた
世紀末の詩 (The Last Song) 第8話 恋し森のクマさん 1/2 (持田真樹) - YouTube
主題歌はジョン・レノンの『LOVE』
このように『世紀末の詩』の登場人物たちは皆、愛に狂っていきます。そして、大体が悲劇的な結末を迎えます。そのため、エンディングに流れるジョン・レノンの『LOVE』が、視聴者をより感傷的な気分にさせるのです。
視聴率的には不発に終わったものの…
こうした「愛」という壮大かつ抽象的なテーマを、扱っていたためでしょうか。平均視聴率14.6%と、これ以前まで20%超えを連発していた野島ドラマにしては、振るわない結果に終わった『世紀末の詩』。しかし、登場人物の感情描写が丁寧に描かれ、時に青臭く、時に説教臭くも、執拗なまでに「愛とは何か?」を多彩なアプローチで問いかけた本作は、紛れもない名作です。ご覧になってないという方は、ぜひ一度、視聴することをお勧めします。
(こじへい)