【70年代前半】 世界で唯一空気よりも軽い音楽と言われたジャーマン・ロックの雄「カン」

【70年代前半】 世界で唯一空気よりも軽い音楽と言われたジャーマン・ロックの雄「カン」

70年代から今日まで時代が変わっても様々なミュージシャンがリスペクトし、カバー、あるいはサンプリング続けているジャーマン・ロックの雄「カン」。その絶頂期といえば70年代前半ですが、その時期のボーカリストは日本人だったことをご存知でしたか?「世界で唯一空気よりも軽い音楽」と言われた唯一無二の楽曲をご紹介します!


Can

1968年に西ドイツで結成されたジャーマン・ロックの雄「カン」を知っていますか?PILやプライマル・スクリームをはじめ、レディオヘッドやソニック・ユース、ザ・フォールなど後のパンク、ニュー・ウェイヴ、オルタナティヴ・ロックのミュージシャンに大きな影響を与えたドイツのバンドです。

実は、ロック史に残るであろうこの偉大なバンドの全盛期のボーカリストは、ダモ鈴木という日本人だったんですよ!

出身地:ドイツ ケルン 
ジャンル:クラウト・ロック、ジャズ・ロック、フリー・ジャズ、サイケデリック・ロック、ローファイ、ファンク、エレクトロニック・ミュージック、プログレッシブ・ロック、民族音楽(自称"Ethnological Forgery")、現代音楽、実験音楽 
活動期間:1968年~1979年、1986年と1991年に再結成


写真:左からイルミン・シュミット、ホルガー・シューカイ、ダモ鈴木、ヤキ・リーベツァイト、ミヒャエル・カローリ

カン

ダモ鈴木、本名は鈴木健二で神奈川県の出身です。ダモ鈴木の由来は、何をやってもうまく行かない男の子が主人公の漫画、「丸出だめ夫」で、当初は、「だめ夫鈴木」と名乗っていたものが訛って「ダモ」になったそうです。

カンにはマルコム・ムーニーというアメリカ人のボーカリストが当初いたのですが、ファースト・アルバムを出した後に脱退しており、ダモ鈴木は二代目のボーカリストとしてセカンド・アルバムから参加しています。

生誕:1950年1月16日
出身地:神奈川県

ダモ鈴木

それではダモ鈴木在籍中、全盛期だったカンの素晴らしい楽曲をご紹介します!

1970-Soundtracks

ファースト・アルバム「モンスター・ムーヴィー」発売後、ボーカルのマルコム・ムーニーは精神を病み脱退します。新ボーカリストとしてダモ鈴木が加入するわけですが、急なことでまだアルバムを作る体制が整っておらず、レコード会社の意向もあり以前から製作していた映画音楽をまとめてセカンド・アルバムとして発表します。
こうした理由から作られた、その名もズバリ「サウンドトラックス」と名付けられたこのアルバムには、2人のボーカリストの音源が収められています。

ボーカル以外のメンバーは、
ホルガー・シューカイ : ベース、エンジニア
ミヒャエル・カローリ:ギター
ヤキ・リーベツァイト:ドラムス、パーカッション
イルミン・シュミット :キーボード
ダモ鈴木脱退後に一時期ベースに変動がありますが、カンは基本的にはこのメンバーです。

Side A
1.Deadlock 3:27
2.Tango Whiskyman 4:04
3.Deadlock 1:40
4.Don't turn the light on, leave me alone 3:42
5.Soul Desert 3:48

Side B
1.Mother Sky 14:31
2.She Brings the Rain 4:04

A面の1・2・3曲が、ローランド・クリック監督の映画「Deadlock」、4曲目がレオニダス・カピタノス監督の映画「Cream」、5曲目がローガー・フリッツ監督の映画「Mädchen mit Gewalt」であり、B面の1曲目は日本でも「早春」というタイトルで公開されたイエジー・スコリモフスキ監督の映画で使用されています。そしてB面の2曲目はトーマス・シャモーニ監督の映画「Bottom – Ein großer graublauer Vogel」です。
更に、A面の4曲目とB面の2曲目は後に、日本の映画「ノルウェイの森」で劇中歌としても使われました。

ボーカルは、A面の5曲目とB面の2曲目がマルコム・ムーニーで、他はすべてダモ鈴木が歌っています。

1971-Tago Mago

ダモ鈴木が全面参加となるサード・アルバム「タゴ・マゴ」は、カンにとって初の2枚組(レコード発売時)という大作となりました。
マネージャーを務めていたキーボードを担当しているイルミン・シュミットの奥さんの提案により即興によるバンドの制作過程を収めた2枚目が急遽加えられたのです。

本作は音楽関係者に大きな衝撃を与え、オールミュージックは「時代を超えたクラウトロック(ジャーマンロック)の名盤に留まらず、史上最大の名盤のひとつである」と最大級の賛辞を贈っています。

また、セックス・ピストルズその後PILのボーカルであるジョン・ライドンは、「本当に素晴らしいレコード。カンは唯一の存在だ」とコメントしており、特に収録曲の「Halleluhwah」を絶賛しています。

Side A
1.Paperhouse - 7:29
2.Mushroom - 4:08
3.Oh Yeah - 7:22

Side B
4.Halleluhwah - 18:32

Side C
5.Aumgn - 17:22

Side D
6.Peking O. - 11:35
7.Bring Me Coffee or Tea - 6:47

タゴ・マゴ

プライマル・スクリームが1997年に発表した「コワルスキー」という楽曲で「Halleluhwah」のドラムをサンプリングしています。
また、本人たちも認めているように、トーク・トークが1986年にシングル・ヒットさせた「Life's What You Make It」のピアノのリフやレディオヘッドが2003年に発表した「ゼア・ゼア」のドラムは、本作からの影響を強く受けていることが伺えます。

1972-Ege Bamyasi

ベックやサーストン・ムーア(ソニック・ユース)、スティーヴン・マルクマス(ペイヴメント)等が影響を受けたフェイバリット・アルバムと公言している1972年に発表された「エーゲ・バミヤージ」。短い曲が多く収録されているということもあり、本作はカンの作品中もっともポップで親しみやすいアルバムと言えるかと思います。

タイトルの「エーゲ・バミヤージ」とは、トルコ語で「エーゲ海のオクラ」という意味だそうです。缶(カン)に入ったオクラをジャケットに使うセンスがまた何ともカンらしいです。
更には、ドイツのテレビドラマの主題歌として書き下ろした「Spoon」ですが、「ナイフ」というサスペンスドラマだったために「スプーン」としたのだとか!やりたい放題ですが、カンとしては珍しく、この曲は大ヒットしています。
また、この曲のイントロに使われているのは、初期のドラムマシンだそうですよ。

「エーゲ・バミヤージ」は、2013年にイギリスの音楽誌「NME」が選出した「The 500 Greatest Albums of All Time」で297位に選ばれています。

Side A
1.Pinch - 9:29
2.Sing Swan Song - 4:47
3.One More Night - 5:35

Side B
4.Vitamin C - 3:32
5.Soup - 10:31
6.I'm So Green - 3:05
7.Spoon - 3:04

エーゲ・バミヤージ

本作に収録されている「Sing Swan Song」は、カニエ・ウェストが「ドランク・アンド・ホット・ガールズ」で、スパンク・ロックの曲「エナジー」では「Vitamin C」が使用されるなど、様々なヒップホップ・ミュージシャンによりサンプリングされています。

1973-Future Days

異常なほどの完成度を誇る1973年に発表されたアルバム「フューチャー・デイズ」ですが、本作を最後にダモ鈴木はバンドを脱退してしまいます。同時に本作までが2トラック・レコーダーで録音されているとのことですが、これは俄かに信じがたいですね。いえ、逆に、だからこそこのような緊張感のある奇跡のサウンドを作り上げることが出来たのかもしれません。

ダモ鈴木自身も、カンで制作したアルバムの中で「フューチャー・デイズ」が最高傑作と発言しています。最高のものを作り上げたからこそ、これ以上の作品は作り得ないと感じたからこそ脱退を決意したのでしょう。

アメリカの音楽メディアであるピッチフォーク・メディアが2004年に選出した「1970年代のトップ100アルバム」において本作は56位にランク・インしています。

Side A
1.Future Days - 9:30
2.Spray - 8:29
3.Moonshake - 3:04

Side B
4.Bel Air - 19:52

フューチャー・デイズ

シングルになっただけあって「Moonshake」は、ポップな曲ですね。しかし、このアルバムで聴くべき曲は1曲目の「Future Days」とレコードの1面全てを使って収められている「Bel Air」でしょう。
「世界で唯一空気よりも軽い音楽」と言われたカンの音楽を実感することができます。もっとも本作は曲単位で聴くのではなく、アルバムとして聴くべき作品といえます。


さて、如何でしたか?いずれ劣らぬ傑作揃いのアルバムです。それは70年代から今日まで時代が変わっても様々なミュージシャンがリスペクトし、カバー、あるいはサンプリングしていることでも証明しています。
これほど古さを感じさせないアルバムというのも稀ですが、きっとこれからも変わることなく孤高の存在として輝き続けることでしょう。

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