AOR

70年代の後半から80年代にかけて世界中で大ブームとなり、今なお不滅の人気を誇るAOR。AORとは音楽のジャンルひとつですが、何の略だか分かりますか?
ひとつにはオーディオ・オリエンテッド・ロック、またはアルバム・オリエンテッド・ロック、更にはアダルト・オリエンテッド・ロックの略語だとされています。しかし、何のことだか分かりにくいですよね。
実際にこれらの言葉は最近では使われなくなってきていますが、日本では「アダルト・オリエンテッド・ロック」の略語として「大人向けのロック」と独自解釈されAORという言葉は使われています。
オシャレを楽しむ大人たちの音楽であり、下世話に言うとデートの時のムード作りに最適な音楽です。特にバブルの頃にお世話になった音楽でもあります。
さてその代表といえば、一番に思い浮かぶのがボズ・スキャッグスでしょうか。次いでボビー・コールドウェルやクリストファー・クロスにJ.D.サウザーといったところでしょう。またはエア・サプライやTOTO も根強い人気を持っています。
しかし今回は、そういったメジャーなミュージシャンではなく知名度は劣るけれども素晴らしいAORの隠れ名曲をご紹介します。
Him

ルパート・ホルムズ
最初にご紹介するのは、イギリス生まれのアメリカ人であるルパート・ホルムズです。ルパート・ホルムズといえば、全米で70年代最後のナンバー・ワンを獲得した「エスケープ」で知られています。もちろんこの曲も素晴らしい曲ですが、ご紹介するのは「ヒム」という曲です。
日本ではむしろ「ヒム」の方が知られているかもしれませんね。そしてルパート・ホルムズは、この曲のみで消えてしまったような印象もありますが、とんでもありません。バーブラ・ストライザンドをはじめとしてソングライターとしての実績も豊富な実力者なのです。
中でも「ヒム」を収録したアルバム「パートナーズ・イン・クライム」は、先の「エスケープ」も入っているルパート・ホルムズの最高傑作にして80年代のAORを代表する名盤です。
Hearts

マーティ・バリン
如何でしたか「ヒム」は。ステキな曲でしょう?次にご紹介するのが、マーティ・バリン。もしかすると、彼も一発屋のように受け取られているかもしれませんが、とんでもありません。キャリア十分の実力者なんですよ。
1962年に最初のシングルをリリースし、その後ロックの殿堂入りも果たした1960年代後半のサンフランシスコで起こったサイケデリック文化を代表するバンド「ジェファーソン・エアプレイン」の創設者です。しかし、人気、実力ともに絶好調であった1971年に、自分が作ったバンドでありながら脱退してしまいます。
1981年にソロとして発表したのがこのアルバムです。シングル・カットされた「ハート悲しく」が全米8位を記録しましたが、日本でも当時はよく耳にしました。邦題が何と言っても最高ですよね。秋の夜長にピッタリの男の集哀愁が漂う名作です。
Get It Up For Love

ネッド・ ドヒニー
AORをアルバム・オリエンテッド・ロックとしてとらえた場合、ネッド・ ドヒニーはその代表と言えるかもしれません。アルバム・オリエンテッド・ロックとはシングルよりもアルバムの完成度を重視するといったスタイルですから、ネッド・ ドヒニーにはピッタリです。
AORファンの間では絶対的名盤「ハード・キャンディ」は、1976年のリリースです。これといった大ヒット曲があるわけではありませんが、スティーヴ・クロッパーのプロデュースのもと、アメリカ西海岸の錚々たるミュージシャンが集まって作り出された極上のサウンドを楽しむことが出来ます。陰りのある曲が多く収録されていますが、聴き終わるとアルバム・ジャケットそのままのさわやかで心地よい気分になれるという不思議なアルバムです。
Dancin' Shoes

ナイジェル・オルソン
原題は「Dancin' Shoes」ですが、ここに「涙の」を付けるところが実に「イイ」ナイジェル・オルソンの「涙のダンシング・シューズ」です。
1979年発表の通算4枚目のソロ・アルバムで、AOR名鑑シリーズとして発売されていますが、ナイジェル・オルソンをAORのくくりに入れることに何となく違和感があります。ナイジェル・オルソンは1949年2月10日にイギリスのマージーサイド、ワラゼイ生まれ。AORと言えばアメリカというイメージがありますから、そのことで違和感を感じるのかといえば、そうではありません。
彼が一般に知られるようになったのは、エルトン・ジョンのバンド・メンバーに入ってからです。そこで、ドラムスをたたいていました。違和感を覚えるのは、エルトン・ジョン、ドラムス、このあたりかもしれませんね。
それにしてもこの曲「「涙のダンシング・シューズ」は素晴らしい。アメリカでは最高18位でしたが、イギリス、日本ではチャートに入ることはありませんでした。
こんないい曲を埋もれさせておくのは勿体なさすぎます。是非聴いてみて頂きたい曲です。
Magic

ディック・セント・ニクラウス
実は今回一番ご紹介したかったのがディック・セント・ニクラウスなんです。ディック・セント・ニクラウスは、とにかくアルバム・タイトル曲「マジック」につきます。これほど日本人好みのサウンドはないのではないかと思います。というか、きっとAOR自体が日本人好みなんですよね。日本だけでヒットしたという曲、ミュージシャンも少なくありません。「マジック」もそういった曲で、歌ったディック・セント・ニクラウスもそんな一人です。
「マジック」は1979年に大阪から火が付きました!淡々としたヴォーカルに都会感覚の哀愁が漂う美しい曲。日本人は本当にこの手の曲が大好きですよね。
今回ご紹介した曲は、どれも30~40年以上も前の曲であるにも関わらず、今聴いても全く違和感がありません。それだけ完成度が高いということなのでしょうが、AORというのは日本人好みなのでしょうね。
このジャンルからは、今でも素晴らしい曲がリリースされていますが、70年代の後半から80年代にかけてのAORがやっぱり全盛期であるといえそうです。