清宮克幸 早稲田大学ラグビー部監督2 「ULTIMATE CRASH」

清宮克幸 早稲田大学ラグビー部監督2 「ULTIMATE CRASH」

2001年度の全国大学選手権決勝で関東学院大学に敗れた清宮ワセダは、「ULTIMATE CRASH(アルティメットクラッシュ)」を掲げ、爆発。 早稲田大学ラグビーが通った後はぺんぺん草も生えないような、究極的な強さを目指し、2002年度の全国大学選手権決勝戦で、関東学院を破って、13シーズンぶりに全国大学選手権で優勝した。 そして早稲田ラグビーフィーバーが始まった。


寺山夏の陣

2002年8月、菅平での夏合宿で、ヘンリーの予言どおり早稲田は関東学院に完勝した。
2ヶ月前は35-34の辛勝。
勝負としては負けに等しい試合だった。
「選手権決勝の前哨戦」といわれるだけあり、多くの観衆が詰めかけ、オープン戦とはいえ試合は序盤からヒートアップした。
前半5分、関東学院の選手が早稲田の選手を殴打し、殴られた側も一時退場、殴った側もシンビン
(Sin=罪、違反」 と「Bin=入れ物、置き場」を合わせた造語、危険なプレーをしたため一時的に試合から離れることを命じる制度)を受けた。
これが早稲田の魂に火がつけ王者相手に猛アタックをかけた。
前半10分、ゴール前ペナルティからすばやくリスタートをしトライ。
前半25分、殴られて一時負傷退場をした桑江が気迫のトライ。
前半35分には左右への展開・連続攻撃から最後は中央へトライ。
前半を19-0で終えた。
後半も早稲田の猛攻は止まらない。
後半5分、トライとゴールが決まり26-0。
しかしここから関東学院も意地をみせ、後半10分と31分に2トライを決める。
「あと2本(2トライ)だ!」
意気込む関東学院を早稲田ディフェンスは鋭いタックルで止め、終了のホイッスル。
26-14。

寺山卓志

この合宿中のある日、上空をヘリが飛んだ。
ヘリは怪我人を病院へ搬送していた。
怪我をしたのはCチームの2年生:寺山卓志の高校時代の親友だった。
寺山は清宮に願い出た。
「親友が下の病院に担ぎ込まれて今、意識不明です。
山を下りて立ち会っていいですか。」
「もちろんだ。」
寺山は2、3日看病したが親友の意識は戻らず、合宿に戻った。
「清宮さん。
もうあいつは無理かもしれない。
僕はあいつの分まで一生懸命ラグビーをやります。」
清宮は唇をかみ締めている寺山をみた。
翌日、清宮の指導担当はたまたま寺山のいるジュニアチームの練習だった。
そこにはものすごくだらけた練習をする寺山がいた。
清宮は練習を止めた。
「お前らそんな練習ではダメだ。
今から走ろう。」
そういって急遽、フィットネスのメニューに変更した。
キツい練習に、寺山は清宮に聞こえるように叫んだ。
「なんで俺らだけこんなことせなあかんねん。
Aチームも同じことやんねんやろなー」
通常なら笑い飛ばしたかもしれないが、前日「親友の分までがんばる」といった寺山を清宮は殴った。
監督になって選手を殴ったのはこれが初めてだった。
寺山は反抗した。
「やってられへん。
もうやめるわ。」
清宮は寺山にクビを言い渡した。
その後、荷物をまとめようとしている寺山をチームメイトが説得した。
清宮が練習が終わって部屋に戻ると正座して待っていた寺山が泣きながらいった。
「なんであんなこといったんやろ。」
「気にするな。
明日からまた元気でやれ。」
清宮は多く語らず寺山を部屋へ帰した。
まじめな寺山が清宮に反抗し、清宮がはじめて選手を殴った事件は、「寺山事件」、「寺山の乱」、「寺山一揆」、「寺山夏の陣」などと呼ばれ語り継がれた。
事件後、寺山はコツコツ努力し、体をつくり、4年生の早明戦ではリザーブに入った。
早稲田大学ラグビー部の126名の部員が最後まであきらめずモチベーションを維持できるのは、寺山のようにがんばれば報われるという実例があるからなのかもしれない。

オックスフォードとドロー

2002年9月15日、上井草の新グラウンドのこけら落しとして日英大学ラグビー対抗戦が開催され、早稲田大学はオックスフォード大学と対戦した。
清宮はこのイベントに関東学院のレギュラー選手と春口監督の16名もメインスタンドの一角に招待した。
「どうだ。
早稲田はこんな新グラウンドになった。
しかもアディダスと契約してジャージも新品になった。
今年は早稲田が必ず勝つんだ。
そういう意志表示をして関東学院の面々の深層心理に働きかける狙いもあった。
早稲田には勝てないという呪縛を与えたかった。」
早稲田とオックスフォードは、過去、50年間で9回対戦し、早稲田は1度も勝てていなかった。
まさに選手たちにとって自分の潜在能力を知るうってつけの相手だった。
そして10回目の対戦は同点引き分けに終わった。

13シーズンぶりの大学王座

2002年秋、早稲田大学ラグビー部は、評判通りの強さをみせた。
関東大学対抗グループは8チームによる総当りリーグ戦。
東大に156点差。
青学大に121点差。
日体大に156点差。
帝京大に156点差。
残るは慶大、明大との伝統の対決だった。
2002年11月23日の早慶戦は、前半17-0、後半57-0で完勝した。
2002年12月1日の早明戦は、平均体重では上回る明治に早稲田は当たり勝ちし24-0で完勝した
まさにアルティメイト・クラッシュ(完膚なき圧勝)だった。
そして2003年1月11日、2002年度全国大学選手権決勝戦、早稲田大学 vs 関東学院大学。
清宮の2つ上の先輩たち、通称「永田組」は、みんな紺ブレザーに赤黒ネクタイを着けて観客席に陣取っていた。
彼らは早稲田が勝ったらグラウンドに飛び出てみんなで荒ぶるを歌うという計画を立てていた。
グラウンドへ下りることは反則だが、ブレザーを着ていればいいだろうと、いいわけないことを考えていた。
関東学院大が勝てば大学選手権3連覇となる。
今年の関東学院は優秀な選手をそろえ、春口監督はあまたの才能を前にキャプテンを1人に絞りきれず、キャプテンを4人制にしたほど関東学院のスタメンはスターぞろいだった。
事実、彼らの多くは後に社会人トップリーグチームでレギュラーになった。
それに比べ早稲田は人材的に劣り、彼ら多くは後にフジテレビの営業や日本航空の技師や僧侶になったりラグビーと無縁の生活を送るものが多い。
試合開始早々、打倒関東学院大に燃える早稲田が牙を剥く。
前半7分、主将山下が相手のタックルを引きずりながらインゴールへ飛び込んだ。
前半14分、自陣から展開し50m独走トライ。
前半22分にもトライし19-0。
早稲田はタックルされた選手のボール処理、ダウンボールが正確だった。
ギリギリまでボールを抱え込むと、ボールを殺されてしまい、結局ターンオーバーされてしまう。
タックルポイントを外して確実にダウンボールをすれば素早いフォローが続く限りボールを連続支配できる。
早稲田ラグビーの理論的支柱である「接近、緊張、連続支配」
この基本をふまえワイドなゆさぶりを加えたところでトライが生まれる。

しかし1人1人の強さは関東学院大が上回った。
前半中盤以降、押され気味の早稲田は、素早く体をぶつけ激しくディフェンスしゴールライン手前で関東学院を何度も押し返した。
早稲田が犯した反則は24。
後半は押されっぱなしだった。
関東学院のフォワードの猛攻に苦しんだ。
関東学院大学のブルーのユニフォームが、タッチを切られたボールを追いかけた時、レフリーの右手が上がり、ノーサイドの笛がグラウンドにこだました。
27-22。
5点差で早稲田が勝った。
13シーズンぶりに大学王座に返り咲いた。
ビクトリーチェーンが結実した勝利だった。

そして13年ぶりの「荒ぶる」とともに早稲田復活フィーバーが始まった。
2003年2月9日、日本選手権1回戦、早稲田大学 vs リコー。
勢いのある大学王者が、社会人相手にどこまで戦えるか期待されたが、早稲田は31対68で敗れた。
しかし秩父宮のファンは、今年1年、楽しませてくれた早稲田の選手たちに暖かい拍手を贈った。

清宮克幸 早稲田大学ラグビー部監督3 「RAISE UP」

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