1年足らずで製造中止…伝説的な失敗飲料『タブクリア』
コカ・コーラ社によって1993年3月に発売された『タブクリア』。
発売前から「コカ・コーラが出すまったく新しい飲料」というCMで煽りまくったが、不人気により1年足らずで製造中止になってしまった悲しき歴史について振り返る。

タブクリア(TaB clear)
タブ(Tab)の透明版だから、タブクリア(TaB clear)
タブクリア(TaB clear)の元になったのは、1962年からコカ・コーラ社が販売していたノンカロリーコーラのタブ(Tab)。
ダイエットブームの流れに乗り、砂糖や果糖の代わりに人工甘味料・サッカリンが使用されているのが特徴。
(厳密にはゼロカロリーではなく、超低カロリーである。)

タブ(Tab)
ペプシコ社の『ダイエットクリスタルペプシ』に対抗して作られた『タブクリア』
コカ・コーラ社の前に、ライバルのペプシコ社がノンカロリーで透明なコーラ『ダイエットクリスタルペプシ』を発売しており、それに対抗して作られたのが『タブクリア』である。
タブでは甘味料としてサッカリンを使用していたが、タブクリアではダイエットクリスタルペプシと同じアスパルテームが使用された。
(アメリカでは「TaB COLA」という、甘味料にサッカリンを使用したTab CLEARのオリジナルも存在するらしい。)

クリスタルペプシと、ダイエットクリスタルペプシ
話題になった日本での大々的な宣伝活動
コカ・コーラ社は日本で『タブクリア』を発売するにあたって、大々的な宣伝を行った。
発売する前から「コカ・コーラがまったく新しい飲料を発売する」とCMを放送。
具体的な商品PRを行わずに『謎』をウリにしたCMは狙い通り大きな話題となった。
CMにはイメージキャラクターとして、政治評論家の俵孝太郎を起用。
俵孝太郎は、当時クイズ番組『マジカル頭脳パワー!!』で所ジョージに次ぐ2位のトップ賞回数を誇り、ご意見番的・知的な解答者として知名度が高かった。

俵孝太郎(たわら こうたろう)
だが、『タブクリア』は売れなかった…
莫大な宣伝費用を掛けてプロモーションを行ったのに、タブクリアは売れなかった…。
人工甘味料の後味が問題だと思ったコカ・コーラ社は一部エリア限定で果糖を加えたタブクリアの改良版を発売している。
こうなると「ノンシュガー」というウリもぶっ飛び、なんでこの商品を開発したのかという感じになってしまう。

「変わってしまった。」タブクリア
『タブクリア』が失敗に終わった理由。
【その1】馴染めなかった人工甘味料の味。
砂糖や果糖の代わりに人工甘味料を使って、「ノンシュガー」を打ち出したタブクリアだったが、人工甘味料アスパルテームによる影響で甘みはあっても、後味として何とも言えない独特の苦みが残った。
そのため、「美味しくない」や「まずい」という意見が多かった。
果糖を加えた改良版タブクリアにおいても、その後味の悪さは拭えなかったという。
【その2】人工甘味料への不安や不信感
「人工甘味料には発がん性物質が含まれている」などという指摘する書籍や報道もあり、アスパルテームに限らず人工甘味料に対する不安や不信感が大きかった。
また、人工甘味料特有の後味に違和感によって、「なんか、やばそう」と信じられやすい面もあった。
タブクリアの未来的なパッケージデザインが「人工的」であることを強調してしまった面も否めない。
タブクリアで使用されていたアスパルテームは日本とアメリカで1983年に使用が認可されており、米国食品医薬品局 (FDA) の審査では、経口摂取されたアスパルテームの大部分が分解も代謝も受けずに体外に排泄されるという結果が出ている。
調味料として普通に使う量では急性毒性や慢性毒性の問題が起こらないと各国の政府機関から安全性を保証されており、現在では多くの食品や飲料の添加物として使用されているが、危険性を訴える論文もいくつか存在しており未だ不信感を持つ人も多い。
【その3】価値を感じなかった「透明」なコーラ
各社による透明炭酸飲料の発売ラッシュは、「体に悪そう」と思われがちな黒いコーラに対して、透明にすることで安心・安全を訴えることが狙いであった。
しかし、それを訴求すると「今までのコーラは体に悪かったのか?」となってしまうため、積極的には打ち出せなかった。
そもそもサイダーなど透明な炭酸飲料は既に存在しており、「透明だからなんなの?」と感じる消費者が大勢であった。
タブクリア発売の10年近く前に失敗例が存在した。
ノンシュガーではないが、タブクリア発売の10年近く前に失敗した透明のコーラが存在している。
それは、1984年に森永製菓から発売された『ミラクルアルファ(MIRACLE-ALPHA)』。

森永『ミラクルアルファ ホワイトコーラ』
「ホワイトコーラ」と言うわりには他のコーラと比べて若干離れた味であったことや、奇抜なパッケージデザインと飲料自体の見た目のせいもあってか、世間には受け入れられずにわずか1年で生産中止となった。
(復刻版として限定発売されたことはある)
ペプシコ社の『クリスタルペプシ』と『ダイエットクリスタルペプシ』。
そして、コカ・コーラ社の『タブクリア』。
みんな仲良く1年程度で終了になっている…
『タブクリア』は失敗することがわかっていた?
ペプシ、コカ・コーラの両社ともに日本に限らず、販売したすべて国で早期に販売終了となっていることから、パッケージや宣伝の問題ではなく、「透明なコーラ」自体がそもそも受け入れられる商品ではなかったのだと思う。
そして、日本でのテレビCM等で使われたキャッチコピーを振り返ると、もしかするとタブクリアに携わっていたコカ・コーラ社員や広告代理店は発売時には失敗することが分かっていたのかもしれないと思わされる。
この手の訴求が通用するのは、飲んでみたら「なにこれ、すごいうまい!」と驚きを与える商品だけである。
ノンシュガー系の飲料において、人工甘味料を使った方が美味しいと言われる事例が皆無なので、人工甘味料の後味の苦さという、味における致命的な弱点を抱えているタブクリアがどうしてこんな訴求をしたのか不思議でならない。
私の頭に浮かんできたストーリーは…

コカ・コーラ社員A(企画部)

コカ・コーラ社員B(宣伝部)

広告代理店D社の担当者
---ある日---

社員A
「どうしよう!アメリカで売ってるタブクリアを日本でも売れって言われちゃった。」
社員B
「えっ!マジで?人工甘味料って美味しくないし不安な人もいるから日本ではタブも売ってなかったのに…」
社員A
「そうなんだよ!でもペプシに先を越されてなるかって。」
社員B
「う~ん…」
社員A
「そんな流れでタブクリアを売らなきゃいけないから宣伝でなんとかヒットさせてくれよ。」
社員B
「そうだなぁ。じゃあ一緒に広告代理店へ相談に行くか。」---後日---

広告代理店
「売りたい新飲料のタブクリアってこれっすか?どれどれ。グビグビ」
社員B
「どうっすか?バーンと打ち出せる良い訴求ないっすか?」
広告代理店
「う~ん…」
社員A
「ですよね…」
社員B
「CMでなんとか、ならないですかねぇ」
広告代理店
「う~ん…」
社員A
「美味しくはないですよね?あとのウリは透明なだけですからね…。缶だとそれもわからないし」
広告代理店
「ノンシュガーってことで、健康的な感じをウリにしましょうか?」
社員A
「普通のコーラが健康的じゃないって思われるとマズイのでそれは…」
広告代理店
「う~ん…」
社員B
「う~ん…」
社員A
「う~ん…、やっぱり考えたってしょうがないですか。」
広告代理店
「そうですねぇ…ん?おっ!それです!」
社員A
「?」
広告代理店
「考えたってしょうがない。」
社員B
「?」
広告代理店
「ミステリアスな感じを演出して、タブクリアをとにかく飲んでみようと思わせましょう。」
社員A
「でも、『考えたってしょうがない』なんて言ったら消費者がふざけんなって怒りませんか?」
広告代理店
「じゃあ、この人だったら言っても納得って感じの人をイメージキャラクターとして起用しましょう。」
社員B
「例えば?」
広告代理店
「ご意見番っぽい人が良いから…。ん~俵孝太郎さんとかはどうでしょう?」
社員A
「あっ知ってます。あのマジカル頭脳パワー!!に出てる人ですね。」
社員B
「ああ、あの人か。たしかに違和感はないですね。」
広告代理店
「ぶっちゃけヒットさせるのは厳しいと思うので『飲んでみなきゃわからない』って煽って最初だけでも売れる感じにしましょうよ。」
社員B
「それなら味のせいにできるから賛成!」
社員A
「最初だけでも盛り上がればいいか…」
社員B
「その後ダメならアメリカも納得するさ。」
社員A
「そうだなぁ、よしそれで行きましょう!」
広告代理店
「承知しました!」※この物語はフィクション(妄想)であり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
「いらねぇよ。おまえの勝手な妄想は」
「なんだ!この小芝居は。」
「そんなわけねぇだろ!」
色々とツッコミはあろうかと思うけれど、後味の悪さが特徴だったタブクリアに倣って、この記事はここで終わりにしよう。
コカ・コーラの社員さま、ごめんなさい。
怒らないでください。
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