「オール・ザット・ジャズ」製作公開に至るまで
「オール・ザット・ジャズ」は、ブロードウェイの振付師で演出家でもあるボブ・フォッシーが自らメガホンをとり、自分の人生を自伝的に映画にしたものです。
映画の説明に入る前に、まずは製作に至る過程をご紹介いたします。
ショービジネス界の帝王、ボブ・フォッシー
ボブ・フォッシーは1927年、シカゴで生まれました。
若くしてその才能を発揮したボブは、13歳で自身のダンス・グループを率い、15歳の時には既に振り付けをはじめていたそうです。
その後、ブロードウェイ・ミュージカルで演出や振り付けを担当し、ダンサーとして映画に出演もしていましたが、1968年に「スイート・チャリティー」で監督デビューします。
振り付け師時代にはトニー賞振り付け賞を何度も受賞したボブですが、1973年にはアカデミー監督賞、トニー賞、エミー賞、1979年にはカンヌ国際映画祭パルム・ドールと、数々の賞を獲得しており、まさしくショービジネス界の帝王といえるでしょう。
監督した作品には「キャバレー」「レニー・ブルース」「スター80」等があります。
そして1987年、惜しまれつつボブはこの世を去りました。

ボブ・フォッシー
Happy 89th Birthday Bob Fosse – Waldina
破天荒な人生を歩んだボブ
晩年になり、死期が近いと宣告されたボブ・フォッシーは、自分の自伝的映画「オール・ザット・ジャズ」の製作を思い立ちます。
ショービジネス界での名声を欲しいままにする一方、ボブは女性関係では3度の結婚経験や不倫をしたり、煙草や薬で身体を壊したりと、破天荒な人生を送っていました。
逆に言うと、それだけ自分の身を粉にしてまで費やしてきたショービジネスの世界において、自分の生きてきた証として自身の集大成といえる作品を残したかったのだと思います。

グウェン・ヴァードン
グウェン・ヴァードン - Wikipedia
1979年、米国で公開!
闘病生活を続けながらボブ・フォッシーは製作を進め、「オール・ザット・ジャズ」は1979年12月にアメリカで公開されます。映画の完成度はかなり高く、1980年にアカデミー賞の美術賞・編集賞・編曲賞・衣装デザイン賞を、そしてカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞しました。
また、1981年には英国アカデミー賞の編集賞、撮影賞も受賞しています。
アメリカでの公開の約8ヵ月後、日本でも本作はいよいよ公開され、今までにかつてなかったタイプのミュージカル映画だ!と数多くの賞賛の声を受けました。
「オール・ザット・ジャズ」徹底紹介!
さて、それでは早速映画「オール・ザット・ジャズ」の内容について迫っていきたいと思います。
映画のあらすじ
キャストの紹介
映画の主人公、ジョー・ギデオンを演じるのはロイ・シャイダー。
映画「フレンチ・コネクション」や「ジョーズ」「ジョーズ2」等の主演をはじめ、数々の映画に出演している個性派俳優です。
彼も残念ながら2008年に多発性骨髄腫による合併症のため、この世を去っています。
そしてアンジェリークを演じるのはジェシカ・ラング。
1982年に「トッツィー」でアカデミー助演女優賞を、「ブルースカイ」ではアカデミー主演女優賞やゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞しています。

ロイ・シャイダー
ロイ・シャイダー死す・・・: アラフォーおやじの映画勝手レビュー

ジェシカ・ラング
Jessica Lange as The Angel of Death in ALL THAT JAZZ, 1979 cinespia - Cinespia | Hollywood Forever Cemetery & Movie Palace Film Screenings
「オール・ザット・ジャズ」の意味
映画のタイトル「オール・ザット・ジャズ(All That Jazz)」は、ボブが脚本・振り付けを担当した1975年のミュージカル「シカゴ」の同名の曲からきています。
ここで言う「Jazz」は必ずしも音楽のジャズではなく、俗語で「似たようなもの、戯言、活気」という意味で、「All That Jazz」で「あれもこれも、何でもあり」という意味になります。
この映画の場合においで無理やり和訳してみると、「楽しければいい、お祭り騒ぎな人生」、そんな感じかと思います。
実際に「オール・ザット・ジャズ」で使われている曲はジャズ系のものはほぼなく、軽快なポップス調の曲が多くなっています。
見応えのあるダンスシーン
「オール・ザット・ジャズ」では、各所に音楽やダンスシーンが散りばめられています。
至高のミュージカル映画といわれるだけあって、それらはまさに「すごい!」の一言。
もちろん、必見の価値ありです。
1989年に発表され、この年の全米年間シングルチャート6位に輝いたポーラ・アブドゥル「冷たいハート」(Paula Abdul - Cold Hearted )のPVは、こちらで紹介しているシーンにインスパイアされているそうですので、一度見比べてみるのも面白いかもしれませんね。
「オール・ザット・ジャズ」と言えばやはり音楽&ダンス!
「オール・ザット・ジャズ」は随所に音楽やダンス・シーンが散りばめられており、名曲も多い映画です。
ジョージ・ベンソンの「On Broadway」や、映画ラストで使われているベン・ヴェリーン、ロイ・シャイダーの「Bye Bye Love」等は特に人気が高く、映画のサントラを初めて買ったのはこの作品だった、という方もいるようです。
ちなみにこの作品のDVDは通常版の他にミュージック・エディションという別バージョンも発売されています。通常版とは違い、好きなミュージカルシーンの場面だけを選んで再生できる機能が付いており、
音楽・ダンスを中心に楽しみたい方にとっては、まさにPV感覚の映像付きサントラ盤!といった感じの仕様です。
映画をじっくり見るのには時間が足りないけれど、音楽やダンスだけでも楽しみたい!という方には、サウンドトラックよりもこちらの方がお勧めです。
ボブ・フォッシーをより深く理解するために
フェデリコ・フェリーニの8 1/2
「オール・ザット・ジャズ」はイタリアの巨匠・フェデリコ・フェリーニ監督が1963年に製作した自伝的映画、「フェデリコ・フェリーニの8 1/2(はっか にぶんのいち)」の影響を色濃く受けている、とよく言われます。
「フェデリコ・フェリーニの8 1/2」では、現実と幻想が並行して描写されており、主人公のグイドは「人生はお祭りだ。一緒に過ごそう。」と言います。
この映画は名優マルチェロ・マストロヤンニが主役のグイドを演じ、アカデミー賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、モスクワ国際映画祭と数々の賞を獲得した今でもファンの多い名作です。
内容的に共通点が多いですし、「オール・ザット・ジャズ」を見た方はこちらと見比べてみるのもいいかもしれませんね。

フェデリコ・フェリーニの8 1/2
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フォッシー(Fosse)
「フォッシー」はボブ・フォッシーが手掛けた舞台・映画・テレビ番組からのダンス・シーンを一挙に集めた究極のコンピレーションです。
「スウィート・チャリティ」、「ライザ・ウィズ・ア・Z」、 「星の王子さま」、「くたばれ!ヤンキース」や「シカゴ」等の名場面はもちろん、2001年に行なわれたブロードウェイでの特別公演も完全収録されており、ボブのダンスの魅力を余すところなく見る事ができます。
ボブの才能や偉業を理解するのには一番わかりやすい作品かもしれません。
もちろん、「オール・ザット・ジャズ」での名シーンも収録されています。

フォッシー(ブロードウェイ・キャスト版)
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ボブ・フォッシーとマイケル・ジャクソン
多数の人々に影響を与えたボブ・フォッシーのダンスは、フォッシー・スタイルとも呼ばれていました。
マイケル・ジャクソンがボブに影響を受けたと言う説もありますが、「ミュージカル シカゴ公式」さんのブログに興味深い考証がありましたのでご紹介させて頂きます。
【ブログ連載#3】フォッシーとマイケル・ジャクソン【シカゴ!フォッシー!!ジャ〜〜ズ!!!】 #ミュージカルシカゴ – CHICAGO THE MUSICAL – ブロードウェイミュージカル シカゴ
「オール・ザット・ジャズ」総論
ミュージカルが苦手な人にもお勧め!
「オール・ザット・ジャズ」は確かにミュージカル映画ではあるのですが、それだけではありません。
主役のジョー・ギデオンは女性関係にだらしなく、タバコ・酒・薬にどっぷり浸かった不健康な生活を送りながら、自分の人生の全てであると言っても過言ではないショービジネスの世界から離れようとはしません。
自分の死期を悟りながらも、自分の存在価値である仕事を楽しみ、快楽を求め続けたジョー。
この映画はそんな人生を過ごしてきたボブ・フォッシーの、死生観が表れている深い映画であると言えるでしょう。
「死について」だけを延々と語られれば重くなりますが、随所に挟まれる音楽やダンス・シーンのお陰でその重厚さは軽減されています。
またダンス・シーンだけが続々と繰り広げられるわけではないので、純粋なミュージカルが苦手な方にも受け入れられるのだと思います。
ボブ・フォッシーの伝えたかった事
「オール・ザット・ジャズはボブ・フォッシーの生前葬のような映画だ」といった声も少なくありません。
健康を損ない、愛情に満ちた生活を捨ててまで打ち込んだ華やかなショービジネスの世界。
この特殊な世界にいない私たちにはなかなか理解のできないボブの人生。
そんな彼が死を目前にこの映画で伝えたかった事とは?
映画の最後に、エンドクレジットでエセル・マーマンが歌う「ショウほど素敵な商売はない」(There's No Business Like Show Business)が流れてきます。
それは主人公ジョーの、いえ、ボブが一番言いたい事だったのでしょう。
はたから見たらボブは破滅型の人生だったかもしれませんが、彼はきっと自分の人生に納得し、楽しんでいたのだと思います。
人の人生ははかなく、一度きりのショータイムだとも言えます。
出来ることならば私たちはボブと違って健やかに、そして愛情に恵まれた最高のショーを作りたいものですね。
皆様のショーが素晴らしいものになるよう・・・
「さぁショータイムだ!~It's showtime!」