「地名」から紐解く先人達のメッセージ、その土地におきた歴史や特徴を子孫に伝えるかつての地名の由来。

「地名」から紐解く先人達のメッセージ、その土地におきた歴史や特徴を子孫に伝えるかつての地名の由来。

民俗学、それは日常生活の中の風習や行事などの由来を民間伝承の中から紐解いてゆく学問。伝承というと堅苦しく感じるかもしれないが、ごく身近な事象・・・例えば「地名」の由来を調べることも民俗学の範疇である。


「地名」

名の通り、その土地の名前である。地名にはその土地におきた歴史や特徴を子孫に伝えるメッセージが隠されている。
宅地開発などで地名を変えてしまった結果、先人からのメッセージを受け取れずに、災害が起きた後でそのメッセージを改めて知ることもある。

災害と地名の関わりは深い。水に関係する単語を使う地名、谷に関係する地名など・・・皆様の生まれ育った地域にもあったかもしれない。今回はそんなお話です。

「蛇」「龍」「竜」などが使われる地名

「蛇」「龍」「竜」などが使われる地名が全国にある。これは過去に大規模な災害が発生しているケースが多く、「蛇崩」「蛇抜」などは土砂災害の記録を伝える地名だったりする。土砂が流れていく様を蛇がうごめく様に例えているのである。

東京都目黒区の「蛇崩」

例えば、かつて、東京都目黒区に「蛇崩ジャクズレ」という地名があった。昭和7年(1932年)の目黒区誕生を機に消えた地名である。地域としては、祐天寺1丁目1~21番、上目黒1~26・28~45番あたりだ。現在は目黒区上目黒4丁目の野沢通りに「蛇崩」なる交差点名を残すのみとなっている。

古地図にみる「蛇崩」

さて、その目黒の「蛇崩」。「新編武蔵風土記稿」(江戸時代成立)によると、「昔、大水の歳、崩れた崖から大蛇がでた」からだそうだが、一説には「砂崩サクズレ」が「蛇崩」に転化し、その付近の蛇行する川の状態から「蛇崩」の文字を当てたとも言われている。事実、付近の川の名称は「蛇崩川」である。

時として「事後」に知れ渡ってしまうケースも

目黒の蛇崩について書かせていただいたが、おそらく近年、水害と蛇の関連について最もメディアをにぎわせたのは平成26年(2014年)の広島県広島市を襲った土砂災害ではないだろうか。

2014年8月20日午前3時20分から40分にかけて、局地的な短時間大雨によって安佐北区可部、安佐南区八木・山本・緑井などの住宅地後背の山が崩れ、同時多発的に大規模な土石流が発生、両区の被災地域での死者は74人、重軽傷者は44人に上った。この死者74人という数は、国土交通省の発表によると土砂災害による人的被害としては過去30年間の日本で最多であった・・・。

事後、当地がかつて「八木蛇落地悪谷」と呼ばれていた、という伝承がメディアに取り上げられた

この八木地区、古くは水の通り道として知られていたことから「八木蛇落地悪谷」と呼ばれていた、という伝承があったそうだ。当時のメディアはこの地名伝承についてよく取り上げたので覚えている人がいるかもしれない。確固たる証拠はない、単なる伝承であろうと、だからこそ、先人からのメッセージであったことは確かであろう。

この「伝承」を調べるのが民俗学でして・・・この災害報道当時、自分は歯がゆい思いをしたものである。消えた(消えかけた)伝承をもっと掘り起こしておけば、と。

そんな私の思い出はさておき。

「蛇」だけの場合、水害というより、雨乞い信仰に関連する地名も

同じ由来の地名が三重県紀宝町高岡地区の「蛇崩(じゃくつ)」。こちらは平成25年(2013年)に同県を襲った台風18号で氾濫した相野谷川で土砂災害が発生した地域である。

実は今明記した地域以外にも「蛇崩」という地名は全国に散在しているので、もし良かったら調べてみて欲しい。ざっと見ても奈良県や福島県、新潟県、山形県などなどにありますので。「蛇」だけで探してみたら北海道にも!
とはいえ「蛇」だけの場合、水害というより、雨乞い信仰に関連する地名も増えてくるので、また別のお話。

先人は地名に歴史を託してきた。大きく捉えれば地名は「文化遺産」である。
他の地名についてもまたお伝えできたら、と思います。

今回は「蛇崩」についてのお話でした。

関連する投稿


え、徳川綱吉が名君に?角川まんが『日本の歴史』最新研究でまさかのアップデート!

え、徳川綱吉が名君に?角川まんが『日本の歴史』最新研究でまさかのアップデート!

「学習まんがと言えばこれだよね!」と親世代も知る角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』が、刊行10周年で累計1000万部を突破。この節目に、なんと全15巻の内容を最新の研究に合わせて大改訂したというから驚きだ。東大の先生たちも加わったこの「アップデート」、あの「生類憐みの令」の評価まで変わっているらしい。自分の子どもや孫に教える前に、親父たちも要チェックだぞ!


武将の能力値記載のカードで歴史を学びながら遊べる!「信長の野望」のカードゲーム『信長の野望 戦国武将かるた』が発売!!

武将の能力値記載のカードで歴史を学びながら遊べる!「信長の野望」のカードゲーム『信長の野望 戦国武将かるた』が発売!!

講談社より、40年以上愛され続ける「信長の野望」シリーズの公式カルタ『信長の野望 戦国武将かるた』が現在好評発売中となっています。価格は2750円(税込)。


70年代前半に巻き起こった「日本語ロック論争」を特集したNHK Eテレ「世界サブカルチャー史」が放送決定!!

70年代前半に巻き起こった「日本語ロック論争」を特集したNHK Eテレ「世界サブカルチャー史」が放送決定!!

NHK Eテレにて、70年代前半を中心に邦楽ロックシーンに巻き起こった「日本語ロック論争」について特集した番組「世界サブカルチャー史 欲望の系譜 シーズン4 21世紀の地政学」ポップス編 第2回の放送が決定しました。


世界初はハリボー!日本初は?グミの歴史と人気商品をまとめてみた!

世界初はハリボー!日本初は?グミの歴史と人気商品をまとめてみた!

今ではコンビニお菓子の主役の1つともいわれているグミ。今では大人でも好きな人が多いですよね。日本にグミが浸透するまでの歴史をまとめてみました。


「どうする家康」と1983年の「徳川家康」のキャストを比べてみた!

「どうする家康」と1983年の「徳川家康」のキャストを比べてみた!

2023年の大河ドラマは「どうする家康」が放送されていますが、40年前の大河ドラマも「徳川家康」を放送していました。当時と現在のキャストや内容を比べてみました。


最新の投稿


懐かしのブリキ缶が大集合!「昭和の缶に、恋してる」レトロ缶企画展開催

懐かしのブリキ缶が大集合!「昭和の缶に、恋してる」レトロ缶企画展開催

東洋製罐グループが運営する容器文化ミュージアムは、企画展「昭和の缶に、恋してる レトロブリキ缶コレクション」を2025年12月15日から2026年2月20日まで開催します。昭和100年を記念し、お菓子や贈答品などに使われた貴重なブリキ缶を展示。缶の構造やデザイン、当時のエピソードも交え、昭和の生活文化とブリキ缶の魅力を再発見できる展示内容です。


「パックマン」「ゼビウス」などナムコット名作がブランケットに!ファミコン外箱を再現した「クラシックゲームブランケット」登場

「パックマン」「ゼビウス」などナムコット名作がブランケットに!ファミコン外箱を再現した「クラシックゲームブランケット」登場

株式会社KADOKAWA Game Linkageは、ナムコットブランドのファミコンソフト『パックマン』、『ゼビウス』、『ドルアーガの塔』の外箱をモチーフにした「クラシックゲームブランケット」3タイトルを2026年2月16日に発売します。両面印刷で外箱の表裏デザインを忠実に再現し、A5サイズ16ページの冊子も同梱。現在、予約受付中です。


病院も映画館も煙モクモク!?自由すぎる昭和の常識を徹底図解

病院も映画館も煙モクモク!?自由すぎる昭和の常識を徹底図解

日本文芸社は、「昭和100年」の節目に、書籍『眠れなくなるほど面白い 図解 昭和の話』を11月27日に発売しました。庶民文化研究家・町田忍氏監修のもと、「病院でもタバコOK」「消費税なし」「過激すぎるTV」など、令和の感覚ではありえない“自由すぎた昭和の本当の姿”を、図解と豊富な資料写真で紹介。世代を超えたコミュニケーションツールとしても楽しめる一冊です。


ビー・バップ・ハイスクール高校与太郎祭!仲村トオルも清水に降臨

ビー・バップ・ハイスクール高校与太郎祭!仲村トオルも清水に降臨

映画『ビー・バップ・ハイスクール』公開40周年記念イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」が、聖地・清水駅前銀座商店街で12/13・14に開催決定!初日は仲村トオルさん登壇のセレモニーを実施。学ラン・セーラー服でのコスプレOKエリアや、名シーンの聖地巡礼ツアー、映画全6作の上映会など、アツすぎる内容で、あの頃の青春がブッ返る!


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。