“ナスターシャ・キンスキーの背中”目当てでもいいが、結局は、『パリ、テキサス』はすべての人の物語なのだ。

“ナスターシャ・キンスキーの背中”目当てでもいいが、結局は、『パリ、テキサス』はすべての人の物語なのだ。

別に入口はなんだっていい。“ナスターシャ・キンスキーの背中”目当てでもいいし、ライ・クーダーのギターに魅せられるのでもいい。ヴィム・ヴェンダースの最高傑作だからもう一度観ておこう、みたいな感じでもいい。結局は、さまざまな愛の再生の物語に心が引き取られ、落ち着かされ、なだめられていく。年齢を重ねたからこそ感じられる発見もある。僕らはいつ主人公トラヴィスのように生きることになってもおかしくない、と気づく。いい意味でも悪い意味でも。


『パリ、テキサス』とは?

ロードムービーの最高傑作と言われる『パリ、テキサス』は、1984年に制作された西ドイツ・フランス合作映画だ。監督はヴィム・ヴェンダース。脚本にサム・シェパードとL・M・キット・カーソン。原作はサム・シェパードのエッセイ『モーテル・クロニクルズ』。音楽はライ・クーダー。出演にはハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー。第37回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞している。

ヴィム・ヴェンダースがこの映画で描いているのは、ハリウッド的な過剰な愛ではない。肩を強く抱いて多くの愛の言葉を語ってみせる、わかりやすいだけのものではないのだ。背中にそっと手を添えるか添えないか、それでいて愛がどんなものだったかに気づかせてくれるような、そんな物語を描いている。兄弟愛、夫婦愛、親子愛、さまざまな愛の再生を、アメリカの街や風景を独特な間合いで切り取りながら表現した。

タイトルは、主人公トラヴィスが “心” に抱き続けている場所、「テキサス州パリス」のことをさす。

<ストーリー>

テキサスの荒涼とした砂漠を彷徨う男トラヴィス。ポリタンクの水を飲みほし、水を求めて砂漠沿いの店に入るが力尽き倒れてしまう。トラヴィスの弟ウォルトが連絡を受け、引き取りに向かう。だが、目を離すと逃げ出そうとするトラヴィスをたしなめながら、ウォルトは妻アンと引き取っていたトラヴィスの息子のいるロサンゼルスへ車を走らせる。

トラヴィスは初めは何もしゃべろうとしない。ただ、「パリ、テキサス」という、自分がかつて買った土地のことを話す。テキサスの荒地で、父と母が初めて愛を交わした場所だと。

トラヴィスはウォルトの家で息子のハンターと再会する。ある日、ウォルトの妻のアンがヒューストンにいるトラヴィスの妻ジェーンからハンターに送金があると告げられる。トラヴィスは中古車を買い、ハンターと一緒にヒューストンへ向かうのだった・・・。

主人公トラヴィスの視線はどこに向いてるのだろうか・・・。

そして、彼はどこに向かおうとしているのか。

彼の目に “生きる” ことへの希望はないように見える。

街や風景の切り取り方はピカイチ。美しく切ない日常がそこにある。

息子ハンターを演じているのは、脚本のキット・カーソンの息子、ハンター・カーソン。ハンターの存在が、トラヴィスだけでなく、映画を観る人間すべての希望のように思う。

この二人の関係がなんとも良いのである。

トラヴィスは、マジックミラー越しに妻ジェーンに過去の過ちとその愛を語る。ジェーンからトラヴィスの姿は見えない。触れることもできず、お互いの想いだけに寄り添う愛のシーンはどこまでも切ない。

ああ、ナスターシャ・キンスキーの背中・・・。

ナスターシャ・キンスキーである。美しいのである。そして、その背中。観る価値大なのである。というわけで、ヴィム・ヴェンダース・コーナーの前に登場。旧西ドイツ、ベルリン生まれ。13歳でヴィム・ヴェンダースに見出され、『まわり道』に出演。1979年、ロマン・ポランスキー監督の『テス』でゴールデングローブ賞新人女優賞を受賞。80年代から90年代にかけてとくに印象的な活躍をした。『キャット・ピープル』『ワン・フロム・ザ・ハート』『溝の中の月』『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』『ターミナル・ベロシティ』などに出演している。

こんなふうに振り返られ、笑顔を見せられたら、イチコロだ(死語・・・)。

妖しい魅力・・・。

少し乱れた髪と鏡に映る感じがさらに妖しい。またも背中が・・・。

どんな表情でもひたすら美しいのである。

いよいよ、次ページよりヴィム・ヴェンダース・コーナーに!

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