なぜ、『グッドモーニング、ベトナム』は “奇跡”の戦争映画なのか?
さて、なぜこの映画が“奇跡”なのか?
おおざっぱに言えば、この映画、いわゆる “ハリウッドの戦争映画”ではある。
しかし、ありがちな誇張や偽善的な演出はない。
観た後のやりきれない疲労感や、救いのない絶望感もない。
ただただ爽やかなのだ。この爽やかさはいったいなんなのだろう。
まさに“奇跡”の戦争映画なのだ。
その理由をぜひご紹介したい(個人の見解ではあるが・・・)。
ハリウッド戦争映画、『グッドモーニング、ベトナム』へ至る道
『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』が問うた戦争の正当性
第2次世界大戦中や大戦以降、ハリウッドが制作した戦争映画は、戦意高揚、悪を倒す正義のヒーロー像を描くのが基本だった。アメリカはいつも善で、アメリカの敵はつねに悪だった。その流れを大きく変えたのはベトナム戦争以降。国民の固い愛国心で戦ったとは決して言うことのできないベトナム戦争は、価値観の多様化や、激しい反戦運動にアメリカ全体が揺さぶられながらの戦いだった。そんな世相を反映して、1978年にマイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』、1979年にフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』が製作されたのだった。これらの映画はそれまでアメリカ人が自身に問うてこなかった戦争の正当性についてへの論議を促したのだ。

『プラトーン』が生んだ新潮流と空前の大ヒット
そして、1986年に製作された『プラトーン』がさらに新しい潮流を生み出す。監督のオリバー・ストーンは、ベトナムの想像を絶する蒸し暑さに苛立つ兵士の焦燥感や、自分だけ助かろうと死体の影に隠れるというもはやヒーロー像とはかけ離れたアメリカ兵士のリアルな姿を描いてみせた。ドキュメンタリータッチという斬新な手法で、最も事実に忠実なベトナム戦争を描いた映画と呼ばれた『プラトーン』は、製作費約600万ドルの低予算ながら、アメリカ国内だけで1億4000万ドルに迫る大ヒットとなった。

ベトナム戦争を描いた初のコメディ映画『グッドモーニング、ベトナム』
『プラトーン』の商業的な成功により、『フルメタル・ジャケット』『ハンバーガー・ヒル』『友よ風に吹かれて』など、次々とベトナム戦争をテーマにした映画が製作された(どの作品も成功したとは言い難いが・・・)。そして、ベトナム戦争初のコメディ映画として、『グッドモーニング、ベトナム』が登場する。
“奇跡”と簡単に言ってしまったが、まあなにしろ、『グッドモーニング、ベトナム』の主人公クロンナウアは戦地にいながら銃を持って戦わないのだ。そんな主人公は見たことがない(いたかもしれないが・・・)。それでいて強さを持っていた。人間味があり、優しさにあふれていた。ただ、彼は味方であるアメリカ軍という巨大組織の大きな力には勝てなかった。もちろん、マイク一本で戦ってはみせたが。そこにペーソスがある。最後まで人に対しても自分に対しても明るく自由であろうとしたクロンナウアはある意味、奇跡の人だと思う。そして、『グッドモーニング、ベトナム』は、そんなクロンナウアの姿を描いた“奇跡”の戦争映画なのである。
なお、クロンナウアは実在の人物で除隊後、弁護士となったとか。やはり人道派なのだろうか・・・。

<ストーリー>
1965年、ベトナム戦争が拡大する中、空軍兵DJエイドリアン・クロンナウアがサイゴンに赴任してくる。ラフな格好でなんとも気の抜けた様子のクロンナウアを出迎えたガーリック一等兵だったが、ラジオ放送でのその実力に度肝を抜かれる。クロンナウアは、「グゥゥモーニンベッナァァァム!」の叫び声で始まり、ニクソンまでジョークの種にするマシンガントークやいかしたロックンロールの選曲で、たちまち兵士たちの人気者になってしまったのだ。
しかし、従来の軍の検閲による気が抜けたニュースと無難なポップスを流すことに使命を感じている上官ホーク少尉や、規律だけを重んじる非情なディカーソン軍曹には睨まれることになる。
そんななか、街で見かけたベトナム人少女トリンやその兄ツアン、ベトナム人の英語学校の人々との交流を通して、ベトナム人とベトナムという国を少しづつ知っていくのだった。
ある日、G Iバーにいたクロンナウアは突然ツアンに誘い出される。その直後に店内で爆弾が爆発。辺りは大参事となる。ショックを受け、服に血がついたまま局に戻り、この事件のニュースを放送しようとするが、国防総省の検閲官とディッカーソンに制止される。いつもどおり放送を開始したクロンナウアだったが、しばらくの沈黙のあと、突然、爆弾テロのニュースを伝え始めるのだった・・・。




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名優ロビン・ウィリアムズの真骨頂をご覧あれ!
ロビン・ウィリアムズの切れっきれの演技は観るものを圧倒する。俳優としてもコメディアン(?)としても最高の出来だったのではないだろうか。こんな俳優と同時代に生きられただけで幸せだと思える。まさに、真骨頂と言える奇跡の演技だった。
なお、ロビン・ウィリアムズは2014年8月11日、63歳で亡くなった。死因は自殺。初期のパーキンソン病やレビー小体型認知症であったとも伝えられたが、それが自殺の原因かどうかは定かではない。コメディだけでなく、シリアスな演技でも高く評価され、唯一無二の才能に恵まれていたにもかかわらず、最後に自殺を選んだことに驚きを覚える。個人の人生には他人にはわからないそれぞれの事情があり、ロビンが何に悩み、何に絶望したかは知る由もない。ただ、訃報に対してバラク・オバマ大統領が哀悼の言葉を発表するなど、多くの人がその死を悼んだ。その才能は疑いようもないものであり、本当に残念でしかない。凡人の発想だと、ただただもったいない。


戦場に向かう若い兵士を見送るクロンナウアのやりきれない笑顔が印象的



『レインマン』でオスカーを獲得した名匠バリー・レヴィンソンの監督作
監督は、1988年に『レインマン』でアカデミー賞の監督賞、作品賞、ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞している名匠バリー・レヴィンソン。さらに、1997年の『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』ではベルリン国際映画銀熊賞を受賞している。他に『ダイナー』『ナチュラル』『スリーパーズ』『バンディッツ』『トラブル・イン・ハリウッド』などを手がけた。


80年代フォレスト・ウィテカーの笑顔が実にいい
ロビン・ウィリアムズをフォローする黒人兵士役には、のちにオスカーを獲得する名優フォレスト・ウィテカー。個人的に大好きな俳優で、どんな役でもこなし、抑制のきいた演技ながら、存在感たっぷりで作品に深みを与える。このときはまだまだ若く、なんとも笑顔がいい。
1988年、チャーリー・パーカーを演じた『バード』でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞。2006年の『ラスト・キング・オブ・スコットランド』ではウガンダの独裁者イディ・アミンを演じ、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞の主演男優賞を獲得している。



ヒロインはベトナムの国民的女優、チンタラ・スカパタナ。可愛かったっす。
主人公が声をかけたベトナム人女性トリンを演じたのはベトナムの女優、チンタラ・スカパタナ。今では国民的スターだとか。『野生の証明』出演時の薬師丸ひろ子にもイメージが重なる、可愛い女優さんだった。彼女がいることが、戦争を描いていたこの映画の中で、清涼剤にもなっていた気がする。同時にある種の悲しさもあったが・・・。



ルイ・アームストロングが歌った主題歌「この素晴らしき世界」をあなたはどんな想いで聴くのだろうか?
20世紀を代表するジャズ・ミュージシャン、ルイ・アームストロングの歌う主題歌「この素晴らしき世界」(What a wonderful world)。この曲が流れるのは映画中でももっとも戦争の哀切さが極まるシーン。もちろん観る人によって、どのように感じるかは違ってくるとは思う。あなたはどんな想いで聴くのだろうか?

ジェームス・ブラウン、ビーチ・ボーイズ・・・音楽の使い方が秀逸。
バリー・レヴィンソン監督の音楽の使い方がまた秀逸だ。ジェームス・ブラウン、ビーチ・ボーイズ、マーサ&ヴァンデラスなど、60年代のロック&ポップスのヒット曲が効果的に配されている。古き良き時代を懐かしみたい人にはオムニバス盤としても楽しめる。