手塚治虫の未完の名作「どろろ」
1967年に「少年サンデー」で連載がスタートしたが、暗く救いのない内容が当時の読者に受けず一旦打ち切り。
その後「冒険王」にて一部内容が変更され連載されたがこちらも完全完結とは言えず終了。
物語としては一応の収束はしており、少年サンデー版、冒険王版が新たに編集されたものが現在単行本として出版されている。
その後、作品の面白さが見直されアニメ化、ゲーム化、映画化と数多く映像化されている。
「どろろ」の基本ストーリーと2人の主人公。
戦国時代を舞台に運命的な出会いをした2人の子供が妖怪を退治し放浪する物語。
父親の天下統一の為、赤ん坊の時に身体のあちこちを奪われた「百鬼丸」は非情にもそのまま実の親に捨てられた。
48箇所もの身体の部位を奪われ生きることが不可能と思われたが、医者の寿海に拾われ育てられ足りない身体は作られた。
やがて大きくなり偽りの身体を動かせるまでに成長し、本物の身体を取り戻すべく旅に出る。
身体を取り戻すためには部位を持った48体の妖怪を倒すしかなかった。
旅の途中、幼い泥棒である「どろろ」と出会い、ともに旅をすることになる。
2人は自らの出生の秘密に向き合いながら戦国の世の非常さに触れながら戦い続ける。
運命に翻弄される孤独な男「百鬼丸」
48箇所の身体を奪われた少年。原作では14歳と答えるシーンがあるが、作品によって設定が異なる。
医者の寿海により足りない部分は義手、義足、義眼等で補われた。
その為、目が見えず心の目ですべてを見ている。(後に目とともに視力も取り戻す。)
声帯や耳も奪われており取り戻すまではテレパシーのようなもので対話していた。
特殊な身体で生まれてしまったことにより特殊な能力を持ったという若干無理やりな設定。
義手に仕込み刀を持ち、基本はそれで戦う。義足や義鼻等、腕以外にも武器が仕込まれている。
身体能力は普通の人間以上であり、戦闘能力もかなり高いと思われる。
人との関わりを好まない一匹狼だが、どろろと出会い少しずつ心を開くようになる。
非情な権力者である醍醐景光の息子。
実の父親、醍醐景光が魔物と契約したことにより身体を奪われ生まれてしまった。
両親を失うも強く生きる泥棒「どろろ」
盗賊の火袋とその妻お自夜の間に生まれるも、幼い時に両親を失う。
その後も小さな身体で強く生きていくが、百鬼丸と出会い百鬼丸の腕に仕込まれた刀に目をつけ付きまとうようになる。
次第に孤独な2人の間に不思議な友情のような絆が芽生えていく。
幼いながらも勇気と根性と強い意志を持ち、戦乱の世に疑問を抱き弱気を守るべく先頭に立つ存在になっていく。
どろろの背中には父親の残した財宝の地図が刺青として描かれており、興奮すると浮き出てくる。
実はどろろは「女の子」だった。
実は少年ではなく「少女」である。
原作ではそれを匂わす描写が多々出てくるが、意外にも少女であることが物語に影響することはほとんどない。
どろろ本人も自分が女だと気づいていたのかどうかよくわからないが、裸になることは異常に嫌がっていた。
この「どろろ=女」という設定は他の映像化の際、扱われ方が違ってくる。
また、どろろには冒険王版のみの重要な設定があった…!
冒険王のみの隠れた設定…!結構レア?!
risameshian
冒険王連載時にはもう1つの設定があった…!
それが、48箇所の身体を使って1人の人間を作った=どろろ、という設定。
どろろ1人を殺すと百鬼丸はすべての身体を取り戻せる、それが出来ないのであれば1匹ずつ妖怪を倒していくしかない、との究極の2択を迫られる。
その間で苦悩する百鬼丸…これは冒険王連載版のみであり、現在そのすべてを読むことは難しく、私自身も知らなかった。
この設定を使ったのがプレイステーション2の「どろろ」であり、その初回限定付録の復刻版ミニ冊子でその一部を読むことが出来る。
究極の選択に苦悩する百鬼丸。
原作の「結末」
原作は百鬼丸がすべての妖怪を倒す前に終了。
どろろと別れ、その後誰も彼の行方を知ることなく身体をすべて取り戻せたのかもわからないまま結末を迎えた。
醍醐景光は、自分が支配していたはずの村人から妻とともに追放された。
どろろは百鬼丸にお前は女だと知らされ置いて行かれてしまうが、その後、農民と国の立て直しのため強く生きていくことになる。
50年後には醍醐景光が契約した48の魔物が祀られた地獄堂も戦火で消失したというナレーションで幕を閉じた。
実に寂しい最終回だった。
原作の雰囲気をさらに深く…!テレビアニメ版「どろろ」
1969年4月からフジテレビ系列で放送。全26話。
当時カラーが主流となっていたが、パイロット版のカラーアニメがスポンサーの目に生々しく映り、対象である子どもを考慮したこともあり白黒アニメとして「カルピスまんが劇場」で放送された。
アニメ版では百鬼丸は少年ではなく20歳くらいの青年として描かれている。
絵柄も劇画タッチになっており、全体的に渋い印象。
モノクロなのが逆に怖さを引き立てるというか…放送当時、私は生まれてませんが観ていたとしたら確実にギャン泣きしただろうな…というくらいおどろおどろしい作品でした。
かわいいワンちゃんのオリジナルキャラが登場したところで全然明るくなってません(笑)
よく放送できたなあ…。妖怪の描写怖すぎるよ!
オープニングは藤田淑子さんが歌う「どろろの歌」。
映像がこれまた渋くて大好きです。
妖怪退治が主な内容なのに農民一揆を思わせる映像を中心に、戦国の世に立ち向かうどろろの勇ましい姿と戦う百鬼丸がほんの少ししか出ないのがまたセンスいい!
カラオケでも歌えて機種によってはアニメ映像も楽しめます。
どろろアニメの1話。
当時のスタッフが丁寧に作成したのがわかりますね。
パイロット版。
カラーだと確かに生々しい…!モノクロはモノクロで怖いけど…。
アニメ版の結末。
肝心のアニメ版のみの結末ですが、どろろと別れ1人で魔物退治を続ける百鬼丸。
あと残り1体というところで醍醐景光が最後の魔物と知る。
百鬼丸を庇い最後に母の愛を見せた縫の方も醍醐景光によって殺されてしまう。
百鬼丸は実の父親を倒すことによりすべての身体を取り戻すことに成功。
しかし彼は自分の運命に疲れ、もう誰とも会いたくないと1人どこかに去っていった。
最後に1人でどこかに行ってしまうのは原作と同じですが、父が最後の魔物になったり母親が死んでしまったりと原作よりドラマチックな展開に。
一応すべての身体は取り戻せたとはいえ…彼は幸せになれない運命なのでしょうか。
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物語に救いアリ!プレイステーション2版「どろろ」
2004年9月にセガより発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
冒険王版の「どろろが百鬼丸の身体を持つ」設定が採用されている。
他にもゲーム版のみのオリジナル設定が多数あり、エンディングは1番平和なものと思われる。
百鬼丸が身体を取り戻していく様子がプレイヤーに伝わるよう工夫がされている。(目を取り戻すまでは百鬼丸視点で画がモノクロ等。)
キャラクターデザインは「無限の住人」の沙村広明。
「新しいどろろ」として原作と合わせても十分に楽しめる作品。
「いい娘さん」のどろろと再会出来る!ゲーム版のみの結末!
ゲーム版は冒険王版を採用していることから最終的にどろろの中の魔物を倒す必要があり、どろろを殺さず魔物だけを倒す方法を探しに百鬼丸は数年旅に出る。
そして数年後、年頃の娘になったどろろと再会、最終決戦となり見事魔物を倒すことに成功。
身体もすべて取り戻し、どろろも生存。
2人で喜びをわかち合うエンディングはハッピーエンドと呼んでもいいものだった。
こちらがゲーム版「どろろ」のエンディング動画。
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オマージュに近い実写化、劇場映画版「どろろ」
2007年1月に公開された邦画「どろろ」。
百鬼丸は妻夫木聡、どろろは柴咲コウと実力派。
こちらは大胆なリメイクで、本来こどもなはずのどろろが最初から大人の女性など原作との違いが数多くあり、ファンからは賛否両論です。
私はオマージュ作品として受け取り結構楽しみましたし面白かったです。
基本の基本は忠実でしたし。
劇場版ではどろろの親を殺したのが百鬼丸の父親の醍醐景光となっていたり、映画オリジナルの設定が面白かったです。
主題歌のフェイクも作品に合っててよかったしまだ観てない方でどろろ好きなら1回くらいは見てみてもいいんじゃないかと思う作品です。
劇場版の結末。
劇場版の結末は…原作に比べるとハッピーエンドと言える終わりだったと思います。
本来続編も考えていた作品のようなのでスッキリエンド!って雰囲気ではなかったですがどろろと百鬼丸の旅はこれからも続く的なジャンプの打ち切りのような終わり方でした。
ゲーム版と同じで若干2人のロマンスも匂わせつつ…みたいな。
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番外編?「どろろ梵 」
「どろろ梵」は手塚治虫のどろろの原作を元にしたオリジナル漫画。
ヤングチャンピオンコミックスで全4巻。
舞台は現代で生まれ変わった百鬼丸が女性だったり、どろろはなんと妖怪化。
オマージュを超えた完全オリジナルなのでどろろファンには入り込みにくい作品と言える。
設定などはよく組まれていて面白いと思いますし、番外編として紹介しました!
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「どろろ」は面白い!
結末を中心に紹介しましたが「どろろ」はとにかく面白いのです。
私は個人的に手塚治虫作品では1番好きですね。
ブラックジャックも大好きですが、短い巻数に百鬼丸とどろろの2人の物語が凝縮されていて、百鬼丸の設定もとても斬新です。
人の心をつかんで離さない作品だからこそ50年近くたった今も愛されリメイクされ読者の想像をかきたて続けているのだと思います。
まだ読んだことない方はぜひ原作から楽しんでいただき、リメイク作品にも触れて比較してみて欲しいです。