「チコタン〜ぼくのおよめさん〜」

「チコタン」が伝えたい願いとは…?
「チコタン」は昭和40年代に作られた児童合唱曲。副題は「ぼくのおよめさん」。
作詞/蓬莱泰三・作曲/南安雄。
1960年代の交通戦争に問題提起し作られた曲と思われる。
突然、大切な人を失う交通事故の悲しみ、行き場のない怒りを表現したこの曲は全5章で構成され、章ごとに曲調も異なる。
感情の起伏を表現することが求められ合唱曲としては難易度が高い。
作詞家である蓬莱氏が関西出身のためか、歌詞は「関西弁」で構成されている。
基本的にはピアノのアップテンポな明るい曲調。
そう、問題の5章までは…。
あまりに悲しい結末の為、学校によっては4章までしか教えないところもある。
曲は5章で突然一変し、子供にトラウマを与えるに十分な内容となる。
「チコタン」というこの曲を子供たちに歌わせることで大人に運転の際はくれぐれも気をつけるよう伝えたかったのだろうか?
子供を守るための願いが込められていることは間違いない。
合唱曲チコタンが訴える「交通戦争」とは?

1960年前後、交通事故死者数が跳ね上がり日清戦争での日本の戦死者を上回るほど増加したことから「交通戦争」という言葉が誕生。
車の急激な普及により、おもに歩行者・自転車の死亡者が急増。
多くの子供の遊び場がなくなり、命も失ったことからそれに心を痛めた蓬莱泰三と南安雄が組んだことにより「チコタン」は生まれた。
その後、交通規制が行われ徐々に事故は減っていくが、「交通戦争」と呼ばれる現象は数年おきに現れ、現在もチコタンの叫びが続いているように思える。
一度観たら忘れられないショートアニメ
1971年に学研映画が製作したショートアニメがこちら。
オープニングはラストを予知するかのような不気味さを漂わせているが、曲がはじまるとポップで可愛いメロディと美しい歌声、アニメーションで癒される。
アニメーションとして非常に面白く出来ており、チコタンの世界観を表現している。
私は小学校の時にこの曲は習ったが、このアニメーションの存在は知らなかった。
大人になってこのアニメを観てこの曲の存在感の大きさを改めて思い知り、この曲の本当の意味を知りなんとも言えない気持ちになった。
「ぼく」の気持ちが痛いほど伝わってきて泣けてしまった。
1章「なんでかな?」

なんでかな♪なんでかな♪
なんでチコタン好きなんかな?
なんでこないに好きなんかな♪
チコタン チコタン チコタン チコタン♪♪(チコタン歌詞より)
と明るくはじまり「ぼく」がいかにチコタンに入れ込んでいるかわかる歌詞が続いていく。
彼の世界はチコタンを中心に回り、チコタンではじまりチコタンで終わるそんな世界の住人になってしまっていた。
最終的には好きすぎて「食べてもたろか!」と締めくくって第1章は終わる…。
2章「プロポーズ」

チチチチチチチチ、チエコさん♪
ぼぼぼぼぼぼぼぼ、ぼくの♪
おおおおおおおお、お嫁さんに♪
なななってください〜♪(チコタン歌詞より)
ついに「ぼく」はチコタンにプロポーズ。幼いながらも勇気のある少年だ!
「ぼく」はおよめさんになってくれたら勉強し、良い子になり、掃除もサボらず、鼻くそも飛ばさず女の子も泣かさない…!と誓い、猛アピール!
もう全力すぎて可愛い。鼻くそはそうじゃなくてもやめよう(笑)
…しかしチコタンの返事は…。
3章「ほっといてんか」

ほっといてんか!ほっといてんか!
おやつなんかいらん!ケーキなんかいらん!
あほたれ、あほたれ!母ちゃんのあほたれ!
なんで ぼくひとりだけ産んだんや!?
ぼくが魚屋つがんならんのに
そやからぼくはシツレンしたのに…♪(チコタン歌詞より)
壮絶な拗ねモードではじまる3章。
どうやらチコタンにプロポーズを断られたらしい…。
ひとりっ子な自分を呪い、両親を罵りはじめる。
恋って怖い…。

「ぼく」の家は魚屋さん。チコタンは魚が大嫌いだったのだ。
そのせいで失恋した「ぼく」の嘆きがひたすら続くのが3章。
よっぽど悔しかったんだね…。
それでも魚屋を継ごうとする「ぼく」がなんだか愛しい…!
この歳で親を養うことを考えるしっかり者…偉い!
4章「こんやく」

ええことええこと、おもいついた♪
チコタンチコタン、エビすきゆうた♪
チコタンチコタン、カニすきゆうた♪
チコタンチコタン、タコすきゆうた♪
そんならそんならチコタンすきな、エビ・カニ・タコだけ売ったらええねん♪♪
(チコタン歌詞より)
どうやら悩みは解決したようです。
魚は嫌いだけど甲殻類や軟体動物は大丈夫なチコタン…。
まあ子供らしいっちゃ子供らしい発想ですが…子供だから許しちゃいましょう。

やっとチコタンにオッケーをもらえた「ぼく」。
2人は婚約状態に。よかったね!「ぼく」!

2人で日本一の魚屋やるぞ!…エビ・カニ・タコしか売ってないけど(笑)
「ぼく」は意気込み、幸せ全開で天にも昇る気持ちで4章が終わる。
ヤッホー、ヤッホー、ヤッホー、ヤッホ〜、ヤッホ〜〜〜♪♪(チコタン歌詞より)
5章「だれや?!」

さて…5章です…。本題です。みなさん覚悟はよろしいでしょうか。
4章まで有頂天だった「ぼく」は奈落の底に突き落とされることになります。
チコタンは突然、亡くなってしまいます。
私もそろそろふざけるのはやめましょう…。

二人でゆびきりしたのに…
おとなになったら ケッコンしようと
二人でゆびきりしたのに…
結婚したら日本一の魚屋になろうと
二人でゆびきりしたのに…(チコタン歌詞より)
先生から報告され呆然とする「ぼく」。
受け入れられるわけがありません。
ダンプに轢かれてチコタン死んだ…!

チコタン死んだ
ダンプにひかれてチコタン死んだ
横断歩道で黄色い旗にぎって、チコタン死んだ(チコタン歌詞より)
チコタンの死因を語るシーンはドキッとさせられる歌い方、アニメーションでは映像がインパクト大。物凄い衝撃がありました。
えっ…?!嘘!!みたいな…。こんな展開にする意味が正直わからなかった。

だれや!?
チコタン殺したのんだれや!?
ぼくのチコタン殺したのんだれや!?
ぼくのおよめさん殺したのんだれや!? (チコタン歌詞より)
「ぼく」の悲しみはだんだん「怒り」に変わっていく。
何よりも大切だったチコタンを奪ったのは「だれだ!」と問い続ける。

だれや だれや だれや!?
アホーーーーーーーーーゥ!!(チコタン歌詞より)
最後は「ぼく」の悲痛な叫びで終わる。
楽しい合唱曲から誰がこんな結末を予想するだろうか…。
歌い継がれ、愛され続ける「チコタン」
「チコタン」は今までもラジオで 伊集院光が、テレビ番組では「月曜から夜ふかし」等が紹介し、その度知名度を上げており、ネットでも幼いころのトラウマソングとして有名で知恵袋や各ブログ等で話題にされてきた。
子供には残酷な内容であるが、どんな理由にせよこの曲が歌い継がれていけばいいなと思う。
最近では歌詞の内容等、規制が激しく、この曲がいつお蔵入りになってもおかしくはない。
作詞家のインタビューが印象的ですね〜。
本人の口からこうして聞くのははじめてでした。深すぎる…。
まだあった!もっと悲しい「日曜日〜ひとりぼっちの祈り〜」
チコタンを世に送り出した、蓬莱氏&南氏はもっと強烈な合唱曲を作っていた…!
それが「日曜日〜ひとりぼっちの祈り〜」。
チコタンと同じく交通戦争を示唆した曲ではあるが…こちらは加害者側の視点のもの。
1番だけ聞くと「ぼく」は父と母を事故で失った被害者と思わせる内容なのだが…
2番からがもう聞いてられないくらい鬱展開。
「ぼく」の父親は飲酒運転をし、子供に重症を追わせ、恐らく歌詞を読んだ感じだとその家族を死亡させたようである。
そして「ぼく」の父親と母親もその事故で亡くなったらしい…。
「ぼく」は人殺しの子と言われながらも両親を憎みきれず、被害者の子供に手紙を書き両親の代わりに懺悔する…というあまりに悲しすぎる曲だった。
そしてこの曲、とにかく長い。
でもよく考えたらチコタンも長いか…。
どちらも大作な合唱曲である。
いくら子供の立場からの代弁とは言えここまでするか…!と思ってしまう。
でもこのくらい衝撃度がないと人の心には響かないのかもしれませんね。
「日曜日~ひとりぼっちの祈り~」歌詞を紹介しているサイト様
さて、チコタンの世界、いかがでしたか?
何度聞いても考えさせられる曲です。
「ぼく」にはその後、幸せな人生を送って欲しいな…あのままだと立ち直れないでしょ…。
悲しい歌はたくさん世の中にありますが、子供目線のものはどうもやっぱり弱いですね。
児童曲はよく考えたら実は悲しいって歌は結構ありますよね。
「グリーングリーン」とか…戦争モノなんかが有名です。
明るく楽しい歌よりもこういった曲の方がなぜか心に残るから不思議です。
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