「パンをふんだ娘」とは?

「パンをふんだ娘」はアンデルセンの童話
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話で童話集などによく収録されている。
とある村に住むインゲルという美しい娘は貧しい家と母親を嫌がり、いつも虫を痛ぶり殺して遊ぶ冷徹な少女だった。
ある日インゲルはお金持ちの家に貰われることとなる。
インゲルの生活は贅沢なものへと一変し、お金持ちの夫婦は美しいインゲルを溺愛し、好きなものはなんでも与えた。
そのためインゲルは更に美しくワガママな娘へと成長していく。
そんな中、金持ち夫婦はインゲルに一度里帰りするよう申し付ける。
インゲルは汚い村には帰りたくないと思いながらもしぶしぶ村へ向かう。
その際大きなぬかるみに行く手を阻まれ、靴が汚れることを嫌がったインゲルはバチ当たりにも母親へのお土産にと持たされたパンをぬかるみに投げ入れそれを踏みつぶし渡ろうとした。
その瞬間、インゲルはパンとともにぬかるみの奥底へ吸い込まれそのまま地獄へと落ちていったのだった…。
彼女の運命は…。
という物語なのだが、この物語を恐ろしい影絵劇にしたのがNHK教育テレビである。
小さい頃、1人で留守番をしていた私には恐怖レベルが高すぎる作品であった。
トラウマの原因は「テーマソング」と「影絵の高い芸術性」
テーマソングが怖すぎる…!!!
タイトルのまんま「パンをふんだ娘」という名のテーマソング。
これがトラウマの一番の原因と思われる。
「パンをふんだ娘」
うた/山田美也子・作詞/北沢杏子・作曲/越部信義
ゆらゆらと不安定な映像とこの歌は聞いたものを一気に「パンをふんだ娘」の世界へと引き込んでしまう。
悪いことをするとこんな目に遭うのか!
教訓とは言えここまでに恐ろしいことになるなんて…やり過ぎじゃないかと思うくらいの展開に子供の私は固まってしまった…。
親が帰ってくるまでテレビの前から動けず、この番組の後にはじまった明るく楽しいNHK教育番組も頭に入らずとにかく恐怖に包まれたのだ。

みるみる吸い込まれるインゲル。
この時のゆっくり沈む感じと悲鳴が妙にリアルで怖すぎる…!
これがパンを踏んだ娘の主題歌。
おどろおどろしい雰囲気と美しく切ない歌声が恐怖を煽る…!
高い芸術性!影絵劇の決定版。

この影絵劇は「劇団かかし座」によって制作されたもので、NHK教育テレビの番組「にんぎょうげき」で1975年に初放送された。
ブラックを基調に人物はシルエットで描かれ、色味を抑えた演出がおどろおどろしい雰囲気を作りだしている。
インゲルの声担当・松尾佳子の演技はそれはもう憎たらしく仕上がっており、山内雅人の淡々とした語りかけるようなナレーションが物語を盛り上げ、芸術的な影絵の美しさが恐怖を掻き立てる。
特にインゲルがぬかるみに吸い込まれるシーンは印象深くゆらゆらした画面と色彩、インゲルの悲鳴、そして合わせ技であの歌である…忘れることは出来ない。
この作品は何度も再放送されており、ミドルエッジ世代から若者まで多くのトラウマ被害者が存在するが納得である。

沼女…不気味に歌いながら登場。
朝か〜ら晩ま〜で〜ぐ〜つぐつ〜毒を煮る〜♪毒を煮るのが〜商売〜さ〜♪
やたら軽快で気持ち悪いジャズタッチの曲調で…もう勘弁してください!怖すぎる…!
でもこの赤い炎のような色とブルーのコントラストが本当に綺麗なんだ…。

美しく贅沢三昧だったインゲルの身体にはヘビやカエルがまとわりつき無残な姿に…。
さらに沼女から魔女に売られ、石のように固められてしまう。

地獄の魔女の館にはインゲル以外にも罪を犯した人々が飾られている…。
このポージングがなんかわからんけど子供の心に刺さって怖いんだよ…。
インゲルはどうなる?最後はバッドかハッピーエンドか…?

インゲルにたったひとつの希望の光が…
地獄で長い時間を過ごすインゲル。
意地の悪いインゲルが地獄に堕ちたことは村で語られ誰もインゲルの味方をする者はいなかった。
しかしたったひとりだけインゲルを哀れみ涙を流した少女がいた。
彼女がインゲルの希望の光となる。

インゲルが人の心を持った時…!
少女の心に触れ自分を悔い改めたインゲルの心は次第に清らかに…。
その後の彼女に待っていた展開、そしてラストは観る者に委ねる形で幕を閉じる。
動画があったのでぜひ観て確かめて観て欲しい。
恐怖ばかりが先行し、トラウマ作品として有名だが奥が深く今観ると違った印象を与えてくれる。
もう一度この作品の素晴らしさを知って欲しい。
パンをふんで地獄に堕ちるまでの前編がこちら。
オープニングから例の曲が楽しめますよ。
地獄に落ちてからエンディングまでの後編。
ラストあなたはどう解釈しますか?私は前向きならがも切ないバッド・エンドに思えて仕方ありません…。
当時よく放送されていた影絵劇、人形劇

1970年〜1980年代のNHK教育テレビではこのような影絵劇や人形劇がよく放送されていた。
影絵劇は藤城清治氏が最も有名であるが、人の手または機械で動かす光と影を用いた影絵劇は人の心にいつまでも残り、どこか切なく温かみがあり美しい。
CGとは違った魅力、見直されるべき存在である。

人魚うの手から棒が丸見えの人形劇は当時、数多く放送されていた。
人形、小道具、舞台セット、すべて手づくりであり、温かみと少し怖さがあった。
口はパクパクと動き、単純な動きなはずなのに躍動感があり本当に生きているようにだった。
「パンをふんだ娘」を制作した【劇団かかし座】

現在も童話を伝え続けている…!
1952年創立の「劇団かかし座」。
現在も勢力的に昔ながらの影絵劇や手影絵を制作・上演・上映している。
持ち前のクオリティの高さで観るものに強い印象を与え、童話を中心に公演を行っている。

イソップ物語や日本の昔ばなしなど数多く手がけている。
どこか哀愁も感じる画面づくりは影絵ならではの味わい深さがある。
大ヒットしたコブクロの「蕾」のPVも実は「かかし座」によって手がけられたもの。
主に手を利用し、身体を使った影絵パフォーマンスが素晴らしい。

光と影を巧みに利用し、身体を使って表現する舞台…。
このような技術、文化を伝承するため今も精力的に活動している「かかし座」は貴重な劇団。
いつまでも心に残る芸術をこれからも上演し続けて欲しい存在。
劇団かかし座公式ホームページ
「パンをふんだ娘」みなさんは覚えていましたか?
NHK教育テレビの影絵や人形劇はそれぞれ思い入れがあると思うが、改めて鑑賞することで新たな発見や印象があるはず…!
ぜひ思い出に浸りながら楽しんでみてください。
アンデルセン童話集 (2) (岩波少年文庫 (006)) | アンデルセン, 大畑 末吉 | 本 | Amazon.co.jp
「パンをふんだ娘」は本来あまり長い物語ではないため単体の絵本や本は出版されていないが、アンデルセンの童話集の一部に掲載されている。
NHK教育テレビで放送された内容と一部異なる部分もあり二度楽しめるのでぜひ原作も探してみて欲しいですね。