ボクサー回流―平仲明信と「沖縄」の10年
これまでたくさんのボクサー本を読んできましたが
この本はいろいろな意味ですごく面白かったです。
青い空、青い海、そして豚
平仲明信は沖縄に生まれた
見渡す限りサトウキビ畑が広がり
町の南は太平洋に面していた
両親は農業と養豚業をしていた
戦争で右腕を失った父は
豚を1頭1頭増やしてきた
平仲は学校に行く前と帰ってきた後、
仕事を手伝った
餌をやり
ホースで豚とその居住場所を洗い
畑の堆肥にするため糞を集め運び
20kgある肥料の袋も一気に3つ4つ運んだ
平仲がまだ小さかった頃
奇形の豚や先天性の病気を持った子豚が生まれると
それをもらい
木箱に薬草をしきつめ介抱し育てた
普通は1年で出荷できるところ
病弱な豚が元気になるまで2年を要した
そうやって息子が手塩にかけて育てた豚を母は容赦なく売った
朝の仕事を終えて
作業着を脱ぎ
シャワーを浴びて
制服に着替え
自転車で高校までいくとき
いつも思うことがある
父親のことは尊敬していたし
長男として文字通り父の右腕として働いていた
しかしなぜか焦れた
思わず力強くなるペダリングに
自転車はまるで弾丸のようだった
壁にかかった先輩
最初
高校では野球部に入っていた
ある日
部室で4人の先輩がふざけて
平仲の財布を取り上げ
投げ回した
そして「返してくれ」という平仲に冗談半分でバットを投げた
その後、
先輩の1人は足の骨が折れうずくまり
1人は顔から血を流して倒れ
1人は壁の突起にハンガーのようにかけられ意識を失っていた
もう1人は部室を脱出して職員室に駆け込んだ
バイクを盗まれたときも
平仲は犯人の家をつきとめ乗り込み
購入した倍の金額で買い取らせた
自分から売ることはなかったが売られたケンカは片っ端から買った
170cm90kg
太い体躯、太い骨、太い筋肉
その腕力は並外れていた
仲井真重次と具志堅用高、平仲をボクシングに導く沖縄ボクシング先駆者たち
伝説の上原湯
仲井真重次は
平仲より11歳上である
彼は沖縄県石垣市の中学校を卒業後、
プロ野球選手になるため
とりあえず大阪の会社に就職した
しかしプロテストを不合格になると
雇い主からパスポートを強引に奪い返し
沖縄に戻り高校に入学
ここでボクシングと出会った
仲井真は高校に通うため
後に世界王者になる上原兄弟の実家に下宿した
上原家は「上原湯」を営んでおり
その下宿の条件とは
「銭湯のアルバイトとボクシングをすれば3食つきで下宿代タダ」
というものだった
学校から帰ると
開店前の銭湯の脱衣所とサンドバッグを吊ったボイラー室で
上原兄弟の父、勝栄がボクシングの指導をした
「ボクシングはルールのあるケンカさ
ケンカ強ければボクシングも強くなるから最初はケンカを教える」
「度胸7分力3分」
空手上がりの勝栄はそういって
初心者から上級者まで全員にスパーリングをやらせた