黒田有の逆境の日々 NSCに入るまで

黒田有の逆境の日々 NSCに入るまで

メッセンジャー黒田有 壮絶な生い立ち、学生時代の悲恋、そしてNSCに入るまで。



中学3年生になると黒田有は、学校内の友人関係が変化するのを感じた。
「中1や中2のときは頭がいいヤツも頭が悪いヤツも一緒に仲良く遊んでいたのに、中3になると高校受験のために一気にグループが分かれ出す」
それはまず1学期に

・頭がいいグループ
・頭が悪いグループ

の2グループに分かれ、まったく勉強をしてこなかった黒田有は「頭が悪いグループ」だと自認。
2学期になると急に塾に通い出す者が現われ、

・頭がいいグループ
・頭が悪いが家が裕福グループ
・頭が悪い上に家が貧乏グループ

の3グループに分かれ、黒田有は自分は「頭が悪い上に家が貧乏グループ」だと思った。
そして急に塾に通い出した連中をバカにしながら、スーパーをウロついたり、家電販売店でラジカセのフタを開閉させたり、本屋で立ち読みをして時間を潰した。

ある日、「頭が悪い上に家が貧乏グループ」の仲間と本屋にいると、2学期から塾に通い出した元仲間を発見。
「参考書でも買ったんか」
と話しかけると、元仲間は本を体の後ろに隠した。
仲間が無理やり奪い取り、袋の中身をみるとアイドルの写真集だった。
「勉強もせんとこんなん買ってエエんか」
仲間がからかうと元仲間は、写真集を奪い返して帰ろうとした。
黒田有は、そのアイドルの大ファンだったので、咄嗟に、
「ちょっとみせてくれへん?」
といった。
高価な写真集は高い場所に陳列してあり、立ち読みすることができなかった。
背中を向けていた元仲間は、ゆっくり振り返り、優越感タップリに
「買ったらエエやん」
といった。
黒田有は、殺意を覚えた。
かつてこの元仲間は、遠足に行ったとき、卵焼き、唐揚げ、ウインナー、鮭おにぎりが詰まった弁当を食べながら、黒田有の半分ご飯、半分ヒジキの弁当を
「オセロ弁当」
といって笑ったことがあった。
(それやのに俺の小さなお願いを軽くいなしやがって・・・)
黒田有は、隣にいる仲間に
(お前は俺の気持ちわかってくれるやろ?)
と熱い視線を送った。
すると仲間は、少し微笑みながら静かにつぶやいた。
「俺、その・・ちゃんの直筆サイン持ってんねん」
写真集は金を出せば買えるが、直筆サインはそうはいかない。
元仲間は固まり、「頭が悪い上に家が貧乏グループ」は一気に優勢に。

しかし元仲間は
「サインみせてくれるなら写真集を貸す」
と悪魔のささやき。
仲間がニヤッと笑うのをみて、黒田有は
(ヤバイッ)
と思った。
(このままやったら孤立してまう!)
仲間と元仲間が仲良く話すのをみて、追い詰められた黒田有は、
「実は、俺も・・・」
仲間と元仲間がこちらをみるのをみて、一瞬ひるんだが、
「今度、その子の家に行く」
とウソをついた。
仲間に
「どういうことや」
といわれると
「だから今度、・・ちゃんの家に行く」
元仲間が全く信用していない様子で
「なんで?」
と聞いてきても
「だって住所知ってるもん」
と即答。
仲間と元仲間が目を丸くするのをみて
(勝った!!)
と思ったが、元仲間が
「いつ行くの」
と詰めてきたので、
「今度の休みに行く」
と答えた。
すると
「じゃあ写真撮ってこい」
といわれてしまった。

当時、芸能人やアイドルは、住所や電話番号を公開していてファンレターを送る事が可能だった。
「もう誰も頼れんし、後に引けない」
黒田有は、そのアイドルの情報を調べ、神奈川県へ。
交通費は、小学生の頃から時々、皿洗いのアルバイトをしているうどん屋の店主に、
「帰ったらバイト代で返す」
といって3万円を借りた。
大阪から神奈川まで新幹線で一気にいけば早いが高いので、まず近鉄特急で名古屋へ。
そこで新幹線に乗り換え、小田原で降り、バスに乗って、目的のバス停で降りた。
ここまでは順調だったが、バス停は、山道にあり、小田原駅で買った地図をみながら歩いたが、いつまでたっても目的地に着かない。
3時間後、黒田有は自分が道に迷っていることに気づいた。
それでもアイドルの家を探していると、やがて日が落ち、真っ暗になり、聞いたこともない獣の声が聞こえた。
怖くなって、遠くにみえる灯りに向かってダッシュ。
やっとの思いで住宅地に出て、時計をみると20時を回っていた。
気持ちが落ち着くと旅の目的が蘇り、
「写真を撮らないと仲間や元仲間にバカにされる」
と街灯の下、地面に地図を広げた。
しかしまったくどこかわからない。
その上、最終の新幹線の時間が迫っていた。

すると
「なにやってるの」
と上品そうなおじさんに話しかけられた。
「あの・・家を探してまして」
「こんな時間に?
誰の家?」
素直に
『アイドルの・・ちゃんの家です』
といえばいいに、
「親戚のおじさんです」
とウソをついた。
「なんて名前?」
「田中です」
ウソにウソを重ねるとおじさんは、
「田中さんは、この辺りに数十軒ほどあるよ」
やがて奥さんもやってきて、おじさんから事情を聞くと心配そうに
「中学生がかわいそうに。
あなた、警察に連絡してあげたら」
黒田有は、首筋にジットリと汗がにじむのを感じた。
「そうだな。
それがいいな。
君、私の家はすぐそこだからついてきなさい」
おじさんが歩き出し、いよいよヤバくなった黒田有は大きな声で、
「ちょっと待ってください」
そして怪訝そうにこちらをみる夫婦に
「実は僕のおじさん、ヤクザなんです。
だから警察はダメなんです」
「かわいそう」
と涙ぐむ奥さん。
「じゃあ、どうすれば・・」
というおじさんに
「駅まで送ってください」
「わかった。
待っていなさい」
そういって夫婦が去り、残された黒田有の頭の中には、仲間と元仲間の高笑いがこだましていた。

しばらくするとバイクがやってきて、おじさんは黒田有に、ヘルメットを渡しながら、後ろを指さし、
「乗りなさい」
見ず知らずの自分のウソを信じてくれる優しさ、バイク、標準語、黒田有にとって、すべてがカッコよかった。
バイクは数分で住宅地を抜け、山道を疾走し、やがて街の明かりが見えてきた。
黒田有が
「こんなに歩いたんや」
と思っていると、バイクが少しスピードを落とし、
「あそこに大きな茶色い家があるだろ」
おじさんのいう通り、数十m先に大きな家がみえ、
(なんや、急に)
と思っていると
「あれっ、アイドルの・・ちゃんのお家だよ」
ついに探し続けた目的地が見つかった。
あの家の写真を撮るためにやってきた。
しかし善良なおじさんに本当のことはいえない。
(こうなったら!)
黒田有は、スピードを上げたバイクの上で、つかまっている右手を離し、ポケットからインスタントカメラを取り出し、通り過ぎるアイドルの家に向けて2回シャッターを切った。
数秒間の出来事だった。
駅に着くとおじさんにお礼をいった後、最終の新幹線に飛び乗り、席に座ると落ちるように寝た。

後日、放課後の教室に、元仲間、仲間、黒田有が集合。
机の上にそれぞれ、写真集、サイン色紙、ピンボケの写真を置いた。
「じゃあ交換しよか」
黒田有は、意気揚々、写真集に手を伸ばした。
元仲間は、その手を払って
「この写真が・・ちゃんの家っていう証拠は?」
仲間にも
「たしかに証拠はないな」
といわれ、黒田有は怒りで体を震わせた。
「この写真のために血のにじむ苦労をして、うどん屋で皿洗わなアカンのに・・・」

中3の夏休み、これまで勉強をまったくしてこなかった黒田有は、
「このままでは高校に行けない」
と焦りながら必死に勉強。
ある日、家の近くの電信柱の前で
「すいません」
と声をかけられ、振り向くと見たころのないセーラー服を着た女の子が2人いた。
声をかけてきたのはショートカットの活発そうな女の子。
もう1人は、ロングヘアーのおとなしそうな女の子。
「なに?」
黒田有が聞くとショートカットの女の子が
「この手紙をあなたの友達の・・くんに渡してほしいんです。
わたしたち、あなたたちと同じ年なんです」
・・くんとは、学校で1、2を争うイケメン。
ロングヘアーの女の子がラブレターを書いたものの本人に渡せず、黒田有に頼んだということだった。
「わかった」
黒田有が手紙を受け取り、その場を去ろうとすると、ロングヘアーの女の子がか細い声で
「あの~」
振り向くとロングヘアーの女の子はうつむいてしまい、見かねたショートカットの女の子が
「返事、もらえますよね?」
黒田有は、
(俺に聞かれても)
と思いながら
「多分」
と答えた。

次の日、わざわざ自転車に乗って友人である・・くんの家まで手紙を届けた。
・・くんは、
「ああ・・」
と受け取り、封を開けずにに手紙をテーブルの上に置き、黒田有と日常会話を始めた。
(コイツにしてみたらラブレターなんて日常茶飯事なんやな)
黒田有は友人の話を適当に切り上げ、受験勉強のために家路を急いだ。
家に着いて自転車を止めていると
「こんにちは!」
と明るい声。
シュートカットの女の子が1人でいて
「手紙、渡してくれました?」
「いま渡してきた」
「ありがとう!」
そういってシュートカットの女の子は笑顔で帰っていった。
黒田有は、スカートをなびかせて去っていく女の子の後ろ姿に、これまで経験したことのない感情を覚えた。

数日後、家のそばに女の子が2人組でいて
「あのー返事どうなりました?」
ショートカットの女の子に聞かれ、あれ以来、・・くんと会っていない黒田有は、
「なんかアイツ、忙しいみたいやで」
と適当に返事。
ロングヘアーの女の子が悲しそうにうつむくとショートカットの女の子が
「聞いてもらえません?」
「今度会ったら聞いとくわ」
「電話で聞いてみてください」
語気を強めていうショートカットの女の子に黒田有は心の中で怒りが湧き、
『なんで俺が。
自分で直接聞けや』
といいたかったが、それを怒りを圧倒的に上回る恋心と下心によって
「わかった」
と返事。
「ありがとう。
また明日来ます」
と元気よくいって、ロングヘアーの女の子の手を引いて帰っていくショートカットの女の子を見送った。

関連する投稿


伝説のレトロゲームに有野課長が果敢に挑む!『ゲームセンターCX DVD-BOX22』が発売決定!初回限定版も要チェック!

伝説のレトロゲームに有野課長が果敢に挑む!『ゲームセンターCX DVD-BOX22』が発売決定!初回限定版も要チェック!

伝説のレトロゲームに有野課長が果敢に挑む、超人気ゲームバラエティ番組「ゲームセンターCX」(CS放送フジテレビONE スポーツ・バラエティで放送中)のDVDシリーズ第22弾、『ゲームセンターCX DVD-BOX22』が発売されます。


自宅でダイナマイトが爆発!?相方・ビートたけしとのコンビ結成の裏側も!『鶴瓶ちゃんとサワコちゃん』にビートきよしが出演!

自宅でダイナマイトが爆発!?相方・ビートたけしとのコンビ結成の裏側も!『鶴瓶ちゃんとサワコちゃん』にビートきよしが出演!

全国無料放送のBS12 トゥエルビで現在放送中の、笑福亭鶴瓶と阿川佐和子がMCを務めるトークバラエティ「鶴瓶ちゃんとサワコちゃん~昭和の大先輩とおかしな2人~」第47回放送分(7月28日よる9時00分~)にて、お笑い芸人・ビートきよしがゲスト出演します。


まさかの芸失敗!?衝撃の髪型事件を語る!『ますだおかだ増田のラジオハンター』に芸歴55周年の海原はるか・かなたが出演!!

まさかの芸失敗!?衝撃の髪型事件を語る!『ますだおかだ増田のラジオハンター』に芸歴55周年の海原はるか・かなたが出演!!

ABCラジオで毎週木曜日12時から放送の『ますだおかだ増田のラジオハンター』7月10日放送分にて、髪型漫才界の重鎮、髪型ハンターこと海原はるか・かなたがゲスト出演しました。


2丁拳銃    愛人12人の小堀裕之と経験人数、生涯1人の川谷修士、そしてその妻、小堀真弓、野々村友紀子は、同じ1974年生まれ

2丁拳銃 愛人12人の小堀裕之と経験人数、生涯1人の川谷修士、そしてその妻、小堀真弓、野々村友紀子は、同じ1974年生まれ

NSC大阪校12期生、1993年結成の2丁拳銃が、2003年にM-1への挑戦を終えるまで。


「ロンドンブーツ1号2号」が電撃解散を発表!「ロンドンハーツ」は今後も出演継続の見込み

「ロンドンブーツ1号2号」が電撃解散を発表!「ロンドンハーツ」は今後も出演継続の見込み

お笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号が24日、レギュラー出演しているテレビ朝日系「ロンドンハーツ」内で解散を発表しました。


最新の投稿


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。


伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体 UWF40周年記念イベント“無限大記念日”開催!

伝説のプロレス団体『UWF(ユニバーサル・レスリング・フェデレーション)』が、設立40周年を記念し、特別イベント「無限大記念日」を書泉ブックタワー(東京・秋葉原)にて開催します(2025年12月24日~2026年1月12日)。第1次UWFの貴重な試合映像や控室、オフショットなど、4,000枚以上のアーカイブから厳選された写真が展示されます。復刻グッズや開催記念商品も販売され、当時の熱狂が蘇ります。


グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

グラニフ×『幽☆遊☆白書』初コラボ実現!幽助、蔵馬、飛影など全21アイテム登場

株式会社グラニフは、TVアニメ『幽☆遊☆白書』との初コラボレーションアイテム全21種類を、2025年12月2日(火)より国内店舗および公式オンラインストアで販売開始します。主人公の浦飯幽助をはじめ、桑原、蔵馬、飛影のメインキャラクターに加え、戸愚呂、コエンマなど欠かせないキャラクターをデザイン。11月26日より先行予約も開始され、ファン必見のラインナップです。


全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

全長20cmの迫力!1/18スケール『国産名車コレクション』創刊

アシェット・コレクションズ・ジャパンは、隔週刊『1/18 エクストラスケール 国産名車コレクション』を2026年1月7日に創刊します。全長約20cm、1/18スケールのダイキャスト製で、日本の自動車史を彩る名車を精巧に再現。ボディラインやエンジンルーム、インパネなどの細部ディテールにこだわった「エクストラ」なコレクション体験を提供し、マガジンでは名車の開発秘話や技術を深掘りします。