それから何度も彼女に家に行ったが、黒田有はKがいた方が楽しいので、自分からKを誘って彼女の家へ。
ある日、Kが
「ドクターペッパーってジュース、知ってる?」
というと彼女は
「知ってる。
東京しか売ってへんジュースやろ」
Kが
「それがスーパー・・・で売ってるらしいで」
というと彼女は
「エエッ、飲みたい!」
と目を輝かせた。
黒田有も、その幻のジュースの存在は知っていた。
そのスーパーまで、彼女の家から自転車で片道30分はかかるが
「俺、買ってくるわ」
と志願。
すると
「ワー」
と喜んだ彼女にハグされ、髪の毛が鼻に当たって、その香りに体が熱くなった。
そして買ってきたドクターペッパーを飲んで、
「コーラの方が何十倍もうまい」
と思ったが、その日以来、Kと彼女は、ドクターペッパーを飲みたがり、黒田有は自転車をこいでドクターペッパーを3本買いに行った。
ある日、いつものようにドクターペッパーを買い出て3分後、駄菓子屋に
「ドクターペッパー入荷」
という張り紙がしてあるのを発見。
「ラッキー」
と思い、中に入って、ドクターペッパーを3本買って、意気揚々、彼女の家へ。
階段を上がって2階の彼女の部屋の扉を開けると2人は唇を重ねていた。
黒田有は、自分に気づいた2人をみながら扉の前にドクターペッパーを2本置き、無言で階段を降り、自転車に飛び乗って自宅へ。
その日、Kから電話があったが、母親に頼んで居留守を使った。
その後、学校でKと話さなくなり、ショートカットの女の子からも連絡はなかった。
2学期になるとKが高校を辞め、女の子を妊娠させてしまい、工場で働いているという噂を聞いたが、妊娠したのが彼女なのか知る由もなく、調べる気にもならなかった。
こうして黒田有の初恋は終わった。
夏に失恋し、秋に初めての彼女ができた黒田有が、ある日、彼女の家に電話すると出たのは彼女の母親。
緊張しながらも印象を良くしようと、いつもは使わないような言葉を使ってがんばって話した。
すると母親は、その声の低さに
「娘が50くらいの男と不倫している」
という勘違い。
家族会議が開かれた。
それでも2人はつき合い続け、ある日の夕暮れ、学校の帰り道、人気のない場所で2人きりになり会話が途切れたとき、黒田有は彼女を見つめた。
少しうつむく彼女をみて心臓がバクバクしたとき、2人の頭上に3匹のコウモリがバサバサと飛び、ムードは一瞬で崩れ去った。
そして数日後、彼女に
「他に好きな人ができたから・・」
と別れを切り出された。
高校卒業後、黒田有は
「あらゆる意味で食べるのに困らない」
と寿司屋で板前として働いた。
ある日、喫茶店でコーヒーを飲んでいると
後ろに小さな男の子と若い母親が食事をしていて
男の子がご飯を食べるのを嫌がって泣き出すと
母親がなだめようと
「ご飯食べたらオモチャを買ってあげる」
というのを聞いて
カップを落としそうになった
同じ頃、まともにご飯を食べさせてもらえず、コーラは
「骨が溶ける」
という理由で飲ませてもらえず、近所にあった寿司屋にいきたいというと
「子供が寿司食べたら腹に虫がわく」
といわれ、オモチャを買ってと駄々をこねると人前でもビンタされた黒田有は、夢のような取引を提示されても泣き続ける男の子に殺意を覚えた。
起業して成功した同級生に
「どうすれば大金持ちになれる?」
と聞くと、
「金を心から好きになることや」
「俺も金は好きやで」
「お前は金が好きなんやなくて、貧乏がイヤなだけやろ。
女好きが女のケツ追っかけるのと、嫁さんを大事にするのは違うやろ?」
黒田有が
(要は苦労して手に入れたものをずっと愛し続けろか・・・)
と思っていると、同級生は
「ポイントカードの類は一切持たないとことが大事や」
といった。
「なんで?」
「大金は小銭を嫌うからや。
嫁さんがいるのに愛人を家の中に入れるわけにはイカン。
そんなことをすれば嫁さんは怒って家を出てってしまういうことや」
(嫁は大金、愛人はポイントカードいうことか)
買い物に行ってポイントカードを忘れたら、後日レシートをみせに持っていってポイントをもらっていた黒田有は、帰宅後、財布からポイントカードをすべて抜き出してゴミ箱へ入れた。
しかし耐え切れず、すぐに回収し、財布に入れ直した。
21歳、フグの調理師免許も取得した黒田有は、板前として独立を考えた。
「自分のお店を出すにはお金を握ってからだ」
と思い、起業する資金を稼ぐ方法を考えると
「手っ取り早そうなんは芸人やな」
こうして吉本興業の養成所、NNSC大阪校に10期生として入学。
同期にジャリズムの山下しげのり(オモロー山下)、渡辺あつむ(世界のナベアツ、桂三度)などがいたが、ほとんどが高校卒業したての18歳。
彼らはNSCに入る前からテレビやラジオでお笑いを研究していたが、21歳の黒田有は、1日13時間、飲食店で働き、テレビを観たりラジオを聴く暇などなかった。
後にお笑いコンビ「メッセンジャー」を組む相方のあいはら雅一は、黒田有と同じ年だったが、初対面のときに小学生高学年の頃、パンクズを集めてパンをつくった話をして、その工程を得意げに語る姿や、道頓堀の相生橋の下で寝泊まりをしながら、全財産を入れた紙袋とワンカップを持って学校に来るのをみて、
「人生の残酷さを生まれて初めて悟った」
という。
ナインティナインは、1つ上の9期生の「兄さん」だが、2人共、年下。
営業で尼崎の市民会館へ電車で向かっていたとき、矢部浩之が隣に座ってきたのがファーストコンタクト。
「お前、彼女おんのか?」
「います」
「ほな今度、またいくわ」
矢部浩之は、そういって、その後、実際に黒田有のマンションで彼女と一緒におしゃべりし、
「芸人ちゅうのはいろいろなことあるし、コイツもこんなヤツやけど我慢してついていってやってな」
その後、黒田有は、2丁目劇場まで矢部浩之と一緒に自転車で通ったり、ご飯を食べるなど良い先輩後輩関係を築いていったが、ナインティナインは売れると、そういう機会も減っていった。
ある日、黒田有は、先輩でナインティナインの同期である「ダブルトラップ」の水野透に
「飲みに行かへん?」
と誘われた。
水野透は岡村隆史と非常に仲が良く、その日、黒田有は初めて岡村隆史が一緒に飲むことになった。
その後、3人で飲むようになったが、何度目かのある日、急に水野透に来れなくなった。
待ち合わせ場所に来た岡村隆史に
「どっかメシ行こうや」
といわれ、黒田有は道頓堀の知っている店に行こうとした。
しかし歩いていると通りがかった人が
「あっ、岡村や」
「岡村や」
と騒ぎ出したため、岡村隆史は
「お前どこ行くねん。
こんな派手なとこ行くなや」
黒田有は
「わかりました」
といって千日前通りから3本奥まった場所にある小さな焼き鳥屋「鐘鳥」へ。
店内には大きな木の柱があって、目立たないように岡村隆史を、その奥の席に、自分は手前の席に座った。
飲み出すと、岡村隆史が仕事のことをグチり出し、
「俺がボケてんのに今日、あいつスカしよった」
と矢部浩之に対する不満をいい出し、黒田有は現場をみていないので
「あっ、そうですか」
など合わせていた。
すると急に岡村隆史が
「黒田、ちょっと相方のところに電話して」
といい出し、
「えっ?」
と驚くと、
「それで俺が耳元でいうから、それをそのままいうてくれ」
恩ある矢部浩之へのイタズラ電話。
しかも時間は深夜1時。
黒田有は何度も断ったが、あまりに岡村隆史があまりにしつこく、仕方なく了承。
岡村隆史は、黒田有の携帯電話を持って矢部浩之にダイヤル。
その電話機を渡された黒田有が右耳に携帯電を当てると、岡村隆史は携帯電話の背中に左耳を当てた。
矢部浩之が
「はい」
といって出ると岡村隆史は小声で
「お前しばくぞっていえ」
と指示。
「・・・・」
「ええからいえ、いえ」
黒田有は仕方なく、
「お前、しばくぞ」
といった。
何事かわからずそ電話の向こうから聞き返してくる矢部浩之に対し、その後も、
「前からいおう思うてたんやけど、お前しょうもないねん」
「ノッテるときに口から下出すのやめい。
気色悪いんじゃ」
などと暴言を連発。
そして矢部浩之が
「お前、黒田やろ」
「ケンカ売ってんのか」
「シバキに来いや」
とキレ出すと、黒田有はワナワナ震え出し、岡村隆史が爆笑しながら電話切った。
そして
「謝っとけ、謝っとけ」
と岡村隆史にいわれ、黒田有はリダイヤル。
「兄さん。
遅くに失礼します。
気づいてはると思うんですけど、メッセンジャーの黒田です。
すいません。
さっきの電話、実は岡村さんにいわされてたんです。
岡村さんが横にいて、いえいうて指示されて、しゃーなしにいってたんです」
と謝罪&説明。
しかし
「それは関係ないんちゃうん。
お前がいうたんやろ。
それでお前な、オチないやん。
オチもないし、おもろもないし、どうすんねん、これ。
お前も芸人やったらオチつけろや」
と静かにキレる矢部浩之に絶望。
横をみると岡村隆史は、チビチビと日本酒を飲んでいた。