土屋名美という宿命の女を多くの女優が体を張って演じた「天使のはらわた」シリーズ

土屋名美という宿命の女を多くの女優が体を張って演じた「天使のはらわた」シリーズ

長きにわたり支持され続けてきた「天使のはらわた」シリーズ。過酷な運命に翻弄される土屋名美の存在感は圧倒的です。水原ゆう紀、泉じゅん、速水典子、小野みゆき、大竹しのぶ、余貴美子など多くの女優が土屋名美を演じています。


天使のはらわた

1978年から1994年の間に6本も映画が作られていることから人気のほどがわかる「天使のはらわた」。いや、それだけでは人気のほどが分からんと言われる方には、その間に「天使のはらわた」に関連する映画が15本も製作されていると聞けば、熱狂具合を分かって頂けるでしょうか?因みにその後にも関連映画は3本作られています!どうです?人気のほどが分かったでしょう?

それにしても、こんな作品ってそうそうないのではないかと思います。原作は石井隆の漫画です。この漫画、1977年に雑誌「ヤングコミック」で連載が始まったのですが、1979年には掲載終了。なので単行本にして僅か3冊!今の感覚からすると短編に近い感じですよね。とても何作品も映画化されるなんて信じられません。

作者)石井隆

1〜3巻(1978〜9年)少年画報社

天使のはらわた

「天使のはらわた」。初めての方にはギクッとするどぎついタイトルですね。 このタイトルは1974年に、あのアンディ・ウォーホルが監修したイタリア・フランス合作映画「悪魔のはらわた」が日本で公開されて話題となりましたから、このあたりの影響ではないかと思います。

最初の映画化作品は1978年です。1977年に連載が始まってますから翌年にはもう最初の映画が公開されたというわけです。
タイトルは「女高生 天使のはらわた」で、日活ロマンポルノです。過激な内容ということもあってか、バイオレンス・ロマンポルノと言われています。

監督:曽根中生
原作:石井隆

製作:海野義幸
企画:成田尚哉
脚本:深水龍作、池田敏春
撮影:水野尾信正
美術:渡辺平八郎
編集:山田真司
音楽:大野真澄
助監督:池田敏春

出演:大谷麻知子、川島めぐ 

女校生-天使のはらわた

3人の暴走族の青年が婦女暴行を繰り返すという内容です。が、この作品は契約上の問題があるようで、現在では観ることが出来ません。
というか、このシリーズ、残念ですが今となってはなかなか観ることが出来ない作品が結構あるんです。

天使のはらわた 赤い教室

天使のはらわたシリーズ2作目は1979年に公開された「天使のはらわた 赤い教室」です。この作品で目を引くのは原作者の石井隆が脚本に参加していることです。そう、石井隆はこの作品から脚本を書き、後に監督も務めるようになるのですが、まぁ、それはそれとして、主演が当時人気だった水原ゆう紀というとこ大事です。水原ゆう紀です。日活ロマンポルノです。脱ぎます。

監督:曽根中生
脚本:石井隆、曽根中生
原作:石井隆「天使のはらわた」
製作:海野義幸
出演者:水原ゆう紀、蟹江敬三、あきじゅん、水島美奈子
音楽:泉つとむ
撮影:水野尾信正
編集:鍋島惇
製作会社:にっかつ
配給:にっかつ
公開:1979年1月16日
上映時間:79分

天使のはらわた 赤い教室

「天使のはらわた 赤い教室」は石井隆脚本によるオリジナルです。どういうことかと言いますと、「天使のはらわた」を名乗ってはいますが原作の漫画とは全く別のストーリーとなっています。
実は「天使のはらわた」には多くのシリーズ作品がありますが、各作品とも独立しているんです。
んじゃ、なんで天使のはらわたシリーズなのか?といいますと、どの作品も過酷な運命に翻弄される人々の物語ということで一貫しています。
そして、物語の核となるのは土屋名美という女性で、相手役には村木哲郎(全てではありません)という名が付いています。が、同じ名前の人物が出てくるというだけで別の作品なんですよね。

さて、そこでシリーズ2作目の「天使のはらわた 赤い教室」です。ご存じない方には下の動画が分かりやすいかと思います。

「天使のはらわた」はこの作品から始まったと言って良いかと思います。原作者が脚本を書いていますからね、間違いない!思いのたけをぶち込んだという感じでしょう。
この後、1979年「天使のはらわた 名美」
1981年「天使のはらわた 赤い淫画 」
1988年「天使のはらわた 赤い眩暈」
1994年「天使のはらわた 赤い閃光」とこのシリーズは続いていきます。

因みに石井隆は「天使のはらわた 赤い眩暈」で初めて監督を務めています。

ラブホテル

「天使のはらわた」というタイトルが無くても土屋名美もしくは村木哲郎という人物が出てくれば、それはもう「天使のはらわた」。この二人、誰が演じようとドロドロの運命に翻弄されるという役どころは不変です。

名美または村木を主人公とした映画は15作も作られています。その4作目にあたる「ラブホテル」、これは第7回ヨコハマ映画祭にて第一位に選ばれ速水典子が最優秀新人賞を受賞し、にっかつロマンポルノ後期の秀作と高い評価を得た作品です。

石井隆が脚本、相米慎二が監督を務めています。

監督:相米慎二
脚本:石井隆
製作:海野義幸
製作総指揮:成田尚哉、進藤貴美男
出演者:速水典子、寺田農
音楽:林大輔
撮影:篠田昇
編集:冨田功
製作会社:ディレクターズ・カンパニー
配給:日活
公開:1985年8月3日
上映時間:88分

ラブホテル

石井隆脚本、相米慎二監督による「ラブホテル」。ロマンポルノを代表する傑作とも言われていますが、相米慎二監督というと「魚影の群れ」「台風クラブ」「セーラー服と機関銃」や「あ、春」といった作品で知られている名監督だけあって、ロマンポルノといっても格調高い作品となってます。その分、露出は少な目なのですが、だからこその高評価なのでしょうね。

ヒロインの名美を演じたのは速水典子で、かなり熱演していますよ。

ラストシーンだけを観てもこの映画に流れる虚無感や空虚感はなかなか伝わらないとは思いますが、作品を通して観ると、この虚しさ全開のラストは素晴らしいです。

今でこそ評価の高い作品ですが、当時は賛否両論あったそうです。ラストシーンで胸を締め付けられると感じるか、退屈と感じるかは好みの問題ということですね。

死霊の罠

日本初の本格的スプラッター映画と言われている「死霊の罠」。脚本は石井隆。監督は「天使のはらわた・赤い淫画」で認められた池田敏春。とはいえ、この作品は天使のはらわたシリーズなんでしょうか?確かに小野みゆき演じる取材クルーのレポーターの名前は土屋名美で、翻弄されまくってます。が、毛色が違うというのか、まぁ、「天使のはらわた」としては、間違いなく問題作ですね。

監督:池田敏春
脚本:石井隆
製作:升水惟雄
出演者:小野みゆき、桂木文、小林ひとみ、中川えり子、島田紳助、本間優二
音楽:吉良知彦
撮影:たむらまさき
製作会社:ディレクターズ・カンパニー
配給:ジョイパックフィルム
公開:1988年5月14日[1]
上映時間:100分

死霊の罠

この映画で気になるのは主役の小野みゆきよりも小林ひとみでしょう。本筋とは全く関係なく恐縮ですが、いつ脱いでくれるんだ?!とドキドキしっぱなしです。更には桂木文。「翔んだカップル」のイメージが強い彼女ですが、期待を裏切らない可愛さです!
が、小野みゆきは無視できません。本筋とは全く関係なく甚だ恐縮ですが、パンチラがなんともエロい!流石に主役をやるだけの事はあると妙に納得してしまいます。

この映画、日本映画のご多分に漏れず低予算だったそうですが、冒頭の惨殺シーンなど良くできており、チープさは感じません。しかし、スプラッターであろうが、なかろうが面白い映画ですよ。
それにしても、なぜ石井隆は主人公の名前を土屋名美にしたのでしょう?そこがちょっと気になる作品ではあります。

ヌードの夜

第33回ギリシャ・テッサロニキ国際映画祭:最優秀監督賞、第10回イタリア・トリノ国際映画祭:特別審査員賞(準グランプリ)、第47回毎日映画コンクール:日本映画優秀賞/田中絹代賞/録音賞、第35回ブルーリボン賞:助演男優賞、第14回ヨコハマ映画祭:助演男優賞/撮影賞、第18回おおさか映画祭:撮影賞/主演女優賞、第7回高崎映画祭:主演男優賞、第66回キネマ旬報ベスト・テン:脚本賞/主演女優賞。多くの映画祭で各賞を受賞した1992年公開の「死んでもいい」。名作ですね。土屋名美を演じたのは大竹しのぶです。
「死んでもいい」は石井隆が「天使のはらわた・赤い眩暈」に続いて監督を務めたヘビーなラブ・ストーリーで、簡単に言ってしまうと「郵便配達は二度ベルを鳴らす」を思わせる不倫ものです。

好みではありますが、このシリーズは90年代に公開された作品が最高ではないかと思えます。「死んでもいい」素晴らしい。そして翌年公開された「ヌードの夜 」、これがまた傑作ときています。

監督:石井隆
脚本:石井隆
製作:稲見宗孝、岡田裕、成田尚哉、新津岳人
出演者:竹中直人、余貴美子
音楽:安川午朗
撮影:佐々木原保志
編集:川島章正
配給:ヘラルド・エース
公開:1993年12月18日
上映時間:110分

ヌードの夜

村木哲郎を竹中直人が、土屋名美を余貴美子が演じた「ヌードの夜」は、サンダンス・フィルム・フェスティバル・イン・トーキョー'94 グランプリ、第9回高崎映画祭最優秀作品賞に輝きました。

で、更に翌年が「夜がまた来る」ですね。これがまたまた素晴らしいのです。夜がまた来るどころか、夜が明けない感じといいますか、悪夢から目覚めると、そこは悪夢だったという感じの映画といえましょうか。運命に導かれる男と女。石井ワールド全開の作品です。

GONIN

正確には分かりませんが、石井隆監督作品として商業的にもっとも成功したのはこの作品なのかもしれません。何と言っても出演者がスゴイ。それだけで客が呼べそうです。オールキャストで全員カッコイイんですからたまりませんよ。でもって内容は圧倒的なバイオレンス・アクション映画となっています。

監督:石井隆
脚本:石井隆
製作総指揮:奥山和由
出演者:佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、竹中直人、椎名桔平、ビートたけし、木村一八、鶴見辰吾、永島敏行
音楽:安川午朗
撮影:佐々木原保志
編集:川島章正
配給:松竹
公開:1995年9月23日
上映時間:109分

GONIN

石井隆作品の特徴のひとつに雨のシーンがあります。「GONIN」でも雨の中の殺人シーンが出てきますが、この雨のシーンはどの作品でも何故かせつなく、そして美しいんですよね。

根津甚八が演じる氷頭要の妻役で永島暎子が出ているのですが、出演時間は短いのにすごく印象に残ります。やっぱりいい女優なんだなぁと思いますね。

後に「GONIN2」「GONIN サーガ」が制作されたことからも人気のほどが伺えます。

石井隆は村木哲郎や土屋名美を使って、運命に翻弄され続ける男女をずっと描いてるんですね。これほどひとつのテーマを追い続ける作品というのは他に例がありませんよねぇ。

もっともっと続けてほしかったシリーズですが、残念ながら石井隆は、2022年5月22日、がんのため自宅で亡くなりました。75歳でした。

関連する投稿


「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」で、なぎら健壱の昭和探訪(東京・佃島編)&令和に遺したい古き良き昭和ラブホが特集!!

「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」で、なぎら健壱の昭和探訪(東京・佃島編)&令和に遺したい古き良き昭和ラブホが特集!!

全国無料放送のBS12 トゥエルビで毎週木曜よる9時~放送中の「船越英一郎の昭和再生ファクトリー」1月16日放送分にて、「なぎら健壱の昭和探訪 東京・佃島編」と「令和に遺したい昭和遺産・古き良き昭和のラブホテル特集」の2本立てが放送されます。


80年代の日本アート・シアター・ギルドの作品紹介

80年代の日本アート・シアター・ギルドの作品紹介

ATGこと日本アート・シアター・ギルド。映画好きにはこたえられない優れた作品を配給し続けたことで知られています。今回は若手の映画監督を積極的に起用した80年代の代表作を紹介します。


忘れ去られた日本の文化遺産の魅力を問う!写真集『秘宝館』『ラブホテル』が同時発売!!

忘れ去られた日本の文化遺産の魅力を問う!写真集『秘宝館』『ラブホテル』が同時発売!!

青幻舎より、都築響一による写真集『秘宝館』『ラブホテル』が同時発売されます。発売予定日は9月22日、価格はそれぞれ2530円(税込)。


映画「GONIN」でスリリングな役をこなした子役『五十嵐瑞穂』も引退しちゃったんだ・・・。

映画「GONIN」でスリリングな役をこなした子役『五十嵐瑞穂』も引退しちゃったんだ・・・。

1993年に4歳で子役デビューした五十嵐瑞穂さん。ドラマや映画で活躍し、映画「GONIN」では、6歳にして襲撃を受け亡くなるというスリリングな役もこなしています。気になりまとめてみました。


【スケバン刑事II】おニャン子クラブがゲスト出演!銀行強盗で大ピンチの第21話

【スケバン刑事II】おニャン子クラブがゲスト出演!銀行強盗で大ピンチの第21話

南野陽子主演のドラマ『スケバン刑事II』では、おニャン子クラブが本人役でゲスト出演したことがありました。それは、第9話と第21話の2回。いずれも通常回に劣らぬ大事件が起きてしまいます。今回は、おニャン子が一日行員を務めていた銀行で、不運にも銀行強盗に遭遇してしまった第21話をご紹介します。


最新の投稿


ギタリスト 鈴木茂「BAND WAGON」発売50周年記念ライブを東阪ビルボードで開催!

ギタリスト 鈴木茂「BAND WAGON」発売50周年記念ライブを東阪ビルボードで開催!

ギタリスト 鈴木茂が、『鈴木茂「BAND WAGON」発売50周年記念ライブ~Autumn Season~』を11月13日にビルボードライブ大阪、16日にビルボードライブ東京にて開催する。今回は、1975年にリリースされた1stソロアルバム「BAND WAGON」の発売50周年を記念したプレミアム公演となる。


【1965年生まれ】2025年還暦を迎える意外な海外アーティストたち!

【1965年生まれ】2025年還暦を迎える意外な海外アーティストたち!

2025年(令和7年)は、1965年(昭和40年)生まれの人が還暦を迎える年です。ついに、昭和40年代生まれが還暦を迎える時代になりました。今の60歳は若いとはと言っても、数字だけ見るともうすぐ高齢者。今回は、2025年に還暦を迎える7名の人気海外アーティストをご紹介します。


吉田沙保里  強すぎてモテない霊長類最強の肉食系女子の霊長類最強のタックル その奥義は「勇気」

吉田沙保里 強すぎてモテない霊長類最強の肉食系女子の霊長類最強のタックル その奥義は「勇気」

公式戦333勝15敗。その中には206連勝を含み、勝率95%。 世界選手権13回優勝、オリンピック金メダル3コ(3連覇)+銀メダル1コ、ギネス世界記録認定、国民栄誉賞、強すぎてモテない霊長類最強の肉食系女子。


消えた回転寿司チェーンの記憶──昭和・平成を彩ったあの店はいまどこに?

消えた回転寿司チェーンの記憶──昭和・平成を彩ったあの店はいまどこに?

昭和から平成にかけて、全国各地で親しまれていた回転寿司チェーンの数々。家族の外食、旅先の楽しみ、地元の定番──いつしか姿を消したあの寿司屋は、なぜ消え、どこへ行ったのか。本記事では、現在は閉店・消滅した地域密着型の回転寿司チェーンを、当時の特徴やSNSの証言とともに記録として振り返る。


【歌謡曲】ありえないシチュエーション!歌詞がおもしろくて笑ってしまう歌謡曲5選!

【歌謡曲】ありえないシチュエーション!歌詞がおもしろくて笑ってしまう歌謡曲5選!

昭和の歌謡曲には、現代ではお蔵入りしてもおかしくないほど、ありえないシチュエーションを描いた詞が数多くあります。その中には、残酷な人物像や露骨な情景描写もあり、思わず笑ってしまうような歌詞もありました。今回は、筆者の独断と偏見で、歌詞がおもしろくて笑ってしまう歌謡曲を5曲ご紹介します。