「携帯ゲームの父」と呼ばれた男 横井軍平とは

「携帯ゲームの父」と呼ばれた男 横井軍平とは

手軽にどこでもゲームができるゲームウォッチ。小さな画面に繰り広げられるゲームに必死になっていたころを思い出しませんか?それを開発した男、横井軍平を調べてみました。


やりたい仕事ではなかった

同志社大学工学部電気工学科卒業の横井軍平(よこい ぐんぺい)。
趣味は鉄道模型。

大手家電メーカーへの就職を希望するも採用されず、唯一採用されたのが任天堂でした。自宅近所でもあり入社することとなります。入社当時の任天堂は京都の花札やトランプ製造メーカーでした。そんな会社に初めて工学部卒の社員として入社したのが横井だったのです。

彼の仕事は、電気主任技術者として電気設備機器の保守点検でした。
ある日、仕事の暇つぶしに伸び縮みするおもちゃを作り遊んでいるところを社長に見つかってしまいます。社長室に呼び出された横井は処罰を覚悟していたのですが、社長の発した言葉に驚きます。

「それをゲーム化して商品化しろ」。

彼は、伸び縮みにモノを掴めるように改良し「ウルトラハンド」という商品化に成功します。この商品が140万個も売り上げる大人気商品となり、任天堂に開発課が設置されるきっかけとなったのです。ちなみに商品名は社長が命名。由来は1964年東京オリンピックの名残で「ウルトラC」という言葉が流行っていたためだと言われています。

その後、ウルトラマシン、ウルトラスコープとウルトラシリーズが開発・商品化されています。

余談ですが、ニンテンドー3DS用ソフト「とびだせ どうぶつの森」に、この「ウルトラ」シリーズがアイテムとして登場するそうですよ。

手元でハンドルを開いたり閉じたりすることで、ハンドが伸びて目標を掴み、縮めてから放すという構造になっています。

ウルトラハンド

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家庭用バッティングマシーンで、単一乾電池1本で駆動するモータを内蔵しており、アームを自動的に回転させて投球します。乾電池1個で3200投球とうたわれていました。

ウルトラマシン

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鏡を組み合わせることで光を屈折させ、高い塀の向こう側など見えない所が見えるようになる、潜望鏡を模した玩具です。モーター駆動で鏡が上下します。

ウルトラスコープ

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アイデアの人

横井と経理担当の今西紘史(任天堂のスポークスマンとなる人物)の二人からスタートした開発課。開発作品が増えるにつれて課員は増員されていきました。

開発課時代の主な作品は、小型のピッチングマシーン「ウルトラマシン」、簡易版嘘発見器「ラブテスター」、射撃玩具「光線銃シリーズ」などです。

「光線銃シリーズ」が大ヒットし、社長が乗り気になります。
アーケード展開をもくろみ「レーザークレーシステム」を開発し軌道に乗りかかったときに、オイルショックの影響で建設計画撤回となりました。「レーザークレーシステム」は失敗に終わったのですが、アーケード事業は継続されゲームセンター向けのエレメカ(遊園地やデパートの屋上などに設置されていたモグラ叩きやエアホッケーなど)を手掛けるようになります。

樽のような形状をした立体パズル。赤、橙、黄、緑、青の5色の球が各4個と黒の球が3個の23個入っていて、ドラムの中の球を移動させ、最終的に5色の球を同色5列に並べることで完成するおもちゃです。

テンビリオン

テンビリオン - Wikipedia


その後、アーケード事業はエレメカからコンピュータゲームに移行したため、横井は再びおもちゃ開発に専念することができました。その時の主な作品は立体パズル「テンビリオン」です。

のちに開発課は携帯ゲーム機のハード・ソフト開発担当の開発第一部とアーケードゲーム・据え置き型テレビゲーム開発担当の開発第二部に分割されます。横井は開発第一部の部長となり、1996年に退社するまで同部署に在籍していました。この頃から、彼は主にアイデアを出す人になり、実際に技術面での開発に当たるのは技術者という体制が取られたのです。

世界的に大ヒットした「ドンキーコング」は、任天堂本社で新しいゲームを誰に作らせるかという会議が行われたとき、従来のようにハード側の人間ではなくソフト側の人間に作らせれば新しいゲームが出来るのではないかと考えた横井が、当時工業デザイナーでありソフト製作の実績は全くなかった宮本茂(マリオシリーズ、ゼルダの伝説の生みの親)を推薦し出来上がったものです。

ヨコイズム・枯れた技術の水平思考

横井が手がけたゲームは、「ゲーム&ウオッチ」「ゲームボーイシリーズ」「バーチャルボーイ」などです。ゲームウォッチ時代には「十字キー」を考案 し、任天堂のテレビゲームのデファクトスタンダードにもなりました。

彼の開発する商品にはコミュニケーション性があり、男女が気兼ねなく手を繋げるゲームが「ラブテスター」、対戦相手が人間であることだと2台繋げて対決できるボード型の麻雀ゲーム端末「コンピューター麻雀 役満」が生まれたりしました。

ゲームウォッチでは、感触によって押している方向が手元を見なくても分かるようにと考案されたのがきっかけです。

ゲームボーイの通信機能などは、コストを削減して制作したら「あまりコストが跳ねないから、付けておけばなにか面白いゲームができるかもしれない」といって付け加えたものです。今ではプレイヤー間の通信が重要なファクターとなっていますよね。先見の明ありです。

横井のこのような考えは、ドンキーコングを生み出した宮本にも大きな影響を与え、任天堂のゲームが「万人向け」に開発されていることがわかります。だれでも楽しめるゲームですね。

十字キー

十字キー - Wikipedia


また、横井は「枯れた技術の水平思考」という独自の哲学をもっていて商品開発に反映させていました。

この「枯れた技術の水平思考」とは、既存の技術を既存の商品とは異なる使い方をしてまったく新しい商品を生み出すということだそうです。そうすることで開発コストを低く抑えることができるので、開発第二部が手掛けていた据え置き型ゲーム機「ファミコン」や「スーパーファミコン」もこの方式で作られています。

開発第一部が手掛けていた携帯ゲーム機もその哲学は反映されたうえに、高価なハイテクは商品開発の邪魔になるとローテク路線をとり、両者が完全に噛み合ったゲーム機が「ゲームボーイ」でした。

ゲームボーイ

ゲームボーイ - Wikipedia

横井が手がけたゲーム達

本体のポリグラフによりセンサーを握った者通しの愛情度を測るというものです。
センサーには電気抵抗の変化を感知する機能があり、手のひらの温度や発汗などの電気抵抗の変化の度合いを表したものです。

任天堂のゲームソフト(まわるメイド イン ワリオ・マジック大全・ どうぶつの森・メイド イン ワリオ ゴージャス)にラブテスターが登場するそうですよ。

ラブテスター

ラブテスター - Wikipedia

太陽電池をセンサーの代わりに組み込んだ標的に銃口から発する光をあてて撃つというシンプルなおもちゃです。ハイテクなイメージとローテクなバネ仕掛けで吹き飛ぶビール瓶や鳴き声を挙げるライオンの壁掛けなどバリエーション豊かな標的が人気を集めました。

こちらもゲームソフト(メイド イン ワリオ・まわるメイド イン ワリオ)に「光線銃カスタムガンマン」やファミコン用ソフトに「光線銃シリーズ」が再現されています。

光線銃シリーズ

光線銃シリーズ - Wikipedia

ゲームをしない間は時計として使えるので、ゲーム&ウオッチと名付けられたようですね。

最初期のシリーズ5作品(ボール・フラッグマン・バーミン・ファイヤフロッグマン・ブラックジャック)までは完全なモノクロ画面です。続く「ゴールド」シリーズでは液晶の前面に別のスクリーンが置かれ、カラーで背景やオブジェを表現され、画面を約1.7倍に広げた「ワイドスクリーン」などが開発されました。

普通サイズ(上)とWIDE SCREEN(下)

ゲーム&ウオッチ - Wikipedia

ゲーム&ウオッチの2画面の折り畳み式にした「マルチスクリーン」です。カラー液晶を採用した「テーブルトップ」と「パノラマスクリーン」、4色に色分けされたカラースクリーンで疑似カラー画面を表現した「スーパーカラー」などへと発展しています。

MULTI SCREEN

ゲーム&ウオッチ - Wikipedia

略称「VB」。その外見から「赤い眼鏡」とも呼ばれました。
スタンドに据え付けられたゴーグル型のディスプレイを覗き込むようにして遊びます。。視差の概念を採り入れ、左右の画面に異なる映像を表示させることで立体画面を実現させています。

バーチャルボーイ

バーチャルボーイ - Wikipedia

おしまいに


Twitterにつぶやかれているように、彼のゲーム哲学は健在だと思います。彼は「50歳を過ぎたら好きなことをする」と語っていたそうで、「NINTENDO64」の開発を最後に55歳で任天堂を退職しました。

退社後は、より自分のやりたい商品開発を目指し会社を設立しましたが、独立から1年後、北陸自動車道上り線での事故で56歳の生涯をとじました。やりたいことでアイデアいっぱいだったのではないかととても残念に思います。彼の「ハイテクが必要なわけではない。」という言葉がなんとなくわかる気がするのです。今も彼の哲学に則ったゲームやおもちゃが開発されていることを期待したいです。

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