佐山聡が虎のマスクをかぶるまで

佐山聡が虎のマスクをかぶるまで

佐山聡は、山口県に生まれ、子供の頃からアントニオ猪木を崇拝し「プロレスこそ真の格闘技」「プロレスこそ最強の格闘技」と信じ、プロレスラーになることを決めた。


藤原喜明は、佐山より少し先にフロリダ修行を終えて帰国。
ゴッチに習った技術を磨くため、新日本の道場で前田日明とスパーリング。
すると小杉俊二、山田恵一(獣神サンダーライガー)、武藤敬司ら若手が集まってきた。
彼らは藤原の関節技を真剣なまなざしを向け、技の練習をしてからスパーリング。
やがて
「藤原教室」
と呼ばれるようになった。
藤原は関節技の技術だけでなく
「相手をくしゃくしゃにしてやれ」
などと戦う心を強調。
藤原教室の教え子の試合ではセコンドにつき、ここぞというときは、親指と人差し指を立ててピストルの形をつくった。
これは
「殺せ」
という意味のシュートサイン。
送られた側はガチンコをした。


前田日明から3年遅れて、1980年に新日本プロレスに入団したばかりの高田延彦も藤原教室に参加した。
小学校のときに長嶋茂雄に憧れ、オール横浜に選ばれるほど野球少年だったが、中学生のときにアントニオ猪木にハマり、17歳で新日本プロレス入り。
このとき体重は64kgで、ハードなトレーニングとスパーリングで痛めつけられた。
入門半年後、同期と飲みに行き、門限に遅れ、寮長の前田日明に半殺しにされた。
試合会場で子供たちがパンフレットの対戦カードをみながら勝敗予想をしているのを目撃。
その予想はすべて当たり、結果が決まっている八百長試合をしていることを恥ずかしく感じ、そのことを藤原喜明にいうと
「本日の第1試合じゃなくて第1芝居なんだ」
といわれた。
あるとき第1試合に出場することになった高田延彦は、16時から試合前の練習をリングで行い、17時半から客が入り始めたが、18時20分くらいまで藤原とセメントをやらされ、藤原は高田を抑え込みながら客にVサイン。
高田は、スパーリングから解放された数十分後に試合に立った。

アントニオ猪木は、柔道家、空手家、ボクサーなどと異種格闘技戦を行い
「プロレスこそ最強の格闘技」
「いつなんどき誰の挑戦で受ける」
と明言したため新日本プロレスには道場破りがやってきた。
この相手をしたのが藤原喜明。
目と急所への攻撃以外なんでもOKというルールで戦い、関節技を極めて「まいった」させた。
「猪木さんが格闘技世界一というもんだから挑戦者たちが道場に来るわけですよ。
となるとそうしたやつらに対応するやつがいないといけない。
今はプロレスラーがバカにされているから来ないと思うけど、当時は猪木さんが「オレが世界で1番強いんだ」といっているから当然来るわな。
そのときオレらは刀を持ってるんだけど刃の部分を隠して戦っている。
でもいつでも鞘は抜ける状態なんだ。
だからオレが当時若いやつらにいっていたのは、これも例えだけど常にナイフは研いで懐に入れておけと。
でも(道場破りが来ると)周りのヤツらが道場からいなくなっちゃうのよ。
さっきまでいたのに、腹が痛いとかってさ。
だから道場破りと対戦すんのも俺しか残らないんだよ。
1度、ハイキックを喰らってな・・・
小鉄さんがレフリーやってて相手がまいったっていうから離したんだよ。
そしたら蹴ってきやがって・・・
頭にきちゃって『ぶっ殺すぞ』っていったら周りに止められたんだよ」
前田日明、高田延彦も道場破りの相手をした。
そして観客の前で行う試合より藤原教室のスパーリングを重視するようになっていった。

一方、アマレスのオリンピックに出場したスポーツエリート、長州力は、藤原教室を
「今さらこんなこと・・・」
と思っていた。
大学卒業後、新日本プロレス入りしたのは、憧れて飛び込んだというより生きていくためだった。
「初任給は月給で7万~8万で、えっ、こんなにもらえるんだって驚いたよ。
合宿所に住めるし、ジャージとか着るものももらえて、肉だって毎日食える。
これでいったいなにが不満だっていうんだ。
不満なんかなにもありませんよ」
環境は十分だったがプロレスラーとしては伸び悩み、ブレイクを果たすのは30歳を過ぎてからと意外に遅咲きだった長州は、
「練習の厳しさでいったら断然プロ。
お客さんにみてもらって儲けるわけだから、体をつくるにもストイックさが求められる」
といいつつ
「プロレスは表現」
と思っていた。


1980年10月、佐山聡が渡英。
藤原喜明が帰国して1ヵ月後にフロリダを離れ、1度メキシコに戻って3ヵ月ほど試合をした後、ゴッチの紹介でイギリスへ渡った。
そしてブルース・リーの従兄弟「サミー・リー」として、黄色いジャンプスーツで入場しイギリスデビュー。
軽快なステップとスピンキック、ハイキック、サマーソルトキック、ローリングソバットなど多彩な蹴りを繰り出した。
イギリスのトップレスラー、マーク・ロコ(後のブラックタイガー)との試合は話題になり、800万人くらいだったイギリスのプロレス視聴者数は1200万人に増えた。
イギリスでもトップレスラーとなった佐山だったが、アントニオ猪木との約束を忘れず、
「いつになったら格闘技の選手になれるんだろう」
と思いながら、サンドバッグを蹴ったり、カール・ゴッチにサブミッションレスリングを学んだレスラーとスパーリングをして
「いつ呼ばれてもいいように」
と準備を続けた。

1981年、高田延彦より1年遅れて、山崎一夫が新日本プロレスに入門。
麻布十番生まれ、世田谷育ちの山崎一夫は、中学生のときに藤波辰巳に憧れ、どうしたらプロレスラーになれるのか、新日本プロレスの道場に聞きにいった。
応対した小林邦昭に
「だったらベンチプレスを挙げてみろ」
といわれ、やってみると体重70kgの山崎は50kgのバーベルを上げるのが精いっぱい。
次に日から学校の休憩時間に非常階段の3段目に足を乗せて腕立て伏せ。
ダンベルを購入し、バレーボール部からバーベルがある柔道部に転部。
高校卒業前に、ベンチプレス130kg、スクワット1000回、腹筋1200回をこなせるになり、入門テストを受けて合格。
新日本プロレスの近くにある実家から合宿所に荷物を運び入れていると
「もしよかったらお茶飲みにいきましょう」
という声が聞こえ、みてみると引越しの手伝いをしていた姉が前田日明にナンパされていた。
寮のトイレの掃除用のブラシに
「これで歯を磨いてはいけません」
と書いてあって驚いた。
給料は月6万円と聞いて
「住居費と飯はタダだからしかたない」
と思っていたが、坂口征二に
「お前は3万円な」
といわれた。
「6万円って聞いていたんですけど・・・・」
「お前の前までは6万円払っていたんだけど1ヵ月目の6万円をもらって逃げる奴がいるから、3万円から始めて2ヵ月我慢したら1万ずつ上げていく」

1981年4月、プロレスラーとしてロンドンで順調な生活を送っていた佐山聡に
「帰国して欲しい」
と日本の新間寿から国際電話が入った。
佐山はてっきり新しい格闘技の話かと思ったが
「新日本プロレスのリングに生身のタイガーマスクを登場させたいのでマスクをかぶってくれ」
といわれて拍子抜けした。
4月20日に「タイガーマスク2世」の放映が始まるのに合わせ、実物のタイガーマスクを新日本プロレスのリングに立たせるというのである。
「僕は帰れません」
佐山は断った。
実際、2ヵ月後にマーク・ロコとの世界ミッドヘビー級のタイトルマッチが決まっていたし、マンガのヒーローをリアルストロングスタイルの新日本プロレスに登場させる意味がわからなかった。
しかしその後、毎日、新間から催促が続いた。
「タイガーマスクの映画をつくる」
「梶原先生に顔向けできないじゃないか」
新間寿が何をいってもハイとはいわなかったが
「君がマスクをかぶってくれないと猪木の顔を潰すことになる」
と尊敬するアントニオ猪木の名前を出されると、
「わかりました」
とアッサリと了承。
「1試合だけですよ」
と念を押して一時帰国することを受け入れた。

1981年4月20日、「タイガーマスク2世」が放送開始。
4月21日、イギリスにいた佐山聡が成田に到着。
4月22日、虎のマスクが渡されたが、日本にマスクをつくる職人や工房がなく、新日本プロレスのグッズをつくっていたビバ企画が制作し、しかも与えられたのが数日間だったので、白いマスクに黄色と黒のポスターカラーで描いただけにシロモノだった。
4月23日、試合当日、マントが届いたが、マスク同様、ペラペラでチープなつくりだった。
佐山聡はそれをつけて、アントニオ猪木 vs スタン・ハンセンのメインの前、セミファイナルの花道に出た。
満員の蔵前国技館に拍手はほとんど起こらず、失笑さえあった。
対戦相手の「爆弾小僧」ダイナマイト・キッドは、173cmと小柄ながら圧倒的な筋量を誇り、まるで命を削るような危険を顧みない激しいファイトが身上。
ケガを恐れないことを自らに課すと同時に自分の攻撃に対戦相手が対応できなければ壊すことも厭わず、古舘伊知郎に
「全身これ鋭利な刃物」
「カミソリファイト」
といわれていた。
試合が始まるとタイガーマスクは組み合おうとせず、軽快なステップでリングを回り、距離を保ちつつ、速くて多彩なキックを繰り出し、手首をリストをつかまれるとヘッドスプリングで切り返した。
打点の高いドロップキック。
後方宙返りしながら相手を蹴るサマーソルトキック。
場外のダイナマイトキッドに飛ぶと思いきや、ロープの間をクルリと旋回してリングに戻るフェイント。
新日本プロレスのセメントサブミッションレスリング、メキシコのルチェ・リブレ、目白ジム仕込みのキックが融合した「3次元殺法」に観客は驚愕。
一瞬の気の緩みも許されない、緊張感あふれる試合を古館一郎は、
「肉体の表面張力の限界」
と表現。
最後はスープレックス爪先立ちの完璧なブリッジで抑え込み、タイガーマスクが勝利した。
この10分間の戦いでスーパースターが誕生。
空前のタイガーマスクブームが到来し、
「1試合だけですよ」
という約束はすぐに反故にされてしまった。

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