怒涛の第1次UWF  うなるキック、軋む関節   社長逮捕 スポンサー刺殺 2枚の血判状

怒涛の第1次UWF うなるキック、軋む関節 社長逮捕 スポンサー刺殺 2枚の血判状

新日本プロレスの営業本部長だった新間寿が黒い感情を持って立ち上げたUWF.。しかしそれは選手やスタッフの熱くて純粋な思いに浄化され、超マイナーだが超前衛的なUWFは若者の圧倒的支持を受けた。しかしスポンサー会社社長刺殺、UWF社長の逮捕と事件が続き、ついに前田日明と佐山サトルのケンカマッチが起こってしまう。


25歳の前田日明は、新日本プロレスから移籍する前、新間寿に
「猪木もタイガーマスクもUWFに移ってくる。
フジテレビがゴールデンタイムに生中継してくれる」
といわれ、移籍金を受け取ってUWFとの契約書にサインした。
しかし猪木も佐山も来ず、フジテレビの話もなくなり、
「新間さんに騙された」
「猪木さんに捨てられた」
と思っていた。
そして旗揚げ戦の日、新間が会場に来なかったので
「逃げた」
と思った。
しかしピンチはチャンス。
いきなり団体のエース格となれたのも事実。
いずれにせよ前田日明はUWFにすべてを賭けるしかなかった。


旗揚げ戦こそ満員だったが、その後の第2戦、熊谷、第3戦、下関、第4戦、岐阜はガラガラ。
オープニングシリーズ最終戦となる第5戦は東京の蔵前国技館で行われ、客席は半分ほど埋まった。
メインイベントは、前田日明 vs アントニオ猪木の命で1試合限定でUWFに参戦した藤原喜明。
試合が始まると、2人はひたすら地味な寝技。
藤原喜明は体格でかなり劣るが、新日本プロレス時代から数年間、ほぼ毎日、前田と寝技のスパーリングをしていたが1度も負けたことはなく、この試合でも面白いように関節技を極めては放し、極めては放しを繰り返した。
プロレスファンからみれば、
「新日本を飛び出した裏切り者、前田を藤原が成敗する」
という構図になり、
「藤原さん、前田にプロレスを教えてやってください」
「折れ折れ折れ折っちまえ」
「首絞めろ」
「モノマネしかできねぇのかよ前田」
などと藤原への声援と前田に対する罵詈雑言も飛んだ。
寝技が8分続いた後、前田がフライングニールキックを放ったり、場外乱闘で流血した藤原を拳で攻撃したり、通常のプロレスに移行。
最後は10分37秒、両者リングアウトで引き分け。
しかし収まりのつかない観客の怒号に異例の10分間延長。
前田のジャーマンスープレックスに藤原が右足をフックしてディフェンスし、倒れた 2人は立ち上がれない。
レフリーのタイガー服部がカウントを数え始め、2分34秒、両者カウントアウト(ダブルノックダウン)で引き分け。
試合後、前田日明は
「今日の試合は今までの試合とは全然違うんだよ
お前たちにはわからないのか!」
とマイクで訴えたが、多くの観客は席を立ち、最後まで聞いていた者はほとんどいなかった。


数日後、新間寿はスタッフに
「このまま経営を続けても借金が増え続けるだけだ。
傷が浅いうちに新日本プロレスと提携しよう」
といい、作成した同意書をみせた。
みんな賛成してくれると思っていたが予想は外れ、
「どうしてですか?」
「なんでやめるんですか?」
と大反対を受けた。
逆に何1つ約束を果たさず、旗揚げ戦の会場に来なかったことを激しく責められた。
金も、スポンサーも、人も、新間もいない中、スタッフたちは、昼は宣伝カーで走り、夜はポスターを貼って、会場の準備をしていた。
それに新間によって新日本プロレスから引き抜かれたスタッフにしてみれば、たった5回、UWFで興行をした後、どのツラを下げて戻ればいいのか。
スタッフたちは血判状をつくり、社長の浦田昇の家を訪問。
浦田昇は、戦わずして逃げることをよしとしないスタッフの熱い思いは金では買えないと思った。
一方で新日本プロレスから資金をもらいながらやっていこうという新間の考えも理解できる。
板ばさみになって悩む浦田に、スタッフはさらに佐山サトルにも接触し
「新間がUWFを離れるなら可能性は十分ある」
と報告。
最終的に浦田は新間を辞めさせ、数千万円の借金を負って、自身は1銭も受け取らないままUWFを牽引する覚悟を決めた。


5月21日、京王プラザホテルで記者会見が開かれ、新間寿はアントニオ猪木がUWFに来なかったことを理由にしてUFWから身を引くと発表。
しかし実は復讐に燃えていた新間は、すでにUWFを崩壊させる計画を進めていた。
この時点で前田日明をアメリカのWWFへ、ラッシャー木村、剛竜馬はカナダに、グラン浜田はメキシコに遠征していた。
ラッシャー木村、剛竜馬、グラン浜田をハワイに呼び、
「悪いようにはしないから俺に一任してくれ」
と頼み、来れなかった前田日明にも電話で同様のことをいった。
そして4人を全日本プロレスのマットに上げるため、ジャイアント馬場の了承をとりつけた。
しかし6月1日、前田日明、ラッシャー木村、剛竜馬は、飯田橋のホテルグランドパレスで再び記者会見を開き、
「これからもUWFで戦っていく」
と表明。
浦田社長も
「この世界に入ってまだ日が浅いですが、レスラーを第一に考え、クリーンなプロレス団体を目指します」
とコメント。
結局、新間に従ったのはグラン浜田だけだった。
こうしてUWFは、所属レスラーが3人に減った上、スポンサーなし、カネなし、外国人招聘ルートなし、なしなしずくしで再スタートした。

「週刊プロレス」でイラストを描いていたイラストレーター、更級四郎は、UWFに誌面で扱ってくれと頼まれた。
「存続は厳しいだろう」
と思いながら食事会に招かれ、前田日明が
「猪木にダマされた。
俺はもうダメですよ」
とこぼすのを聞いた。
前田は、髙田延彦を通じて新日本プロレスから
「お前だけは帰ってこい」
といわれていたが、自分だけなら戻り仲間を見捨てることをよしとせず、自分の将来を絶望しながらもUWFに踏みとどまっていた。
「前田さん、協力するよ」
更級四郎はUWFを救おうと思った。

そして「週刊プロレス」の記者、山本隆司、後のターザン山本に
「UWFの記事を書いて欲しい」
と頼んだ。
38歳の山本は喜んで請け負った。
更級は編集長の杉山頴男にも
「ゴングを突き放すチャンスですよ」
とライバル誌「週刊ゴング」の名前を出し、
「UWFが伸びれば、全日本や新日本との関係悪化を恐れ動けないゴングにぶっちぎりで勝てる。
もし新日本が何かいってきても猪木さんが取材拒否するはずはないから、ぶつかればぶつかるほどファンは週プロを買うよ」
と口説いた。
杉山頴男も激しく同意。
週刊プロレスは、UWFを全面的に応援し、新日本プロレスを恐れずに思ったことを書くことを決めた。
記者が新日本プロレスの道場や試合会場に取材に行けば車代が出たが、週刊プロレスは書きたいことを書くために接待を断った。

さらに週刊プロレスはUWFに新日本プロレスから藤原喜明を引き抜くようアドバイスした。
「藤原さんを『1番強いアンタが必要だ』といって引き抜いてくれ。
ファンがどんな試合をするかわかっている名の通ったレスラーはいらない。
UWFが)藤原さんを引き抜けば、みんな『どうして藤原なんだろう?」』と思う。
そこで週プロはUWFは『新日本プロレスの道場主、精神的支柱を引き抜いてしまった』と書けば、みんな、『なるほど』と思う。
だけど真の狙いはそこじゃない。
UWFは新日本とケンカするんです。
だから猪木、文句があるならいってこいという毅然とした態度で立ち向かってほしい」
UWFのスタッフは、週刊プロレスに
「金の話をしないように・・・」
と注意されたことを頭に入れながら藤原喜明にコンタクト。
藤原喜明は話を笑って聞くだけで
「いずれまた」
といって帰っていった。
その後、浦田昇社長も足立区の藤原の自宅を訪ねた。
「俺が必要ですか?」
「必要じゃなかったら、こんなとこまで来ませんよ」
藤原は「こんなとこ」といわれ、少しカチンとなったが、いろいろな話を聞いた上で
「若手を育てて欲しい」
といわれ
「わかりました。
1週間だけ時間をください」
と答えた。

このとき藤原喜明は35歳。
これまで新日本プロレスのリングで地位も給料も低かった。
坂口征二や長州力のように華やかなスポーツ歴があるわけではなく、藤波辰巳や前田日明のように大きな体や、佐山サトルのような身体能力もない。
しかし道場のスパーリングでは誰にも負けず、道場破りが来れば、必ず挑戦を受けて退け、新日本プロレスの「番犬」と呼ばれていた。
「どうせ俺の人生はゴミよ」
と吼えていた番犬は、UWFの話を猪木に相談してみようとタイミングを探った。
そして車の中で
「UWFに・・」
といった途端に
「えっ、お前と誰が行くんだ?」
といわれ
「なんだ、俺って新日本に必要ないんだって上に俺よりも誰かの方が大切なんだってことか」
という気持ちになって、数日、移籍話を受けることを決めた。
「堂々とUWFに移った。
俺は誰も裏切ってないからね」
そして藤原教室(新日本プロレスの道場で行われていた藤原喜明が関節技を教え、真剣勝負の寝技スパーリングをする教室)の教え子、高田延彦、小杉俊二、山田恵一(獣神サンダーライガー)、武藤敬司らにいった。
「俺は新日本プロレスをやめてUWFに行く。
一緒に来るヤツはいるか?」

22歳の高田延彦は、藤原喜明がUWFに行くことを決めたことを知って動揺した。
猪木や山本小鉄、先輩レスラーたちは依然として大きな存在だった。
その上1ヵ月後にはダイナマイト・キッドとのWWFジュニアヘビー級タイトルマッチが決まっていた。
長年苦労を積んで会社でポジションを上げてきた。
しかし高田延彦にとって
「強くなりたい」
ということがすべてだった。
プロレスという虚構の世界で藤原喜明の関節技だけは本物だった。
また実際に体をぶつけて自分を強くしてくれた前田日明のこともずっと気になっていた。
「シュートを教えてくれる人がいなくなれば俺はプロレスラーとしてやっていけない」
高田信彦は、バッグ1つもって、寮を出た。
そしてメジャー団体、新日本プロレスからマイナー団体、UWFへの移籍するため、前田日明の部屋の転がり込んだ。

1984年6月27日、UWFは東京、九段のホテルグランドパレスで記者会見を開き、

・藤原喜明と高田延彦が新加入したこと
・1ヵ月後の7月23、24日、後楽園ホールで「無限大記念日」を開催すること

を発表。
藤原喜明はウイスキービンを片手の持って登場し、席に着くとラッパ飲み。
「浦田社長にホレた。
あ、でも俺、オカマじゃないよ。
ただ社長(猪木)を裏切ったのは痛恨の極み。
こうなれば自分の持てる力すべてをUWFに注ぎ込みたい。
俺は前田と高田を殺人マシンにする」
「高田、本当にありがとう。
俺がUWFに行くといったら「僕も行きます」といってくれた。
うれしかったぜ。
UWFが潰れたら俺の全財産を全部お前にやるからな」
高田延彦も
「前田さんは兄のようなもの。
藤原さんがUWF行きを決めたことで自分も移籍を決めた」
と語った。
前田日明は、副鼻腔炎の手術を受けて入院中で、本来、この会見に出る予定ではなかったが、病院を抜け出して出席。
藤原にウイスキーを回されて飲まぬわけにいかず、結果、鼻血を出し、病院に戻ったときには扁桃腺炎も併発して40度の熱を出した。

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