ポール・マッカートニー
世の中には説明の必要全くナシでOKというミュージシャンがいますよね。ポップスの世界においてポール・マッカートニーは、その筆頭であると言っていいでしょう。
異論のある方、いらっしゃいますか?いないでしょうね。一言で言って天才。それ以外の言葉が思い浮かばない、そういった存在、それがポール・マッカートニーですよ。

ポール・マッカートニー
ポール・マッカートニーの何がスゴイかって、そりゃもう全部なわけですが、中でも全人類のDNAに訴えかけるようなメロディ。そうです。一度聴いたら逃れられないあのメロディはたまらんです。
そのポール・マッカートニーが自ら「失敗作だった」と語ったアルバムがあるのをご存じでしょうか?それは「プレス・トゥ・プレイ」というアルバムなのですが、それって本当に駄作なのでしょうか?検証してみたいと思います。
プレス・トゥ・プレイ
アルバム「プレス・トゥ・プレイ」は、1986年9月にリリースされました。ヒット・チャートをみると、全英8位に全米30位。因みに日本では11位で、イギリスではゴールド・ディスクを獲得しています。他のミュージシャンであれば、大ヒットとは言わないまでも、堂々たる成績なのではないかと思うのですが、ポール・マッカートニーですからねぇ、この程度では自他ともに許されんのです。厳しかですね。
このアルバムはプロデューサーにポリスの「見つめていたい」や全世界で2,000万枚の売上を記録したフィル・コリンズのアルバム「フィル・コリンズIII」などで知られるヒュー・パジャムを起用しています。
そして、ソングライティングのパートナーとして10ccのエリック・スチュワートと半数以上の8曲を共作しています。

プレス・トゥ・プレイ
ヒュー・パジャムにエリック・スチュワート。結果としてこれが良くなかったのでしょうかねぇ。チャートアクション以上に酷評の嵐でした。いかにも80年代なデジタル処理、やたらと耳につくパーカッシブな音作り、これが受け入れられませんでしたかねぇ。
いや、それより何よりポール・マッカートニーらしくない、と言うかポール・マッカートニーを聴いている感じがしないんです。まぁ、確かに問題作ですよね。
ジャケットは盟友ジョン・レノンの遺作「ダブル・ファンタジー」を意識したものになっていて、2枚並べて飾ると面白いです。

ダブル・ファンタジー
ポール・マッカートニーは、ジョン・レノン死後の「タッグ・オブ・ウォー」「パイプス・オブ・ピース」「ヤァ!ブロード・ストリート」と3枚のアルバムを全てビートルズ時代のプロデューサー・ジョージ・マーティンに依頼していたんです。それらのアルバムからはヒット曲も出て、評判も良かった。当然のようにアルバムは大成功しています。マンネリに陥ることを恐れたのでしょうかねぇ。続く「プレス・トゥ・プレイ」は野心作といえます。それが結果としては裏目に出た感じです。
が、このアルバム、悪くないですよ。いえ、むしろ良いです。だたポール・マッカートニーらしくないというだけです。
プレス
「プレス・トゥ・プレイ」からの先行シングルだったのは1986年7月にリリースされた「プレス」です。全英25位、全米21位とポール・マッカートニーにしてはイマイチな結果に終わっています。
でも、メロディは悪くないですよ。ポール・マッカートニーらしいです。ただジャケット・デザインは何だかなぁと言う感じですよね。

プレス
この曲のプロモーション・ビデオは面白いです。ロンドンの地下鉄にポール・マッカートニーが乗りこんで歌ってるというものですが、驚いた乗客たちの反応が楽しいです。 ま、そりゃ驚きますよね。
曲は悪くないですよね?ポールらしいメロディライン、良いと思います。ただ、アレンジがねぇ。80年代を象徴しすぎた音ですよねぇ。ドラムスは特にねぇ。でも1980年には同傾向の「カミング・アップ」は大ヒットしてますからアレンジが悪いとばかりも言えないですね。いや、良い曲だと思います。何と言っても楽しい曲じゃないですか?
プリティ・リトル・ヘッド
先行シングルの「プレス」は、アレンジこそデジタル感が強いですが、曲は間違いなくポール・マッカートニー。歌っているのも勿論ポール・マッカートニーなわけですが、アルバムを通して聴くとポール・マッカートニーらしくない、歌っているのは本当にポール・マッカートニーなのかしら?という印象の曲すらある。
1986年10月にシングルカットされた「プリティ・リトル・ヘッド」などはまさに多くの人がそんな印象を抱いた曲と言えるのではないかと思います。

プリティ・リトル・ヘッド
シングルは大胆なリミックスが施してあり、アルバムバージョンとはかなり印象の異なる曲となっています。が、いずれにしてもポール・マッカートニーらしくない。共作したエリック・スチュワートの影響がデカイですね。これ10ccの曲だったらすんなり聴けると思います。実際、10ccのベスト・アルバム「During After : The Best Of 10cc」に収録されていますが違和感なしですよ。
「プリティ・リトル・ヘッド」は、イギリスのみのリリースでしたが、結果は全英76位。曲は悪くない。が、ポール・マッカートニーというよりも10ccという感じ。評価が低いのは、ただそれだけの理由だと思います。ベスト・アルバムとは言え10ccも収録しているくらいですから、エリック・スチュワートも曲には満足していたんじゃないでしょうかね。
ストラングルホールド
「プリティ・リトル・ヘッド」は、イギリスのみのリリースだった。ポールは多分に英国的な曲と判断したのでしょう。イギリス人に聴いてほしかった。もしくは、イギリス人には受けると思った。凝ったプロモーション・ビデオが制作されていることからもポール・マッカートニーは本気だったということが伝わってきます。
で、「プリティ・リトル・ヘッド」の代わりにイギリス以外の国では、やはりエリック・スチュワートとの共作の「ストラングルホールド」がリリースされています。

ストラングルホールド
共作ですからねぇ、当然ポール・マッカートニー以外の要素が入るわけです。が、この曲はポールが単独でも作りそうなロックンロール。アルバムの冒頭を飾っているだけあって、アレンジもどっしりと腰が据わってます。
アメリカ受けしそうな曲ですが、少しジミでしたかね。全米81位に沈んでしまいました。
「プレス・トゥ・プレイ」にも収録されているカップリングの「アングリー」もやはりアメリカンな感じのロックンロールですが、ギターにピート・タウンゼント、ドラムはフィル・コリンズ。そしてベースをポール・マッカートニーという豪華なトリオで演奏されていて聴きごたえがありますよ。
オンリー・ラヴ・リメインズ
もうこれ以上外すわけにはイカン!とばかりに、満を持して1986年12月にリリースした「オンリー・ラヴ・リメインズ」。ポール・マッカートニー単独作品ということで、混じりっけナシの100%ポールの名バラードです。

オンリー・ラヴ・リメインズ
ファンの間でも人気の高い曲です。しかし、全英34位とヒットにはなりませんでしたから、コアなファンの間では人気の曲というべきでしょうか。いや、でも、とにかく聴いてみてください。この曲のどこに問題があるというのでしょう?!
如何です?いい曲でしょう?ポールらしいでしょう?いや、ポール・マッカートニーにしか書けないですよ、こんな曲は。「オンリー・ラヴ・リメインズ」が聴けるだけでもこのアルバム「プレス・トゥ・プレイ」は価値があるってなものです。
「プレス・トゥ・プレイ」はバラエティにとんでいるんですよ。シングル以外もいかにもポールらしい曲、誰が歌ってるんだかよく分からん曲と色々と詰め込まれています。
ポール・マッカートニーのファースト・ソロ・アルバムや2枚目の「ラム」は発売当初は散々にけなされていたにも関わらず、現在では名盤と言う評価を得ています。
きっと「プレス・トゥ・プレイ」もいつの日にか名盤と呼ばれるようになると確信しています。だって、とても楽しいアルバムですからね。