鶴屋南北
夏と言えば怪談。お盆と言えば怪談。怪談と言えば、定番はやはり「四谷怪談」でしょう。原作は鶴屋南北の「東海道四谷怪談」とされています。鶴屋南北、馴染みがないですよね。
鶴屋南北は、1755年生まれの歌舞伎狂言の作者で、江戸時代後期に活躍し、文政12年11月27日(1829年12月22日)に亡くなっています。代表作は何と言っても「東海道四谷怪談」でしょう。

鶴屋南北 (4代目)
四谷怪談 - Wikipedia
良く知られている「東海道四谷怪談」ではありますが、歌舞伎はもとより、今まで何度も小説や漫画、ドラマ化されています。戦後に制作された映画だけでも10作品もあるんですよ。
さぁさぁ、暑い夏をフッ飛ばすのに最適な日本が誇る伝統的なホラー映画、戦後制作の「四谷怪談」いってみましょう。
新釈 四谷怪談(前・後篇)
戦後初の映画化は1949年7月公開の「新釈 四谷怪談」です。新釈と謳っているだけあって原作にかなり手を加えています。また、前・後篇となっていることから分かるように、前篇は、7月5日の公開。後編は7月16日に公開され、上映時間はそれぞれ85分と73分となっています。
冒頭から既に感じ取ることが出来るかと思いますが、しっかりとしたカメラワークに演出。名作の匂いがプンプンします。それもそのはず、監督は木下惠介 、脚本には新藤兼人が参加しています。ホラー映画と言えばキワモノ扱いをされがちですが、名監督が撮ると一味違うんですね。
内容的には、お岩の亡霊は伊右衛門の良心の呵責による妄想ということになっており、絵巻物と言う視点で捉えているため撮影は全編俯瞰の長回しで撮られています。流石の解釈、流石の表現力です。
四谷怪談
2作目は1956年に公開された「四谷怪談」です。監督は毛利正樹で、伊右衛門には若山富三郎、お岩は相馬千恵子が熱演しています。

四谷怪談
最初の「新釈四谷怪談(前・後篇)」は松竹、2作目の「四谷怪談」は新東宝だったのですが、1959年版「四谷怪談」は大映です。もう各社が映画化してるんです。
で、この3作目は監督が三隅研次、伊右衛門に長谷川一夫、お岩に中田康子という布陣です。

四谷怪談
こちらの方が原作に近い感じです。しかし、まぁ、お岩さん、怖いは怖いのですが、かわいそうなんですよね。何も悪いことしてないわけですからねぇ。
技術の進歩ということで、DVD化され60年も前の映画が手軽に家庭で観れるというのは喜ばしい限りですが、何も無理にカラーにすることはなかったように思います。現在のニーズがそこにあるということでしょうが、この手の映画はモノクロの方が迫力があって怖いと思うぞ。
東海道四谷怪談
1959年には、「四谷怪談」はもう1本、映画化されています。それが中川信夫監督の怪談映画の最高傑作として知られている「東海道四谷怪談」です。
この「四谷怪談」、新東宝としては2度目の映画化であり、鶴屋南北の原作としては実に21回目の映画化だそうです。
そして本作こそが初の「四谷怪談」のカラー映画です。

東海道四谷怪談
もう何というか、怨念と狂気の世界。怖い。と言うか面白い。流石に今でも高い評価を得ている作品だけのことはあります。クールな二名目俳優、天知茂の伊右衛門は素晴らしい。実はこの役、当初は嵐寛寿郎の予定だったのだとか。次いで丹波哲郎が候補にあがった後、天知茂に落ち着いたのだとか。
映画「地獄の黙示録」などで知られるフランシス・フォード・コッポラ監督が、「世界のオカルト映画の中で最高傑作だ」と本作を高く評価しています。
お岩の亡霊
1961年、加藤泰監督、主演は若山富三郎に藤代佳子によって、1961年「怪談お岩の亡霊」が公開されました。東映映画です。
この映画の特徴はですね、お岩さんよりも伊右衛門の方が怖いというところです。2度目の伊右衛門役ですが、若山富三郎、やってくれました。勝新太郎のお兄さんだけのことはあります。流石です。この伊右衛門は只のロクデナシです。サムライから遠く離れたヤクザです。そういった意味では勝新太郎が演じても面白かったかもですね。
この後、仲代達矢主演で「四谷怪談(東京映画)」が1965年に公開され、1969年に同じようなタイトル「四谷怪談 お岩の亡霊」が大映で制作されています。タイトルは変えた方が良かったんじゃないでしょうかね?監督は森一生、主演は佐藤慶と稲野和子のコンビです。

四谷怪談 お岩の亡霊
四谷怪談 お岩の亡霊 | HMV&BOOKS online - DABA-95
天知茂、若山富三郎、仲代達矢、佐藤慶と、60年代は伊右衛門役にビッグスターが名を連ねていますねぇ。流石に皆さん素晴らしいです。同じ役であるにかかわらず、しっかりと個性を出しています。
で、戦後ここまで飛ばしてきた「四谷怪談」ですが、70年代には1本も制作されていません。
魔性の夏 四谷怪談より
70年代に映画としては制作されたなったとはいえ、四谷怪談をモチーフとした「新怪談色慾外道 お岩の怨霊四谷怪談(1976年)」は制作されていますし、1970年にはテレビドラマとして田村高廣主演で「日本怪談劇場 四谷怪談 稲妻の章・水草の章」が制作されています。
そして、待ちに待った映画は、伊右衛門:萩原健一、お岩:関根恵子、蜷川幸雄がメガフォンをとって、1981年「魔性の夏 四谷怪談より」として公開されました。

魔性の夏 四谷怪談より
蜷川幸雄は言わずと知れた日本を代表する演出家ですが、脚本には「スローなブギにしてくれ」の内田栄一、撮影は「五番町夕霧楼」の坂本典隆という実力者たちが集結しています。内容的には鶴屋南北の「四谷怪談」を原作としているものの、青春群像ドラマとして描いています。ちょっと毛色の変わった「四谷怪談」です。
関根恵子は美しい。しかし貴重なのは夏目雅子の入浴シーンかもしれませんね。森下愛子も出てるでよ!
忠臣蔵外伝 四谷怪談
そして90年代は、監督:深作欣二、伊右衛門:佐藤浩市、お岩:高岡早紀による1994年10月22日公開の「忠臣蔵外伝 四谷怪談」です。忠臣蔵外伝?というところに違和感を感じる方もいるかともいますが、これまた一風変わった「四谷怪談」となっています。

忠臣蔵外伝 四谷怪談
忠臣蔵外伝四谷怪談 | 2014年12月31日(水)放送 | キネマ麹町 | TOKYO MX
お岩さんといえば武家の子女なわけですが、ここでは何と娼婦です。しかも幽霊となったお岩さんは超能力を使います。無敵でしょうね。そして、そうですタイトルが示すように、伊右衛門は赤穂浪士であり、相手のお梅、伊藤喜兵衛、お槇は吉良一門と繋がりがあるということになっています。
なんだこれは!この設定は!大人の事情か?!大人の事情なのか?!変化球にも程がある!とお叱りを受けそうな感じですね。推測すると、つまらん映画という感じがしますが、そうではありません。この映画は第18回日本アカデミー賞において、最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞、優秀助演女優賞、優秀音楽賞、最優秀撮影賞、最優秀照明賞、優秀録音賞、優秀編集賞、新人俳優賞を受賞しているんです。逆にいうと、この年他の映画がどれだけつまらなかったんだということにもなるわけですが、まぁ、そこは、大人の事情というヤツでしょう。
この後は、京極夏彦原作の「嗤う伊右衛門」が2004年に映画化され、「四谷怪談」の流れを繋いでいますが、やはり次は鶴屋南北原作の正統「四谷怪談」をお願いしたいものです。