レイモンド・チャンドラーが生み出した、世界でもっとも美しい名前を持つ私立探偵フィリップ・マーロウ。

レイモンド・チャンドラーが生み出した、世界でもっとも美しい名前を持つ私立探偵フィリップ・マーロウ。

フィリップ・マーロウ。世界一かどうかは定かではありませんが、確かに美しい名前ですね。その名前以上に魅力的な男でもあります。生みの親レイモンド・チャンドラーが生涯に残した長編小説は7つ。全てが名作。フィリップ・マーロウの魅力がいっぱいです。


レイモンド・チャンドラー

活字離れ、出版不況と言われ、小説を取り巻く環境には厳しいものがあります。それでもまだ推理小説は人気があるようですが、似て非なるとはいえハードボイルドの方は目を覆うばかり。昔は人気があったんですけどねぇ。
ハードボイルドを若い人にはぜひ読んでもらいたいし、そうでない方にはぜひ読み返して頂きたい。先ずは、そう、第一人者であるレイモンド・チャンドラーをお勧めする次第です。

誕生:1888年7月23日 アメリカ合衆国 イリノイ州シカゴ
死没:1959年3月26日(70歳没)
職業:小説家
国籍:アメリカ合衆国 (1888–1907, 1956–59)

レイモンド・チャンドラー

推理小説であれば、主人公は名探偵。しかし、ハードボイルドとくれば、主人公は私立探偵であることが望ましいように思います。
世界で最も美しい名前を持った私立探偵と言われるフィリップ・マーロウ。レイモンド・チャンドラーの長編小説の主人公は、この男が務めます。

年齢:33歳
身長:6フィート
体重:190ポンド
職業:私立探偵

フィリップ・マーロウ

フィリップ・マーロウのアメリカでの人気は日本の比ではなく、長編映画、TVシリーズ、ラジオドラマ、そしてコミック化もされているほどです。

映像に関しては、ハンフリー・ボガート、ロバート・ミッチャムをはじめとして、ジェームズ・ガーナー、ジェームズ・カーン、エリオット・グールド、ジョージ・モンゴメリー、ロバート・モンゴメリー、パワーズ・ブース、ジェイソン・オマラ、ディック・パウエル、フィリップ・ケーリー、ダニー・グローバー、トマス・ハナクなど、実に多くの役者がフィリップ・マーロウを演じています。

レイモンド・チャンドラーの長編作品は全部で8作(そのうち1作は未完)。遺作となった「プレイバック」を除き全て映画化されていて、主人公のフィリップ・マーロウを実に多くの俳優が演じています。比べてみると楽しいですよ。
それではレイモンド・チャンドラーの名セリフがちりばめられた、どれをとっても不朽の名作を順に紹介していきます。

大いなる眠り

レイモンド・チャンドラーの長編作品は近年 村上春樹が翻訳したことで新たに注目されました。まぁ、それで若い読者を獲得したのであれば結構なことです。勿論、作品は村上春樹人気に助けを借りなくても素晴らしいのですが、長編1作目の「大いなる眠り」からして傑作ときています。

大いなる眠り

ハードボイルドはタフな私立探偵にセクシーな美女というのはお決まりです。その登場人物のこだわりぬいた粋な会話は大きな魅力ですからね。
「大いなる眠り」は映画化され1955年に日本でも公開されましたが、何故か邦題は「三つ数えろ」。出演者はハンフリー・ボガートにローレン・バコール。ボギーが演じるフィリップ・マーロウってのはやっぱりいいもんです。

監督は名匠ハワード・ホークス。モノクロってのが雰囲気があっていいですね。ハードボイルド映画にぴったり。それにしても、ローレン・バコールは美しいです。

本書の中でフィリップ・マーロウが探偵という仕事について語っています。「事件を引き受ける。つまり生活の為に売るべきものを売っている。神様からもらった少しの勇気と知恵と依頼人を保護しようと歩き回る熱心さ。それだけさ」思わず私立探偵になってしまいそうになります。

さらば愛しき女よ

長編シリーズの第2作目「さらば愛しき女よ」。村上春樹訳 では「さよなら、愛しい人」となる。現代風と言えなくもありませんが、でも、ねぇ、ハードボイルドらしさで言えばやはり「さらば愛しき女よ」でしょう。因みに原題は「Farewell, My Lovely」です。

さらば愛しき女よ

ここでのフィリップ・マーロウはもちろんカッコいいのですが、もう1人魅力的な男が登場します。殺人を犯した大鹿というあだ名を持つマロイです。本書は大鹿マロイの不器用なまでの一途な愛が魅力となっています。

3度映画化されているようですが、日本で有名なものとしては1975年に公開されたロバート・ミッチャム主演のものでしょう。

ヒロインはシャーロット・ランプリング。これまた魅力的ですね。私立探偵ってそんなにモテるのか?羨ましい限りです。そして監督はディック・リチャーズが務めています。

本書の中で、無茶苦茶にやられたフィリップ・マーロウが自分自身を鼓舞する場面があります。「2度ぶんなぐられ、咽喉を締められ、更にピストルの台尻で殴られたが、それでも、参らなかったんだ。そして注射で眠らされた。さぁマーロウ、このへんで、なんとか眼にものをみせてくれないか」。男とは、ハードボイルドとはこうでなくっちゃいけません。

高い窓

長編シリーズの第3作「高い窓」。田中小実昌訳も、清水俊二訳も、村上春樹訳も、「高い窓」です。、原題が「The High Winbow」ですからね。他に訳しようがないですね。レイモンド・チャンドラー作品の中では一般的な印象が薄いように思えますが、やっぱり魅力的なセリフがあるんですよね。
「俺は何でも知っている。どうしたらまっとうに暮らせるかということ以外はね」。ね?魅力的でしょ?

高い窓

それにしても、このペーパーバックの表紙は良いですね。思わずジャケ買いしそうになります。人気作家である石田衣良が初めて読んだ英文のペーパーバックが本書だそうですが、もしかするとこのバージョンだったのかもしれませんね。あ!ジャケ買いだったのかな?

「高い窓」は、監督:ジョン・ブラーム、主演:ジョージ・モンゴメリー、ナンシー・ギルドで映画化されています。

湖中の女

日本に置いては「高い窓」と並んで知名度が低いのではないかと思われるのが長編シリーズの第4作目の「湖中の女」ですね。田中小実昌訳も清水俊二訳も「湖中の女」ですが、村上春樹訳のみ「水底の女」。「俺は現代風に訳すんじゃけんね」という村上春樹の意地を感じます。でも「湖中の女」の方が。。。

湖中の女

態度が気に入らないと言われたフィリップ・マーロウが言い返したセリフ。「別にかまわない。それを売っているわけではないんでね」。まぁ、タフと言うのか、ふてぶてしいというのか。それが魅力なんですよね。

監督・主演ロバート・モンゴメリーで1947年に映画化。邦題は「湖中の女」でした。

かわいい女

私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とした長編シリーズの第5作「かわいい女」。映画化の際にも「かわいい女」でしたが、村上春樹は「リトル・シスター」と原題のまんまです。正確には原題は「The Little Sister」で、「The」が付きます。まぁこの際そんな小さなことは良しとしましょう。
村上春樹をしても「かわいい女」以外に訳しようがなかったということなのかもしれません。もっとも無理して訳す必要はありませんからね。

かわいい女

作中フィリップ・マーロウは実にクールな女性感を語っています。「僕が結婚したいと思う女は、向こうで気に入らないというんだ。その他の女なら、結婚する必要はない。口説けばいいだけさ」。グッとくるセリフですよね。

映画版の「かわいい女」(原題Marlowe)は、1969年に公開されています。監督はポール・ボガート、出演はジェームズ・ガーナー、お相手役にゲイル・ハニカットです。今となっては当時は無名だったブルース・リーが出演していることで知られている映画です。

ジェームズ・ガーナーのフィリップ・マーロウも悪くはありませんが、若き日のブルース・リーを観ることが出来るというのは、ちょっと得した気分になります。

長いお別れ

長編シリーズの第6作は名作中の名作、「長いお別れ」ですね。「長いお別れ」には名セリフが山のように詰め込まれています。故に名作なのでしょうが、もっとも有名なセリフは、「ギムレットにはまだ早すぎるね」(清水俊二訳)ではないでしょうか?因みに村上春樹訳だと「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」となります。
いずれにしても、これはフィリップ・マーロウのセリフではありませんからね。ここはひとつ「長いお別れ」を代表する名セリフとしては、「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」(清水俊二訳)を挙げておきましょう。

長いお別れ

ちっと風変わりな友情の物語。レイモンド・チャンドラーの小説は、フィリップ・マーロウや彼に関わる美女だけでなく周りの男たちも魅力的なんですよね。
で、この作品の映画版なんですが、原作とは大きく違います。違いますが、これがもう最高なんです!

監督ロバート・アルトマン、主演エリオット・グールドで1973年に公開されたこの映画、松田優作や村上龍など多くの著名人がフェイバリットに挙げています。
因みに、有名はギムレットはこの映画には登場しません。

この後、「どうして貴方はタフなのに、そんなに優しいの?」と訊かれたフィリップ・マーロウが、「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」とこたえるセリフで有名な、唯一映画化されていない「プレイバック」を発表し、更にその後「プードル・スプリングス物語」を書きかけのままレイモンド・チャンドラーは70歳で人生を終えています。

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