三億円事件で残された膨大な「遺留品」
1968年に発生した、昭和を代表する未解決事件である「三億円事件」。その犯行現場には膨大な数の遺留品が残され、当初、事件は早期解決するのではと楽観視するムードもありました。しかし捜査は難航し1975年に公訴時効が成立、未解決となりました。そんな三億円事件ですが、実際にどのような遺留品が残されていたのでしょうか?
「大量生産品」ばかりであった遺留品
この事件で残された遺留品は実に120点にも上ります。しかしその遺留品の数々は、盗難された品や市中に大量に出回っている製品がほとんどで、そこから犯人を特定するのが困難な物ばかりでした。以下で主な遺留品をご紹介したいと思います。

第一現場(三億円が奪われた場所)
バイク「ヤマハスポーツ350R1」
まず残されたのは犯行に使用されたバイクである「ヤマハスポーツ350R1」。これが白バイに偽装され犯行に使用されたのですが、このバイクは盗難車でした。
ハンチング帽
上述のバイクは、事件現場までボディカバーを引きずって走行していたことが明らかとなっているのですが、そのカバーの中から「ハンチング帽」が発見されました。ハンチング帽に付着した汗などを解析すれば犯人特定に至った可能性があるのですが、鑑定前に複数の刑事がこの帽子を被っていたことから鑑定不能にしてしまうという、致命的なミスを犯していました。

クッキー缶
白バイの書類箱に偽装した「クッキー缶」。このクッキーを販売していたのは明治商事だったのですが、販売個数が3万個と膨大なため、購入者を絞り込むことが出来ませんでした。

発煙筒・磁石
ダイナマイトに見せかけるために用意された発煙筒、そして発煙筒を現金輸送車に取り付けるための磁石。メーカーなどは判明したものの、どちらも数千、数万の単位で流通していたためこの方面からの捜査は断念しました。

メガホン・新聞紙片
白バイの広報用スピーカーに見せかけるためのメガホン、そしてメガホンの塗装に付着していた「新聞紙片」。この新聞紙片は、第一現場で最も注目を集めた遺留品と言っても良いと思います。4mmほどの大きさである紙片は、分析の結果1968年12月6日の産経新聞の一部であることが判明。その後、2年がかりで販売所の特定まで至ったものの、配達先の住所録が処分されていたため犯人逮捕には至りませんでした。

第二現場(現金輸送車が乗り捨てられていた場所)
セドリック
国分寺史跡七重の塔近くの本多家墓地の入口、武蔵国分寺跡のクヌギ林に乗り捨てられていたセドリック。これは3億円を乗せていた現金輸送車でした。この場所では、事件直前に濃紺のカローラ(第2カローラと呼ばれる)が目撃されており、ここで車の乗り換えが行われたと推測されています。
第三現場(偽白バイが停めてあった場所)
レインコート
事件発生直前、偽白バイが停まっていた場所で発見された濃紺のレインコート。メーカーは1958年に既に倒産しており、重要な遺留品と当初は考えられていなかったため粗末に扱われ、有力な情報は得られませんでした。

緑色のカローラ
第三現場から発見された緑色のカローラ(第1カローラと呼ばれる)。盗難車であり、ナンバープレートは「多摩5め3863」でした。

第四現場(第二現場のカローラが乗り捨てられていた場所)
第2カローラ
現金輸送車から乗り換えた濃紺のカローラ(第2カローラと呼ばれる)。ナンバーは「多摩5ろ3519」であり、コードネームとして関係者の間では「多摩五郎」と呼ばれていました。なお、車内から空のジュラルミンケースが発見されています。
ホンダドリーム
第四現場から発見された「ホンダドリーム」。盗難車であり、白バイと同車種であったことから、犯人が当初はこのバイクを白バイに偽装しようとしたのではないかと推測されました。

ギャンブル関連の品々
現場にあった別の盗難車から発見された、競馬専門誌やスポーツ紙、府中の東京競馬場近くの喫茶店のマッチ、平和島競艇のチラシなど。盗難車の持ち主に身に覚えがなかったことから、犯人の所持品と推測され、犯人はギャンブルが好きなのではないかという推理がなされました。また、さらに別の盗難車から女物のイヤリングが発見され、これもまた車の持ち主の身に覚えがないことから犯人の物と推測。犯人グループに女がいるのでは?といった推理がなされました。

まとめ
このように、犯人が犯行に使用した物や犯人像に繋がる遺留品が大量に残された「三億円事件」ですが、そのほとんどが大量生産された物であり、それ単独で犯人を特定するのが困難な物ばかりでした。これは2000年に発生した「世田谷一家殺害事件」でも同様の傾向があり、遺留品の多さが必ずしも犯人特定に結びつかないという、現代社会の抱えた課題となっています。将来発生するであろう事件では、「三億円事件」を教訓に遺留品の多さから捜査を楽観視せず、緻密な捜査をお願いしたいものです。

近年「犯人を名乗る人物」が暴露小説を執筆しました!!
おすすめの記事はこちら!
アルフィーの三億円事件を題材にしたシングル「府中捕物控」が発売中止処分を下されたのをご存知ですか? - Middle Edge(ミドルエッジ)
本日12月10日、あの「三億円事件」から丸50年が経過!近年では「真犯人がSNSに文章を投稿」などの動きも!? - Middle Edge(ミドルエッジ)
元死刑囚・永山則夫が起こした「連続ピストル射殺事件」彼が獄中で執筆した作品とは? - Middle Edge(ミドルエッジ)