大江慎也
今なお多くのミュージシャン達に影響を与え、リスペクトされているザ・ルースターズ。そのルースターズで作品の多くを手掛け、リード・ボーカルとギターを担当していたのが大江慎也です。
残念ながら精神的体調不良により1984年12月21日に発売されたルースターズの6枚目のアルバム「.Φ( PHY )」を最後に脱退。

大江慎也
精神に異常をきたしていた大江慎也は、ルースターズを脱退する頃には奇行が目立つようになっており、ライブでも鬼気迫る日があるかと思えば魂が抜けたような日があり、安定して活動が行えなくなっていました。
そんな大江慎也が、ソロ活動を始めるのは入院生活を経て1987年からのことですが、まぁ、これが日本の音楽史上類を見ないものになるのでした。
ROOKIE TONITE
待望のソロアルバム「ROOKIE TONITE」が発売されたのは1987年の1月でした。当時を知らない人が今聴くと、その感想は「歌がヘタい!」ではないかと思います。
確かに当時からそうした評価は聞かれました。しかし、これが音痴というのとはまた違って、非常に不安定といった感じなんですね。このアルバムの魅力は、そして大江慎也の魅力もまさにそこにあります。

ROOKIE TONITE
打ち込みのビートに不安定でありながら浮遊感のあるボーカル。「ROOKIE TONITE」は、ルースターズのアルバム「.Φ( PHY )」から陸続きだと言えます。
大江慎也に代わってルースターズのリードボーカルを務めることになった花田裕之は本作を聴いて「何も変わっていない」とインタビューで感想を述べています。
HUMAN BEING
花田裕之は「ROOKIE TONITE」を聴いて、「何も変わっていない」と言ったが、ファンは若干戸惑った。いえ、大いに戸惑ったものです。大江慎也といえば、ドラムは池畑潤二 (ルースターズの初代ドラムス)。それが打ち込みとは!いいドラムが見つからなかったのかな?と軽く考えていたら、以降どんどんデジタルな方向へ進んでいくことになろうとは夢にも思わなんだというファンが続出します。
そして「ROOKIE TONITE」から約半年後の8月に2枚目のアルバム「HUMAN BEING」が登場します。

HUMAN BEING
アルバムの内容的には「ROOKIE TONITE」と大きな違いはありません(半年ですからね、当然でしょう)。とは言え、明るくなった印象を受けます。ルースターズのファーストからセカンドといった感じですね。
アルバムには2曲ですが生ドラムで演奏されています。しかし、しかしですよ。何となく違和感を覚えるのは何故でしょう?もう大江慎也のソロはデジタルビートでいいんじゃないですかね。そう思います。
ALIVE
「HUMAN BEING」から3ヶ月後の11月にライブ・アルバムとは言え3枚目となる「ALIVE」が発売されます。1年に3枚!多い、さすがに多いです。
内容はファーストとセカンド、そしてルースターズ時代の曲から選ばれており、入門用としても便利ですが、元気な声(不安定ですが)が聴けるということでファンにも嬉しいものとなっています。

ALIVE
ソロになってからは「ポートレート」というインディレーベルから発売されているのですが、「ALIVE」はメジャー(クラウン)からとなっています。
そのせいでしょうか、ジャケットデザインも何となくスタイリッシュですね。
1987年7月29日、インクスティック芝浦での模様が収録されています。同時にビデオでも発売されていますが、収録曲が異なっていますので、ファンの方は要注意ですよ。
Blood
年が明けて1988年。「大江慎也 with ジョニーサンダース」名義ですが、ソロになって初のシングル「GREAT BIG KISS」が4月に発売されます。
ジョニーサンダースとは、そう、あのニューヨークドールズのジョニーサンダースです。「GREAT BIG KISS」とは、シャングリラスで有名な曲のカバーです。

GREAT BIG KISS
そして、2曲目の最後にちょっとだけ入っている「LIKE A VIRGIN」とは、そう、マドンナの大ヒット曲のあれです。
それから2か月後の6月に4枚目となるアルバム「Blood」が発売されます。

Blood
メジャーからインディに戻った途端にこれか!と目を覆いたくなるようなジャケットに、いきなり聴く気をそがれてしまいますが、このアルバムは素晴らしいです。
外見で人を判断してはいけないという格言の好例といえますね。「GREAT BIG KISS」で味を占めたのか、同じ系統である1曲目の「STOP THIS CRYIN’ INSIDE」から快調に飛ばします。
バックを務める1984との関係がこなれてきたといった感じです。大江慎也の精神状態は決して万全ではなかった、いえ、悪かったのですが、このアルバムを聴く限り、明るく、穏やかで、透明感があり、とても心地よいものに仕上がっています。相変わらず不安定なボーカルではありますが、だからこその唯一無二なのです。
PECULIAR
アルバムタイトル通り、どこか奇妙な5枚目のアルバム「PECULIAR」。1984とともにデート・オブ・バースが全面的にサポートした本作。アルバムジャケットからも分かるように、再びメジャー(徳間ジャパン)からの発売です。

PECULIAR
デート・オブ・バース+メジャーレーベルということで、どうなったかと言いますと、ニューオーダーですね。高級感があります。
やはり、良いスタジオで優秀なスタッフと共に作り上げると、コストはかかるのでしょうが、完成度は高くなります。ただ、気に入るかどうかはリスナーの好みの問題ではありますが。
この後、大江慎也はONESというバンドを結成。1990年5月にアルバム「WILL POWER」を発売した後、音楽業界から姿を消してしまいます。
精神的な病に加え、大腸を全摘出するという大病を乗り越え復帰するまでに15年も要することになります。
今にも崩れ落ちそうな、儚い夢のような、大江慎也が紡いだ歌の数々は、一度はまると抜け出せなくなります。