デヴィッド・クローネンバーグ
カナダを代表する映画監督と言えばデヴィッド・クローネンバーグ。多くの映画で数々の賞を受賞し商業的にも大成功を収めていることから、カナダ最高の勲章であるオーダー・オブ・カナダオフィサーを受勲しています。
また、母校であるトロント大学から名誉法学博士号を与えられ、カンヌ国際映画祭の映画祭審査委員長を務めたりもしています。

デヴィッド・クローネンバーグ
なんか華々しい経歴ですなぁ。広く評価されていることが分かります。アンディ・ウォーホールなんかもファンですしね。
しかし、その作風は変態的というか、偏執的。内臓感覚とでも言ったらよいのでしょうか、キモイです。それだけに、ハマると抜けられなくなるクローネンバーグの妖しい世界。
飛ぶ鳥をも落とす勢いだった80年代のデヴィッド・クローネンバーグ作品をご紹介しましょう。
スキャナーズ
実験映画やテレビ作品監督を経て、映画監督としてデビューしたのは1975年の「シーバース」という作品でした。肛門から侵入し宿主を操る寄生生物という既にいかにもクローネンバーグな内容のホラー映画という流石のデビュー作です。
その後も順調にキャリアを重ねていき80年代には5本の作品を撮っています。世界的に注目されるようになったのは80年代最初の作品「スキャナーズ」からですね。

スキャナーズ
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もうポスターを見るだけで尋常ではないことは分かるかと思いますが、超能力者(スキャナー)同士の闘いを描いた SFホラー映画です。
低予算で作られていますし、CG合成などがなかった時の作品ですから映像的には今観ると物足りなさを感じるかもしれませんが、作品から醸し出されるスゴミには圧倒されますよ。
超能力によって頭部が破壊されるシーンは衝撃的で、特殊メイクアップを担当したクリス・ウェイラスは大いに評価され、スピルバーグ監督の「レイダース/失われたアーク」でも頭部が破壊されるシーンを担当しています。
ヴィデオドローム
1981年の「スキャナーズ」に次いで80年代2本目の作品はアンディ・ウォーホールも大いに気に入ったという1983年の「ヴィデオドローム」です。

ヴィデオドローム
今でこそ評価されている「ヴィデオドローム」ですが、劇場公開としては大失敗でした。製作費の半分も回収できなかったと言われています。
内容が難解だったことが失敗の原因とされていますが、この手のグロさがまだあまり認知されていなかったという気がします。
「ヴィデオドローム」が評価されるようになったのはビデオ化されてからのことです。手軽に観られるようになったことで、カルト映画として人気を博しました。今ではデヴィッド・クローネンバーグの代表作のひとつとして数えられています。
現実なのか幻覚なのか区別がつかないビデオの世界に取り込まれていくという奇妙なストーリーです。そういえば、主人公のガールフレンド役でブロンディのヴォーカリスト、デボラ・ハリーが出てますよ。
デッドゾーン
「ビデオドローム」と同年に公開された「デッドゾーン」。こちらは大ヒットし、高評価されました。デヴィッド・クローネンバーグにとって、キャリアのターニングポイントになった作品といわれており、この成功があったために後に大きな予算をかけた作品が作れるようになったそうです。

デッドゾーン
自分の作品と同じテーマを持つているということで監督を引き受けたという「デッドゾーン」。原作はスティーヴン・キングの同名の小説です。
デヴィッド・クローネンバーグにとっては初めての原作つき作品となっています。
主演は「ディア・ハンター」や「天国の門」などで知られるクリストファー・ウォーケン。
「1984年第12回アボリアッツ・ファンタスティック映画祭 」批評家賞受賞、黄金のアンテナ賞受賞、ヒッチコック・サスペンス映画賞受賞「1983年度第11回サターン賞 」ホラー映画賞受賞などを受賞し日本では注目されませんでしたが、世界的には大いに評価されました。
でもなぁ、やっぱりデヴィッド・クローネンバーグはオリジナル作品を期待しますよねぇ。
ザ・フライ
製作費15,000,000ドル。もうカルト映画では済ませられない金額ですねぇ。「ヴィデオドローム」が5,952,000ドルでしたから大幅増です。前作「デッドゾーン」の成功あればこそですね。それだけの期待を背負って作られたのが「ザ・フライ 」です。

ザ・フライ
「ザ・フライ」はその期待に応え、世界的に(今度は日本でも)大ヒットしました。デヴィッド・クローネンバーグにとってもっとも成功した作品ですね。
しかし、これもオリジナルではなくリメイクです。オリジナルはジョルジュ・ランジュランの小説「蝿」を映画化した1958年のアメリカ映画「ハエ男の恐怖」です。
「ザ・フライ」は大ヒット映画ですからね、ご覧になられた方は多いと思います。ネタバレにもなりますし今さら説明するまでもないでしょう。
デヴィッド・クローネンバーグ自身も産婦人科医の役で出演しています。因みに本編の出産のシーンがグロテスクな為、妊娠者は鑑賞を控えるようにとレンタルビデオには警告されています。
「ザ・フライ」は、1986年第59回アカデミー賞 メイクアップ賞、1986年度第14回サターン賞
ホラー映画賞受賞、主演男優賞、最優秀メイクアップ賞、1986年度アヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭特別審査員賞、1986年度カナダ撮影監督協会賞 最優秀劇映画撮影賞などを受賞しています。
戦慄の絆
先ず見て頂きたいのが「ミュータント用解剖器具」です。

ミュータント用解剖器具
この奇妙な器具は勿論ミュータントを解剖するのではなく、主人公の産婦人科医は一般の女性の手術に使おうとします。コワイ!もう、それだけでイヤ~な感じが、デヴィッド・クローネンバーグな感じがします。それが出てくる映画が1988年制作のサイコ・スリラー映画「戦慄の絆」です。

戦慄の絆
更にコワイのは、主人公である一卵性双生児の産婦人科医です。ジェレミー・アイアンズが二役を演じるのですが、性格は正反対ではあるものの外見はほぼ一緒、見分けがつきません。通常だとほくろだとか傷だとかで区別をつけるところでしょうが、あえてデヴィッド・クローネンバーグは同じにしたのだそうです。ヒロインは見分けがつかないという設定ですが、観客にも分からないという気持ちの悪いことが起こります。
グロイと同時に美しくもあるのがデヴィッド・クローネンバーグ作品です。目を背けてしまいそうになりながらも目が離せない。そんな作品。
どれもこれも80年代のデヴィッド・クローネンバーグ作品は傑作揃いです。次の作品は若干間が空いて1991年のこれまた問題作「裸のランチ」。デヴィッド・クローネンバーグは90年代も全力で走り抜けるのでした。