『ガンプラり歩き旅』その77 ~『逆襲のシャア』ヤクト・ドーガ ガンプラ40年ののターニングポイントを検証する!~

『ガンプラり歩き旅』その77 ~『逆襲のシャア』ヤクト・ドーガ ガンプラ40年ののターニングポイントを検証する!~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、メカ単位での紹介をする大好評連載。 新展開では『機動戦士Zガンダム』(1985年)『機動戦士ガンダムZZ』(1986年)『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)まで、旧キットから最新のHGUCまで、商品の発売順に、再現画像と共に網羅紹介していこうという趣向になっております!


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右腕を喪失した状態で、艦船のドックに佇むクエス専用ヤクト・ドーガ

私、市川大河が、書評サイトシミルボンで連載している、 『機動戦士ガンダムを読む!』での、 再現画像で使用しているガンプラを、 古い物から最新の物まで片っ端から紹介していこうというテーマのこの記事。

今回紹介するのは、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』上映当時のリアルタイムガンプラキットから、1/144 クエス・パラヤ専用ヤクト・ドーガです!

ヤクト・ドーガ(クエス・パラヤ専用機) 1/144 7 1988年4月 800円(機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)

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今では珍しい1/144の縦ボックスアート

さて、『Z』『ZZ』と続いて放映当時の旧キットを紹介してきた新展開の『ガンプラり歩き旅』ですが、今回ご紹介するのは、ガンダムシリーズ初の完全劇場用新作映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より、クエス・パラヤ専用ヤクト・ドーガをチョイスしてご紹介します。いや、このチョイスにもちゃんと必然があるんですよ、奥さん。

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まずは普通に完成した旧キットのヤクト・ドーガの塗装済み完成品

今回も、無駄な蘊蓄から始まるのだが、40年を迎えようとするガンプラの歴史の中で、この『逆襲のシャア』シリーズは、その中でも重要なターニングポイントとなる要素と仕様をいくつも持ち込んだパイオニアなのである。
それは一つには、イマドキのガンプラであれば標準装備の「パーツ単位の色分け」と「接着剤のいらないスナップフィット組立方式」の採用であった。
更に昔、60年代に始まったプラモデル文化(ちなみに「プラモデル」という名称自体、その時期にウルトラ怪獣ソフビ人形で大ブレイクした企業・マルサンの登録商標であった。他の企業は「プラキット」等と銘打っていた)は、思春期層を中心に広まっていったが、70年代初頭からの、バンダイ、アオシマ、マルサンなどによるマスコミ(漫画やテレビのキャラクター)商品プラモの快進撃で、幼児層も手を出すようになり、やがて80年代に入る頃にガンプラで一気に社会現象を生み、大人社会から注視されるようになったのである。

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完成した旧キットのサイドビューとバックビュー

そうなると、いつの時代も親の世代、社会というのは目ざといもので、70年代前後に、不良(笑)の間で流行っていた「シンナー遊び」「アセトン遊び」と、プラモデルで主に用いられる接着剤やラッカー塗料などが安易に結びつくのではないかという疑惑が飛び交い、それはもちろんタミヤセメントやグンゼの薄め液程度ではどうやったって中毒遊びなんてできやしないのだが、今で言う「ポリコレ棒で叩」かれ続けた模型業界は、スケールモデルを安全地帯へと一度切り離し、児童層向け(ではなくなってきたんだけどね、もうこの頃は)のガンプラだけを矢面に立てて、業界をあげて対応することにした。
また一方で、ガンプラブーム最盛期の1982年に、子どもが模型用塗料で火事を起こした事件も影響し、模型業界をあげて「安全・安心」の水性ホビーカラーが急遽開発され、店頭に並ぶことになった。

しかし、いくら業界が全力を挙げて開発したと言ってもしょせん水性は水性、小学生が使う絵具と原理は一緒である。筆者も当時、時流に乗って水性塗料を一度使いかけたが「筆で塗ると塗料が伸びない」「ラッカー性よりもムラができやすい」「ちょっとやそっとじゃ乾かない」「乾いても、水にぬれると溶けだしてくる」「乾いた後も、ちょっとこすれるとすぐ剥がれる」「パーツの上に塗る時、隠ぺい力が低すぎて、濃い色のパーツの上に薄い色が乗らない」等など、文字通り「使い物にならない」代物だった。
しかしバンダイは、そこは仕方ないのだが一応世間への顔向け上、組立説明書等には「塗装には、より安全な水性塗料のご使用をお勧めします」とか、なんかまじない文のように今でも記載し続けていたりする。
あれから36年が経ってみて、こないだどうしても調色が難しい色味が、水性ホビーカラーで単色で出ていたので「さすがに進歩してるはず」で買ってみて使ったが、見事に上で書いた短所がそのままで、大河さん一生水性ホビーカラーは使わないと腹をくくった。

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正面から見た旧キットのヤクト・ドーガ。プロポーションは悪くない

何が言いたかったかというと、その「プラモデルがプラモデルたりえている必要条件」の「接着剤と溶剤系塗料」から、脱却しなければ社会から抹殺される。売り上げが年々徐々に右肩下がりになってきていた、ガンプラ関係者とバンダイがそう怯えても、さもありなんという状況が出来上がっていた。
「パーツ同士を接着させて、色を塗って作るのがプラモデル」で、そこから接着剤と塗料を追い出せとは、まさに『一休さん』のとんちのような社会風潮。
しかし、かといってギャクギレして『バンダイ、ガンプラやめるってよ』になってしまっては、バンダイだけではなく模型業界全体を震撼させる業界的事件になってしまう。
そこでバンダイが掲げた二大挑戦テーマが「接着剤のいらない、はめ込むだけで完成する仕様」と「初めからパーツ単位でアニメ設定どおりの成型色で生産されているガンプラなら、塗装しなくてもよい仕様」という、後のMG、HGUC、PG、RGに繋がっていくメインストリームコンセプトだった。

その二大コンセプトは、片方で「はめ込み式だけだと、パーツがポロポロ落ちる」RGガンダムやHGUC サザビー等の欠点を生みつつ、後者は「正面から見える部分はスラスター内部まで全部パーツ色分けしてあるんだけど、バックパックのバーニア内部が塗り分けられている1/144 HGUCは、2018年現在ほぼ皆無」なフォーマットを生み、まだまだ進化の過程を歩み続けているのだが、「その歩み」を始めたのが、今回紹介する『逆襲のシャア』のキット群商品からなのである。

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劇中再現。ギュネイのヤクト・ドーガ(HGUC)と並び飛ぶ、クェスのヤクト・ドーガ

『逆襲のシャア』の映画自体は、1988年3月12日公開開始の、いわゆる「88年の春休み映画」だったわけだが、そのガンプラ展開は公開を先駆けること1クールの、1987年12月の「1/144 νガンダム」から始まった。
この「1/144 νガンダム」もいわく付のシロモノで、まだこの12月段階では、「新作でアムロが乗るガンダムにはフィンファンネルが付いている」ことはネタバレさせられなかったため、まずはフィンファンネル抜きの状態で800円で発売。
同じタイミングでリ・ガズィが発売され、年が明けて1月には、ギュネイのヤクト・ドーガが、2月にはシャアのサザビーが、3月にはギラ・ドーガが、そして映画公開のタイミングで今回紹介するクェス専用のヤクト・ドーガが発売されるというプロジェクトであった。

ちなみに、フィンファンネル付きνガンダムは、キットの出来そのものは、1/100に至っては現代のMG版に勝るとも劣らないクオリティではあるが、1/144が7月、1/100が10月と、完全に映画の盛り上がりが終わった後の発売になっており、どうも商機を逃した雰囲気が当時から拭えなかった。

しかし、上で書いた二大コンセプトへの挑戦は、このシリーズで早くも相当細かいところまで行きわたっており、第1弾で発売された1/144 νガンダムでも、額の角や胸のダクトなどがオレンジイエローのパーツで、コクピットハッチやふんどしが赤いパーツで、それぞれ成型されていて、今のHGUCなどでもお馴染みの「キットの箱のふたを開けると、多色成型のカラー別のパーツが、一枚のランナーに収まっている図」は、ここから歴史が正式に始まったと言っていいだろう。
また「接着剤いらず構造」に関しても、当時からはめこみの保持力は最重要課題であったからか、このシリーズでは殆どのキットが、ほんの数個のネジを使って、ドライバーで止めていく方式が採用されている。
これが「1/100 νガンダム」になると、いきなり頂点を極めるところまでいくのだが、今回はあくまで1/144 ヤクト・ドーガの話なので、話を本題に戻そう。

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シールドを装着した左腕

このキットも、上記したように「成型色段階で5色」「ネジビス5つ付き 接着剤不要」仕様で構成されている。
色分けは「本体メインの赤」「バーニア類のちょっと濃い赤」「武器やパイプ類のミディアムブルー」「頭部や胸、脛前面やシールドの白」「バックパックの濃紺」で分けられており、ジオン紋章などはシールで補完もされているので、説明書通りに組むだけでも、少なくとも『Zガンダム』『ガンダムZZ』時代よりは、アニメに近い色分け状態の完成形を手にすることが出来る。

キットには付属品として、ビーム・ライフル、ビーム・サーベル、ビーム・ガトリングガンが付いてきていたのだが、実はこのキットも、この連載紹介でたまにある「数年前に気の迷いで組み立ててしまったまま放置してあった奴」なので、シールド以外の付属品はなくなってしまっているので、その辺りご勘弁ください。
その上で、毎度お馴染み「なんでイマドキなら、色分けもプロポーションも完璧なHGUC版が出ているのに、旧キットを用意したの?」に関しても、この後述べていくのでお付き合いくださいませ。

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激戦のさなか、戦闘不能な状態で、シャアに会いたいという気持ちだけでサザビーに辿り着いたクェスのヤクト・ドーガ

さぁ本題に入ろうか!
あのね、こっからは、文体も人格も変わる勢いで、このキットを全否定しますよ(笑)
いや、このキットと言うか、この『逆襲のシャア』1/144シリーズ全体を統括した責任者クン。二大ミッションのハードルを同時に乗り超えなきゃいけないプレッシャーを前に、いろいろ考えたのは分かるが、そのせいで、「そもそも」論で当たり前のこと、それこそ初代の1/144のガンダムやザクで出来ていたことが、疎かにされ過ぎている欠点を含んだ商品が、このシリーズでは多すぎるのだ。
それは「腕の可動方向」という純粋な問題である。
さきほど、上でこのキットの左腕を見てもらったが、今度はちょっと同じ構造の右腕をご覧いただきたい。

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ヤクト・ドーガの右腕

デザインの立体再現度は高い。出渕デザインの曲面の立体構成としてもかなりレベルは高いだろう。ディテールも過不足なく、パイプ類等もちゃんと別パーツで再現されている。
しかし。
この「見るからに内側に曲がりそうな腕」は、むしろ「内側に“しか”曲がらない腕」なのである。

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