
今回紹介する、バンダイスーパーミニプラ版ザンボット3を使用した「無敵超人ザンボット3』のイメージ画像
今回は、80年代初頭のアオシマが、完全合体を目指して発売した「合体ロボット ザンボット3」と、2017年にガンプラのバンダイが、究極の完全合体を売りにして発売した「スーパーミニプラ版ザンボット3」との、36年の時を経た、徹底比較です!

放映当時の、クローバーの合金トイのザンボット3のカタログより
前回も紹介した『無敵超人ザンボット3』だが、その非情かつ妥協のないテーマやドラマ性とは別個に、メカニックとしての売りは、主題歌の歌詞にもあるとおり「3つのメカが一つになって」ザンボット3に合体するというものであった。
単純な3機メカ合体は、既に合体スーパーロボットの元祖『ゲッターロボ』(1974年)が取り入れており、『超電磁ロボ コン・バトラーV』(1976年)からは「合金玩具で再現できる、合体ロボット」が主流になってきていた時代でもあったため、『ザンボット3』ではSF的戦闘機、戦車、偵察機の3種のメカが合体するだけではなく、主人公少年の乗る戦闘機が、独自に単独で小型ロボットに変形し、ガンベルトとライフルにもなるマグナムを武器に、ガンマンのようなビジュアルで活躍しつつ、ザンボット3に合体すると、今度は鎧武者の姿で、太刀等を使いこなして戦うというビジュアル変化が売り要素になった。
この発想と玩具再現は、弱小玩具企業だったクローバーの商品としてはスマッシュヒットを記録して、翌年の『無敵鋼人ダイターン3』(1978年)以降のアニメ制作に繋がっていくわけだが、一方でプラモデル化版権を手にしたアオシマは、むしろ放映終了後の1981年前後から、バンダイのガンプラブームに追従する形で、様々な自社商品枠でザンボット3を商品化。作品の高評価も相まって、同社の『伝説巨神イデオン』(1980年)に次ぐヒットキャラクターになった。

同じくクローバーの広告。右上に、1982年の作品『戦闘メカザブングル』の商品が掲載されていることから、その時期の広告と見られるが、放映後4年経っても合金玩具が販売される人気であった
しかし当時のアオシマのプラモデルラインナップでは、映画化もされて社会現象化していた『イデオン』は、単独のスケールモデルシリーズが別個に設けられて盛り上がりを見せていたが、さすがにそこまでのブームに至っていない『ザンボット3』や『ダイターン3』は、あくまで既存のアオシマの商品枠の中で、それぞれ商品化されるという機会を待つしかなかった。

バンダイからは2004年には、超合金魂で発売されたザンボット3
そして、アオシマの『ザンボット3』模型化展開から36年、テレビアニメ放映から40年が過ぎた2017年になって、ガンプラのバンダイのキャンディトイ事業部から、スーパーミニプラブランドで、ザンボット3が商品化された。
このキットは、同シリーズのイデオン同様、さすがガンプラで技術を蓄積してきたバンダイだけあり、そして最新の技術やマテリアルの進化もあって、確かにザンボット3の模型化としては最高傑作になった。
しかし。
同シリーズのイデオンの回()でも述べたが、バンダイのスーパーミニプラ版は、3種の各形態の設定再現としてはクオリティが高いのだが、合体玩具として見た時には、果たして36年前のアオシマ合体ロボット版と比較して、どれだけのアドバンテージがあるのだろうかと、実物を手に取っているうちに、フッと疑問を抱くようになった。
その上で、アオシマ版とバンダイ版の両者を見比べてみると、様々なところで、バンダイ版が、商品仕様などの点で、36年前のアオシマ版へのリスペクトを取り入れていることも分かった。
なので、今回はこの2つの新旧ザンボット3合体プラモデルを用意して、徹底的に比較検証していきたいと思う。
アオシマ 合体ロボット ザンボット3 1981年6月 1000円

アオシマ版のパッケージ
この商品を検証していくときに、まず大前提として忘れてはならないことがある。
以前もこの連載で、アオシマ版とバンダイ版のイデオンの比較を行ったが、その時用いたアオシマ版は、『イデオン』独自の商品枠として、対象年齢層をティーンズに上げて展開していた1/600シリーズのイデオンであり、なのでそこでのイデオンも、他のアオシマのイデプラと比較して、一番パーツ構成や構造が、緻密でハイブロウな設計になっていた。
しかし、今回紹介するザンボット3のアオシマ版は、ザンボット3が独自のティーンズ向け商品枠をもっていなかったために、児童層向けの商品「合体ロボット」版を紹介することになる。

「合体ロボット ザンボット3」のランナーその1。三色でとてもカラフルである
「合体ロボット」シリーズに関しては、「合体ロボット イデオン」の紹介回()で披露しているが、あれと1/600 合体版イデオンを比較してみると分かるように、合体ロボット版はかなり対象年齢を下げて、そこでの合体も簡易的な作りにアレンジされている。
幸いにして、ザンボット3の変形合体は、イデオンほど複雑ではないため、この合体ロボット版でも一通りアニメ通りの合体が再現されているが、バンダイ版と比較する時は、どうか「このザンボット3は、イデプラで言えば『合体巨神 イデオン』に当たるクオリティなんだ」という前提をもって見比べてあげてほしい。
対象年齢を児童層に設定した合体ロボットシリーズは、接着剤に慣れていない児童層でも組み立てられるように、今でいうスナップフィットの概念が取り入れられている。

「合体ロボット ザンボット3」のランナーその2。本文でも言及するが、事実上2つのキットを合せたデラックス版として商品が成り立っている
しかし、イマドキの洗練されたバンダイのスナップフィットではなく、あくまで当時のアオシマが、当時の児童層へ向けた処理のため、はめ込みあったパーツも密着性や強度を、デザインにはない補助パーツで保持したり、簡易的箱根細工のようなパーツ構成でお互いのパーツを支え合ったりといった構造で成り立っているので、その辺りは今の目で馬鹿にするのではなく、逆に児童層に「組み立てる楽しさ」を知ってもらおうというアオシマの社風を評価すべきだろうと思う(この商品発売の翌月には、ティーンズ向けのアニメスケール大サイズのザンボット3が発売されているので、商品企画と開発は、同時並行だったのかもしれない)。
いつもであれば、2つのキットを紹介する時には、個別にじっくり商品を見ていくのがこの連載のスタイルだが、今回に限っては、あえて両者の紹介を、並行しておこなっていくことで、違いや一致点などを明確にしていければという主旨で展開していくことにする。
バンダイ スーパーミニプラ ザンボット3 2017年11月 4000円

仁王立ちの主役ロボットのバックを3つのメカが飛ぶ、まさに80年代アオシマ風のパッケージ
『戦闘メカザブングル』『伝説巨神イデオン』等の、食玩とは思えぬボリュームとクオリティのプラモデルを開発販売してきたバンダイキャンディトイ事業部による、2017年の新作大作が、このザンボット3であった。

webなどでのセット販売では、4個セットでこのような、ザンボット3の顔をシンプルに記号化したマークの箱に入って売られている
このバンダイ版。なぜ今回、アオシマ版と徹底比較してみようかと思ったかと言えば、もちろん現代最新技術投入のバンダイのプラモデルではあるので、35年以上の時代差を明確化するという目的もあるのだが、その商品仕様が、おどろくほど、そして確信犯的に、アオシマ合体ロボット版のフォーマットを踏襲していると、マニアならすぐ分かる商品構成になっていたからである。

バンダイ版の一個単位の箱を空けた状態
アオシマ版の「合体ロボット」版は、既に発売されていた「無敵合体ザンボット3」と「合体超人ザンボット3」を、足した部品で構成されていた。
おおまかな違いとしては、主人公少年の乗るメカの選択であり、ザンボット3の胸と頭部になるのだが、「無敵合体」ではザンバードが、「合体超人」ではザンボエースが同梱されており、同時にザンボット3時の武器も、「無敵合体」ではザンボットグラップ、ザンボットブロー、ザンボットカッター、ザンボットバスター、ザンボマグナムが付属。「超人合体」ではザンボットブローのみ欠けているといった具合であった。この2つのキットを、被る部品を除いてニコイチにしたのが、アオシマの「合体ロボット ザンボット3」なのである。

バンダイ版のパッケージ裏。完成したザンボット3とザンボエースが並ぶ
その上で、アオシマ版とバンダイ版の「狙ったな」一致は、「わざわざザンボエースとザンバードを、別の部品で個別の完成品にしている」「なおかつ、ザンボエースがザンバードに変形する」の二つ。
確かにザンバードは、ザンボエースに変形した上で、ザンボット3に合体するのだが、イマドキの技術論で言えば、これら3つの目的を、一つのプラモデルで満たすことは(しかも今のバンダイであれば)不可能はないはず。それを、ザンバードとザンボエースにわけて、なおかつザンボエースをザンバードに変形させてしまう仕様は、間違いなくバンダイキャンディトイ事業部による、アオシマ合体ロボット版へのリスペクト仕様だと断言できる。

バンダイ版の全てのランナー。やはり多色成型だが、アオシマ版と比較して、ほぼ無塗装で完璧な色分けが完成する
「アオシマ版は児童層向け」「バンダイ版はアオシマ版のリスペクト仕様」を踏まえたうえで、まずはランナー状態から比較していこう。
ここまでで写真で紹介はしてみたが、双方、ザンボット3らしく3色で成型されていて甲乙つけがたい……ように見えるが。
成型色のまま、絶妙なパーツ分けで、ほぼ塗装が必要がないバンダイ版と比較して、アオシマ版は2つのキットのパーツを合せたからか、本来黄色い部分のパーツが赤に集まっていたり、逆に赤のパーツが青に集中していたりと、こちらは全塗装必須の仕様になっている。
今回のアオシマ版は、徹底比較のために全塗装したが、バンダイ版は、では完璧100%かというと、少し不満も残るのでその辺りを記したい。

イメージ画像より。ザンボットカッターを構える我らのザンボット3!
バンダイ版は、ザンボエースの脛の塗り分けや、ザンボット3の耳等の塗り分けまで別パーツ化されていて完璧に見えるが、大事なところでミス(というか、残念ポイント)が遺されている。
それらはザンボエースの後部とザンボット3の頭部に集中するのだが、詳細は後述する。
もっとも、シール補完もザンボエースの耳の赤ぐらいで、ほぼ無塗装での色分けは、さすがイマドキのバンダイと、諸手を挙げて賞賛すべきだろう(特にザンボエースの頭部の色分けパーツ分割は、見事の一言に尽きる)。
また、ザンボエースとザンボット3のフェイスパーツは、わざわざ目とくまどりを、塗装済みにしたパーツと、ユーザーが自分で塗装したい場合用の無塗装パーツの、2種類を用意するなど、バンダイの拘りっぷりはすさまじいものがある。
では、まずシリーズ序盤の主役メカ、ザンボエースから比較していこう。

アオシマ版ザンボエース

バンダイ版ザンボエース
……うん、比べるのも酷だ(笑)
いや、ここでアオシマを晒し者にしたいわけではない。
先ほどから何度も述べているが、アオシマ版は「1981年の児童層向けの簡易合体プラモ」なのだ。
確かにアオシマ版は、バンダイ版との比較以前に、そもそもコレが単体でザンボエースに見えるかというと疑問すら浮かんでしまうレベルではあるが、このザンボエースはさらに(これはバンダイ版もだが)ここから、ザンバードに変形し、さらにさらに、ザンボット3に合体する使命を帯びていることを考えれば、この時点でのアオシマ版が、少なからずも一応はロボットの形態に見えていること自体が評価されてよいレベルである。
確かに、アオシマ版にはホルスタージェットもない。唯一の武器のはずのザンボマグナムに至っては、勝手にザンボット3のメイン武装にされてしまっている。
可動箇所は、ザンボエース変形用のギミックを除けば、ロボットのアクション部分としては、首の回転と、肩が左右に開くだけで、あとは変形用の足首の爪先伸ばしがあるぐらいで、ポージングもへったくれもない。

無駄と知りつつ、アオシマ版ザンボエースを必死にポージングさせてみました
それどころか、後々ザンバードに変形してザンボット3に合体収納される前提があるため、足のスリッパの底面積がなさ過ぎて、撮影を続けていても、立っていることさえ困難で、今回掲載した写真は、奇跡的なバランスで、立てた瞬間を捉えたものぐらいしかない。
一方で、バンダイ版はさすがの一言に尽きる。
実は、バンダイキャンディトイ事業部は、この商品の情報解禁第一報においては、同シリーズのザブングルにひっかけて、「スーパーミニプラでザンボエース商品化!」と、ザンボエース単独商品であるかのように告知した経緯がある(双方、富野アニメで箱型ロボットで、銃がメインの武器ロボット)。
もちろん、察しの良いファンは、すぐさまザンボット3自体が発売されると予想を立てたが、バンダイの狙いはファンを騙す事ではなく、そう告知してもよいぐらい、いや、そう告知すべしと判断するぐらい、このザンボエースが一つの商品単体として、通常のガンプラと同じレベルの完成度を誇っていたからでもある。

フル装備のバンダイ版ザンボエースのクオリティの高さ!
バンダイ版ザンボエースは、色分け、可動はガンプラのHGUC並み。いや、色分けに関しては、シール補完も、足首のイエローラインと耳の赤の二か所だけ(筆者はシールがはがれるのが嫌なので部分塗装した)。
箱型デザインながら、ガンプラで蓄積されたノウハウを投入して、このサイズ(10㎝程度)で肩や腰にボールジョイントを仕込んだり、四肢もしっかり90度以上曲がったり(特に肘に関しては、見栄え重視の通常用と、ザンバード変形用の、こちらもしっかり可動する物と、2種用意してある周到さ!)、足首も股関節を開脚した時の接地性をよくするために、わざわざサイドプレートにスリッパをボールジョイント接続するというアイディアを採用。手首も、握り拳、平手、ザンボマグナム持ち右手等を用意。
確かに、これはザンボエース単品だけでも、通常のガンプラHGUCに匹敵する出来栄えだと感心させられる。
これらの超絶可動は、バンダイが近年、新素材としてKPSを開発して、その結果、ポリキャップを内部に仕込むスペースを確保しなくてもよくなった恩恵があるのだが、イデオン同様このザンボット3でも、全身KPSでポリキャップが一つも使われていないので、ガシガシ動かして遊ぶ人は、その辺りに注意が必要であるとはいえる。

パーツが完璧に分割出来るザンボマグナム
そしてまた、ザンボエースの個性であるザンボマグナム(とホルスタージェット)が完全に別パーツになっていて、特にザンボマグナムは、素体となるマグナムから、サイレンサー、スコープ、マガジン、グレネードランチャー、ストック等、オプションの全てが別パーツで合体可能で、分離した時は全てのパーツがホルスタージェットに接続可能で、飛行形態も再現可能など、至れり尽くせりの極致であるとはいえる。
加えて、足首のコクピット部分はクリアパーツで再現。
唯一の難点としては、関節保持が全てKPSなので、関節パーツ、特に両肩と足首が外れやすいところだろうか。この辺りの設計の甘さは、キャンディトイ事業部ゆえだからか、仕方ないのかもしれない。
続いては、同じく主人公少年メカのザンバード。
アニメ設定的には、ザンボエースが変形したメカである。
まずはこちらも、アオシマ版とバンダイ版を見比べてみよう。

アオシマ版ザンバード
アオシマ版のザンバード。ザンバードに見えなくもない……と言い切ってしまえば言い過ぎか。しかし、アニメ設定のザンバードと比較すると、寸詰まりで分厚く、ウィング部分以外は塊のようで、とても「SF高速戦闘機」に見える要素はない。
だが、一通り「ザンバードの記号」を備えている点は評価が出来る。
そして、この「一見、稚拙にしか見えないザンバードもどき」の真価が発揮されるのは、実は合体の時なのであるが。

バンダイ版ザンバード
アオシマ版と比較するまでもなく、みるからに完成度の高いザンバードである。トレンブルホーンなどのオプション武装は付かないが、ザンバード単体のシルエットもディテールも完璧で、コクピットはしっかりクリアパーツ。
これぞ、マニアなら誰もが夢見たザンバードの立体化と言えるだろう。
しかし、この完璧ザンバードにも、難点というか、謎の部分が一つだけある。
それは、ザンバードのメインボディの赤と紺色との分割部分に、なぜボールジョイント可動が仕込まれているのか?という素朴な疑問。
ザンバードはボディが可動する必然性なんかないし、合体した時のザンボット3の腰可動には全く関係ないので、気にしなければどうでもいい問題なのだが、気になってしまったので、ここで記しておく。
そしてまた、色分けに関しても完璧……と言いたいところだが、実はこのスーパーミニプラ版ザンボット3全体を見渡した上での、塗装残念箇所は大きな部分で2つあるのだが、その1つがこの、ザンバードの後部(少しだけ覗いている、ザンボエース、ザンボット3の頭部に当たる部分)が、赤パーツ一色で構成されているところ。
ここは、ビジュアル的には、ザンバードとザンボエースやザンボット3を繋ぐ重要なキービジュアル部分なので、シール補完でもよいので彩色してほしかったところ。
というか、パーツ分割の段階では、しっかりイエロー部分だけパーツが別個になっているので、そのパーツを黄色のランナーに組み込めば良かっただけの話のような気がするのだが? ……謎である。

並べてみたザンバード2種
なんというか、この写真だけを見ると、アオシマ版の公開処刑かよというリアクションを呼んでしまいそうであるが、大河さんの意図はそうではない。むしろ逆だ。
確かにこの2つを比較すると、ありとあらゆるポイントとして「ザンバードとしては」バンダイ版が勝るという結論に異論はない。
しかし、ザンバードの最大の役割である「ザンボット3の胸と頭部になる」要するに、ザンボット3に合体するプロセスを考慮すると、評価はガラッと変ってくるのである。
ザンボット3への合体時、アオシマ版はこの状態に、ザンボット3の頭部を改めて取り付けるだけである。まぁこの別パーツ化は妥当な判断だろう。アニメでの頭部のスライドギミックは二次元の嘘でしかなく、ザンボエースの頭部ならまだしも、ザンボット3の頭部をザンバード機体内部に収納することは、物理的に不可能であるからだ。
しかし、バンダイ版のザンバードは、いざザンボット3へ合体させようと思うと、ザンボット3のプロポーションや可動と、二次元の嘘との整合性を優先するあまり、ザンバードの機体の半分が外されて、頭部を付けられ、およそ、アオシマ版以上に、ザンバードとは既に呼べない代物へと変化させないと合体出来ないシステムになっているのだ。

アオシマ版とバンダイ版の、ザンバードの合体仕様
この段階ではむしろ、バンダイ版の方が「ザンバード“のようなもの”」と呼ぶしかなくなっている。
先にオチを書いてしまえば、バンダイ版は、イデオンがそうであったように、ザンボット3でもまた、各マシン形態のシルエットと、合体したロボットのプロポーション・可動を、究極に両立させようとした結果、「合体プロセス」が、差し替えと別パーツの追加の嵐になっており、それはアオシマ版もそうだと言われればそうかもしれないが、バンダイ版の場合はそれが度を越しすぎているため、既に「3機のメカが合体してロボットになる醍醐味」が完全に失われていて、「3機のメカのプラモデルを分解して、ロボット形態に組み替える作業」になってしまっている部分が少なくない。
それが一番、顕著に表れたのが、このザンバードの合体用の差し替えであった。
だからだろう、アオシマ版ではザンボエースが変形したザンバードも、ザンボット3に合体できるという(完成したビジュアルはともかく)テレビのプロセスを再現できるのに対して、バンダイ版は、ザンボエースはザンバードに変形できるのに、その、変形できたザンバードはザンボット3に合体することができないという哀しい矛盾を抱えているのだ。
この辺りのもやもや感は、筆者が70年代からずっと、ロボット玩具やガンプラ等を眺めてきた背景での、メーカーの価値基準の推移やコンセプトの変化がありきなので、口を挟むことも憚れるのだが、一言で言えば「現代において、70年代に放映された作品のロボットを商品化するということは、必ずしも当時の少年の夢をかなえることではない」という現実を、受け入れるしかないというのもある。
さて、お次はちょっと斜に構えた少年、宇宙太が乗り込む重戦車、ザンボット3ではメインボディと腕部になる、ザンブルの紹介である。

アオシマ版(左)とバンダイ版(右)の、2つのザンブル
ことザンブルに関しては「そもそも、合体におよんだ変形がシンプルであること」「ビッグ・キャノンやクラッシャードリル(この2つはアオシマ版にもバンダイ版にも付属していない)を装備していない状態であれば、単純に腰部内部が空洞でも、アニメ設定どおりである」など、アニメ設定の忠実再現化のハードルが一番低いメカでもあるので、アオシマ版とバンダイ版に大きな差異はない。

アオシマ版ザンブル。なぜかザンベースに付属すべきレゴンが既に装着されている
アオシマ版、バンダイ版ともに、下部キャタピラを伴うベース部分が、ダイナミックに別パーツなのも、これも二次元の嘘からきているので仕方はない。
アオシマ版だと、最初から、ザンベースのパーツのはずのレゴンが腰脇に装着されてしまっている(組み立て構造上、このレゴンが、ボディの前後パーツを固定する役割を持っている)が、それ以外ではザンバードほどのギャップは感じられない。

ザンボット3アイテムでは初めて再現された、アオシマ版のザンブルコクピット
むしろここは、ザンボット3の立体アイテム史でしっかり抑えておきたいポイントだが、ザンボット3合体時には取り外す余剰パーツになるとはいえ、ザンブル空洞内の赤いコクピット部分を、初めて立体物で再現したのは、このアオシマ合体ロボット版であり、クローバー合金トイでは再現されていなかったというのは、ザンボットマニアとしては知っておくべきトリビアだろう。

バンダイ版ザンブル。キャタピラ部分はアオシマ版より少し小さめ
バンダイ版のザンブルは、レゴン装着がザンベースとの差し替えになったために、よりアニメ設定に近いスタイリングをしている。
ここはザンボット3解説で改めて述べるが、バンダイ版ではハンドパーツが、親指を含めた手首のパーツをベースに、様々な指の表情をしたパーツが付属してくるので、紹介画像での平手も、アニメのザンブル状態では見慣れた形状だが(一説によると、この平手状態から、ザンブルではフィンガーミサイルという武器を発射できるという話も聞く)、ザンボット3合体時も、バスターを構えた手首に出来るよう、バスターのピンが差し込める穴が予め開いている。その他の差し替え用手首の中には、単独で力強い握り拳状のパーツもあり、、それを装着したバンダイ版や、同じく握り拳のアオシマ版(アオシマ版には握り拳しかない)は「アームパンチ発射準備状態のザンブル」と見立てることも可能である。
そして次は、紅一点少女、恵子が乗り込む偵察機、ザンボット3では脚部になるザンベースの紹介である。

並べたアオシマ版(左)とバンダイ版(右)のザンベース。カナード翼の有無が、印象を大きく変えさせる
基本的なシルエットは、こちらも変形合体がシンプルということもあって大きな差異はない。
主翼や垂直尾翼の大きさも、2社でそれほど違っていない。
だがしかし、上でも書いたが、ザンベースでは飛行メカのアイデンティティとして重要な役割をデザイン上担うカナード翼が、アオシマ版ではレゴンごとなくなっていること、そして合体システムの差し替えの問題で、アオシマ版ではザンベースの機首のコクピット部分が、ザンボット3時の見栄え優先でまったく再現されていないので、飛行メカとしての魅力はかけてしまっていると言えよう(かといって、バンダイ版の「なんでもかんでも差し替え」が絶対正義かと言われると、決してそうは思わないのだが……)。

両社ザンベースを別角度から。コクピットのあるなしは、飛行メカへの見立てを考慮するとやはり影響は大きい
ザンベース両脚先端のディテールは、アオシマ版では完全オミットやむなしなので、それっぽい塗装で再現したが、バンダイ版ではディテールとシール補完でしっかり再現してある。
バックパックのホールド感は、双方どちらもいい感じでポロリはない。

アオシマ版ザンベースのサイドビュー
アオシマ版の一番の評価ポイントは、見た目通り素直に変形し、ザンボット3の脚部をストレートに再現するところだろう。

アオシマ版ザンベースの着陸脚
腿部裏のザンベース着陸脚は、アオシマ版、バンダイ版ともに用意されているが、足首がスライド変形するバンダイ版では、腿と足首の高低差があまりないからか、着陸脚は小さめのパーツが差し替え取り外し式で付いているだけ。アオシマ版は写真のように、意外とスケールモデル的な大き目の着陸脚が、しっかり収納可能なギミック付きで、腿パーツの中に内蔵されている。

バンダイ版ザンベース
バンダイ版ザンベースは、このままの形状だと見栄えもよく、合体時もカナード翼と機首を差し替えするだけのように見えるが、実際は足首の主翼を一度外して、わざわざ左右入れ替えてから、腿の外側に装着しなおすという、よく言えば手が込んだ、悪く言えば無粋な一手間をかけなければいけない変形を要する謎仕様なのだ。
これは、ザンボット3時の足首や開脚などの可動を考慮した時、主翼が足首に付いたままよりも、腿に取りつけてあった方が自然なポージングになるという判断があったためと思われ、主翼の、腿への取り付けピンを、ザンベース時に目立つ上面に設置しないため、ザンベース時とザンボット3時とで、左右を入れ替えざるを得ないのだと、そう理解できるが、そういった諸般の事情で「シンプルな変形」が「面倒な作業」になってしまう辺りが、「イマドキのプラモの標準」なのだろうか。

アオシマ版の足の裏

バンダイ版の足の裏
ここは、ザンボット3に合体した後の話になるが、両社ともザンベースの足の裏には、しっかりキャタピラがモールドされていて、それがアオシマ版の単純な変形合体だと、写真のように凸モールドのまま足の裏になるのだが、手が込んだバンダイ版の場合、足の裏の板パーツを一度外して、裏表ひっくり返してから改めてはめこむという「謎の儀式」を経なければいけない。
本来のアニメ設定では、別に足の裏が反転するギミックがあったわけではなく、単純にキャタピラが収納されるだけだろうから、これも「どちらかが正解というわけではない」ことになるのだろう。
合体完成後の正しさに拘るにはよいのだろうが、こういうプロセスもまた、バンダイ版の合体変形を「作業」と思わせられる一因なのだろう。

3機(4種類)ずつそろった、無敵超人に合体する、神ファミリーマシンの、アオシマ版(左)とバンダイ版(右)
こうして両社版を比較すると、設定画に似ている、似ていないはともかく、主人公のマシン、とりわけザンボエースの大きさが違うことが目につく。なまじ他のマシン、特にザンベースの大きさが近いだけに、この辺りやはり「個別のマシン」と「合体パーツの1つ」との兼ね合いが、結果に表れているのだろう。
さて、ここからは、ようやく、というか、ザンボット3への合体と、完成したザンボット3本体を比較していこう。
……といっても、バンダイ版の方に関しては、筆者はいきなり2セットを購入して、ザンボット3形態と4機のマシン形態に固定制作(細部は接着、理由は後述)してしまったので、基本的にアオシマ版を例にとっての合体解説と、それに付属する形でバンダイ版の変形・合体を解説していくことになる。

宿敵、ガイゾックに向かって、ゆくぞ3人の、愛と勇気と力と!
主人公メカのザンバード、ザンボエースの、合体形態への変形(というかパーツ差し替え)は、既に語った通り。

合体状態のアオシマ版ザンブル
ボディのザンブルは、キャタピラとコクピットを外し、胸部を左右に観音開きで展開、腕を伸ばすだけ。
バンダイ版も基本的に同じ段取りだが、コクピットをただ外すだけではなく、臀部裏側に付け直すなど、細部手法が異なる。
また、アオシマ版では伸ばした腕を保持するのが、プラモデルとしては原始的過ぎる挟み込みギミックだけであったため、ポージングも保持も殆どできなかった。それに対してバンダイ版は、腕の伸縮ギミックそのものを廃し、一度上腕と前腕に分離させて、その間に関節付き肘ブロックの別パーツを挟み込んで、可動範囲の広く見栄えの良い腕を完成させている。
テレビの手順に沿った変形と、完成した腕の可動を優先した差し替え作業の、どちらに価値を見出すかは、これもユーザー次第であろう。

合体状態のアオシマ版ザンベース
ザンベースは、基本的にはバックパックを外した後は、足首を90度曲げて、主翼を折りたたむだけの変形。
バンダイ版ではここで、先ほど書き記した謎の主翼パーツ左右入れ替えや足裏板ひっくり返し作業と共に、カナード翼を外して、そこからレゴンだけを分離させておく必要がある。
また、アオシマ版、バンダイ版共に、合体時に両膝外側に、バスターを装着させておく。

完成した、アオシマ「合体ロボット ザンボット3」
ザンボット3の完成は、変形したザンブルの真ん中に、頭部が付属したザンバードがインサート合体し、下半身に単純にザンベースが合体するというもの。
合体状態になってからの最終合体時は、アオシマ版もバンダイ版も、合体感(?)の手応えは悪くないフィットさがある。

完成したアオシマ版のサイドビューとバックビュー
構造的に、合体したザンバードとバックパックが、観音開きのザンブルの左右パーツのロック機能を果たしており、しっかりとした合体で、これといったポロリも起きない。しかしその反面、関節可動自体は一通り設置はされているものの、デザインやディテールに阻まれて動かなかったり、自立自体が難しいためにポージングが出来ない等の難点も多い。

アオシマ版のザンボット3マスクのアップ
マスクの出来は、この時代のアオシマとしては充分に及第点。若干額の三日月が大きいかとも思わせられるが、スーパーヒーローロボットのメインシンボルだと思えば、多少のハッタリが効いているぐらいが良いのかもしれない。

三つのメカがワンフレームに収まるボディ下部
それぞれのマシンの合体の収まりは良い。ザンベースのコクピットカバーの展開は再現できなかったが(バンダイ版は例によって差し替えで再現)、逆に合体状態で違和感も破綻もないのは、合体ロボットシリーズではベストに入る完成度と思われる。

一応、ムーンアタックのポーズらしきものを目指してやらせてみたものの……
上半身の可動は、アニメスケール同様、襟袴状態の肩アーマーが邪魔をして腕が前方へ伸ばせないばかりか、合体ロボット版では腕の伸縮の影響で、肘関節も満足に曲げられない構造なので、とかく残念としか言いようがない。

アオシマ版の、下半身の可動範囲
下半身の可動範囲は、アオシマ版も開脚こそしないものの、前後への可動はそこそこがんばっている。惜しむらくは、完成体全体のバランスがギリギリなため、下半身を可動させた状態で立たせることが、まず不可能なことぐらいか。

アオシマ版に付属してくるザンボット3のオプション武器一覧
アオシマ版に付属してくる武器は、一番最初に書き記したように「無敵合体」と「超人合体」の、双方の武器を足したものである。
上から、ザンボットブロー、ザンボットカッター、謎の巨大ザンボマグナム、さらに謎のバスター発射マシン、ザンボットグラップ(2本)というせっとである。
ザンボットブローやザンボットカッターが両刃ではなく片刃なのは、穴空き固定手首に、持ち替えで握らせるためには仕方のないアレンジだと割り切ろう。
謎のザンボマグナムとバスター発射マシンには割り切れないが(笑)

ザンボットグラップを両手に握ったザンボット3
腕の前後可動はともかく、肘関節も保持力がほぼ皆無なので、握らせておくだけが精一杯といったところ。

二刀流で構える雄姿!
まぁ、せめてこうして、撮影アングルを斜めからにすれば、多少はカッコよく見えるかもしれないという切ない願いを込めて(笑)

ザンボットカッターを構えるザンボット3
いや、構えてないよね? これどう見ても、「剣を構えてます」ってポーズじゃないよね?

ザンボットブローを構えるザンボット3
これも、これが精一杯のポージング。ボケはともかく、これだけ武器が豊富であれば、完成させた子どもにとっても遊び甲斐があるというものであり、少なくとも、武器が少ないよりは多い方が、得した気分にはなれる。ブローの長さも、商品枠から考えれば、充分納得できるだけの尺はある。

謎の巨大ザンボマグナム
大河さんの世代で、このキットを買ったモデラーが、当時一斉に呆然とするしかなかったといえばこれ。謎のザンボマグナム。
本来であれば、合体収納している小型ロボットのザンボエースが使うべき銃器を、サイズの違う巨大主役ロボットに持たせてしまおうという発想は、同時期開発のアニメスケール大サイズのザンボット3でも試みられたが、今回はライフルとグレネードランチャーの2か所から、ご丁寧にもスプリングでの弾丸発射ギミックもついている。
社会現象化していたガンプラの主役のガンダムのメイン武装がビーム・ライフルだったから、こっちも……というアオシマの発想自体は容易に想像がつくのだが、鎧兜のロボットに現代式ライフル銃という組み合わせの図は、ちょっとどころかかなりシュール。

せっかくなので、ザンボット3に構えさせてみる
写真を一目見ればお分かりのように、このザンボット3の腕の保持力では、この巨大なザンボットマグナムは、構えるどころか、握って立っていることさえ困難な組み合わせ。
なのでこの写真では寝かせて撮影したが、要はこの時代は、ロボットプラモデルはまだまだ「丁寧に、奇麗にフィニッシュワークして飾っておく」のではなく「手に持って、ブンドドしながら、ガシガシ動かして遊ぶ物」だったわけで、それは他ならぬブームの立役者のガンプラにおいても、フラッグシップの一流モデラーの間では、固定ポーズやジオラマ作りなどでハイエンドな雰囲気を周囲に与えていたのかもしれないが、エンドユーザーの大半は、手に持ったままポージングさせて、動かしてナンボだったのだよと、それは当時のブーム渦中の減益だった大河さんだから言い切れる「当時の現実」だったりするので、関節はこの時期はまだ、保持力とか自立力とかよりも、とにかく動けば動いた奴の勝ち的な雰囲気は確実にあっただろう。
まぁ、ただこのサイズのザンボマグナムは、さすがにびっくりしたが(笑)

ザンボマグナム 3種
上から、アオシマアニメスケール大サイズ版、今回の合体ロボット版、そしてやはり今回の、バンダイスーパーミニプラ版、それぞれのザンボットマグナム。
こうしてならべてみると、当然アニメの設定画に一番忠実なのはバンダイ版だが、それに準じているのはアニメスケール大サイズ版だということが分かる。
大きさだけではなく、デザインも大幅に元と違う今回のアオシマ版は、何を目指してこうなったんだろうか(笑)

謎の、バスター発射マシン
中にスプリングが仕込んであり、先端にザンボット3の投擲武器、バスターをセットして黄色いスイッチをポチっと押すと、バスターがばびゅーんと飛んでいく、そんな感じの、このキットオリジナルのユニット。
まぁ70年代を子どもとして、玩具やプラモデルに囲まれて育った身としては分からなくもない。
あの頃は、テレビで飛ばされていたアイテムは、色んな理由でカタパルトをでっち上げられたりして、スプリングで飛ばされまくっていたのが70年代なのである。
ロケットパンチなんて、ポピーの超合金では標準装備で、テレビでの設定にないばかりか、およそそんな物騒な武器を装備しててはいけない昔話の主人公まで、超合金化されればロケットパンチが装備されていた時代だ。
だから、ザンボット3でも、バスターは手に持って敵に投げつける武器ゆえ、手の代わりにスプリングを仕込める発射装置を勝手にでっち上げて、そこから発射できる遊びで、テレビの中のバスターの発射を味わってくださいというコンセプト自体は、別にアオシマの持病でも芸風でもなく、一般的な玩具の仕様の範疇だった。
だから、この謎武器に対しても無粋なツッコミは入れるまい。
ただ、さすがに今年51歳になったおっさんが、性根の底まで少年に戻れることも出来ないので、今回はこのバスター謎発射マシンを、それらしい塗装でそれっぽく見せることも出来ず、成型色のまま、「いちおう組み立ててみました」どまりである。
うん、おおらかな時代であった。

アオシマから当時発売されていた、3種のザンボット3が結集!
今回入手できた3種のアオシマ版ザンボット3を一通り見てみても、アオシマがそもそも持っていた、「子どもの創造を育成するプラモデル作り」から「ガンプラブームを追いかけて、ティーンズ向け路線へ変更していくプロセス」が見て解っていただけたと思う。
これらの時期以降、アオシマは『イデオン』の1/600シリーズで、さらにティーンズ向けロボットプラモへ邁進していくのだが、そこにはバンダイ程には洗練された技術はないが、アオシマ独特の温かみのようなものは、受け継がれていった。
今回のキットでは、最初の紹介で書いた通り、成型色と実際の設定の色が全く異なるので、全面的に塗装をほどこした。
グレー部分は明灰白色、紺色はブルーFS15050、赤はキャラクターレッド、黄色はキャラクターイエロー、顔のマスクはミディアムブルーで、それぞれ正統派解釈で塗装してみた。
現代のバンダイ版と比較するのは酷かもしれないという想いもあったが、一方で、36年の月日を経てなお、「最新素材と最新技術を投入した最新プラモ」が捨て去ったものが、このアオシマ版にはあるという確信もあり、今回の比較記事になった。
さて、ここからはバンダイスーパーミニプラ版ザンボット3の解説に移ろう。

バンダイスーパーミニプラ版ザンボット3の完成状態
ここまでいろいろと、ツッコんだりボケたりして紹介してきたアオシマ版とは違い、さすが現代のバンダイ版は完璧超人仕様である。
各メカ状態でのシルエットもディテールも完璧。合体したロボット状態もどこにも破綻はない。関節可動もそこいらのガンプラ以上に動き、色分けも必要最小限のシール補完だけで、パーツの成型色で完璧。非の打ち所がないとしか言いようがない。
――商品をwebや写真で見る限りにおいては。

バンダイ版のサイドビューとバックビュー
今、あえて引っかかるような物言いをしたが、基本的には満点に近いザンボット3なのだが、ここまで書いてきた「もはやこれは“合体”とは呼べない“作業”だ」感と並行する形で、実際に手にしてみないと気づかされない欠点が、実はこのキットにはいくつかある。
しかしそれは、元々のクオリティが高いがゆえにつける難癖レベルであって、純粋に時代差を配慮しない比較で言うならば、もちろんこのキットに、アオシマ版に勝るところはあっても、劣るところはない。
しかし、だからこそ、気になるところ、気付いたところが引っかかるのである。
いわゆる「画竜点睛を欠く」というやつである。
実はバンダイという企業は、各事業部単位でしのぎを削り合って成り立っているという話は、これまでも何度かこの連載で言及してきたのだが、世界に誇る樹脂成型技術と模型技術を蓄えているのは、あくまでもホビー事業部であって、その他の部署、プライズ商品を扱うベンダー事業部であったり、このキャンディトイ事業部であったりは、ホビー事業部ほどの経験値を詰むだけの機会に恵まれてこなかった。
それゆえ、例えばこれまでにも、プライズ商品の「完全変形Vガンダム」「ウルトラマン対ゴモラ 大阪城決戦セット」等を初めとして、発想と着眼点は、既存のバンダイには絶対ないほどツボを突いてくるコンセプトにも拘わらず、実際に完成した商品そのものが、量産技術や生産能力の限界論で、惜しいレベルに終始している、という事例は、2000年代前半までは多かった。
ある意味で、ベンダー事業部やキャンディトイ事業部の商品が試金石となって、ホビー事業部の隆盛を支えているのかもしれないが、要するにホビー事業部以外の商品には「詰めが甘い」物が多いのである。
ここまでを前置きとして、バンダイ版のザンボット3の完成形を見ていこう。

自然なファイティングポーズも楽々こなす可動範囲と完成度
まずは、設計、コンセプト自体は大成功であろう。
二次元の嘘で誤魔化されていた70年代のスーパーロボットを、合体マシン単体と、合体後のロボット状態の再現を両立させつつ、フル可動のアクションフィギュアとしてもレベルが高い物にする。その上でさらに、36年前のアオシマ合体ロボット版への敬意をオマージュと商品仕様という形で盛り込んだまでは、隙のない完璧な仕事であった。

バンダイ版の脚の可動範囲。合体前提で、ここまで開脚する
ザンボット3に合体しても、可動範囲は通常のガンプラと同等かそれ以上で、基本的にアニメで構えていたポーズはほぼ再現できるスペックを誇っている。

脚の可動範囲の、前後と膝の可動
脚の可動は、ガンダム系にありがちな「箱型の腰を、アーマープレートによる囲いに置き換えることで、脚が自由に可動する」を取り入れて、かつてない大胆なポージングを可能にした。
また、アオシマやクローバーを初めとして、歴代の各メーカーを悩ませ苦しめた「ボディのアーマーのせいで、腕が前方へ可動させられない」だが、これに関してはもともとアニメが、大胆な割り切りで「二次元の嘘」を貫いていたのだ。

アニメ版のザンボット3の描写より。肩アーマーがまるでゴム製のように描かれている
なのでバンダイは、超合金魂あたりから、ザンボット3をフル可動で商品化する時は、一体型のアーマーの、肩の部分に分割ラインを設けて、いわばガンダム等と同じ構造に置き換えて、腕が自由に前方に上げられる仕様に割り切ることにした。それは今回のスーパーミニプラ版ザンボット3でも活かされている。

肩アーマーを分割したことで、自在に腕が上方へ向かってあげられるようになった
しかし、この分割方式は、決してガンダムのスカートのような、現代のフィギュア化優先の歴史改変とも言い切れず、アニメ本編でもよく観ていると、肩アーマーがボディ部分と肩部分で分割されている前提の作画も見受けられるので、この肩アーマー分割方式は、今後のザンボット3立体化では、スタンダードなデザイン解釈になっていってもよいと思う(もしくは、バンダイが一時期ライディーンやゲッターロボ等のスーパーロボットのプラモデル化商品「メカニックコレクション」でやってみたように、ボディアーマー全体を、ゴムや軟質素材で成型するという選択肢もあるが)。

アニメのオープニングより。バスターを構えるザンボット3の肩アーマーは、完全に回転可動している
なので、古参老害オタク代表(笑)の大河さんも、このザンボット3の肩アーマー分割には、原作原理主義者として賛成の意を表する。その他、スカートの分割や肘の曲がる軸の方向の問題(本来は、前腕の凸モールドを前面に出しながら、腕が前に向かって曲げられなければいけない)等、無茶を望んでも仕方がない部分に関しては、このバンダイ版が非常に高度に「無茶と道理」の折衷を見せてくれていることも確かだ。
まだ誉めよう(笑)
スーパーロボットとしてのザンボット3の特徴やセールスポイントは、実は「手先」にあると言い切ってもいい。
基本的にバスター以外の基本武装は、殆どがザンボットグラップをはじめとした刀剣だ。特にザンボットグラップは、アジアの武闘武器「サイ」をモチーフにしているだけに、ザンボット3が逆手に構えるシーンも多く、その際は、両手の指を駆使してサイ状の武器を使いこなしていた。
このバンダイ版では、アオシマ版が「両刃ではプラモデルに握らせることが出来ないから」で妥協した部分も含めて、ザンボット3が使いこなした刀剣武器を全て揃えてある。

バンダイ版の武装。上からザンボットカッター、ザンボットブロー、ザンボットグラップ2本
そして、これらの武器を巧みに使いこなす様を再現すべく、手首の方にもバンダイ最新の設計思想が注ぎ込まれている。
ガンプラ1/100のマスターグレードシリーズなどでは既におなじみだが、このザンボット3でも、手首はまず、親指可動の手のひらまでが共通で、後は平手やグリップの握り手など、多彩な表情の4本指パーツが複数用意されていて、それらと刀剣武器の組み合わせで、様々な「ザンボット3らしいファイティングポーズ」を再現することが可能なのだ。

用意されている手首の中には、単独の、力強い握り拳の物も含まれている
肩の可動化と肘の180度近い可動範囲、そして多彩な手首パーツによって、およそファンが期待するザンボット3のポーズのほとんどは決めることが出来るだろう。

ザンボットカッターを振り下ろすザンボット3

ザンボットブローを手にして、懐かしのアオシマ1/460アニメスケールのパッケージのポーズも

サイの逆手持ち二刀流という、ザンボット3独特の戦闘態勢
また、共通の手首パーツのジョイントが、袖口に対して直角まで曲がるため、平手指を装着すれば、肘の180度可動と合せて、既存のどのザンボット3フィギュアよりもアニメ本編に準じた、「正しいムーンアタックのポーズ」がとれるところが、この商品最大の売りでもあるだろう。

必殺のムーンアタックのポーズも、このとおり!

オープニングでは、上のポーズの後、こうして拳を突き出してムーンアタックを発射していた
これはもう、下半身の可動範囲とあわせれば、究極の「ザンボット3のアクションフィギュア」と言い切ってもよいレベルに達している。
――ただし、設計としては。
ここからは、少しこのバンダイ版への酷評を書き連ねたいと思う。
確かにこのキット。設計段階までなら、無敵超人ならぬ完璧超人の神キットなのだが、大きく分けて三つの問題点が、その完成度に無粋な水を差している。
一つは、ここまででも書いた「合体ロボット最大の楽しみの“合体”が“差し替え作業”になっていること」だが、では後の二つはというと、まず一つ目は成型生産の悪さからくる、パーツ分解率の高さである。
マニア用語で「信じられないほどにポロリ率が高い」と言えば分かってもらえ安いか。
webでもあちこちでこの意見を見かけ、個体差ではなく設計段階での問題だと言い切れるのは、すぐ上でも書いた「手首の指パーツ」等がその代表例だ。
武器を持たせようにも、保持するための指が丸ごとぽろぽろすぐ落ちるので、ストレスが溜まることおびただしい。
筆者は今回、再現画像作成のため、キットを2つ用意して、3機のマシン状態とザンボット3状態で、それぞれ固定で組み上げたが、こと手首パーツに関しては、全ての指を接着状態で揃えたくて、思わずザンブルだけ5個買いそうになったほど。

正義を信じて、戦え、ザンボット3!
そしてポロリはそれだけではなかった。元々接着剤不要のスナップキットだと信用して購入して組み立てた人の殆どが、レゴンがすぐ外れ落ちたり、肘関節がすっぽ抜けたりの連続で悲鳴を上げていて、このポロリ率の高さは、悪名高いRGガンダム以上のものがある。
なので今回筆者は、この連載でバンダイ版の合体プロセスを撮影できない前提で、買った2つを、それぞれ3つのメカとザンボット3との固定で組み上げて、可動やギミックに関わらないパーツ類は、全て接着剤で接着固定する解決策を選んだのである。
それでも、ザンボエースの足首や肩、ザンボット3の指や肘間接などの、ポロリや抜け落ちは多く、武器を用いた撮影では本当に苦労させられた。
これは商品の、基本コンセプトや設計段階のミスではなく、明確に、商品を生産ラインに乗せる段階での、最終チェックの経験値不足から来たものであると思われる。
「スナップフィットと水性塗料は信じない」80年代派の筆者ですら、基本接着前提でここまで困らされたのだ。
イマドキのガンプラのスナップフィットに慣らされたユーザーは、さぞかし相当困惑させられただろうと推測できる。
そして「三つ目の問題点」。
これも、最初の方で少し指摘したが、色分けに、最後の最後で致命的なミスがあること。
いや、80年代全塗装派だった身から言わせてもらえば、近年のガンプラや、このキットの色分け仕様は驚愕物で、文句を付けたら罰があたるぐらいは本気で思っている。
ザンボエースの頭部の色分けパーツ分割など神憑っているし、特にザンボエースとザンボット3のフェイスパーツなどは、目とくまどりが彩色済みの物と無彩色状態と、両方用意されているなど、かゆいところまで手が届く仕様には驚かされるばかり。
それに、ガンプラでいえば、まだまだHGUCなどでは、細かい「バーニアノズルの裏の赤」だの「ダクトの内側の黄色」など、シール補完でも追い付かない商品も多く、文句を言い始めたらキリがないことも承知の上だ。
しかし、このザンボット3の色分けにおいては、どうも邪推かもしれないが、「技術上仕方なく色分けがされなかった」のではなく、「元のアニメ設定の色分けを、前もってしっかり確認していなかったのではないか」もしくは「イマドキのザクやガンダムのように、プラモデルを作る都合上、彩色設定が変えられたのではないか?」とまで思える部分が一か所だけ存在するのだ。
先に言及しておくと、部分塗装でこのキットをリカバリーしようと思った時に塗装すべきは、まずはザンバード後部のザンボエース頭部部分のイエローと紺であり、また、同じ色のパーツが他にないゆえに省かれた「顔のマスクのミディアムブルー」である。
これらはまぁ、さすがにバンダイが認識してないというわけがないはずで、単純にコストの問題で省かれただけだと思いたい(……としても、わざわざザンボット3のマスクで、目の部分だけ塗ったパーツを別に用意するぐらいなら、ついでにミディアムブルーも塗っておいてくれればいいのに、と思いはしたが)。
しかし、それらの事例とは違う問題が存在する。パッと見にはとても小さく、しかし拘るマニアにとっては大きな違和感となったのは、ザンボット3の頭部、三日月の紋章に隠れてチェックしづらい部分に走る「紺色のライン」なのである。
説明するよりも、百聞は一見に如かず、まずは放映当時のレコードジャケットや、オープニングでの作画を見てもらいたい。

ザンボット3の、頭部の三日月から、耳にかけての紺のラインに注目
特に右上のカットで明確なように、実はザンボット3頭部には、両サイドの耳から、額にかけて、内蔵していたザンボエースの頭部のラインの名残として、紺色のラインが走っていなければいけないはずなのである。
ところが、今回のキットでは、このラインの存在自体が無視されて色分けがされている。
確かに色分けが難しい個所ではあるが、もっと難易度が高いザンボエースの頭部の色分けを、あそこまで緻密にやっておいて、それよりひとまわりは大きいザンボット3の頭部で同じことが出来ないという理屈がまず成り立たない。
しかも、問題はこのキットの色分けに留まらない。
これが、どこがどう問題なのかというと、最大の問題は「どうも、この紺のラインが省かれているのは、このキットのコストや固有の問題ではなく、近年の『ザンボット3の表現』で、一律の改変なのかもしれない」ということである。

超合金魂やDVDパッケージ等、近年のザンボット3関連の商品の頭部には、紺色のラインがない
下のセル画はともかく、超合金魂とDVD-BOXパッケージイラストのザンボット3は、明確に頭部の紺色のラインが省かれて公式化している。
これが何を意味するものなのかまでは、筆者にも分からない(分かってたまるか(笑))。
しかしどうも「解釈」の次元なのかどうか、イマドキの新作では、ザンボット3の頭部の紺色ラインが省かれている物も多いらしいということまでは分かった。
分かってどうする?
簡単だ。
筆者の場合は、エンドユーザーの権利と自由を以て、この紺色ラインを塗り足せばいい、それだけのことである。

……というわけで、頭部の紺色ラインを塗り足した、再現用のザンボット3
その他の塗装箇所とレシピとしては。
ザンボエース
シール処理だった両耳をモンザレッドで塗装。
ザンバード
ザンボットの頭部になる後部パーツが赤一色だったので、トサカをキャラクターイエローで、両耳部分をブルーFS15050で塗装。
ザンブル
ザンブル形態の左右のボディの隙間を埋めるプレートが紺色一色だったので、左右に接続するパーツに合せて、明灰白色とモンザレッドで塗り分けた。
ザンボット3頭部
フェイス部分は、目と隈取だけ塗装済みのF2パーツを使用したが、顔のグレーが一色だったので、マスク部分をミディアムブルーで塗り分けた。
また、紺色のラインを、アニメ設定どおり紺色で再現するためにここもブルーFS15050で塗装。
基本的には、アオシマ版とバンダイ版で、色味を統一していく手法をとった。

36年の時を経て今、並び立つアオシマ版(左)とバンダイ版(右)
こうして並べてみると、アオシマ版とバンダイ版ではスケールが違うが、足の長さとボリュームはほぼ同じで、腰から上でかなりの差が出ていることが分かる。
これはもう、当時からトップヘビーが作風だったアオシマと、イマドキの「頭部小さめ、脚長め」を正解としたがるバンダイとの、真逆の作風ゆえと思えば逆に面白い。
最後になるが。
すぐ上で筆者は「3つのメカとザンボット3用に、キットを2つ購入した」と書いたが、この商品は個別ばら売りしているといっても、基本的にネットで購入する時はセット売りが基本である。
そうなると、ザンボット3固定形態で作ったセットの方は、ザンボエースがまるまる一つ分余ってしまうことになる。
どうする?
どうしますか?(笑)
『無敵超人ザンボット3』を再現するのに、ザンボエースが余ったというのであれば、選択肢は一つしかないでしょう!
以前、ガンプラでも紹介した「クラッシュモデル」の手法を使って、しかも固定ポーズで「あのザンボエース」を作りましたですよ!

分かる人には分かる「あのザンボエース」

ガンダムファンにとっての「ラストシューティング」ぐらい意味と価値のあるポーズ

どんな再現画像が出来上がるかは、シミルボンでの連載でのお楽しみ!
……というわけで、前後編2回に渡って紹介してきたザンボット3の新旧キット紹介。
どこからか「『無敵超人』をやったなら、『無敵鋼人』もやらねばダメだろう」と、聞こえてまいりました!
というわけで「ガンプラという文字がタイトルに付くのに、ここ数ヶ月全くガンプラそのものを取り上げていない不届き連載」ですが、あともう少し、もう数回だけ、ガンプラ以外に割かせてください!
まずは、次回からは2回に分けて『無敵鋼人ダイターン3』の、アオシマ旧キットや最新フィギュア等を紹介したいと思います。
まぁある意味、80年代のかーちゃん達からしてみたらPCエンジンもメガドライブも「ファミコン」だったようなもんで、この時代のロボットプラモは、どれもみんな「ガンプラ」だよね!……という、あからさまに開き直った、強引な引きで次回へ!
(取材協力 青島文化教材社)
市川大河公式サイト