松田優作
松田優作といえば、昭和を代表する俳優の1人ですね。1973年のテレビドラマ「太陽にほえろ」のジーパン刑事や1979年の「探偵物語」で大人気となりました。

松田優作
映画では森田芳光監督の「家族ゲーム」や角川映画「蘇える金狼」などが代表作といえますが、17年という余りにも短い活動期間に、ゲスト出演、友情出演も含め、26本の映画に出演しています。
初の主演は映画出演4作目で1974年のコメディ・青春映画『「あばよダチ公」でした。

あばよダチ公
映画ではアウトロー的な役柄が多く、それが受けて人気俳優となっていきます。
そんな松田優作は、鈴木清順監督の作品に出演することは夢だったらしく、それが実現したのが1981年の「陽炎座」です。
陽炎座
鈴木清順監督といえば、「殺しの烙印」や「ツィゴイネルワイゼン」で知られる日本を代表する大監督の1人です。
「陽炎座」は、「ツィゴイネルワイゼン」に次ぐ43本目の作品に当たります。

鈴木清順
「ツィゴイネルワイゼン」の成功を受け、後に大正ロマン3部作と呼ばれるシリーズの2作目にあたる怪奇幻想譚「陽炎座」。原作は泉鏡花です。
謎の女とある日知り合った新派の劇作家が、女を追いかけていくうちに不可思議な世界にはまり込んでいくのですが、映像でしか表現できない内容となっています。
公開当時「フィルム歌舞伎」と呼ばれた本作品は、華麗で時として不気味。妖しげな魅力を備えた映像美は、これぞ映画!と言いたくなります。
念願かなって鈴木清順監督作品に主演した松田優作はさすがに熱演しています。素晴らしいです。松田優作の新境地を開かせた作品となっています。
ですが、この映画は相手役の大楠道代を異常なほどに綺麗に見せるための映画となっているんですよね。

大楠道代
大楠道代は当時34歳。脂が乗っているというか、女盛りとでもいうのか、とにかく魅力的。
大楠道代の美しさとも相まって「陽炎座」は鈴木清順としか言いようのない、美意識に貫かれた作品です。
あらすじ
ダイジェスト版をご覧ください。
ストーリーは分かりにくいですが、全体の独特な雰囲気は伝わるかと思います。
それでは、あらすじです。
主人公の松崎春孤を松田優作が、謎めいた女性 品子を大楠道代が演じています。
1926年、新派の劇作家、松崎春狐(松田優作)が、妖しげで美しい女性、品子(大楠道代)と出会うところから物語は始まります。

品子:大楠道代
品子との奇妙な出会いが三度重なったことを、松崎はパトロンの玉脇(中村嘉葎雄)に打ち明けます。

松崎春孤:松田優作 品子:大楠道代
驚いたことに、玉脇の邸宅は松碕が品子と会った部屋とソックリなのでした。もしかすると、品子は玉協の妻なのではないかと松崎は考え恐れます。
それから数日後、松崎はイネ(楠田枝里子)という女性と出会います。イネは品子とソックリなのでした。

イネ:楠田枝里子
イネは「玉脇の家内です」と告げるのですが、松崎と出会う直前に息を引きとっていました。
松崎の下宿の女主人みお(加賀まりこ)は、玉脇はドイツ留学中にイレーネという女性と一緒になったものの、病気で入院してしまい玉脇は品子を後添いにしたと言います。イレーネは日本に来てイネになりきろうとしていたのだと。

イネ:楠田枝里子
そこへ、品子から手紙が届きます。
「金沢、夕月楼にてお待ち申し候。三度びお会いして、四度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません。それでもお会いしたいのです」松崎は金沢に向かいます。
すると偶然車中で玉脇に出会います。玉脇も亭主持ちの女と若い愛人の心中を見に金沢へ行くと言うのです。
金沢では舟に乗っている品子と死んだはずのイネを見かけたものの、なかなか品子に会うことが出来ません。やっと会えたかと思えば、手紙を出した覚えはないと品子は言います。
一方、玉脇は松崎に心中することをせまります。何とか玉脇の元から逃れた松崎の前にアナーキストの和田(原田芳雄)が現れます。

松崎春孤:松田優作 品子:大楠道代
和田に連れられて怪しげな人形の会に参加することになった松崎。人形の裏にある穴から中を覗いた松崎は衝撃を受けます。人妻と若い愛人が背中合わせに座っており、そこは死後の世界だったのです。

品子:大楠道代
金沢を逃げ出した松崎は芝居小屋に辿り着きます。
舞台で品子、イネ、玉脇の縺れた糸がほどかれようとした途端に小屋は崩壊してしまいます。それは愛憎の念によるものでした。

品子:大楠道代
東京に戻った松崎のもとに品子から手紙が届いていました。
「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頬みそめてき」。
手紙を読み終えた松崎は、夢が現実を変えたんだと呟くのでした。
「陽炎座」は、1981年キネマ旬報ベストテンで第3位となったほか、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞(中村嘉葎雄)、優秀脚本賞、優秀撮影賞、優秀照明賞等受賞など様々な映画賞を受賞しています。