1975年公開の、人喰いザメ対人間の戦いを描いた傑作映画 『ジョーズ』。当時子供だった我々ミドルエッジ世代の脳裏に、「海ってコワい!」と強烈に刷り込んでくれた本作の大ヒットは、そのものズバリなタイトルの『シャーク!』や、『シャークトレジャー』などなど、当然その後数々のフォロワー映画を生み出すことになった。
当時の観客も、皆『ジョーズ』のあの恐怖を期待して見に行ったのだが、当然あれほどの予算とクオリティを望めるはずもなく、本家の『ジョーズ2』の登場までガッカリの連続を味わうことに・・・。
「もっと強烈な動物パニック映画が見たい!」そんな観客の心の声を反映してか、70年代後半のこの時期にドッと日本の映画興行界に溢れだしたのが、サメ以外が襲ってくるB級動物パニック映画の数々だったのだ!
例えばクマ、巨大グモ、アリ、は虫類、犬、シャチ、ハチ、あげくの果てには凶暴化したミミズまで!
とりあえず使える生き物は手当たり次第に使うその商売根性こそ、正に70年代の映画興行に満ち溢れていたエネルギーそのものだと言えるだろう。
そこで今回は、そんな動物パニック映画の中でも『ジョーズ』並に期待された大作?映画『テンタクルズ』のコミカライズ版を紹介することにしよう。

『テンタクルズ』公開当時の新聞広告
『ジョーズ』ほどの社会現象を巻き起こした話題作であれば、ミドルエッジ世代の子供たちでも親に映画館へ連れて行ってもらえたのだが、さすがにこれらB級動物パニック映画は親も躊躇する内容!鑑賞するには後年のテレビ放送を待たねばならなかった、我々ミドルエッジ世代の渇望を癒してくれたのがこのコミカライズ版という訳だが、果たして気になるその内容とは?
映画『テンタクルズ」』とは?

日本版のシングルレコード!
1977年の6月に、日本でも大々的に宣伝されて公開された本作。実際かなりの大作感を観客に与える様な宣伝展開がされており、当時小学生だった自分も夕方のテレビで宣伝スポットが流れていたのを覚えているほどだ。子供心にも確かに物凄く怖かったし、『キングコング』並みに金のかかった大作映画に見えたのも事実の本作。

日本版ポスターデザイン
更に当時の観客の想像力を刺激しまくったのが、『スターウォーズ帝国の逆襲』のポスターでも有名な伝説のイラストレーター、生賴範義先生の手によるド迫力のポスター!映画の実際の内容の100倍は面白そうなそのポスターデザインに、ミドルエッジ世代の子供たちは皆魅了され、更には心に恐怖のトラウマを植え付けられてしまったのだった。

本編より巨大ダコの登場シーン
『テンタクルズ』ストーリー
カリフォルニア湾岸で、赤ん坊や作業員などが次々と失踪。警察の捜査は難航するが、やがてベテラン記者が海底工事との関連性に気づく。工事会社の社長の依頼を受けて調査に乗り出した海洋学者は海底で巨大なタコと遭遇することに……。
『テンタクルズ』コミカライズ版概略

掲載誌表紙
このコミカライズ版が掲載されたのは、『月刊少年チャンピオン』の1977年7月号。作者はこの後、映画コミカライズ史に残る名作『惑星大戦争』を描かれる居村真二先生。全40ページにまとめられた本作は、映画の内容を主人公とシャチとの友情物語に絞り込み、映画では暗すぎて殆どその姿が分からない巨大ダコも堂々と登場するなど、冗談抜きで映画の100倍は素晴らしい出来となっている。
『テンタクルズ』コミカライズ版内容紹介

本編の扉絵

最初の犠牲者は乳母車の中の赤ちゃん!

調査に出た主人公の前に現れたのは?

タコが凶暴化した原因が判明!
海の近辺で次々と謎の失踪を遂げる人々。海洋学者のウィルが海中調査で目にした物は、その犯人が巨大なタコであることを裏付ける数々の証拠だった。

ついに巨大ダコが出現!
やはり本作の大きな見所は、映画本編ではあまりにスクリーンが暗くて、その姿が良く確認できなかった巨大ダコが、堂々と登場する点だ!

妹が犠牲に!

実は、シャチと会話が出来る主人公!
当初は自分が飼育している2匹のシャチたちサマーとウィンターを、巨大ダコと闘わせる計画だった主人公のウィル。だが最後の決戦を前に、ウィルはシャチたちを海へ逃がして自由にする。こうして自分が犠牲となって巨大ダコを仕留めようとするウィルだったが、巨大ダコの想像以上の破壊力に絶体絶命の危機に陥ってしまう。

戻ってきたシャチたち!

2匹のシャチによって巨大ダコは倒されたのだった。

結局シャチの恩返しだった・・・。
最後に
いかがでしたか?
タイトルの『テンタクルズ』が軟体動物の「触手」のことだと知ったのも、実はこの映画のおかげだったという方も多いのではないだろうか?
最近でもブルーレイがリリースされるなど、何故か今だに根強い人気を誇るこの『テンタクルズ』。実際テレビでも何度か放送されており、当時映画館で見られなかったミドルエッジ世代にもやっと鑑賞の機会が訪れたのだが・・・。何と我々が目にしたのは、子供心にあれほど怖がっていた内容とはまるで別物!だが現在でもこれだけ需要があるということは、あの頃に脳内で繰り返し再生されていた「俺だけのテンタクルズ」を求めて、人はこの作品を見返さずにはいられないのだろう。ワイドテレビが普及した今、自分の部屋であのトラウマ作品をブルーレイの高画質で見る!果たしてこれ以上の贅沢があるだろうか?
いや、やはりミドルエッジ世代の楽しみ方として、こうした鑑賞の際にはコミカライズ版を手元に置いて読み返したくなる。どうか次回リリースの際には、是非このコミカライズ版の復刻版を封入特典として付けてくれ!と願って止まない。