絶望のなんたるかを思い知らされるゲーム『スプラッターハウス』

『スプラッターハウス』PCエンジン移植版パッケージ
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当時の時代背景
この当時、ホラーやスプラッター(残虐な直接的表現を取り入れたホラー)、あるいはオカルトを扱った映画などがブームを起こしており、これらでは特殊視覚効果の向上により、生々しい残酷表現を特徴としていました。中には余りに残酷な表現により、映画館内で気分が悪くなってしまう人も続出しました。そんな時代でした。
これらの映画は、後に「原点回帰型」の直接的な残酷表現を減らしてストーリーの盛り上がりで勝負する純粋なホラー映画と、過剰な残酷表現により一種のナンセンスさすらかもし出した「スナッフ・スプラッター映画」、またオカルト色を前面に出して残酷な表現は省いたオカルト映画へと分化していきます。その分岐点に当たる1980年代にこの作品はリリースされたのです。
1990年代後半からはこの映画界の分化に追従する形で、次第にホラーゲームなどのジャンルが確立されていきますが、この当時は一部残酷表現を特色とするゲームはあったものの、ホラー映画を題材とし、しかもアンチヒーロー的な主人公を据えたゲームと言う点で、この当時はなおの事、現在でも珍しい内容のゲームとなっています。
ストーリー
超心理学の権威として有名な人物だったウエスト博士は、「死体蘇生」をテーマに掲げて禁断の研究に没頭し続けた末に、
その副産物である異形の怪物に襲われて自ら命を落とし、彼の住んでいた館は怪物が徘徊する恐怖の館と化してしまった。
人々はその館を「スプラッターハウス」と呼び習わし、決して近づこうとはしなかった。
大学で超心理学を専攻していた主人公リックとその恋人ジェニファーは、その話に興味を持ってウェスト館の近くへとやってきたが、
折悪しく降り始めた豪雨に追われるようにして、館に足を踏み入れてしまう。
たちまち怪物たちの魔の手が伸び、リックはなす術もなく打ちのめされ、ジェニファーは館の奥へと連れ去られてしまった。
絶望と共に薄れ行く意識の中、何者かがリックに呼びかける。その声の主は「ヘルマスク」。
太古より覇者と共にありし伝説の仮面の精霊であり、身に付けし者に強大な力を授けてきた、人智を超えた存在である。
呼びかけに応じてヘルマスクを身につけ超人的な身体能力を得たリックは、忌まわしきスプラッターハウスの奥底へ足を踏み入れる。
ジェニファーを救うべく、長い長い、悪夢の道へと……。
ちなみに
超心理学とは「超常的な力や事象の存在を明らかにする」という、実在する学問です。
主に超能力の研究が主眼ですが、心霊現象などのオカルト的領域も含むので『心理学者なのに何故にオカルト研究?』というツッコミは無用なのです。
ゲームシステム等
本作は残機制・ライフ制併用の半任意スクロール方式の横スクロールアクションゲームです。
回復アイテムが存在しないかわりにステージクリアごとにライフが1回復します。スコアエクステンドも用意されています。
ライフは初期4~最大5。ライフが0になると戻り復活となりますが、即死要素はありません。
一部を除く各ステージは複数エリアから構成され、中にはステージ道中のルート分岐が存在するステージもあります。なお、ステージのスタートエリアとボス出現エリアはルート分岐があるステージでも共通です。
永久パターン防止措置があり、長時間画面内に留まっていると画面左側から「触れるとダメージを受ける紫色の霧」が迫ってきます。ボス戦では、飛び越すことがほぼ不可能な「青色の塊」が画面右端からゆっくりと迫って来るようになっています。
プレイヤーが操作できるのは8方向レバー、ジャンプと攻撃の2ボタンです。攻撃はプレイヤーの状況によりパンチ・キック、またジャンプ中にコマンド入力でスライディングキックができます。
更に壁に設置された槍や床に落ちている鉈、石、スパナ、斧、角材、散弾銃など、場所ごとのシチュエーションに合うような豊富な種類の武器も用意されています。(槍、石、スパナは投擲武器であり1発限り。ショットガンには弾数制限があります。)
ただし、これらの武器は温存しても拾ったエリア内限定で、エリア突破時にその場に置いていくことになります。エリアやステージをまたいだ持ち越しはできず、所持した状態でミスした場合も再スタート時は丸腰になります。
実際のプレイ動画
圧倒的絶望感を思い知らされるストーリー内容
本作はACTとして名作であると同時に、「欝ゲーの代名詞」とも言える作品でもあります。
特にプレイヤーに衝撃を与えたのが、ステージ5のボス戦からの展開でした。
ネタバレになってしまうのでこれからストーリーを楽しみたい方はご注意ください。
※ 以下ネタバレ注意
群がる怪物を薙ぎ倒し、ようやくジェニファーと再会したリック。
しかし時すでに遅く、彼女は異形の怪物に作り変えられ、ステージ5のボスとして襲い掛かってくる。時折、人間の姿に戻って助けを求めるジェニファー、その姿に困惑するリック……。
人外の肉体と化した彼女を救う術があるはずもなく、リックを待ち受けていたのは、最愛の人を救うべく振るってきたその拳で、救うべき最愛の人を葬り去らなければならないという、あまりに皮肉で、筆舌に尽くし難い、凄惨な悲劇であった。
決着が付いた後、ジェニファーはリックの腕に抱かれながら別れの言葉を遺し、塵となって消え去ってしまう。悲しみに暮れるリックを挑発するかのような怪物たちの態度に、 彼の怒りは頂点に達する。
復讐の念に駆られたリックは館の最深部へと突き進み、ウェスト館に蔓延る怪物を生み出す魔性の源「マザー」…
そして、協力する振りをして自分を利用してきたヘルマスクが乗り移った異形の怪物「ヘルカオス」を、激しい怒り、深い悲しみ、そして、ありったけの憎悪を込めて叩き潰したのであった。
最終的に全ての怪物を館と共に滅ぼし、ヘルマスクも砕け散り呪いから開放される。
しかし、ジェニファーを喪った事実は変わらない……今までの戦いはいったい何だったのか……。
炎上し崩壊する館を背に呆然と立ち尽くすリックの姿に物悲しいBGMがシンクロされ、悲壮感と寂寥感が漂うエンディングを迎える。
スタッフロールが終わると共に画面がゆっくりと下方へスクロールし、暗転したバックに砕け散ったヘルマスクが散らばる画像が映し出される。と突如、コナゴナになったはずのヘルマスクが元通りに復活。リック(と、それまでリックに感情移入しつつプレイしてきたプレイヤー)を嘲り笑うかのような高笑いを響き渡らせる。そしてENDマークと共にブラックアウト…。
先に進むほど絶望感に押しつぶされる道のりとその果てに待ち受ける結末は、前述の通りの巧みな演出と相まって、リックを実際に操作してきたプレイヤーの手と心に深く刻み込まれる。
ホラー映画ファンの心を掴んだ演出

WindowsPC向け移植版のパッケージ
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往年のホラー映画的エッセンスを取り込んだ恐怖演出が前面に押し出されていた前半戦に対して、終盤は恋人を奪われたリックの怒りと憎悪の復讐劇へと転換していき、自らの暴力をもって敵を叩きのめしてゆくというバイオレンス面が強調され、それまでの雰囲気がガラリと一変します。
該当区間で攻撃アイテムが一切出現しない措置や、ステージ6BGMのドスの効いた曲調も、それをより強調しています。
ステージ6のザコキャラは赤子の姿をした怪物の幼生体のみであり、心臓の形状をした館を支える魔力の源であるボスの名称は「マザー」、更にその舞台の名は「胎内洞」。
『胎内洞を進み、群がる怪物の赤子やその母体を、己の五体を使った暴力を振るって完膚なきまでに叩き潰す』というステージ構成と演出の流れが背徳的な趣を醸しており、これがエンディングまでの雰囲気をより一層引き立てる効果的なスパイスとなっています。
本作の演出の特に優れた点として、ファンから賞賛されている部分です。
問題点
ここまでの記述からわかるように、全編にわたって徹底した残虐表現と暴力描写が施されており、これまでのナムコ作品の王道であった、カラフルでポップな雰囲気など微塵もありません。
そこら中損傷した腐乱死体や白骨死体だらけだったり生理的嫌悪を覚えるボスのグラフィックなど、そういったものが苦手な人や子どもがプレイするには刺激が強すぎる作品となっています。
元より、ホラー映画(特に本作の内容のようなスプラッター系)がブームとなっていた時代に作られているため、ホラー映画ファンのゲーマーを意識したのでしょう。
いずれにせよこうした残虐表現をふんだんに使ったゲームがゲーセンで一般向けに稼動していたという事実は、規制が今よりも緩かったことを考慮しても異例でした。後のナムコの作品群を見てもこうもバイオレンスな傾向に注力したソフトは皆無といっていいでしょう。
総評とまとめ
ゲームとしてはバランスがよく上達も目に見えて分かります。また個性的な敵やワナの配置、それらをかいくぐる楽しさもあり、プレイヤーの心理をくすぐる演出もあっていろんな意味で飽きさせません。台詞やムービーなどに一切頼らず、ゲームならではの手法で物語を演出しきったスタッフの手腕も素晴らしく、名作としての素質を十分に備えています。
当時のユーザーからも概ね好評を得ており、現在に至るまで変わらずに一定の評価があることからもそのことが伺えるでしょう。
海外でも高い評価を得ており、20年以上経った今でも多くのファンに愛されている作品です。
ただ、ストーリーに関しては「どうしようもなく救いがない」ため、「あの展開さえなければ…」と「むしろあそこまで印象深くさせるための演出は見事」という極端な意見に分かれます。
何はともあれ、『極めて悲劇的かつ救いようのない、絶望感溢れるカラー』を表現しきったこともまた、本作を名作たらしめている大きな要因なのでしょう。
おまけ 派生作品について

『スプラッターハウス わんぱくグラフィティ』パッケージ
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『スプラッターハウス わんぱくグラフィティ』(1989年 発売 ファミコン)
ご覧の通り『わんぱくグラフィティ』というサブタイトルがつき内容が大きくかけ離れた作品となっていますが、「主人公はリック・ヒロインはジェニファー」という点は共通しています。
残酷表現に対する規制が厳しかったことや、ハードそのものの制約もあったため、キャラクターとグラフィックがコミカルタッチになり、残虐描写が除かれてアクションも簡潔化された「オリジナルとは別物の低年齢層向け作品」になっていたため、原作ファンからは落胆されてしまいました。
とはいえ、ファミコンというハードとして見れば、おどろおどろしく不気味な雰囲気を醸し出すグラフィック描写やBGMの質は高水準で、単体のゲームとしては全く問題無く楽しめる出来でした。こちらは様々なホラー映画をパロディした演出が特徴で、ボスキャラの大部分が有名なホラー映画の怪物をパロったものとなっており、ホラー映画ファンならニヤリとする部分も多いことでしょう。

『Spllatterhouse』パッケージ
警告:年齢確認
『Spllatterhouse』(2010年 日本未発売 PS3/Xbox360)
アメリカ・北米でのみ発売された3D化によるフルリメイク作品です。内容的には、初代をベースに続編の要素も取り入れたリブート的な作品となっており、原作三部作とは関連のない独立した作品となっています。
特筆すべきはすさまじいまでのゴア表現で、発売された地域でももれなく最上級レベルのレーティング制限を受けています。日本での未発売はこれが影響している模様…。
ただ、肝心の内容があまりにもオリジナルからかけ離れていた上に出来がイマイチだったため、ファンからの評価は芳しくありませんでした。
特典として原作三部作が丸々収録されており、ゲームを進めるごとに開放されます。
本稿で記載しております情報は、ゲームカタログ@wikiから引用させていただきました。
出典元はコチラです。
スプラッターハウス - ゲームカタログ@Wiki ~クソゲーから名作まで~ - アットウィキ