山岸凉子はその後『メタモルフォシス伝』『妖精王』といった連載と
怖い話やギリシャ神話に題材を取った精神的心理描写の短編で
「狂気もしくはその一歩手前を描かせたら右に出るものはいない」
作家として定評づけられました。
そして1980年
あの『日出処の天子』という、センセーショナルな作品を発表するに至ります。
『日出処の天子』 (第1巻)
日出処の天子 (第1巻) (白泉社文庫) | 山岸 凉子 |本 | 通販 | Amazon
評論家で翻訳家の山形浩生は、『日出処の天子』について
山岸凉子の描きたいことは歴史ではなく、歴史や歴史的人物という舞台を借りた
きわめて現実的な現代日本人のテーゼだと述べています。
「聖徳太子」として知られる人物の歴史的な行動は、この作品にはほとんど出てきません。
陰惨なほど美しい厩戸王子を突飛な設定の中で描きながらも
現代人にも共通する
人が持つ孤独と、愛を求める狂気に近い心情と、絶望とを
硬質な、でありながら流麗な線で描き出す。
少女マンガは、たった10年で
なんて遠いところまで来てしまったのでしょうか。
24年組は、他にも
青池保子、ささやななえこ、山田ミネコ、木原敏江、樹村みのり
といった作家が名を連ねています。
男の色気と硬派なストーリーと(女は色っぽくない) 青池保子
青池保子は1948(昭和23)年、下関市生まれ。
水野英子にあこがれてマンガ家を志し、水野英子に送った原稿がきっかけで
1963年プロデビューに至りました。
当初の所属は講談社でしたが、1973年秋田書店「月刊プリンセス」に移籍し
ロックスターでゲイの3人組『イブの息子たち』から頭角を表します。
女性のほとんど出てこない内容と
独特の馬面(笑)と肉体美とシュールな笑いを踏襲した『エロイカより愛をこめて』は
当時誰も描かなかった東西冷戦という硬派な展開と
脇役の少佐のキャラクターが受けて、大ヒットとなりました。
青池保子『エロイカより愛をこめて』14巻 秋田書店
エロイカより愛をこめて 14 - 青池保子(プリンセス・コミックス):電子書籍ストア - BOOK☆WALKER -
バンカラな男子たちに花束を 木原敏江
木原敏江(初期ペンネームは木原としえ)は1948(昭和23)年、東京都生まれ。
銀行に一度勤務したものの、1969年「別冊マーガレット」(集英社)でデビュー。
少女マンガのセオリー通り、明るくて前向きでドジな主人公をメインにしますが
1974年『銀河荘なの!』で
吸血鬼の「うるわしのおにいちゃんたち」を脇にすえて
明るく切ない話を描き始めた頃から、どんどん木原ワールドが作られます。
1976年『天まであがれ!』は、題材は新撰組。
時代や世相を背景にした「命の短い」青春時代を、バンカラな男子の群像にこめて描き
それは1977年の『摩利と新吾』で花開きます。
萩尾望都や竹宮惠子の「少年」とはまた違う、「学生」のにおいのする男子たちの話は
いつか必ず終わりの来る「青春」の持つ切なさに満ちていました。
中には「24年組」のカテゴリに入れられることをあまり歓迎しない方もおいでですが
このムーブメントによって、これらの作家はみな
自分の作風を大きく広げ、秀逸な作品とそれに賛同するファンを獲得しており
そういう意味で「24年組」と言っていいのではと思います。