『ガンプラり歩き旅』その34 ~ゲルググに、当たりキットはなかったのか!?~

『ガンプラり歩き旅』その34 ~ゲルググに、当たりキットはなかったのか!?~

ガンプラ! あの熱きガンダムブーム。あの時代を生きた男子であれば、誰もが胸高鳴り、玩具屋や文房具屋を探し求め走ったガンプラを、今改めて当時のキットから現代キットまで発売年代順に、メカ単位での紹介をする大好評連載の第34回は、ゲルググの1/144 HGUCをご紹介!


左手の平手などもうまい演技付けになり、ポージングも及第点につけられるHGUCゲルググの、どこに「難あり」なのか?

しかし、ABSにはもう一つの、致命的かつ重大な弱点があったのである。
塗装ができない。
そう、ABS樹脂パーツは、それがアクリル系でもエナメル系でも、水性だとしても、プラモデル用の塗料を一切受け付けず、塗料が乗らないどころか、塗ってしまうと途端に材質が脆くなって、割れてしまったり破損してしまったりする代物なのである。

これは、元のパーツの色に満足できるかどうかの問題を超えていて。
要するに、塗料を乗せると割れる素材相手では、フィニッシングのトップコートさえ吹けないという、模型にあるまじき仕様になってしまうのである。

キットのビーム・ナギナタのビーム部分も、新設定どおりクリアイエローパーツで成型

その上で。
バンダイはときたま、“やらかして”くれるのである。
イマドキのガンプラは、塗装しなくても大まかな色分けは、あらかじめパーツの成型色で区分け出来ていることが当たり前になっている。
1/100 MGなど最近の物は、組み上げてトップコートと墨入れをするだけでも充分完成度が高い仕上がりになるし、1/144 HGUCではそこまで完璧ではなくても、シールのアシストによって、そこそこ色分けがパーツ状態で完成しているキットが多い。
しかし、バンダイはたまに、目的と手段を入れ替えて、プラモデルのパーツ分割やランナー配置のために、元デザインを変えたり、色分けを変更したりするのだ。
さすがに、アニメ登場の正規モビルスーツではそうそう起こりえないことだが、マイナーかつビジュアル設定が不鮮明な、モビルスーツバリエーションのパイロットオリジナルカラー機体や、G3ガンダムやシャア専用リックドム、キャスバル専用ガンダムなどでは、しばしば、デザイン当初のカラー設定と、後に発売されたプラモデルの成型色の区分けが異なっていたりということは結構ある。

肩の付けねやスカートも分割で可動するので、派手なポーズもびしっと決まる

では、この“やらかし”と、“ABSの弱点”が、一つのキットで同居すると、どういうことになるか、が、まさにこの、HGUC ゲルググで起きてしまったのだ。

HGUC ゲルググは、バンダイが一番「ABS御本尊様」に依存していた頃のキットである。
当然、関節部品関係は、ABSランナーパーツにまとめられて配置される。
この頃には、既にデザインリファインでは、『機動戦士ガンダム』のモビルスーツでも、関節部分はフレーム処理の非モノコック構造にリファインされていたため、見える部分での関節部分が、外装と異なるグレーで構成されているのは、そこまではまぁ「そういうデザインにリファインされたのだから」で納得もしよう。
イマドキ、関節も外装と同じ色で塗装したいなどと思う馬鹿も筆者ぐらいのものだ。
けど、このHGUC ゲルググでは、そもそもそんなに関節のパーツが多くないのに、ABSランナーを大きめの物を用意してしまったものだから「これもグレーってことで、同じランナーでいいんじゃない?」という安易な妥協で、スカートや脚部内部のバーニア類から、武器のビームライフル、果てはシールドの紫部分に至るまで、全てをこのABSランナーに放り込んでしまったのだ。

ビーム・ナギナタは片手で構えることも、両手でつかむこともできるが、拳の穴よりも少し細いので、握らせる位置決めが少し難しい

確かに、「1stガンダムの武器類は全部ミディアムブルーで塗りたい」と思うような懐古馬鹿も、筆者以外にそうそういないとは思うが、大事なのは「デザインがリファインされようが、塗装指示が変わろうが、ゲルググのビームライフルのスコープ部分はピンクであり、シールドは、シャア専用も量産型も、どちらの場合でも、紫色であったはずが、なぜか塗装不可能素材でグレーで統一」という、変えてはならない歴史上書き改変のような現象が、このHGUCでは発生しているのである。
これがまだ、塗装が容易なプラパーツで起きた出来事であれば「あぁまぁ、そこまでパーツ単位で色分けの完璧さを求めるのもおとなげないか」で済んだ話ではあるのだが、ことABSでコレをやられては、普通のユーザーはお手上げである。

シールドを背負った背面。バックパックがないモビル・スーツというのも、初期ならではの特殊な例だろう

それでも、まだそれなりに、ABSを使った分だけ可動が良くなっているというのであればまだしも、このHGUC ゲルググは、肘が特に二重関節になっているというわけではなく、それでいて、本来ポリキャップで処理すべき、胸部と腹部の接合や、左右スカートの接合を、どちらもABSのボールジョイントで繋げるなどという、破損も亀裂も怖くて動かせない上に、動かそうとしても動かないという、ここへ来て「あぁまたゲルググさん、やっちまいましたか」感が拭えないのだ。

それでもなんだかんだ言いつつ、歴代1/144のノーマルゲルググの中では一番出来が良いキットではあることは確かではあるこのHGUC版だが、結局同じシリーズ内でのドムを超えることは、ここでもままならず、なんか「毎回主人公に切迫するも、永遠に勝つことだけは許されないライバル」みたいな立ち位置から、未だに脱出しきれてないゲルググ。

本文を読んでいただければご理解いただける、難アリアリのビーム・ライフル。形状と武器持ち手とのフィット感、造形は満点なのだが……

そんなプラモデルの出来を反映してか、ガンダムファンの一部からは「一年戦争前後での亜種はともかく、他のガンダムシリーズでは、ザクやドムのデザイン的後継機は頻出するのに、ゲルググだけは見当たらない。せいぜいが『機動新世紀ガンダムX』(1996年)に登場したオクト・エイプぐらいだ」という意見も聞くが、筆者的にはむしろ、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)で、シャアが乗っていた“究極にして最後のシャア専用モビルスーツ”のサザビーこそが、シルエットをあちこち先鋭化させた、いわゆる「出渕風」の、シャア専用ゲルググのリファインではないかと思ってはいるのだが。

ここからは、量産型ゲルググの紹介。写真では背景との関係で暗く見えてしまうが、本体のグレーと深緑はアニメどおりの案配

そんなこんなで。「あともうちょっと」で残念な出来に仕上がってしまった、HGUC ゲルググだが。
塗装が出来ないという模型としての致命的欠点を抱えたABSの時代も終焉し、2010年代のガンプラは、さらなる新素材“ABSよりも柔らかく、耐久性が高く、接着も塗装も出来る”KPSなる代物を得て、今や忘れ去られたロストテクノロジー扱いになっているABSを多用してしまったHGUC ゲルググ。

まずはこのABS素材パーツに、なんとか塗装を施さなくてはならない。
それが出来なくては、本来紫のシールドも、ピンクのライフルスコープも、グレーのままになってしまう。
むしろ、そこをクリアさえすれば、ライフルをミディアムブルーにすることも、関節部分をシャアピンクや量産型のグレーにすることも不可能はないはずだ。

激戦の宇宙空間を、邁進する量産型ゲルググ!

というわけでネットをくまなく調べてみると、さすがガンプラモデラーの苦節の跡が多々あり、ガンプラ用の塗料やマテリアルを開発販売しているメーカーも考えたもので、ABSパーツの表面に予め塗っておけば、塗料を乗せてもパーツが破損しない、プライマーを出しているメーカーが何社かあった。
なので今回は、ガイアノーツ社のガイアマルチプライマーと、田宮のナイロン・PP用プライマーを併用。
今後ガンプラで、ABS樹脂パーツに塗装をしている場合でも、特に記載しなくても、これらのプライマーを使用していることが前提である。

ジオン最新鋭のゲルググは、惜しみなくア・バオア・クー決戦に投入されたが、その搭乗者の多くが学徒動員兵だった

さてさて、ようやくキットの本題だが。
いろいろ書いてきて、ABS依存の一番激しい時期の典型的キットのHGUC ゲルググだが。基本的な出来自体は決して悪くはない。
プロポーションは、腕パーツが少し胴体から離れて、肩アーマー内部から生えているようなシルエットにはなるが、破綻しているというレベルでもなく、ポージングさせれば気にならない程度。
そのポージングも、肘こそ二重関節ではないが、肩はしっかり引き出し式なので見栄えのするポーズは一通り取れるし、ボディを三分割にしたり、足の可動はスカートを分割するなどした解釈で、かなり可動範囲が広がっており悪くない(もっとも、それらの可動軸が全てABS依存なので、破損の恐れなどが多々残るのではあるが)。
さらに頭部は、分割ラインが上手くデザインのラインで分かれているため、合わせ目が発生しないと同時に、そこを外して内部を調整させることで、モノアイの可動もしっかり実現している辺りは、この時期のHGUCのノウハウのしっかりしているところだろう。

手のパーツも、左右の握り拳(ナギナタ用の穴空き)と、右手ライフル持ち用とは別に、左手の開き手首が入っているのはポイントが高いだろう。
だが、肝心の握り手が、ナギナタを握った時に、ナギナタの柄の直系サイズと穴の直系サイズが合っていなくて、ナギナタが手にフィットしないのは考えものか。
他に、webで言及されている難点としては「ゲルググは、シールドは主に左手で掴んで持っていたのに、HGUC版では前腕に直接マウントする持ち方しか出来ないのは、違和感がある」だが、それはそれで、左手で持っているかのようにポージングすればいいだろうと、筆者は思っているので問題はない。
むしろ、「この時期のHGUCにしては、肩アーマーや腕に合わせ目が目立ち、関節処理などが退行している」という指摘の方が的確だろうと思う。

専用スタンドを用いて、宇宙を飛ぶゲルググの状態で撮影

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