ボクシング界で蛇蝎の如く嫌われた名物プロモーター「ドン・キング」

ボクシング界で蛇蝎の如く嫌われた名物プロモーター「ドン・キング」

マイク・タイソンのプロモーターとして、一躍日本でも有名になったドン・キング。その半生を振り返ると、さまざまな罪を犯し、詐欺的な金儲けを繰り返していて、本当にろくでもない男なのですが、しかし、その行動力・胆力・弁才が超1流だったのは疑いようもありません。


マイク・タイソンのプロモーターとして知られていたドン・キング

伝説のヘビー級ボクサー・マイク・タイソン。彼のキャリアを語るうえで欠かせない人物が2人います。カス・ダマトと、そしてドン・キングです。

ダマトは、数々の世界王者を育て上げてきたボクシングの名トレーナー。1979年、知人の少年院ボクシング担当教官から、更生プログラムを受けていた当時13歳の不良少年・タイソンを紹介され、あまりの才能にほれ込み、コーチを買って出た逸話は有名です。
タイソンに自身が考案した独自のファイトスタイル「ピーカブー」(Peekaboo『いないいないばあ』の意味)を徹底的に教え込み、一流ファイターとして鍛え上げただけでなく、16歳で母親を失った彼の法的保護者も務めたダマト。そんな恩師に、タイソンも全幅の信頼を寄せていたようで、「オレにとってオヤジ以上の存在だった」「オレのバックボーンであり、初めて出会った心の許せる人間だった」との発言を残しています。

カス・ダマト

Cus D'Amato - Wikipedia

インパクト絶大な悪人顔で、さまざまな作品でパロディ化される

そのダマトが生前「グリズリーには近づいても、ヤツには近付くな」とタイソンに釘を刺していたのが、誰あろう、ドン・キングでした。逆立った白髪と口髭に蝶ネクタイ…。いかにも一癖ありそうなその風貌はインパクト絶大です。

ドン・キングとマイク・タイソン

Don King - 25 Things You Didn't Know About Mike Tyson | Complex

キャラ立ちしまくっているビジュアルがゆえに、これまで映画『ロッキー5』に登場した「ジョージ・ワシントン・デューク」や『範馬刃牙』に出てきた悪徳プロモーター・カイザーをはじめ、さまざまな作品でパロディ化されています。

ロッキー5のジョージ・ワシントン・デューク

過去に殺人事件も起こしている

そんな悪人面のドン・キングですが、実際、プロモーターとしてのやり口は本当に悪徳そのもの、というか、過去の経歴を調べてみると、言い訳できないレベルの完全なる悪人なのです。なぜなら、過去に人を2度も殺めているのだから。

キングはもともと、クリーブランドで違法賭博の集金人・違法ブックメーカーの胴元をやっていました。その時期に、彼に2回人を殺しています。

1度目の殺人は20代前半の時。キングの運営する賭博場に盗みに入ったとされる男を後ろから銃で撃ち殺します。しかし、これは正当殺人と見なされ、刑には服さなかったようです。

2回目の殺人は30代前半の時。被害者となる男は、キングに600ドルの借金がありました。男は薬物中毒で半ば病人のように痩せ細っており、大柄で恰幅の良いキングに太刀打ちなどできるはずもありません。にも関わらず、キングは男を銃で殴りつけ、起き上がろうとすれば蹴り上げ、容赦なく頭部を踏みつけたといいます。彼が病院で残した最後の言葉は「借金は返すよ、キング」だったとか。

金に対してとことんシビアであり、いざとなれば人の命など顧みない残忍で冷徹な男…。2つの事件からキングの人間性が垣間見えます。

見るからに、極悪そうです…。

ドン・キングのマグショット

bars 2 stars - king

しかし、キングは決して、ただの無知な乱暴者ではありませんでした。めっぽう頭の切れる人物でもあったのです。それは、もしかしたら、ゲットーに住む貧困層として育ちながらも、地元の名門ケース・ウェスタン・リザーブ大学へ進学するほどに、学力・思考力を研鑽した賜物なのかも知れませんし、同大学を中退した後に合法・非合法関わらずさまざまな職業に就く中で身につけた合理的問題解決力・実務家としての素養が、関係しているのかも知れません。あるいは、1951年から1966年までの間に、さまざまな罪で35回も逮捕された経験が、修羅場の中でこそ冴える狡猾さを身に付けさせたのかも知れません。

いずれにしても、第2級殺人の罪で懲役20年の刑が言い渡されていたのにも関わらず、幸運にも過失致死罪に減刑されて、3年11ヶ月でシャバに出てきたキングは、ある一つのアイデアを思いつきます。ボクシングで一儲けしよう、と。そして、そのために、“神様”モハメド・アリへの接触を試みたのです。

チャリティマッチへ、アリを呼ぶことに成功する

キングがアリとの関係をつくるために、考えたのが、チャリティマッチの開催です。地元の顔役で、有名人とも交流があったキングは、ロックシンガー ロイド・プライスの紹介で一度だけアリに会ったことがありました。そのツテを使い、クリーブランドの地元病院においてチャリティイベントの試合を企画し、そのエキシビジョンマッチに見事、アリを出場させたのです。

始末の悪いことに、キングには人を惹きつける魅力も備わっていました。プロモーター業を開始したかなり初期の頃より悪評まみれだったのに、タイソンをはじめ次々と1流ボクサーが契約を交わしたのは、キングと会うと、皆彼のことが好きになってしまうためです。
ロイド・プライスもキングのことが大好きだったがゆえに、この一件への協力を惜しまなかったのですが、彼には何の報いなく、逆にキング一人だけ私腹を肥やしていたといいます。この瞬間から、プロモータードン・キングのキャリアはスタートしました。

後にロイドは、自分がキングに利用されていただけだと気付いたようです。

Lloyd Price

Amazon | The Fantstic Lloyd Price + Sings The Million Sellers + 7(import) | Lloyd Price | R&B | 音楽 通販

キンシャサの戦いで世界的名声を得る

キングの名を一躍世に知らしめたのが、キンシャサの戦いです。当時世界中のプロモーターが実現したくてもできなかった、ゴールデンカード「元王者モハメド・アリvs現王者ジョージ・フォアマン」。それをまだ業界に参入して2年程度で、映像会社に雇われの身だったキングが実現できたのは、その弁舌・行動力・度胸・洞察力など、これまでの人生で蓄えてきたあらゆる能力を駆使したからに他ならないでしょう。

フォアマンには「アリを倒さなければ、皆、君を認めないだろう」とハッパをかけ、一方でアリには「君のチャンピオンベルトを取り戻すんだ」と口説き、さらには、出資者を求めて、ザイールの独裁者とつながる金融界の裏を牛耳る大物とも渡り合うなんて、彼以外、果たして誰ができるでしょうか?

大成功に終わったキンシャサの戦い

The Rumble in the Jungle - Wikipedia

今では信頼を失い、表舞台からは遠ざかっている

キンシャサ以降、キングの成功は目覚ましいものでした。彼は自分にとって利用価値のある選手と次々に契約を結んでいき、利用価値がなくなると、躊躇なく切り捨てていきました。キングにとって、優先されるべきはビジネスであり、契約選手との情ではなかったのです。もっと言えば、リング上でどんな戦いが繰り広げられるかとか、ボクサーがどんな思いでリングに上がっているかとかにも、まったく無関心だったのでしょう。すべては金。その一点に集中していたキングは、ある意味、純粋な人間でした。

しかし、周囲の人をチェスの駒のようにしか見ていない彼の事業が、長期繁栄するはずもなく、マネージャーやボクサーから100件以上の訴訟を起こされた挙句に、今ではすっかり表舞台から遠ざかり、影響力も失っているといいます。この因果応報な結末も含めて、なんとも骨太な絵になる人生だと言えるのではないでしょうか。

関連する投稿


イベンダー・ホリフィールド  圧倒的!!  無敵のクルーザー級時代。

イベンダー・ホリフィールド 圧倒的!! 無敵のクルーザー級時代。

悲劇のロスアンゼルスオリンピックの後、プロに転向。超タフなドワイト・ムハマド・カウィとの死闘を制しWBA世界クルーザー級チャンピオンとなり、WBA、WBC、IBF、3団体のタイトルの統一にも成功。すぐに「最強」の称号を得るため、マイク・タイソンが君臨するヘビー級への殴りこみを宣言した。


イベンダー・ホリフィールド  戦慄の忍耐力 オリンピック の悲劇  そしてヒーローに

イベンダー・ホリフィールド 戦慄の忍耐力 オリンピック の悲劇 そしてヒーローに

幼き日の聖書的体験。アメリカンフットボールとボクシングに熱中した少年時代。マイク・タイソンとの出会い。そしてオリンピックでの悲劇。


マイク・タイソン(55)、旅客機内で暴力事件を起こし訴訟沙汰に!過去の印象的なエピソードを振り返る!!

マイク・タイソン(55)、旅客機内で暴力事件を起こし訴訟沙汰に!過去の印象的なエピソードを振り返る!!

元プロボクサーのマイク・タイソン(55)がこのたび、旅客機内で他の乗客とトラブルを起こし暴力をふるったとして、被害者の男性が訴訟準備を行っていることが明らかとなりました。


たこ八郎  ボクシング狂時代  少年時代の失明を隠し 捨て身のノーガード戦法で日本チャンピオン、世界ランキング9位  傷だらけの栄光

たこ八郎 ボクシング狂時代 少年時代の失明を隠し 捨て身のノーガード戦法で日本チャンピオン、世界ランキング9位 傷だらけの栄光

学校は週休2日。公園から危険遊具撤去。体罰オール禁止。オッサンは子供をみただけで不審者。洗濯機の安全性も高まって、脱水が終わってもフタがなかなか開かないから、手を突っ込んで指が折れそうになることもない。少子高齢化の日本では、過去の中国の1人っ子政策のように、子供は安全に大事にソフトに育っていく。そんな時代だからこそ、たこ八郎のようにクジけずハードに生きていきたいモノです。


マイク・タイソン vs イベンダー・ホリフィールド  不遇の黒人たちがボクシングに活路を見出し、アメリカの過酷な環境が最高のボクサーを産んだ。

マイク・タイソン vs イベンダー・ホリフィールド 不遇の黒人たちがボクシングに活路を見出し、アメリカの過酷な環境が最高のボクサーを産んだ。

マイク・タイソン、イベンダー・ホリフィールド、リディック・ボウ・・・ 1980~90年代、アメリカのボクシングは最強で、無一文のボクサーが拳だけで数百億円を手に入れることができた。しかしボクサーはお金のためだけにリングに上がるのではない。彼らが欲しいのは、最強の証明。そして人間は考え方や生き方を変えて人生を変えることができるという証だった。


最新の投稿


「パックマン」「ゼビウス」などナムコット名作がブランケットに!ファミコン外箱を再現した「クラシックゲームブランケット」登場

「パックマン」「ゼビウス」などナムコット名作がブランケットに!ファミコン外箱を再現した「クラシックゲームブランケット」登場

株式会社KADOKAWA Game Linkageは、ナムコットブランドのファミコンソフト『パックマン』、『ゼビウス』、『ドルアーガの塔』の外箱をモチーフにした「クラシックゲームブランケット」3タイトルを2026年2月16日に発売します。両面印刷で外箱の表裏デザインを忠実に再現し、A5サイズ16ページの冊子も同梱。現在、予約受付中です。


病院も映画館も煙モクモク!?自由すぎる昭和の常識を徹底図解

病院も映画館も煙モクモク!?自由すぎる昭和の常識を徹底図解

日本文芸社は、「昭和100年」の節目に、書籍『眠れなくなるほど面白い 図解 昭和の話』を11月27日に発売しました。庶民文化研究家・町田忍氏監修のもと、「病院でもタバコOK」「消費税なし」「過激すぎるTV」など、令和の感覚ではありえない“自由すぎた昭和の本当の姿”を、図解と豊富な資料写真で紹介。世代を超えたコミュニケーションツールとしても楽しめる一冊です。


ビー・バップ・ハイスクール高校与太郎祭!仲村トオルも清水に降臨

ビー・バップ・ハイスクール高校与太郎祭!仲村トオルも清水に降臨

映画『ビー・バップ・ハイスクール』公開40周年記念イベント「清水 ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎祭」が、聖地・清水駅前銀座商店街で12/13・14に開催決定!初日は仲村トオルさん登壇のセレモニーを実施。学ラン・セーラー服でのコスプレOKエリアや、名シーンの聖地巡礼ツアー、映画全6作の上映会など、アツすぎる内容で、あの頃の青春がブッ返る!


プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

プロレス界の歴史が動く今こそ読むべき一冊! 『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』2025年12月18日(木)発売!

新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至氏による著書『ようこそ、プロレスの世界へ 棚橋弘至のプロレス観戦入門』が2025年12月18日にKADOKAWAより発売されます。引退が迫る棚橋氏が、26年の現役生活で培った視点から、プロレスの魅力、技の奥義、名勝負の裏側を徹底解説。ビギナーの素朴な疑問にも明快に答え、プロレス観戦をさらに面白くする「令和の観戦バイブル」です。


ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

ウルトラふろく200点以上を一挙収録!『学年誌 ウルトラふろく大全』発売

小学館クリエイティブは、ウルトラマンシリーズ60周年、『小学一年生』100周年の節目に『学年誌 ウルトラふろく大全』を11月28日に発売しました。『ウルトラQ』から『ウルトラマン80』までの学年誌・幼児誌のウルトラふろく200点以上を網羅的に掲載。組み立て済み写真や当時の記事も収録し、ふろく全盛時代の熱気を再現します。特典として、1970年の人気ふろく「ウルトラかいじゅう大パノラマ」を復刻し同梱。