1998年8月20日 準々決勝 PL学園対横浜
「平成の怪物」松坂大輔投手を擁した横浜高校は、1998年春のセンバツ高校野球を優勝し、ここまで公式戦38連勝というものすごい勝ちっぷりでした。
1998年春のセンバツでも両校は対戦 雪辱に燃えるPL学園

1998年春センバツ準決勝でPL学園に勝利した横浜
第70回選抜高校野球準決勝 横浜XPL学園 - YouTube
高校野球の歴史でも名将の中の名将、輝かしい実績を積み上げたPL学園中村監督の最後の大会、PL学園の選手たちはなんとしてもこの中村監督を優勝というかたちで勇退させたかったことでしょう。
そこに立ちはだかったのが、横浜の「平成の怪物」松坂大輔でした。
2-3という1点差で、破れています。

センバツ 9回PL学園攻撃 1点差で2塁打も出る
第70回選抜高校野球準決勝 横浜XPL学園 - YouTube

最後のバッターにも熱心に指導をする中村監督
第70回選抜高校野球準決勝 横浜XPL学園 - YouTube

主将・平石 「もう1回やって倒したい」と当時の強い思いを語る。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
この無念を晴らすために、「打倒松坂」を掲げ、松坂に勝つことだけをターゲットにしてきたPL学園。
そして夏の大会に出場、両者勝ち進み、1998年8月20日、ついに再び両者の戦いが始まります。
松坂を攻略したPL学園 しかしそれは長い1日の第一歩

先制点を取ったのはPL学園
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
最強の強豪相手に松坂の守備が一瞬乱れます。
送りバントを松坂がフィルダースチョイスしてしまいランナーを貯め、犠牲フライ。
松坂にとっては、26イニングぶりの失点となりました。

この回PL学園が3点を先取。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
松坂の球種が見破られていた。

「PLの頭脳」平石主将。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
松坂攻略のために、研究に研究を重ねた結果、PLの主将・平石は松坂の球種を見破ることに成功します。
キャッチャーの構えが、球種によって明らかに違うことを見破りました。
心理戦で序盤の横浜バッテリーを攻略。
当時は現在とは違い、相手のピッチャーの球種をバッターに伝えることはタブー視されてはいませんでした。
しかし、いくら見破っても、甲子園の大観衆の中では、バッターに伝えることはできません。
そこでとった作戦が、「心理戦」。
絶妙なタイミングで、「キャッチャーに向かって」何かを叫びました。
そうすることで、キャッチャーは、「何か知らないけど球種を読まれている!」と不安になります。
そこでバッテリーを揺さぶり、心理戦に持ち込みました。

ビジネスにも通じる?相手の「女房役」をかく乱。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
主将・平石の狙いは、「松坂が崩れないのであれば、キャッチャーを崩そう」というものでした。
よく高校生でここまで思いつくものだと感心します。
名将・中村監督の指導もあったのでしょう。
スポーツをやっている人はビジネスにも受けがいいのは世の常ですが、こういう技術を習得したスポーツマンなら、確かにビジネス戦略にも長けているのも納得できます。

横浜の監督も気づく。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
しかし、相手も半世紀にわたり横浜高校を率いてきた名将・渡辺監督。
球種を読まれていることに気づきます。
キャッチャーに、球種がばれているぞ!と修正させます。
高校生とは思えない、ハイレベルな心理戦です。
PLが松坂対策に向け練習してきた内容。
このあと、横浜のキャッチャー小山に2ランを打たれ、あっという間に1点差とされますが、球種を読まれたことに気づき修正した横浜のバッテリーを攻略し、再びPLが突き放します。
PLには、春のセンバツで横浜に敗北して以来、打倒松坂に向け猛練習を繰り返してきた自信がありました。
「松坂と互角に戦えるところまでは来た」という自信です。

猛特訓の内容。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
絶対的エースの在不在が力の差に。

横浜 同点に。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
絶対的エース、松坂を攻略して4点をもぎ取ったPLでしたが、PLには松坂ほどの絶対的エースがいませんでした。
すぐに横浜は、PLに追いつきます。
横浜が単なる「松坂だけの」チームではなく、総合力のあるチームだということがわかりますね。

横浜の力を作り上げた名将・渡辺監督
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
横浜の渡辺監督(2015年に勇退)は、1968年、23歳の時に横浜の監督に就任しました。
横浜高校をなんとか強豪にしたいと、結婚してすぐに新居に部員を住まわせたり、収入のほとんどを部活に使い、お子さんとともにパチンコ屋に行き、落ちている銀玉を拾ってパチンコを打ち、部員の食品と交換するなどの、壮絶な監督人生を送ったようです。
渡辺監督の半生の集大成・松坂大輔という絶対的エース。
このような苦労を家族とともにしてきた渡辺監督の半生の集大成が、松坂という絶対的エースを擁して、春・夏連覇を成し遂げることでした。
そこに立ちはだかる最強の相手が、PL学園でした。
9回を終わって、5-5の同点 延長戦へ。

終わりなき死闘
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
その後両チーム1点ずつを取り、決着がつかず、延長戦へ。
PLはキャッチャーが負傷し、また選手が熱中症で交替するなど、満身創痍。
横浜も松坂が連日の投球でヘロヘロの状態でした。
まさに「死闘」と呼ぶにふさわしい試合となりました。

ハアハア息をしながら打席に立つ4番・松坂。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
11回表、松坂がヒットを打ち、打線がつながりついに横浜が1点を勝ち越します。
ヘロヘロの松坂は、「この回を抑えれば」と思ったに違いありません。
11回裏、PLはヒットが出るもハーフスイングを三振に取られ、ツーアウト2塁。
ここで万事休すか、というところで、あの「PLの頭脳」主将・平石が策を取ります。

2塁ランナーがタイムを取る。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
スパイクシューズの紐のためにタイムを取るという異例の作戦。
4番バッターが三振に倒れ、緊張する5番バッターの表情を見た主将・平石は、なんとか流れを変えようとしました。
その策が当たり、ヒットで平石がホームイン。6-6となり、この死闘はさらに続きます。
4番・松坂の苦悩。
ヘロヘロの松坂でしたが、やはり怪物の怪物たる由縁。
猛練習の成果で、延長戦になってからむしろ球威はアップしていました。
そして、4番バッターとしての役割も果たします。
3打席連続ヒット。スコアリングポジションに駒を進めます。
しかし、これがさらに松坂を疲弊させます。
マウンドでは全力投球。打席ではランナーとしてダイヤモンドを駆け抜けるも、あと1本に泣き残塁。
そしてすぐさま次のマウンドへ。
まさに休む間もない松坂。
16回表に横浜1点勝ち越すも、裏でPLにまた追いつかれる。
両チームヘロヘロの中、試合は16回へ。
表に横浜はポテンヒットを皮切りに、1点を松坂にプレゼント。
勝ち越します。
しかしその時の松坂の表情は、もはや喜ぶことさえ忘れてしまったような表情でした。
そして、その裏、PLは松坂のワイルドピッチによりランナーを進め、決死のホームインで同点に追いつきます。
16回を終わって同点。
18回まで同点だと、引き分け再試合になります。
後に松坂は、13回あたりから再試合を意識した、と語っています。

16回裏PL 果敢な走塁で同点へ。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube

1点取れば1点取り返すきれいな並びのスコアボード
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
17回。
17回表、横浜の攻撃は4番、松坂から。しかしキャッチャーフライに倒れます。この時点で情報が入り、このまま18回まで同点なら、翌日13:00から再試合とのこと。
多くの人が再試合を予測したことでしょう。
続く5番小山も大きな当たりをレフトがナイスキャッチ。2アウト。
そして続く6番・柴。ショートゴロに倒れます・・・と、悪送球でセーフに。
「一緒に甲子園を目指そう」と言った親友の一振り。
7番、常盤。
チームのムードが引き分け再試合に傾きかけた頃、常盤は松坂に「絶対勝つからな。俺が打つ」と声をかけました。
常盤は松坂の親友で、「一緒に甲子園を目指そう」と松坂を誘った人物です。
そして常盤はその宣言通り、ホームランを打ちます。

スタンドへ入る常盤の打球
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
涙(らしきもの)をぬぐう松坂。

17回裏の登板 涙(?)をぬぐう松坂。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
そして、17回裏、親友の援護射撃で2点のリードをもらって登板する松坂。
本人は「汗だ」と言うこの何かをぬぐうシーン、おそらく、親友への感謝の涙でしょう。

最後のバッター 見逃し三振。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
17回裏のPLの反撃を抑え、最後のバッターを見逃し三振に打ち取り、3時間37分の死闘は幕を閉じました。
試合終了後のマスコミのインタビューにも、松坂は「もう明日は投げられません」と答えています。

横浜の応援団に礼をするPLの選手たち。
高校 野球 - 神様に選ばれた試合 高校野球100年記念sp 2015年8月2日 - YouTube
選手と一体となって応援してくれた敵側の横浜応援団の前で礼をするPLの選手たち。
よく、「高校野球は教育の一環」などとも言われますが、負けはしたが、ベストを尽くしきった。
ベストを尽くすためには、相手が必要。相手の存在、そしてそれに対しての感謝もあったのでしょう。
選手自身の教育のみならず、それを見ているテレビの前の人たちにさえ、このシーンは「教育」的な意味を持ったのではないでしょうか。
準決勝は大逆転、決勝戦はノーヒットノーラン。
翌日の準決勝は、松坂は疲労のため登板を回避します。
しかし、明徳義塾高校相手に0-6と大量リードされます。
横浜はその後、徐々に点を返し、9回は松坂が登板をして、その裏に大逆転、7-6で決勝に進出します。
決勝戦のドラマチックな展開は、良い記事がありますので、ぜひそちらをご覧ください。
【松坂大輔選手】平成の怪物・松坂が生まれた、あの熱い夏を振り返る。 - Middle Edge(ミドルエッジ)
松坂大輔、この男はやはり球界の功労者。

大リーグでの盟友 松井稼頭央との対戦も台無し・・・。
松坂大輔 2016 初登板 PV - YouTube
現在、松坂はソフトバンクに所属しています。
しかし、昨年(2016年)の試合登板はわずかに1試合。
しかもその内容はボロボロでした。
大リーグ時代の盟友、松井稼頭央との対戦をお膳立てしてもらったにもかかわらず、なんと初球をデッドボール。
周りからは、年棒の高さもあり、「給料泥棒」とさえ言われることもあります。
しかし、甲子園をわかせた度合いは、1985年のPL学園のKKコンビに次ぐようなくらいのものだったのではないでしょうか。
「今」という断面だけで見ると目を覆いたくなるようなものがありますが、総合的にみると、高校野球界、プロ野球界にした貢献度合いは非常に高いものがあると思います。
今後、松坂が再起するのか、そこにも注目を向けたいと思います。
PL学園の全盛期の記事はこちらもぜひ。
【7対29】1985年夏の甲子園で屈辱的敗戦の東海大山形【どんな試合だったのか】 - Middle Edge(ミドルエッジ)