TV番組「アンビリバボー」で扱われた『杉沢村』
青森県にあったとされる「杉沢村」を扱った都市伝説が2000年代前半に流行ったのを覚えているだろうか。
巷で噂となっていたこの都市伝説を、マスメディアであるテレビの人気番組「奇跡体験!アンビリバボー」が2000年8月24日の放送回で扱い、その知名度を飛躍的に上げた。
杉沢村伝説ともされる都市伝説の内容はこうだった。

「地図から消えた村 杉沢村の呪い」 [DVD]

近年でも「乃木坂46×最恐都市伝説」シリーズの第3弾として映像化されている。
また、2000年には田川幹太監督のオリジナルビデオ「杉沢村伝説 完全無削除 絶対恐怖版」も公開されている。
映像制作スタッフのメンバーが幻の村・杉沢村の詳細を知る少女と出会い、場所を知る事になり杉沢村のある山に潜入するというモキュメンタリー(架空の人物や団体、虚構の事件や出来事に基づいて作られるドキュメンタリー風表現手法)だった。
ストーリーテラーは桜金造が務めている。

怪談話の語り部でも有名な桜金造
アゴ勇とのコンビでスター誕生チャンピオン!怪談話の語り部としても活躍していた桜金造!松田優作との意外な関係もありました。 - Middle Edge(ミドルエッジ)
一方、「奇跡体験!アンビリバボー」内では、不明だった杉沢村の場所を特定すべく、スタッフが調査を重ねていた。
その時期に「村への道筋を示すキーワード」として、各メディア等で挙げられたものに以下の事柄がある。
・村へ向かう道路に「ここから先へ立ち入る者 命の保証はない」と書かれた看板がある。
・村の入口に朽ちた鳥居があり、その根元にドクロのような石(もしくは岩)がある。
・奥へ進んでゆくと廃墟と化したかつての住居があり、その内部では事件の惨劇を物語る血痕のようなものが多数見受けられる。
上記だけを見れば、いかにもな怪談話の設定であるが、杉沢村の存在の有無に信ぴょう性を持たせる事件がいくつかあった。

過去に起きたとされる「殺人事件」の現場が杉沢村だった・・・?

八つ墓村 (角川文庫) 文庫
杉沢村伝説の真相 - オレ達の都市伝説

横溝正史
上記の4件の事件が同じ村で、数年内に起こったとされている。その村こそ杉沢村だと噂された。ただ、そのような事件が実際に起きたと確証はなく、あくまでも噂レベルに留まっている。
杉沢村伝説が盛り上がっていた頃、杉沢村に関しては、村人全員が惨殺されて地図から消された、祟りがある、住所は「青森市〇〇」など様々な情報が飛び交った。
そして、このブームを押し上げた「奇跡体験!アンビリバボー」でも、数度の特集を組んだが村の特定には至らず、「杉沢村は時空の歪みの中に存在し、現われたり消えたりする村である」と結論づけられた。
インターネットの普及が噂を拡散、リアリティを持たせた
一部の噂話であった杉沢村伝説が、ブーム化した背景に、2000年頃からの急速なインターネットの普及があると考えられる。それまでインターネットを個人で利用する際は、低速なダイヤルアップ接続なうえに、従量制の課金方式などの不便さがあった。
それらが改善され、携帯電話でもインターネットへ接続可能なサービスが提供されるようになり、インターネットがより身近で便利なものとなっていった。

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それまでの個人の行動範囲内でのコミュニケーションから、顔も知らない人とのコミュニケーション、不特定多数との同時性を伴った情報交換などが日常化した。
その中で杉沢村の噂がひとり歩きした状態となり、インターネット内で脚色、増殖されていったのだろう。
さもそれが真実と決まっているかのように・・・。
インターネットユーザーが、まだ情報を選別する能力がついてない状態とも言えたかも知れない。
そして、杉沢村が世間を賑わせていた頃、インターネット上である事件が起きた。それが『鮫島事件』である。
『鮫島事件』という事件

都市伝説刑事 事件4: 鮫島事件
2001年5月24日午後10時頃、匿名掲示板2ちゃんねるのラウンジ板に投稿された上記のスレがきっかけとなり、”事件が明るみに出た”と言われている。
以降、断片的ではあるが「鮫島事件」の情報が続々と書き込まれていった。
「2chの影の部分」「語る奴も危ない」「公安が絡んでいる」「あの事件のことを思い出させるな」など、真相に近づけそうで近づけない、ぼんやりと「鮫島事件」の存在を把握したまま、ある種のタブーであるという認識がインターネットの世界で広がっていった。

2ちゃんねる公式ガイド2002 [CD-ROM付]
この発覚した「鮫島事件」、実際にはジョークとされており、スレを最初に立てた人物もいわゆる自作自演の”釣り”であると宣言した。
しかし、インターネットの怖いのはその宣言ですら一情報でしかなく、「鮫島事件」をジョークと分かった上で、真偽を定めることが出来ない新参者に対して意図的に、事件は本当にあったとリアリティのある書き込みをし続けた人々がいたことだろう。
また、当時は今ほど開けてなく、閉鎖的な雰囲気のあった2ちゃんねるの存在感もまた事件の真実味を増したといえる。
2ちゃんねるの初代管理人である西村博之は「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」とコメントを残したという。
本当のことのよう装って情報を発信した人達に周囲も呼応し、大きなうねりとなって一つのブームを作り上げた。「鮫島事件」は情報を適切に理解・解釈・分析する「リテラシーを共有するためのネタ」であり、一つのゲームであった。

2ちゃんねる AA大辞典
『杉沢村』と『鮫島事件』。全く関係のない事件だが、話題になった時期が非常に近い。
インターネットが発展していく中で生まれた、過去には見られない展開の”噂話”であった。
現在、情報の受け手には虚偽の情報への免疫や判断力がつき、本稿で扱ったような噂話がブームにはなりにくいと予想する。
本稿を通して2000年頃のインターネットの雰囲気を思い出して頂けたら幸いだ。
<追記>
本稿で特集している鮫島事件が、女優・武田玲奈主演のホラー映画の題材に選ばれています。
『真・鮫島事件』として、2020年11月27日よりイオンシネマ他にて全国公開されることが決定しました。
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