
驚異のニュータイプ、ララァのサイコミュ兵器、エルメスのビットが獲物を狙って宇宙空間をかけめぐる!
今回は、映画版では華々しく登場しつつも、なし崩しのうちにズゴックの代わりに撃破されていた水中専用のグラブロと、物語世界を強制シャットダウンさせる最終兵器ヒロイン、ララァ・スンが乗り込んだエルメスの紹介です。
グラブロ 1/550 1981年10月 300円

どうでもいいが、グラブロパイロットのフラガナン・ブーンを、「フラナガン・ブーン」と読んでしまい、後に出てきた「フラナガン機関」と関係があるニュータイプだったのでは?とか勘違いしたのは筆者だけではないはずだ!
グラブロ!
どこからどう見ても、蟹型の機械獣です! その名もグラブロ!
水中用モビルアーマーっていう設定で登場したけれど、テレビ版『機動戦士ガンダム』(1979年)ではともかく、それを基本的に再編集した劇場用映画の『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』(1981年)では、威風堂々と登場したものの、悲恋の人間ドラマが海面上の空中で展開されるだけで、結局何をするでもなく、ミサイル一撃で沈んだことにされたグラブロ!

キットは設定画に非常に忠実
グラブロ!
一応、魚雷とか対空ミサイル(しかもブーメランミサイルって。ミサイルが戻ってきてどないすんねん!)とかの飛び道具は装備しているらしいが、素人が見ても一発芸のように把握できる、そのでっかい両腕とクローで、戦争で何をするつもりだったんだ、グラブロ!

単眼、アホ毛、アヒルくちばし。萌えキャラ記号が3つも混在していてこの威圧感!
まだ、モビルアーマーって概念が曖昧(メタ的にね)だった黎明期のメカだとはいえ、格闘戦能力のある潜水艇って、兵器としては画期的過ぎて、長い長いガンダムの歴史の中でも、正式な後継機体が、そりゃ皆無だわ、グラブロ!

上から見ても、独特のエイのようなフォルムが再現されている
それでもまぁ、冨野監督もよくもまぁ、こいつを画面に出して、メインの敵を務めさせながら、一方で骨太な戦争人間ドラマを展開させるとか、無茶にもほどがあることを、出来たもんだと改めて感服。
というわけで、重要なエピソードとなるテレビ版第28話『大西洋、血に染めて』では、しっかりメインメカではあったので、今回も用意しました、水中用モビルアーマー、グラブロは、1981年当時のガンプラが、モビルアーマー路線を恐々始めて、第二弾となる10月の発売。

普段は後方に伸びている両腕と推進スラスター
今回の、この1/550 グラブロは、えーっと……「パーツ数も最小限で、とてもアニメに登場したグラブロに似てるプラモデルで、いいんじゃないでしょうか」それで終わり!
本当、他に言うことねぇんだよ!
あぁ、あと言えることは「蟹型の機械獣に、アホ毛をトッピングとか、斬新ですね」とか、無理矢理誉めても、それぐらいが限度!

しかし両腕を前に伸ばすとこの迫力! しかし腕の可動は事実上は付け根の回転のみ!
だって、そもそも人型じゃないから、可動箇所なんて、腕の付け根と爪の基部が回転するところ、それだけだし。一応、なんていうか、組み立て機構的には、前腕の部分に可動軸が仕込んであるんだけど、デザインとパーツの問題で、完成しちゃうとその可動部分って「ちょっとグラついてるね」って程度にしか動かないし!
その代わり、プロポーションは最高で、この、可動させる気は一切ないけど、妥協する気も一切ないです的な完成度は、ある意味ビグロを越えて、大人の仕事だとも言えるわけです。

水中を進むグラブロ。こうしてみると潜水艇に見えないこともない……。いや、見えない(笑)
だから、なんていうか、モビルアーマーとか敵ロボットとか思うから残念なんであって、「どう考えても水力抵抗的に、振り回しちゃいけないウェイトの腕パーツをぶん回す潜水艇」と割り切って作る分には、充分目の肥えたスケールモデラーの皆様の開いた口を、塞げなくさせる効能はあったんじゃないでしょうか、1/550 グラブロ。

空中を飛行するホワイトベースやGアーマーに向けて、ブーメランミサイルを発射するグラブロ!
とりあえず、いろいろダメな残念キットなんだけど、残念メカの立体化なんだから、ここで満点になるのはむしろイケないことなんで、単純に素組で組み立てました今回のこのキットですが、アニメ劇中まんまという意味では、これに文句のつけようも嫌味の言いようもないというのが、正直な感想です。
ツッコミを入れられるのはせいぜいが「その、素敵な流線形のボディに、小さくくっ付いてる、アホ毛のようなアンテナパーツはなんなんだ」「その、あからさまなクチバシに付いてる、鼻の穴はなんなんだ」でしょうか。

ガンダム相手に圧倒していたように見えたけど、水中で足をつかんで振り回していただけだったりもする(笑)
というわけで、今回は珍しく、キットの成型色がボディ色ではなく、腕の色だったので、メインボディをMrカラー29 艦底色で塗装。
あと、クチバシはガンダムカラー UG15 ファントムグレーで、ジェットノズル(?)やミサイル発射口等を、Mrカラー72 ミディアムブルーで塗って、モノアイはピンク、モノアイレールは艶消し黒と、定番の塗装で仕上げた。
一応、カギヅメは開閉選択接着式なので、せめてコントラストをと、片手を開、もう片手を閉で組み立て。
完成したグラブロを何度見ても、結局「そのアホ毛はなんだ?」「その鼻の穴はなんだ?」しか出てこないという、そんな水中用モビルアーマーの解説でした。
エルメス(ララァ・スン専用モビルアーマー) 1/550 1981年10月 300円

どうでもいいが、エルメスのボディに沿った「ララァ・スン専用モビルアーマー」の文字の流れが、ちょっと昭和のスーパーマーケットのチラシの文字並びみたいで面白い(笑)
ガンプラの流れとしては、ビグロ、ビグ・ザムからの、間を挟んでグラブロと同時発売の、1/550モビルアーマーシリーズの第4弾。
デザイン的には、劇中に登場した、後に永野護氏デザインのモビルスーツ・キュベレイにも受け継がれる、曲面主体のチューリップ型の、富野ラフそのままのシルエットを上手く立体に落とし込んでおり、ゆえに現代においても、ガンプラでは正式なリファインはなされていない。

劇中では連邦軍から「とんがり帽子」「チューリップ」と呼ばれる独特の形状の正面
バンダイの、というよりも模型業界全体が「曲面構成のアニメメカ」の三次元再現を苦手とするという定説は、ガンプラブーム中盤時期に、他ならぬバンダイ自身が『聖戦士ダンバイン』(1983年)のロボットメカプラモデル群で証明してしまうのであるが、しかし、ことこの1981年時期までを見渡してみても、『機動戦士ガンダム』(1979年)のビグ・ザムやエルメスやブラウ・ブロ、アオシマの『伝説巨神イデオン』(1980年)のガンガ・ルブやアディゴやザンザ・ルブ等々、曲面構成のみのメカでも、劇中や設定どおりのクオリティに達しているプラモデルは少なくない(まぁ、あくまでも“当時水準”ではあるが)。

ボディを横から。女性らしい有機的なデザインが映える
エルメスの場合、人型ではない、基本無可動モデルというのも有利に働いた要因なのかもしれないが、この名作キットを語るときに外せない話題は、むしろキットのクオリティではなく、発売開始後すぐに初期ロットでその商品名が「エルメス」から「ララァ・スン専用モビルアーマー」に換えられた、有名なエピソードだろう。
原因は、ガンダムを知らない人でも予測できる、某国際的巨大ブランドとの問題なのだが、だからといって、バンダイ万歳マークで箱に「エルメス」と書かれただけの、中身自体は再販であれば現代でも数百円で全く同じ物が買える代物が、なぜお宝グッズ店やヤフオクでは、数万円を超える値段で取引されているのか。同じような疑問は、怪獣ソフビの世界を10年ほどうろつき続けても分からなかった価値観なのだが、ここでもやはり謎は深まるばかりである。
“あくまでも理屈だけ”なら、そりゃレア物お宝ですもんねぇと、頷けはしても、仮に筆者の手元にそれだけの金が余っていたとしても、多分「エルメス」には手を出さず、その金で何か代わりに、昔のドラマのDVD-BOXでも買っちゃうんだろうなぁと思う程度には、やはり筆者にはコレクターの資質がないのであろう。

機体を後部から。こちらから見るとメカメカしい
さて。
このエルメス。キットの出来には何も口を出すレベルの問題はない。単色成型なのも、300円サイズキットはどれも単色だし、エルメス自体がほぼ単色の機体なので、部分塗装だけすれば充分に見られる完成品にはなる。
むしろ、塗装で苦労するのは10個あるビットの方。
塗り分けは細かいわ、サイズは小さいわ、出来の方は小さいパーツながらにクオリティの高い仕上がりを見せている。
この頃の1/550シリーズの付加価値として、同じサイズのガンダムやドムなどがオマケで付いてきたというのがある。後のザクレロには、Gアーマーのキットでは再現できない“GメカBパーツを穿いたガンダム”が、匠の技で作られていて、このエルメスにはシャア専用ゲルググが1/550で付属していて、お世話様にも、あえて右腕をクラッシュ状態に切り飛ばすことで、第40話『エルメスのララァ』ラスト、右腕をガンダムに破壊されたシャアのゲルググが、エルメスの角(?)につかまり曳航されて飛ぶシーンが再現できるプレイバリューが用意されている。

付属のビット。このサイズでは塗装派筆者の腕ではこれが限界……
2門あるビーム砲は、可動基部がプラなので、現代の再販版では、金型の劣化でもう任意の角度を保てなくなっているのと、エルメスのメイン武装はビットなので、ビーム砲は見栄え優先で固定接着で完成。
こうしてみると、ガンプラは黎明期からブーム期までで既に、非人型の艦船やモビルアーマー等に関しては、デザインをリファインしたりせず、アニメ登場状態のままを望むのであれば、いきなり最終完成形に辿り着いていたと言い切れるのである。

ソロモンで、シャアのゲルググをナイトにつけて、連邦軍を恐怖に陥れるララァのエルメス!
塗装は、成型色のグリーンはそのままに、ピンクとイエローで部分塗装。メカ部は統一ルールのミディアムブルー一択。
今回は、大河さん個人の趣味性で、艶消しをせずにそのまま仕上げた。
ビットの方の塗装はパーツが小さすぎて軽く地獄(笑)
アニメでUPになった画面をよく見て、先端部分から後部へ向かって、ガンダムカラーUG06 MSグリーン、Mrカラーキャラクターレッド、ガンダムカラーUG08 MSパープル、Mrカラー艶消し黒、Mrカラーキャラクターイエローを、面相筆で塗り分けて完成した。
劇中で、ホワイトベース側の隠語として(戦争時に、敵軍の新兵器の正式名称が分からないので、対峙する側は「木馬」など、隠語を使うしかないというリアリズムも、『機動戦士ガンダム』が最初にアニメに持ち込んだ)「チューリップ」「とんがり帽子」と呼ばれた、その優雅な雰囲気が充分に伝わってくる出来栄えである。

ララァのニュータイプ能力に呼応して、サイコミュが稲妻のように走りビットを操る!
しかし、この出来栄えと、作中での重要性とインパクトを以てしても、出荷数は129万個と、1/550モビル・アーマーシリーズ最多でありながらも、同じ価格帯の1/144シリーズで比較すると、ゾックとコア・ブースターにかろうじて勝っている程度。
これはアレかなぁ。やっぱり70年代までは、超合金のゴレンジャーシリーズでも、モモレンジャーが最後まで余っていたり、アフロダイAが超合金化されなかったりと一緒で、「男児向けバトルジャンルで、女性キャラは弱い」を、そのまま地で行ったのかねぇ……。

実際のエルメスとビットの大きさの比較
でも、それまで、足とか手とか顔だけでかくするしか能がなかったモビル・アーマーのデザインを、ここへきて抽象的なシルエットにすることで、ニュータイプという概念を、メカ面からもビジュアル化させてみた功績は称えられるべきかと。
いやいや、名作キットです。
市川大河公式サイト