シャーロック・ホームズの冒険とは

言わずと知れた探偵小説の祖、コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズを映像化した作品。
イギリス・グラナダTV制作の『シャーロック・ホームズの冒険』は1984年から1994年にかけて放送されました。日本では1985年から95年までNHKで放送されています。
主演はジェレミー・ブレット。
史上最高のホームズシリーズとして、現在でも世界中で評価の高い作品です。
日本では10年間『シャーロック・ホームズの冒険』というタイトルで親しまれてきましたが、実際にはシリーズ毎にタイトルが変遷しています。
1984年から85年は『シャーロック・ホームズの冒険』シーズン1,2
1986年は『シャーロック・ホームズの帰還』シーズン1
1987年に長編『四人の署名』
1988年に『シャーロック・ホームズの帰還』シーズン2と、長編『バスカビルの犬』
1991年に『シャーロック・ホームズの事件簿』シーズン1
1992年から93年は『シャーロック・ホームズの事件簿』として長編3作
1994年に『シャーロック・ホームズの思い出』
短編36話と長編5話の計41話制作されています。なお各シリーズのエピソードは、コナン・ドイル原作の作品集とは異なりシャッフルされていますが、いずれも原作を忠実に再現された秀逸な作品となっています。
シャーロック・ホームズの冒険の魅力
何と言っても原作に忠実な描写、世界観、そして主演のジェレミー・ブレットのホームズっぷりでしょう。

大英帝国の黄金期とも言える、19世紀のヴィクトリア朝の世界を、事細かに完全に再現しています。
霧のロンドン、石畳の路地、辻馬車、貴族階級の馬車、シルクハットの紳士たち、優雅な淑女、怪しげな貧民窟、趣のある家具調度類などなど、昔読んだ本の挿し絵の世界がそのまま映像化されています。

何よりもホームズとワトソンの住居、ベーカー街を完全に再現していて、そこに住む人々の息吹までも感じる事ができます。
そして特筆すべきが田舎の城や屋敷の美しさ。絵画のような映像美を楽しむ事ができます。

役者達の演技も素晴らしいです。古典的で少し大げさな素振りで、まるで舞台を鑑賞してるかのような雰囲気を楽しめます。
この様に細部にいたるまで、シャーロック・ホームズの時代を再現した丁寧な作品作りが、ホームズ作品至上最高の傑作と言われる所以なのでしょう。

キャスト
シャローック・ホームズ(ジェレミー・ブレット)

ホームズを演じるために生まれてきたかのような、見事なまでのホームズっぷりです。
痩せて高い背、大きく鋭い眼、特徴的な鷲鼻と、どれを取っても、コナン・ドイルが描いたホームズ像にピッタリです。
また躁鬱の傾向のあるホームズの表現力も素晴らしく、最高のホームズ役者として世界中からの名声を得ています。
初代ワトソン博士(デビッド・バーク)

ホームズの相棒にして作者本人がモデルとも言われるワトソン博士役は2人います。
初代ワトソンは、アフガニスタン戦争で負傷した軍人らしい振る舞いが印象的。捜査や戦闘に赴く際にはウキウキ感をにじませ、少しコミカルな印象もあります。
デビッド・バークの家庭の事情によりシーズン2までで降板。
2代目ワトソン博士(エドワード・ハードウィック)

シーズン3冒頭の『空き家の怪事件』から登場。
穏やかな常識ある英国紳士として、落ち着いた演技を見せています。友人として、医師としてホームズをサポートするシーンも多く見られます。
ハドソン夫人(ロザリー・ウィリアムズ)

ホームズ達が住むベーカー街221Bの下宿の女主人。食事の用意や身の回りの世話を、小言を言いながらも温かくしてくれます。原作よりも存在が大きな印象がありますね。
レスドレイド警部(コリン・ジェヴォンズ)

スコットランドヤードの腕利きの刑事であり、ホームズを頼りにして、頻繁に相談に来ます。
原作を読んでる人には納得のいく、ネズミっぽい雰囲気のある、見事なレスドレイドです。
マイクロフト・ホームズ(チャールズ・グレイ)

シャローック・ホームズの兄にして、弟よりも頭脳は明晰とのこと。序盤では時々登場する程度でしたが、シリーズ終盤にシャーロック役のジェレミー・ブレットの体調が悪化した際には、弟に変わってワトソンと共に事件を解決に導くエピソードも増えました。
病魔との闘い
ジェレミー・ブレットは1985年に最愛の妻を癌で亡くし、以降ずっと体調を崩しながらの出演を続ける事となります。
元々双極性障害を患っていたのですが、妻の死後、そして躁鬱の激しいホームズを演じるうちに、深刻な躁鬱病になってしまいます。投薬をしながらホームズ出演を続けているうちに、幼少期にかかったリュウマチ熱の後遺症の心臓障害も悪化しだします。そのため心臓の肥大化が進み、撮影も困難な状態に陥る事もしばしばあり、酸素セットを用意しながらの撮影を続けていました。

しかしどんなに体調が悪くても《the show must go on》と言って撮影に臨んだそうです。
ドラマの撮影を通じて親しくなった、ワトソン役のエドワード・ハードウィックも、公私にわたって支えていたようです。
シリーズ終盤には体調の悪化でジェレミーが撮影に参加できない時があり、兄マイクロフトがシャーロックに代わって謎を解くエピソードも作られました。
しかし1995年9月、心不全で他界してしまいます。

エドワード・ハードウィックは弔辞として、《おそらく、みんなはジェレミーのことを俳優と思わずに、当然のようにシャーロック・ホームズと思っていたのだろう。》と述べています。
生涯をかけて演じた名探偵
生涯をかけてホームズを演じ、ホームズとして生きたジェレミーの存在が、19世紀の架空の物語の人物を、まるで本当に実在したかのような印象を与えてくれています。

グラナダTV版のジェレミー・ブレットのシャーロック・ホームズを観た後に、本棚の奥から昔読んだホームズ本を、取り出して読み返してみませんか?
本の中にジェレミーがいるような、そんな気がしてくるかもしれません。