室伏広治  日本の最終兵器が放つハンマーと雄叫びに世界は震え、感動した。

室伏広治 日本の最終兵器が放つハンマーと雄叫びに世界は震え、感動した。

ハンマー投げ、世界歴代4位、日本選手権20連覇。端正なルックス。化け物じみた身体能力。圧倒的な存在感。謙虚、かつチャンレンジングな姿勢。そして雄叫び。室伏広治は、すべてが規格外の日本、いや世界、人類の最終兵器、最強アスリートである。


妹:室伏由佳は、女子円盤投日本記録保持者。
オリンピック女子ハンマー投日本代表。

ハンマー投げ

「重いモノを、遠くまで投げたい!」
そんな人間の純粋な欲求を表現したのがハンマー投げである。
ハンマー投げのルーツは紀元前までさかのぼるといわれ、木製の柄が付いたハンマーがピアノ線に、金属球に変わっていきながら、現在の形になった。
オリンピックでは第2回パリ大会(1900年)から正式種目となり、シドニー大会(2000年)から女子のハンマー投げも正式種目となった。
ハンマー投げのハンマーは、金属製の頭部、接続線(ワイヤ)、取っ手の3部分でできている。
頭部の直径は、男子110~130mm、女子95~110mm。
重さは、男子7.260kg以上、女子4kg以上。

室伏広治のハンマーは、タングステン鋼という比重の重い鋼鉄を用い、直径110mm(規定最小)、7.260kg(規定最小)のハンマーである。
鉄製で7.260kgの重さを出すと直径120mm以上になる。

ハンマー投げは、このハンマーを直径2.135mのサークル内から投擲し距離を競う。
サークル内では数回のターンをしてハンマーをリリースし(放し)、ハンマーが角度34.92度のラインの内側に入った場合が有効となる。
通常、ターンは3~4回転行われ、約40度前後の投射角でリリースされる。

対談:室伏広治 - 乙武洋匡(2000年のシドニーオリンピック前に行われたもの)

重さ7.3kgのハンマーを80m投げたとき、その体にかかる張力は400kg以上ともいわれる。
力士2人以上の重さを世界の強豪より20kgも軽い体で支えてしまう。
室伏選手との出会いを乙武は心待ちにしていた。
対談部屋にやってきた室伏選手はやっぱり大きかった。
でも何より乙武が印象的だったのは、その気負いのない口調や静かな佇まいだった。
乙武が室伏選手に聞いたハンマー投げの喜びとは・・・
そしてこの翌日、室伏選手は横浜で自らの日本記録を更新した。

乙武 

シドニー五輪本番前のお忙しいところ、ありがとうございます。
いらっしゃる前にスタッフと、「どれくらい大きい人なんだろう」って話していたんですよ。

室伏 

小さかったですか?

乙武 

いやいや、じゅうぶん大きいですよ。
世間的にはプロフィールを見たら187cm93kgとあリますよね。
でも、取り上げられた過去の記事なんかを読ませていただくと「世界の舞台では、小さな体格を補うために」なんて書かれていますよね。

室伏 

外国の選手と一緒に記者会見すると1番小さいですからね。
よく仲の良いドイツの選手なんかに冗談言われますよ。
「また体重減ったのか」とかって。

乙武 

「何の競技してるんだ?」ってからかわれたこともあるとか。

室伏 

そうですね。
でも本当にそういう世界なんです。

乙武 

シドニー入りは開幕後の16日と聞きましたけど、ぎりぎりまで国内で調整ですか。

室伏 

そうなります。

乙武 

自分の力を伸ばしていく練習と、調整をしている時の練習とでは、やはり練習方法は違いますか。

室伏 

ええ。
陸上は4月から秋にかけてシーズンがあるんですけど、その間の冬は相当練習をしなくてはいけないんですね。
体とか技術とかを伸ばしていくような時だとは思うんですけど、冬の練習が一番大事ですね。
冬しっかりやらないと春、花が咲かない。

乙武 

投げては拾って、投げては拾って、地道な練習の繰り返しですね。
僕は今、出身高校のアメフト部のチームスタッフみたいな形で参加してるんですけど、彼ら、なかなか体が大きくならないんですよ。
どんなウェイトトレーニングが効果的でしょうか?

室伏 

体を大きくしたいということですが・・・
でも、そもそも「どうして大きくしなくてはいけないのか」ということを考える必要があります。
アメフトでもハンマー投げでも大きい方が良いと言われてますけど、何をする時に大きい方がいいのか。
「速く走る」のに大きい方が良いのか、「ボールを投げたりキャッチする」のに大きい方が良いのか、「相手とコンタクトする」のにも大きい方が良いだろうけど相手との接触の仕方にもよるだろうし、あんまり単純に「体を大きく」と考えない方が良いと思いますよ。

乙武 

なるほど。
では室伏さんの場合、ウェイトトレーニングは何を強化するためのものなんですか?

室伏 

感覚のトレーニングですね。
感覚が何よりも優先するんです。
言葉にするのは難しいんですが、例えばウェイトトレーニングでも、同じやり方で何回もやるのではなく、中身を操作するというか、感覚を変えるだけで全く違った強化になるんです。
ちょっとしたことを変えるだけで感覚は変わりますから、そこに焦点を当てて練習をしているんです。
これって同じ種目を何人かの人にやらせてみると分ると思いますよ。
トレーニングのやり方が違うとみんな筋肉のつき方も違ってくるんです。
感触によって違いますね。
どういった感触が自分に一番フィットしているのかということを、常に追究しながらやっていくんです。
もちろん、ハンマー投げにとって良い感覚というものを、自分では意識していますけどね。

乙武 

そういうトレーニングのなかで、今、ベンチプレスでは何kgくらいを上げているんですか。

室伏

170kgくらいでしょうか。

乙武

170kg・・・
うまく想像がつきません。

室伏 

さっき言った意味では重さはあまり関係ないですね。

乙武 

ハンマー投げは高1から始められたんですよね。
それまでは何かほかのスポーツをやっていたんですか。

室伏 

本格的にはやっていません。
周りには、陸上でも野球でも燃え尽きちゃうくらいやっていた人がいました。
でも、自分は真剣にやらなくって。
いい加減とは言わないけれど、方向も定まらない。
何をしたらいいか分らない。
毎日違うことを色々やっていましたけど、本格的にスポーツを始めたのは高校入ってからです。

乙武 

高校に入ってハンマー投げを始めたら「ああ、これだ」って思って真剣に打ち込めるようになった?

室伏 

「これだ」という感じじゃなくて、自然にですかね。
最初のうちから気張ってやってた訳ではないです。
その頃はもっと体が小さかったですから、本当は投的競技には向いていないですよね。
ときどきハイジャンプとかの選手に間違われたりしたんですから。
普通だったらハンマー投げはやらないですよ。
ただ、ちょっとでも幼い頃から「ハンマー投げ」という競技に触れていたとか、そういった感覚の面だけ少しほかの人より上に行っていた分、スタートが良かった。
決して素質があったとは思えないですよ。
体型的な面から言っても。

乙武

そういった体格面でさほど恵まれなかった室伏さんが、これだけ世界のレベルに到達したというのは、何が良かったんでしょう。

室伏 

うーん。
もちろん素質は必要だと思いますが、それだけではある程度までしかいけませんね。
大学2年生の頃だったか、それまで順調に伸びていた記録がいきなり壁にぶち当たって、1年くらいもがいていたことがありました。
そんな時、投擲の先輩で、やり投げの溝口さん
(溝口和洋
1984年ロサンゼルス、88年ソウル五輪代表
89年に日本人として初めてIAAFGPファイナルに出場)
に出会いました。
身長が180cmも無くて体型もかなり小さかったんですが、その年の世界ランキングが1番という方だったんです。
溝口さんからは精神力というものをすごく学びました。
例えばトレーニングひとつとっても、「科学的に」などというのではなく、自分が満足するまでやるわけです。
体というのはここまでやれば限界という瞬間があるんですが、「そこを超えるのがスポーツだ」と教わったんですね。
1度そこを超えるとそれが普通になって慣れていき、前よりもキツくなくなってしまうのが人間です。
限界を超えたと実感することがまた、自分自身の成長の度合いを測るバロメーターになっていくわけです。
よく「目標記録は何m?」などと聞かれるんですけど、そういう見方にはギャップを感じますね。
記録が伸びるというのはあくまで結果であって、自分をどこまで高めていけたか、本当に限界を乗り超えたのか、というところが一番大事だということを学んだんです。

乙武 

「あ、これが自分の限界を超えた時だな」と思った時はありますか?

室伏 

いや、まだないですよ。
壁を越えたことはもちろんありますけど限界というのはまだわからないですね。
記録では限界はもちろんきますけど、感覚面はどれだけ歳をとっても死ぬまで絶対追求していけるものですから。
これからも本当に限界を超えたと思える時はきっと無いでしょうね。

乙武 

室伏さんのインタビューや記事を拝見していると、自分がいかに納得した形で投げられるかということにこだわっていらして、メダルだったり80mだったりというのは、結果としてついてきている。
つまり、自分がいかに納得した感覚で投げられるかということに重点を置いているのかなという風に感じたんですけど。

室伏 

そうですね。
メダルとか記録とか順位というのは、相手も一生懸命やった末の結果なわけですよ。
お互いに一生懸命やって、色々なものを背負ってがんばってるわけですね。
そういったもののぶつかり合いですから。
そして結果として自分を上回ったというのは自分以上にすごいということですよ。
それは素直に認めなきゃいけないし、そういう緊張感の中でスポーツをすることが逆に楽しいんですよ。

乙武 

正直、最近の報道って、「メダルが期待される室伏」っていうトーンが多いですよね。

室伏 

それはそれで、期待していただいていいんじゃないですか。

乙武 

自分は重荷にも感じていないし、かといって、「絶対とってやる」と気負いもあまりないと。

室伏 

そうですね。
大まかに言えば、期待していただいている方はだいたいは応援してくださってる方々だと、受け取ってますけどね。

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