『ほっとけないよ』や『しあわせはまだかい』で知られる歌手・楠瀬誠志郎
楠瀬誠志郎というと、1991年にドラマ『ADブギ』主題歌として大ヒットした『ほっとけないよ』の一発屋というイメージを持つ人がいるかもしれない。
だが、1993年に郷ひろみがリリースした『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』の楽曲提供者としても成功を収め、1994年の人気ドラマ『ぽっかぽか』で主題歌だった『しあわせはまだかい』など人気曲も複数持っているシンガーソングライターである。
特徴的なハイトーン・ヴォイスで、聴く人の心をほっこりさせる癒しのヴォーカリスト・楠瀬誠志郎の活動履歴や現在について紹介する。

楠瀬誠志郎(くすのせ せいしろう)
『音楽をやるために生まれてきた男』楠瀬誠志郎
父親は声楽家の楠瀬一途(くすのせ・いちず)。
その影響を受け、幼少時代から聖歌隊に参加するなど、音楽に囲まれた生活を過ごした。
高校生になった楠瀬誠志郎は、ライブハウス「新宿ロフト」で、山下達郎や大滝詠一らが在籍していたシュガーベイブのライブを観たことをキッカケに、ドラマーの村上“ポンタ”秀一に弟子入り。
杉真理、EPOのステージにコーラスとして参加するようになった他、来生たかお、松岡直也などのレコーディングにも参加、さらに自らも曲作りを手掛けるようになっていった。
その後、楠瀬誠志郎が手がけたCMソングを偶然耳にした、レコード会社CBSソニーのスタッフからの誘いを受け、楠瀬誠志郎は1986年4月にシングル「宝島」、アルバム『宝島』でプロデビューした。
デビュー当初の楠瀬誠志郎
1986年のプロデビュー後は、一年に1枚のペースでアルバムを作り、全国5大都市でのライブ活動を行った。
デビュー当初はバックコーラスをしていた山下達郎の影響を色濃く感じさせるハーモニーを重視した楽曲が多かった。
この頃の曲について、デビュー当時は槇原敬之、KAN、佐藤竹善らが受け入れられ始めたタイミングとも重なったため、他のアーティストとの差別化のためにコーラス経験を活かしてハーモニーを大切にしたと楠瀬は語っている。
歌手より先に楽曲提供者として頭角を現した楠瀬誠志郎
歌手としての活動と並行して、楽曲提供者としても活動。
作曲家としての才能も発揮し、ハイ・ファイ・セット、森山良子、薬師丸ひろ子、小川範子など数々のアーティストに曲を提供していった。
1991年、ドラマ『ADブギ』主題歌に『ほっとけないよ』が起用される
TBS系列で1991年10月18日から12月20日まで放送されていたドラマ『ADブギ』の主題歌として、『ほっとけないよ』が起用された。

TBSドラマ『ADブギ』
もう一度、『ADブギ』を見たくなったら…
累計70万枚のヒットを記録した『ほっとけないよ』
この『ほっとけないよ』で楠瀬誠志郎は11枚目のシングルにして初のチャートランクインを果たした。
オリコン最高位6位、累計売上は約70万枚。
『ほっとけないよ』はダウンタウン浜田雅功が歌うかもしれなかった!
2010年11月8日、楠瀬誠志郎がフジテレビの音楽番組『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』に出演、『ほっとけないよ』で変わらぬ美声を披露した。
その際、当初は『ほっとけないよ』を、この番組の司会者であり、『ADブギ』に出演していたダウンタウン浜田雅功が歌う予定であったという衝撃の事実を明かした。
「ダウンタウンの浜田さんが歌うかもしれないので、浜田の声に合わせて少しキーを高めにして欲しい」とスタッフから依頼があったという。

衝撃の真実を明かした楠瀬誠志郎
もし、実現していれば浜田雅功は1993年のGEISHA GIRLS(芸者ガールズ)や、1995年のH Jungle with tとしてよりもかなり前に歌手デビューしていたことになる。
浜ちゃんバージョンの『ほっとけないよ』も聴いてみたかった…。
その後、立て続けにチャートインを果たす。
『ほっとけないよ』のヒットで知名度を大きく高めた楠瀬誠志郎。
温かいメロディーと爽やかな歌声、確かな歌唱力が認められ、『君と歩きたい』、『とっておきの季節』、『星が見えた夜』と、それまでランクインしなかったのがまるで嘘のように4作連続でセールチャートにランクインした。

『君と歩きたい』楠瀬誠志郎

『とっておきの季節』楠瀬誠志郎

『星が見えた夜』楠瀬誠志郎
郷ひろみがカバーした『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』がヒット
楠瀬誠志郎が1989年10月にリリースした4枚目のアルバムタイトル曲『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』を郷ひろみがカバーし、1993年1月にリリース。
フジテレビ系ドラマ『正しい結婚』の主題歌にも起用され、最高位43位ながらジワジワと売り上げを重ね、「2億4千万の瞳」以来9年ぶりにヒット曲(17.7万枚)となった。
この『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』は楠瀬にとって挑戦的な姿勢で臨んだ曲だったという。
それまで洋楽志向でアルバムを作っていたが、邦楽(=ジャパニーズポップス)志向で、日本語を重視したアルバムを作りたいと、まず日本語のタイトルを先につけ、それから曲を作り始めた。
楠瀬バージョンも聴きたいとの声が多く、郷ひろみのリリースから約半年後、『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』を楠瀬誠志郎14枚目のシングルとしてリリース。
男女年齢を問わず人気の高いラブソングとして、楠瀬誠志郎の代表曲のひとつとなった。
崎谷健次郎、KATSUMIとともにコーラスグループ"adam"を結成
俳優・高嶋政宏のデビューアルバムを制作していた武部聡志が、楽曲提供したシンガーソングライター楠瀬誠志郎、崎谷健次郎と、当時プロデュースしてデビュー間もないKATSUMIの3人に収録曲にコーラスを依頼。
そのハーモニーに当事者たちが感銘を受けたことがきっかけとなり、コーラスグループ"adam(アダム)"を結成。
その楽曲は高嶋政宏、崎谷、KATSUMIのアルバムに収録されている。
このユニット名"adam(アダム)"は、崎谷健次郎が自作品に重用していたコーラス界の女性グループの重鎮『EVE』に対抗し、また期待を込めて名付けられた。
オリジナル作品は未発表ながら、3人の実力派ヴォーカリストによるコーラス共演は、音楽関係者をも唸らせた。
また、覆面グループ『麻呂』としても活動。
フォークロック・グループ『ガロ』の「学生街の喫茶店」の替え歌「学生街のテレサテン」がKATSUMIの担当するラジオ番組で放送された。
1991年から始まった3人の活動は、1994年5月に崎谷健次郎の16th.シングル『ROOMS』にコーラス収録をもって、活動を停止している。
『しあわせはまだかい』がTBS系ドラマ『ぽっかぽか』の主題歌に。
1994年6月から放送されたTBS系ドラマ『ぽっかぽか』の主題歌として楠瀬誠志郎の『しあわせはまだかい』が起用された。

TBS系ドラマ『ぽっかぽか』
人気ドラマになった『ぽっかぽか』はシリーズ化され、3回にわたって放送された。
ぽっかぽか(1994年6月~7月、全30話)
ぽっかぽか2(1995年9月~10月、全40話)
ぽっかぽか3(1996年12月~1997年2月、全45話)
そして、1~3のシリーズ全てで楠瀬誠志郎の『しあわせはまだかい』が起用された。
ドラマの放送に合わせ、楠瀬も『しあわせはまだかい』を「Remixバージョン」、「New Remix」バージョンを合わせて3回シングルリリースしている。
人気の昼ドラマ主題歌として、再び楠瀬誠志郎の知名度は上がり、その優しい歌声に惹かれた主婦のファンが急増。
今でも「この曲を聴くだけで優しい気持ちになれる」と多くの人に愛され続けている。
楠瀬誠志郎×本田美奈子、奇跡のデュエット。
1995年、楠瀬誠志郎と本田美奈子、美声を持つ男女が組んだ奇跡のデュエット。
『Fall in love with you-恋に落ちて-』を発表し、TBS系のお見合いバラエティ番組『ウェディングベル』のエンディングテーマに起用された。
可愛らしく歌う本田美奈子と、軟らかく澄んだ楠瀬が奏でるハーモニーが心地良い。
楠瀬誠志郎の現在までの活動
アルバム・シングルリリースの他、コンサートツアー、FMのパーソナリティ、多くのアーティストへの楽曲提供、CM音楽、雑誌へのコラム執筆など幅広く活動している。
自身では日本の叙情歌、童謡、唱歌だけを歌うライブ「うたごよみ」の活動なども行う。
楽曲提供・プロデュース活動では、今までにSMAP、吉田栄作、裕木奈江、内田有紀、本田美奈子、大竹しのぶ、工藤静香、沢田研二、米良美一など多岐にわたるアーティストへ提供している。
声を磨くレッスンスタジオ「Breavo-para」を主宰
アーティストとしての活動の他、ヴォーカリストとしての経験を活かし、声を磨くレッスンスタジオ「Breavo-para(ブレイヴォーパラ)」を主宰、2006年に東京・表参道にスタジオをオープン。
日本のボイストレーニング界の草分け的存在だった父の研究を受け継ぎ、築き上げた独自の発声メソッドで、表現することの素晴らしさ・楽しさ・心地よさを伝え続けている。
森山直太朗も楠瀬誠志朗の発声を手本にしていたという。
Breavo-para(ブレイヴォーパラ)公式サイト