ホラー映画「ゾンビ」が誕生するまで
そもそもゾンビって?
今となってはお馴染みになった言葉である「ゾンビ」。
まずはその言葉の意味をもう一度チェックしてみましょう。
元々の由来は、南米ハイチ諸島や西アフリカに伝わる土着民間信仰ブードゥー教の呪術の一種で、司祭により蘇らされた「奴隷化された死体」を指すようです。
後に宗教とは関係なく、想像上の怪物であり、人を襲う「生ける屍」に対して一般的に「ゾンビ」という呼称が使われるようになりました。
マイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVに代表されるように、「墓場から次々と湧いてくるモンスター」というイメージが現代では定着してますね。

マイケル・ジャクソン「スリラー」
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ゾンビ映画の歴史
ゾンビをモチーフとした映画の歴史は意外と古く、確認されている一番古い映画は「恐怖城(White Zombie)」というもので、なんと1932年のアメリカでの作品です。
1950年代まではアメリカで数本しか製作されていなかったゾンビ映画ですが、60年代に入るとメキシコやイタリアでも作られ始めます。
とはいえ、60年代後半までは人気を集める作品には恵まれませんでした。

恐怖城
恐怖城 - Wikipedia
1968年「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」公開!
良作がなかなか生まれなかったゾンビ映画ですが、1968年に「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」が製作・公開され、一気にシーンは変貌します。
「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」は「ゾンビ」の監督でもあるジョージ・A・ロメロが手がけた作品で、後に「ゾンビ」「死霊のえじき」とともに「ロメロのゾンビ映画三部作」と呼ばれるようになります。
この映画のヒットにより、「ゾンビになると理性を失って人に感染し、人間を食す。動きは緩慢で、頭部を破壊されるまでは不死身である。」というゾンビの基本的ルールが完成しました。
そして1970年代に入るとゾンビ映画が量産されるようになります。

「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」
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1978年、「ゾンビ」公開!
「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」以降、数々のゾンビ映画が作られてきました。
そして1978年にロメロ三部作の2作目と呼ばれる「ゾンビ」が公開されます。
前作よりもパワーアップした特殊メイクや音楽などの効果のお陰で、本国のイタリアやアメリカだけでなく翌年公開された日本でも数多くの人々を恐怖に陥れたものでした。
ホラー映画「ゾンビ」徹底解説!
映画「ゾンビ」のあらすじ
ある日、全米各地で突如死体が蘇えり、生者を次々と襲い始めた。
彼らに噛まれて死んだ者も感染するので爆発的にゾンビは増え、社会はパニック状態となる。
テレビ局に勤めるフランと恋人のスティーブンはヘリコプターで都市からの脱出を決意し、友人のSWAT隊員であるピーターを伴いとあるショッピング・モールへ辿り着く。
食料や物資が大量にあるのでここでの篭城を決めるのだが・・・。

ケン・フォリー
「ゾンビ」 ええ、好きですとも それが何か? - 天邪鬼みーすけの映画な日々
飽きさせないストーリー展開!
「ゾンビ」の収録時間は115分、ほぼ2時間です(※日本劇場公開版での時間)。
ゾンビ映画、いやホラー映画としてはどちらかというと長めですが、実際見てみると長いからといって冗長に感じる事はありません。
恐怖感以外にも窮地に立たされてどう切り抜けるかという緊張感や、友人との友情を描いた感動シーン、そして時にはゾンビをからかってみるちょっぴり笑えるシーンなどのお陰で、長いと感じる間もなくあっという間に見終えてしまう内容になっています。

「ゾンビ」での1シーン
『ゾンビ』 ジョージ・A・ロメロ 1978 : なにさま映画評
実は奥深いメッセージも
「ゾンビ」はホラー映画なのですが、現代社会へのメッセージを持つ社会風刺映画の一面も持ち合わせています。
主人公たちが篭城を決め込む大型ショッピングモールは消費社会となった現代への警鐘が含まれていますし、ゾンビ相手に銃を武器にするというのも銃社会となったアメリカを暗に示しているといえるでしょう。
そしてこの映画で描かれている「ゾンビに感染すると理性をなくし、ただ本能のままに動く」というゾンビ像。人間が理性を亡くしてしまえばいとも簡単にモンスター化するのだ、というのも改めて考えると実に深いですね。
この辺りも「ゾンビ」が名作と言われる所以であると言われています。
トム・サヴィーニによる優れた特殊メイク
なんと言っても、この映画の存在感を際立たせたものの一つにその特殊メイクがあります。
「ゾンビ」で特殊メイクを担当したのはトム・サヴィーニ。
「13日の金曜日(1980年)」や「バーニング(1981年)」、「悪魔のいけにえ2(1986年)」と数々の特殊メイクを手がけたトムですが、この「ゾンビ」は一躍彼をスターダムにのし上げた作品とも言えます。
既存のゾンビ映画にはかつてなかった映画「ゾンビ」でのリアルな描写・残酷度具合は、見るもの全ての人の肝を冷やし、80年代ホラー映画の発展と進化にかなり貢献する事になります。
ちなみにトムは特殊メイクだけでなくスタントマンや俳優としても様々な作品を手がけており、「ゾンビ」でも暴走族役として出演しています。

トム・サヴィーニ
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「ゾンビ」をたっぷり楽しもう!
数多くのバージョンが存在する「ゾンビ」
「ゾンビ」には当初のバージョンの他、数多くのバージョンが存在します。
サウンドトラックの違いやシーンのあるなし等、その違いは多岐に渡りますので、色々と見比べてみると更に深く楽しめるかもしれません。
●「米国劇場公開版」(本編127分)
北米で劇場公開されたバージョンで、日本で最初にソフト化されたもの。
ロメロ独特の暗い味付けが特徴。
●「ダリオ・アルジェント監修版」(本編119分)
アジアやヨーロッパなどで世界中で一番多く劇場公開されたバージョンで、日本劇場公開版のオリジナル版でもある。
サバイバルアクション風な編集が特徴で、音響効果も全てダリオ・アルジェントによる編集で差し替えられており、ファンの多いバージョンである。
●「日本劇場公開版」(本編115分)。
日本ヘラルド映画配給。『ダリオ・アルジェント監修版』を元に残酷シーンの修正・削除、オープニングでのゾンビ発生理由を説明するシーンの追加、エンドクレジット削除などがされている。
●「ディレクターズ・カット版」(本編139分)
ロメロがカンヌ国際映画祭出品のために作ったバージョン。
ロメロ自身は後のインタビューで「不満足な出来だ」と公言している。
この他にも本当のノーカットオリジナルが収録されている「ラフカット版」(約3時間)や、アルジェント版をベースにディレクターズカット版のシーンを編集したドイツ語の「ファイナルカット版」(約156分)等があるようですが、残念ながらソフト化には至ってないようです。
舞台裏をのぞいてみる!
リアルなゾンビが数多く出現する「ゾンビ」。1990年に製作された「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」では、そんな「ゾンビ」の舞台の裏側を見る事ができます。
「ゾンビ」の撮影風景やトム・サヴィーニのメイクアップ風景、当時のスタッフ・キャストのインタビュー等が収録され、、特にジョージ・A・ロメロの談話が興味深いです。
ロメロの劇場映画の名場面等も紹介されており、ロメロファン垂涎の作品になっています。
なお2012年にはこのオリジナル版に加え、リマスタリングと更に編集を加えた最終版をあわせ、製作35周年特別版として製作発表されています。

「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」製作35周年特別版
ロメロの三部作を見てみよう!
ロメロの三部作は
●「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生」(原題:Night of the Living Dead)-1968年
●「ゾンビ」(原題:Dawn of the Dead)-1978年
●「死霊のえじき」(原題:Day of the Dead)ー1985年
の3つの作品からなります。
原題を見てみると、Night(夜)→Dawn(夜明け)→Day(昼)というシリーズになってる事がわかります。
この3作はストーリーや登場人物が繋がっている訳ではないのですが、「ゾンビの数・性質」という所に着眼しながら見てみるとより味わい深いかもしれません。

「死霊のえじき」
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2004年にはリメイク作品も!
1978年に製作された「ゾンビ」は2004年に「ドーン・オブ・ザ・デッド」としてリメイクされました。
ゾンビに襲われたり、ショッピングモールに立てこもったりするのは「ゾンビ」と同じですが、それ以外のストーリーや登場人物等は一新されています。
ゾンビと言えば動きが緩慢だというイメージであったのに対し、本作ではなんと全力疾走で追いかけてきます! 想像するだけで怖いですよね。
「ドーン・オブ・ザ・デッド」の監督を務めたのはザック・スナイダーなのですが、後に原作「ゾンビ」の監督であるジョージ・A・ロメロは、「走るゾンビは気に入らない」とインタビューに答えているそうです。
「ゾンビ」と比較するとアクション・シーンや人間模様の描かれ方などはかなりパワー・アップしており、駄作が多いと言われるリメイク物の中でも高い人気を誇る作品になりました。

「ドーン・オブ・ザ・デッド」
ドーン・オブ・ザ・デッド - 作品 - Yahoo!映画
万全のゾンビ対策を!
いかがでしたでしょうか?
150万ドルという低予算で作られたにも関わらずチープさは全く醸し出さず、恐怖感だけではなく人間模様や現代社会へのメッセージをも含んだ名作「ゾンビ」。
ロメロの名を一躍有名にし、その後にゾンビ映画を量産するきっかけとなる作品となりました。
ゾンビ映画の中で最高傑作と賞される理由が垣間見えたかと思います。
さて、実際にゾンビに遭遇する事はないとは思いますが、絶対にない!とは言い切れません。
そんな時に役に立ちそうな記事をご紹介させて頂き、本稿を終わりたいと思います。
それでは皆様、お気をつけて・・・。
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