ケイト・ブッシュとは
1978年、デビュー曲「嵐が丘」が4週連続で全英No.1を記録し、一躍スターとなったケイト・ブッシュ。作詞・作曲も自ら行い、知的で難解な歌詞を、美しくも抑揚の激しいメロディーに乗せて歌う才色兼備なアーティストです。
ここ日本においては、明石家さんまが司会の人気テレビ番組「恋のから騒ぎ」オープニング曲にこの「嵐が丘」が使われていたので、ケイトのことは知らない人でも、彼女の声に聞き覚えがあるという人は多いことでしょう。

「Moving(嘆きの天使)/Wuthering Heights(嵐が丘)」
Moving | Kate Bush
ケイトは、シンプルな弾き語りから、複雑な多重録音まで、幅広い音楽性を追求する完璧主義者とも言われています。また、パントマイムを取り入れたシアトリカルなパフォーマンスも得意とし、彼女の生み出す独創的な音楽、プロモーション・ビデオ、ライヴは、誰も真似の出来ない芸術作品と言っても過言ではないでしょう。
そのアーティスティックな姿勢が、ビョークやクリッシー・ハインド、コールドプレイといった才能あふれるアーティストからリスペクトされているということからも、いかにケイトが特別な存在であるかが、お分かりいただけるのではないでしょうか。
ビョーク:アイスランドのパンクシーンにいながら、私はジョニ・ミッチェルやケイト・ブッシュに深く傾倒しながら、彼女たちの音楽からその糸口を探していたの。
http://www.cinra.net/interview/201606-bjork?page=4来日中のビョークが語る本音「今の時代の変化を歓迎しているの」 - インタビュー : CINRA.NET
ケイト・ブッシュを観に行ってごらんなさい、本物のミュージシャンが見られるから。彼女は自分の望む方法でやることをやっている。
https://www.barks.jp/news/?id=1000107928クリッシー・ハインド「ポルノ・スターが音楽を作ろうとしている」 | Chrissie Hynde | BARKS音楽ニュース
マーティン:まず、ケイト・ブッシュみたいな曲を作ろうとしたんだ。
https://www.barks.jp/news/?id=1000008655コールドプレイ、アルバム『X&Y』収録曲を解説 | COLDPLAY | BARKS音楽ニュース
2014年には、35年ぶりとなる本格的なコンサート「Before The Dawn」を行ったことで話題となり、8枚のアルバムが同時にUKチャート40位以内にランクイン(11枚のアルバムが50位以内)。これは女性アーティストとしては初の快挙となりました。男性アーティストでも、この記録を上回るのは、エルヴィス・プレスリーとザ・ビートルズだけということもあり、ケイトがいかにイギリス国民から愛されているのかが、うかがい知れます。
UKチャートでケイトが新記録
今回は、彼女の代名詞ともいえる「嵐が丘」以外の、様々な時代の楽曲(シングル曲)を10曲紹介してみようと思います。偏りがないよう、基本的に各オリジナル・アルバムから1曲ずつピックアップしてみましたので、「嵐が丘」以降のケイトの変化・魅力を時系列で感じていただければ、と思います。
※以下、曲名の右に記載の年は、シングル盤がリリースされた年です
【1】Them Heavy People(ローリン・ザ・ボール)1978年

「Them Heavy People(ローリン・ザ・ボール)」
Them Heavy People | Kate Bush
この曲は、日本でCMに使われていたことがあるので、もしかするとご存知の方もいらっしゃるかもしれませんね。1978年の来日時、松崎しげる、伊東ゆかり、しばたはつみ、がMCをつとめていた音楽番組「サウンド・イン・S」に出演したのがきっかけとなり、番組スポンサーだったセイコーからオファーを受け、撮影されたというこのCM。なんと、世界で唯一ケイトが出演したCMということで、たいへん貴重なものなのです!
【2】Symphony In Blue(ブルーのシンフォニー)1979年

「Symphony In Blue(ブルーのシンフォニー)」
Symphony In Blue | Kate Bush
衝撃のデビュー・アルバム『The Kick Inside(天使と小悪魔)』から、わずか9ヶ月後にリリースされたセカンド・アルバム『Lionheart(ライオン・ハート)』からのシングル。イギリスをはじめ、他の国では「Wow」がシングル・カットされたのですが、日本とカナダではこの曲が選ばれたのでした。
「私は突然メロディーになってピアノの上で踊り出す」という歌詞のとおり、ケイトの自由な歌声を堪能できる素敵なナンバーです。ちょっとセクシュアルな歌詞にも、ドキッとさせられます。
【3】James And The Cold Gun - Live - (ジェイムズ・アンド・コールド・ガン -ライヴ- )1979年

James And The Cold Gun - Live - (ジェイムズ・アンド・コールド・ガン -ライヴ- )
On Stage | Kate Bush
1979年にケイトが初めて行ったコンサート・ツアーから、ライヴ音源4曲を収録したEP盤『On Stage』としてリリースされた中の1曲。全英チャート10位のヒットとなりました。デビュー・アルバムにも収録されているナンバーですが、ライヴ・ヴァージョンはよりロック色が強く、かっこいいケイトのパフォーマンスを楽しむことが出来ます。
レコードでリリースされたのはパラディウム公演の音源でしたが、ハマースミス・オデオン公演の映像が有名ですね。
【4】Babooshka(バブーシュカ)1980年

「Babooshka(バブーシュカ)」
Babooshka | Kate Bush
ケイト自身がプロデュースに参画するようになり、アーティストとして大きくステップアップしたサード・アルバム『Never Forever(魔物語)』からの先行シングル。夫の浮気心を疑う妻が、別の女性のフリをして夫を試すという、ちょっと怖い内容の歌詞なのですが、全英チャートで最高5位を記録するヒットになりました。
【5】Night Of The Swallow(夜舞うつばめ)1983年

Night Of The Swallow(夜舞うつばめ)
Night Of The Swallow | Kate Bush
最も実験的・前衛的な作品であるがゆえ、セールス的には不振だった4枚目のアルバム『The Dreaming(ドリーミング)』から、アイルランドでのみシングル・カットされた比較的マイナーな曲です。しかしながら、なぜか筆者がお会いしたことのあるケイト・ファンの多くが、この曲をNo.1に挙げる程人気が高く、それだけ魅力的な楽曲だと言えます。
この4thアルバムから、最新のテクノロジーと民族音楽を絶妙な距離感で融合させ、ケイト独自の世界観を創出していくことになったわけですが、ここが好き嫌いが分かれる大きなポイントと言えるでしょう。好きな方は滅茶苦茶好きだし、苦手な方は拒絶してしまう。
この曲では、イーリアン・パイプやフィドル、ブズーキなど、民族楽器を効果的に使用しており、好きな人にとってはたまらないと思います。
※この手のサウンドがお好みでない方は、次の曲へ進んでください(笑)
【6】Running Up That Hill(神秘の丘)1985年

Running Up That Hill(神秘の丘)
Running Up That Hill | Kate Bush
前作のアヴァンギャルドな路線から一転、5枚目のアルバムではポップなケイトが戻ってきました。それを裏付けるように、先行シングルとなったこの曲は、全英3位、全米でも30位にランクインする大ヒットに!アメリカでは、それまでTOP40に入ることは無かったので、大事件でした!
オリジナルのヴァージョンも人気がありますが、1987年シークレット・ポリスマンというコンサートで披露された、ピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアと共演したヴァージョンも、ロックなギターがカッコ良く、人気が高いです。
また、2012年ロンドン・オリンピックで、この曲を新たにリミックスしたヴァージョンが閉会式で使われたことも記憶に新しいですね。
【7】This Woman's Work(ディス・ウーマンズ・ワーク)1989年

This Woman's Work(ディス・ウーマンズ・ワーク)
This Woman's Work | Kate Bush
元々は映画『She's Having A Baby』のサントラ用に書き下ろされた楽曲。タイトルの「ディス・ウーマンズ・ワーク」とは出産を意味し、歌詞の内容は、ケイト本人がディレクションしたプロモーション・ビデオをご覧いただければ、だいたい想像できるかと思います。マイケル・ケイメンが手掛けたオーケストラのアレンジも効果的で、荘厳な雰囲気の名曲です。
また、この曲のカバーも数多く存在し、中でも男性R&Bシンガー、マックスウェルのヴァージョンが有名ですね。珍しいところでは、日本のAcoという歌手もカバーしてるので、ご存知の方がいらっしゃるかもしれません。
【8】The Red Shoes(レッド・シューズ)1994年

The Red Shoes(レッド・シューズ)
The Red Shoes (single) | Kate Bush
同名のアンデルセン童話にインスパイアされ創られた、ケイト主演のショートムービー「 The Line, the Cross and the Curve」のメインテーマ。不幸なことに、その赤い靴を履いてしまうと、ダンスに取りつかれたかのように踊り続けてしまう・・・
アイルランド音楽のジグ風のリズムが心地良い、流行のエレクトリックなダンスとは異なる、人間味溢れるダンス・ミュージックはケイトならでは。
【9】King Of The Mountain(キング・オブ・ザ・マウンテン)2005年

King Of The Mountain(キング・オブ・ザ・マウンテン)
King Of The Mountain | Kate Bush
子育てに専念していたこともあり、前作から実に12年ぶりのリリースとなったアルバム『Aerial(エアリアル)』からの1stシングル。長いブランクがあったにも関わらず、全英チャート最高4位のヒットに。あのエルヴィス・プレスリーをモチーフに、キング・オブ・ロックンロールと、子供の遊び(キング・オブ・ザ・マウンテン)をかけた歌詞も話題となりました。
ここには以前のような刺激的な革新性はありませんが、お母さんになって安定感・安心感の増したケイトの音楽もまた、味わい深いです。
【10】Among Angels(天使にかこまれて)2012年

Among Angels(天使にかこまれて)
“Lake Tahoe/Among Angels” – 2000 Picture Discs | Kate Bush
ケイト・ファンからは、シングル・カットされてないのでは?と苦情が来るかもしれませんが(笑)
一応、英国で10inchレコードが2,000枚限定で発売されたので、あえてこれを選んでみました。
非常に内省的で静かなアルバム『50 Words For Snow』の中でも、特にジワジワ沁みてくる楽曲なのですが、2014年に35年ぶりに行われたケイトのコンサートでも、アンコールでこの曲がピアノ弾き語りで演奏され、感動したことを思い出します。
一度聴いただけではピンとこないかもしれませんが、何度も聴いているうちにクセになってしまうのです。
以上、ケイトのシングル曲の中から10曲をご紹介しましたが、いかがでしたか?
他にも、びっくりするほど実験的な曲や、親しみやすいポップな曲も多々ありますので、
ぜひ聴いてみてくださいね。