作品紹介
1990年8月公開。
戸川幸夫原作の同名の児童文学を、アラスカからシベリアに舞台を移し、長い準備期間を経て脚色・制作された映画。
氷点下30度超えのどこまでも続く酷寒の白い世界が自然の厳しさを伝え、そこで生きていくオオカミや動物たちの壮絶なドラマ、そして人と人、人とオオカミ犬との熱き絆が見事に描かれています。
血清運搬の途中で命を落とす犬たち、ケガをして生きていけない犬のために銃を持つ主人公。
涙なくして見られない感動巨編です。

【あらすじ】
オーロラの下で | Movie Walker
冒頭 狼との闘い
政治犯を連れて犬ぞりで逃走するアリョーシャ(アンナの夫)。
獲物(犬と人間)を執拗に追う狼。
1匹の犬が力果て、ソリに絡まってしまう。人間と他の犬を救うために切り離すアリョーシャ。そこにアッと言う間に群がる狼たち。
やがて狼に囲まれたアリョーシャは、決死の思いでリーダー犬・ダームカを逃がし、助けを呼びに行かせますが、そのあと、悲惨な運命がアリョーシャたちを待っていました。
生きるためとはいえ、猟師にとって家族同然の犬を置き去りにせざるを得ない状況、置き去りにされた犬の鳴き声。序盤から自然界の過酷で厳しすぎる現実が登場するシーンです。
目抜きの源蔵
獲物の毛皮を傷つけることなく、目を撃ち抜いて仕留めるほどの腕を持つマタギ。
恋人・うめの身請け金を狩猟で作るために単独でシベリアに渡ります。
アルセーニーとの出会いと友情。アンナとの間に芽生えるほのかな恋心。犬ぞりのリーダー犬・ダームカとオオカミの群れの王との間にできたオオカミ犬・ブランとの確執。
役所広司の演技が光ります。
日本にはなじみの薄いロシア(当時はソ連)の俳優陣も見事な演技を見せています。


遅すぎた帰郷
アルセーニーの援助で日本に帰れた源蔵は、急ぎうめの元へ行くが、うめはすでに身請けされた後でした。
京都で再会する源蔵とうめ。しかし、時の流れは残酷でした。幸せそうなうめを目の当たりにし源蔵は別離します。
その後、官憲に拘束され、軍隊の先導役として再度シベリアに渡る源蔵でした。
愛する女性の為に酷寒の地まで渡り、どん底の生活をせざるを得なかった源蔵の気持ちはいかばかりだったでしょう。役所広司が寡黙で、しかも厚情のある男を演じています。
桜田淳子はきれいですねぇ。しかも若い。艶のある日本女性の役がピタッとはまってます。


シベリアの地にふたたび
アルセーニーとの再会、そして死別。ブラン(オオカミ犬)との絆の生誕等を経て、源蔵は更なる試練に立ち向かいます。伝染病が発症したセーベルメイ村まで、アルセーニーに代わって血清を届ける大氷原行です。
悪天候の猛吹雪、氷点下30度以下になるという酷寒がスクリーンいっぱいに表れ、シベリアの厳しさをヒシヒシと感じさせます。
ブランと犬たちとの決死の運搬が描かれますが、一頭また一頭と倒れていく時の切なさ、やるせなさ、悲しみ。犬たちの死は胸を締め付けられる思いで、涙がこぼれます。
ブランとの再会
オオカミの群れに囲まれた時、ブランが遠吠えとともにロープを切り群れに向かって走り出します。必死にブランの名を叫ぶ源蔵。しかしブランは戻ってきませんでした。
源蔵はこの時「ブランに逃げられた」と思ったのでしょう。
リーダー犬を失い絶望感に満ちた男を、役所広司が熱演しています。
1人きりになってもソリを引く源蔵の前に、1頭のオオカミが現れます。ブランでした。
1人と1匹の最後の大氷原行がはじまります。
オオカミ犬のなんとたくましいことか。見た目はオオカミそのものですが、犬の従順さ・賢さを兼ね備えたブランは人間以上の存在感を持っています。
オオカミ犬との絆
傷つき、尊い仲間の命を犠牲にしつつも、目標の村に到達し、多くの人々の命を救ったブランと源蔵。最初は反発しあっていましたが、命を賭して向き合ってきた2人の間には、深い絆が生まれていました。
試練に次ぐ試練の連続だっただけに、最後はハッピーエンドが一番です。
それにしても、ブランはカッコイイですねぇ。決して人にはなつかないと言われるオオカミも、犬の血が混じるとこんなにもフレンドリーでカッコ良く変身するのですね。
命の尊さを深く見つめさせてくれる作品です。

原作とアニメ
1972年12月初版の戸川幸夫の原作本です。
原作のユーコン(母)は劇中のダームカ。子供のバルトが劇中のブランで描かれています。
原作はある程度実話に基づいて描かれており、映画と違った側面をみせています。

アメリカ版アニメ
1995年スティーブン・スピルバーグ制作のアニメ「バルト」。
アニメ用に脚色され、血清を取りに行った犬ぞり隊を、バルトやシロクマ達が救出する物語。
バルトの視点から描いているファミリー向けの作品です。
子供と一緒に涙しながら見るのもイイですよ。
主な出演者
役所広司 田宮源蔵

桜田淳子 鈴木うめ

アンドレイ・ボルトネフ アルセーニー

マリーナ・ズージナ アンナ

ガッツ石松 憲兵

アラスカの美談
実際のバルトはオオカミ犬ではなく、シベリアンハスキーだと言われています。
ニューヨークのセントラルパークにバルトの銅像があります。
数百人もの命を救ったラストランナーのリーダー犬らしい、雄々しい姿です。

実は一番長い距離にして一番険しかった行程を走破したのが、最終チームのバルトに血清を渡した一つ前のチームだったそうです。その犬ぞりのリーダー犬の名前が「トーゴー」。飼い主は、なんと日本の東郷平八郎にちなんで名前をつけたそうです。

アイディタロッドレース
毎年3月に開催される国際犬ぞりレース。
1925年の血清運搬にちなんだ名誉あるレースです。
1967年に初めて開催され、1973年にノームの町がゴール地点となり、その後アンカレッジ➡ノームの約1600kmのレースが確立されていきます。
過酷なレースだけに、途中いくつものチェックポイントがあり、犬たちの状況を確認するケアチーム(獣医)が待機し、続行の可否判断等をしているそうです。


先人たちが命を賭してやりとげた功績は、文学に、芸術に、そしてレースという形で受け継がれ、これからもまた発展していくことでしょう。