「怪物・江川」に挑んだ球児たち①1973年春・広島商業。

「怪物・江川」に挑んだ球児たち①1973年春・広島商業。

高校野球史に残る名勝負をいくつか紹介しています。ここでは、1973年春の選抜大会、作新学園対広島商業戦をとりあげます。怪物・江川卓投手に広島商業の選手はいかにして挑んだのでしょうか?


怪物・江川卓

江川卓投手は、高校1年夏から主戦投手として活躍します。準々決勝の対烏山戦では、中学を卒業してわずか4か月の投手が、栃木県高校野球史上初の快挙となる完全試合を達成。続く準決勝での対宇都宮商戦でも先発し、好投するものの延長11回で降板。後続のピッチャーが打たれて、高校1年生の夏、甲子園出場はならなかったのですが「怪物・江川卓」の名前は高校球界で知れ渡る事となりました。
高校1年生の秋。秋季関東地区大会栃木県予選の1回戦で石田真選手(1972年のドラフト1位で阪急に入団)を擁する強豪・足利工を相手にノーヒットノーランを達成。その後も勝ち進み、決勝戦で11奪三振を奪って栃木県大会を優勝。続く関東大会でも優勝候補の最右翼にあげられたのですが、1回戦、江川選手は頭部死球を受け退場し、そのまま入院。チームも後続投手が打たれて敗戦。春のセンバツ大会出場はなりませんでした。

江川卓選手(作新学園)

更に、2年生の夏、江川卓選手は全国大会栃木県予選の2回戦(対大田原戦)、3回戦(対石橋戦)、準々決勝(対栃木工戦)と登板した3試合すべてでノーヒットノーラン(うち3回戦の対石橋戦では完全試合)を達成。続く準決勝の対小山戦も10回2アウトまでノーヒットノーランでしたが、味方打線が点を取れず、延長11回裏、サヨナラスクイズによって0対1で敗れます。
この様に江川卓選手は「怪物」の名にふさわしい投球を地方予選で見せつけてはいたものの、1年夏・2年春・夏と甲子園出場を果たすことができなかったのです。

怪物江川 vs 広島商業

高校二年の秋・江川卓擁する作新学園は栃木県大会を優勝すると、続く関東大会でも、江川選手は快投。群馬の強豪・東農大二高、「黒潮打線」の銚子商、決勝では好投手・永川英植(1974年のドラフト1位でヤクルトに入団)を擁する横浜高校らを全く寄せ付けず、関東大会を制し、春の選抜大会出場を初めて手にしたのです。ちなみに、この時の作新学園は新チーム結成以来、練習試合を含む23戦全勝で負けなし。江川選手は113回無失点という驚異的な記録を残しています。

表紙を飾る江川投手(作新学園)

1973年春の第45回選抜大会は「江川の大会」ともいわれたほどレベルの違いを見せつけた大会となりました。初戦で出場校30校中トップのチーム打率3割3分6厘を誇る北陽高校を相手に4安打19奪三振で完封勝ち。続く二回戦の小倉南高校はバットをふた握りも短く持つ「短打戦法」で江川選手に揺さぶりをかけるものの、これを一蹴。続く3回戦では四国地区大会優勝校の今治西校を相手に7回2死まで1人のランナーも許さず、結局、8者連続を含む毎回の20奪三振、1安打完封勝利します。

広島商業の秘策「打たずに勝つ」とは?

準決勝は広島県代表の広島商(広島に入団する達川光男選手が在籍)と対決します。広島商業は江川投手に対する「秘策」をもってこの試合に臨んでいました。

広島商野球部主将(当時)・金光興二さん 

広島商の秘策とは、全選手がバッターボックス内でホームベース寄りに立って内角の球を投げづらくさせるとともに、バットを短く持ち、外角低めの球をカットして、投球数を増やす。そして「広商野球」の代名詞である「足」をもってかく乱する事でした。

8回裏2死1・2塁からダブルスチールを敢行、これが小倉捕手の3塁悪送球を誘い、2塁走者がホームを踏んで2点目を奪います。結局これが決勝点となり、江川選手はベスト4で敗退するのです。

江川選手は、この大会で通算60奪三振を記録。1930年(昭和5年)選抜優勝の第一神港商・岸本正治選手の作った54奪三振の従来記録を43年ぶりに塗り替えます。この60奪三振は現在でも選抜大会記録です。ちなみに、この選抜大会で優勝したのは、関東大会で江川選手に敗れた横浜高校。2回戦で破った今治西工もの年の夏の全国大会でベスト4入りしています。これは江川選手は非常に高いレベルのチームを相手に快投し、驚異的な記録を残したことを示しているのではないでしょうか。

死闘・その後

この年の夏、甲子園に戻って来た江川卓選手ですが、2回戦で対戦した銚子商業相手に延長12回雨中の死闘の末、敗退します。

作新学園対銚子商業戦を回顧する新聞記事

この試合の詳細については、別記事にて詳しく書きたいと思います。

江川卓選手の甲子園での成績

江川選手は、高校時代、地方大会でノーヒットノーラン9回、完全試合2回。
甲子園での通算成績は、6試合に登板し、4勝2敗。投球回数59回1/3、奪三振92(1試合平均15.3、奪三振率14.0)、自責点3、防御率0.46。選抜高等学校野球大会における大会通算最多60奪三振記録など全国の高校野球ファンに鮮烈な印象を残しました。

高卒即・プロ入りかと思われたが…

高校卒業後すぐプロ入りするのかと思われた江川卓選手は、1973年秋のドラフト会議で上田利治新監督率いる阪急ブレーブスから1位指名を受けますが、入団を拒否。法政大学に進学します。その後「空白の一日」を経て巨人入り。、1980年代の日本プロ野球、セ・リーグを代表するエースとして活躍しました。

現在の江川卓さん

現在、野球解説者として活動している江川卓さん。オフのたびに監督就任の噂が流れますが…。「怪物」が再びユニフォームを着る事を待ち望む野球ファンは多いかと思います。

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