松本大洋の短編集 「日本の兄弟」
「ピンポン」や「鉄コン筋クリート」等多数の名作漫画を世に送り出した漫画家・松本大洋。
本作は1994年~1995年にコミック雑誌「COMIC アレ!」にて連載された彼の短編を中心にまとめた作品集。

一度読んだら忘れられない、圧倒的な画力と言葉で綴られた、松本大洋ワールドの原点が垣間見える短編集。地球の裏側に出ることを夢想して穴を掘り続ける兄弟の姿を描いた表題作ほか、11編を収録。
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初版の収録タイトル
何も始まらなかった一日の終わりに[チャリの巻]
何も始まらなかった一日の終わりに[ハルオの巻]
何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]
LOVE2 MONKEY SHOW
闘
ダイナマイツ GON GON
日本の友人
日本の兄弟
日本の家族
散文的な乾いた描写が特徴の短編集
何も始まらなかった一日の終わりに[チャリの巻]

何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]

かつての思い出の世界に迷い込んだような世界が描かれる。
今と昔が交錯する様子が、物語にリズム感を与えている。
お爺さんは「死」を予見しているようだ。
画像の一コマ目にあくびをしている猫。
猫は日常の世界にいる。夢と現実の差を明確にする一つの指標として機能する。
過去に出会った人々と「対話」し、思い出に没入していくお爺さんとは無関係に淡々と時が流れていく。
変わらない日常。
そう、「何も始まらなかった一日の終わりに」。
LOVE2 MONKEY SHOW

※画像の台詞を引用
サチコ「貴方は今日もフリチンでベッドを磨いているのね オサム」
オサム「そうとも僕は毎日フリチンでベッドを磨いているのさ サチコ」、「1999年7月に下される裁定を前に我々には箱船が必要なんだよ サチコ」
サチコ「信心深いのね オサム」
オサム「答えが欲しいのさ サチコ 時間が無いんだよ」
サチコ「答えなんて無いわ オサム それが答えよ」
子供の天使「けっ」
オサム「ところでハラが減ったよ サチコ オナカとセナカがくっつきそうだ」
サチコ「真理ね」
赤ん坊「YES」
日本の友人

松本大洋の他作品との親和性
孤高のゴリラの孤独を描いた「ダイナマイツ GON GON」
日本の兄弟/松本大洋 1995 - 安寧と怠惰

いつかの死におびえる2人の「ハルオ」
「何も始まらなかった一日の終わりに[ハルオの巻]」の主人公・ハルオ。
彼は人間の死について日々悶々と考えている小学生。
「どうして人は死ぬ?人は死んだらどこへ行く?」と。
学校もサボりがちで、同級生に「またはげまし学級に入れられちゃうよぉ」と忠告されるが、聞く耳をもたないハルオ。
そして、2010年代に連載された「Sunny」にもハルオは登場する。はげまし学級の存在も両作品に共通している。
思春期の準備段階である年頃の少年を扱った両作品。
短編集「日本の兄弟」のハルオは少しばかり臆病で、意地悪。
少しヤンチャだが、想像力豊かな「Sunny」のハルオと見比べてみるのも味わい深い。

絵のタッチが違う「お爺さん」
死を予感させる存在として「何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]」で登場するお爺さん。
本作では、主人公の死を強烈に浮き立たせる名脇役だが、「花男」のコミカルで温かな世界観に少しアクセントを与える存在として登場する。
ほぼ同じ意味合いの台詞だが、作品によって使い分けが明確。
![「何も始まらなかった一日の終わりに[祭りの巻]」に登場するリアルタッチのお爺さん
台詞 「泣いとる 海が」](/assets/loading-white-036a89e74d12e2370818d8c3c529c859a6fee8fc9cdb71ed2771bae412866e0b.png)

前述の「日本の友人」で主人公が電車を待つシーン。
その駅名は「たから町」。そう、名作「鉄コン筋クリート」と同じ街である事が分かる。
松本大洋初期の本作。
そうした色々な実験がなされた短編集であり、今見ても非常に楽しめる作品となっている。