『動物のお医者さん』について

H大学獣医学部を舞台に、獣医学部の学生たちや教授たち、飼育されたり患畜としてやってくる動物たちが織り成す、大学日常生活コメディマンガ。
画風は少女マンガですが、作者の生真面目な取材力とデッサン力で細部まで丁寧に描き込まれていて、動物たちがリアルにとても可愛く描かれています。

登場人物

西根 公輝(にしね まさき)と シベリアンハスキー犬のチョビ


心優しきオオカミのような容姿を持つ、シベリアン・ハスキー

西根 タカ と 飼い猫のミケ


二階堂 昭夫(にかいどう あきお)



漆原 信(うるしはら まこと)


菱沼 聖子(ひしぬま せいこ)


ヒヨちゃん
他に出てくる人間も動物も、本当に性格や好みや世渡りの方法が様々です。
「ああ、こういう人いるいる」と言いたくなるキャラクターがいっぱいです。
少女マンガなのに恋愛話がない?!
この作品は、少女マンガにつきものの恋愛話がありません。
ゆったりじっくり、かつ、わあわあと、研究と実習に明け暮れる毎日です。
虚構の世界だけどリアルな生活感。
くせになり、つい読み過ぎてしまいます。

ベタベタしない少女マンガは「おじさんが読んでも面白い」という特徴を生み出しました。
そのため、今までにはなかったファン層を獲得し、中には大真面目にこの作品を論じる方まで現れました。
『動物のお医者さん』は理想の大学!連載当時、京都大学広報で紹介される
なんと当時、京都大学の教授だった高橋三郎さんが大学の広報で、「理想の大学」という題名で、「動物のお医者さん」について取り上げたのです。

高橋さんは、この作品を「正統的な、極めて優れた『教養小説』(ビルドゥングスロマン)」と評しています。
正直、そんなに難しく分析しなくても・・・と思いましたが、次の文章で、高橋さんが一気に身近になりました。

この広報の文章を読んだ学生たちから、いろいろ声をかけられたそうです。
学生たちも、教授に親近感を持ったのでしょうね。

ああ、シーザーをご存じ!
出番は多くないのに印象に残るキャラ。
これは間違いなくじっくり読まれていますね。
それにしても、これに近い性格とは・・・なるほど。


ちなみに、この回の広報を出すための広報委員会では、大学関係者のどなたかが、白泉社のコミックスを数冊「席上資料」として持ち込まれたそうです。
そんな会議が「あり」だったんですね。
いろいろな意味で、おおらかな時代だったと思います。
えっ、自分で募集?「佐々木倫子にネタを送ってあげよう!」
「動物のお医者さん」の連載開始にあたって、作者の佐々木さんは雑誌の広告を使って「佐々木倫子にネタを送ってあげよう!」と、「獣医学部あるある」や「動物あるある」のネタを募集しました。
作者自ら呼びかけるネタ集め!
本人も「カケ」だったと述懐しているように、作り手もハラハラのスタートだったようです。
(白泉社文庫『動物のお医者さん』2巻の巻末に「Making of 動物のお医者さん」で紹介)
結果的には全国から、動物にたずさわる人たち(獣医、学生、ペットの飼い主など)のエピソードがたくさん集まりました。良かったですね。
それらをもとに取材を重ね、作品に反映されていったそうです。
佐々木さん自身北海道出身。
「北海道あるある」も含めて、様々な「あるある」が、フィクションのマンガにリアリティーを持たせていたようです。




マンガが現実の世界に与えた影響
「動物のお医者さん」人気は、獣医という仕事への関心も高め、結果的に北海道大学獣医学部への受験希望者を大増加させてしまいました。
面接の時、試験官の方が「君も『動物のお医者さん』?」という質問が連発されたそうです。
獣医系大学に志望者が殺到した時期 漫画「動物のお医者さん」の凄まじい影響力 | +獣医のペット病院ウラ話!?
最近では、『銀の匙 Silver Spoon』という、やはり北海道を舞台にした農業高校のお話が人気で、農業高校ブームになり、入学希望者が増えたそうです。

ただ、今のようにネットが普及していなかったあの頃、マンガだけで影響を与えた「動物のお医者さん」は、やはりすごい作品だったのだと思います。
「なんだか最近、あんまり読みたい本がないなあ。」という方に、ぜひ手に取って読んでいただけたらと思います。
