ムック『松本零士大解剖』発売!
2016年3月に、『松本零士大解剖』というムックが発売されました。
今までの作品の登場人物を振り返るのはもちろん、作品の相関図やメカニック理論が載っていたり、宇宙飛行士・星出彰彦さんのインタビューや『銀河鉄道999』のエターナル編・第1話が原画で掲載されるなど、なかなか興味深い内容です。

松本零士のスペースオペラを大解剖するムック発売、ハーロック誕生秘話など (コミックナタリー) - Yahoo!ニュース
中でも目を引くのは、16ページのマンガになっている
「宇宙海賊キャプテンハーロック誕生物語」(作画/島崎 譲 脚本協力/安斉 勝則)
という作品です。
ハーロックとトチロー、二人のキャラクターがどのようにして生まれたのか、松本零士さんの少年時代からの発想を追って描かれています。

『ハーロック誕生物語』
『宇宙海賊キャプテン・ハーロック』や『銀河鉄道999』など、ハーロックが登場する作品は数知れず。
親友トチローの存在も含めて、松本零士さんの作品には欠かせない二人で、あの頃、夢中になって読んだり観たりしていた方も多いのではないでしょうか。
そうした往年のファンが『ハーロック誕生物語』を読むと、二人のキャラクターを生み出す過程に、「ああ、あれはそういうことだったのか」と、思わずニヤリとするものです。
機会があったらぜひ読んでいただけたらと思います。
ハーロックとトチローの原型は、少年時代のあこがれと親友。
「ハーロック」の名前は、少年時代に映画館で観た、ヨーロッパ映画の兵隊たちが叫んでいた「音」(松本少年はそれが人名だとわからなかった)の響きが気に入ったから。
そのハーロックのマンガを描くために、ビジュアルのモデルにしたのが、松本零士さんの無二の親友だったそうです。


松本零士さん 高校1年生の時
ハーロックのキャラクターができた後も、しばらくはさまざまな作品の脇役として登場していたそうです。
二人一緒に旅に出るようになったのが、『ガンフロンティア』でした。

ガンフロンティア
実はハーロックのモデルになった方が、下に紹介する動画に、ほんの一瞬だけ映っています。
NHKで15年以上前に放送された『美と出会う』という番組です。
松本零士さんの回で、同級生と恩師が集まって語り合うシーンです。
動画が長いので、時間のない方は、17:00あたりに進めて観てください。
時間のある方はゆっくりご覧ください。とても面白い番組です。


ごろ寝をしてくつろぐハーロックとトチロー
人生哲学を持ったキャラクター
ハーロックとトチローのビジュアルやコンビの成り立ちが、少年時代の友人関係からだということはわかりました。
次に、キャラクターに肉付けされる、性格や考え方についてみていきたいと思います。
松本零士作品の面白さは、壮大な宇宙を舞台にしたストーリー展開です。
しかし、ストーリーとは別に、ハーロックやトチロー個人のセリフが、とても実感がこもっていて、印象に残ったり勇気づけられたりしたことありませんでしたか?

男おいどん
宇宙やメカに関する知識はもちろん、キャラクターにも土台が必要。
松本零士さんはそうした考えのもと、大切に思う人々や御自身の体験を核に、人生哲学を持ったキャラクターを作り上げていきました。

偉大な父の存在
なかでも、少年時代の松本零士さんにとって、「偉大な父の存在」はとても大きなものでした。
尊敬する父親の生き方や考え方が、作品の中にも大きく影響したそうです。
自分の目でたくさんの軍用機を見てきた経験が、戦闘機や戦艦など、機体・船体をリアルに描く背景にあったのですね。
作品に登場する飛行機や戦艦は、多くがプラモデルになっています。
その精巧さ、デザインの美しさが、ファンを惹きつけるのだと思います。

複葉機アルカディア号

メッサ―シュミットMe109Gアルカディア号

アルカディア号
本当のサムライとしての父のイメージ
松本零士オフィシャルサイト | Profile
身近な父から学んだ「サムライ」の生き方が、沖田艦長やハーロックの人となりになっている!当時、作品の名セリフが心に響いて感動したのを覚えています。

沖田十三
映画『わが青春のアルカディア』という作品に、ファントム・F・ハーロックⅠ世という人物が登場します。
「飛行機乗り・ひげ・ハーロックという名前」を総合すると、たぶん、松本さんのお父様をイメージしていたのではないでしょうか。
当時、この役の声優を、俳優の石原裕次郎さんが務めました。
たった5分の出番に1000万円の高額なギャラが支払われたことが話題になりましたが、個人的な見解ですが、松本さんは、これだと思う最高の役者さんに、どうしても父のキャラクターを演じて欲しかったのではないかと推察します。

ファントム・F・ハーロックⅠ世
自分自身の体験や気づき
この辺で、松本零士さんご自身の、体験や考え方についてふれてみたいと思います。
松本さんは、漫画家としてデビューして、一生懸命描いても、作品が売れたり売れなかったりする時期が続きます。
「クビが飛んで悔しい思いも何回もした」そうです。
しかし、マンガを描き続けていた幼い頃から、描いたものを「漫画映画」にするという夢がありました。実際、自主製作もしたそうですが、36歳の時にチャンスがやってきます。
『宇宙戦艦ヤマト』をTVアニメ化する話でした。

この頃、裏番組で『アルプスの少女ハイジ』が絶大な人気を誇っていましたからね。
冒頭で紹介した、古代守=ハーロック案も、これで吹き飛んでしまったわけです。

レオパードロックからキリマンジャロを見て悟りを開く


この後、日本に帰った松本零士さんに不思議なことが起こります。
『銀河鉄道999』の長期連載化が決定し、没になりかかっていた『キャプテンハーロック』の企画も復活。日本を離れる前、あれだけ逆風が吹いていたのに、すべてが息を吹き返し、大逆転したのでした。
私たちがTVや映画に夢中になる前に、こんなことが起きていたのです。
ハーロックとトチローを描き続ける
それからは皆さんもご承知の通り、次々とヒットし、映画も次々公開されていきます。
もちろんハーロックとトチローも、様々な形でいろいろな作品に登場しました。
今まで見てきた様々な背景や要因が、物語の広がりやセリフの奥深さをより高めたのではないでしょうか。
なかでも、『銀河鉄道999』と『わが青春のアルカディア』の中の、ハーロックとトチローのエピソードは、心に響くものがありました。
映画『わが青春のアルカディア』では、こんなエピソードもありました。

『わが青春のアルカディア』ファントム・F・ハーロックⅡ世

大山 敏郎



REVI C12D
また余談ですが、この照準器は、松本零士さんが渋谷で買ったもの。
「われながら『こんなもの買って・・・』と思わないでもなかった」そうですが、駅近くの駐車場まで歩く間に物語が浮かんだそうです。

ハーロックとトチローの物語の後ろには、必ず何かの思いがあり、事実があり、筋の通った哲学がある。そう思いながら観ると、また深い味わいがある松本零士作品です。
最後に、『宇宙海賊キャプテンハーロック』の挿入歌『わが友わが命』をお聴きください。