
“成長”し苦悩は深く 〜少年サンデー版サイボーグ009
64年から長きに渡って漫画家石森章太郎(晩年に石ノ森章太郎に改名)のライフワークとなったサイボーグ009シリーズ。79年から81年まで少年サンデーコミックとして刊行された全12巻の「サイボーグ009」が今回ご紹介する作品です。
週刊少年サンデーだけでなく、並行してビッグコミックにも掲載されていたんですね。
サイボーグ009については、多くの方が基本的な設定についてはご存知とは思いますが、念のため引用いたしますと、、
9人のサイボーグ戦士、誕生

9人のサイボーグたちは、ゼロゼロナンバーと呼ばれるコードネームを持ち、それぞれに特殊能力を持つ。
001 イワン・ウイスキー
ロシア人。脳改造により天才的な脳の働きをすると同時に各種の超能力を使える。
002 ジェット・リンク
アメリカ人。ジェット飛行ができ、動きなどを一定時間加速できる加速装置を持つ。
003 フランソワーズ・アルヌール
フランス人。視覚と聴覚を機械化し強化されている。
004 アルベルト・ハインリヒ
ドイツ人。全身武器の戦闘のエキスパート。
005 ジェロニモ・ジュニア
ネイティヴ・アメリカン。装甲皮膚と怪力を持つ。
006 張々湖
中国人。口から火炎を放射し、身体もまた高熱に耐えることができる。
007 グレート・ブリテン
イギリス人。なんにでも変身できる。
008 ピュンマ
アフリカ出身。深海などの環境で自在に活動できる。
009 島村ジョー
日本人。一番最後に改造されたため、先の技術の集大成的完成体。加速装置を持つ。

戦士たちの闘いと日常
64年の誕生以来、サイボーグ戦士たちは自分たちを生み出したブラックゴースト団はじめ、さまざまな敵と戦ってきましたが(ときには“神”と!—この試みは頓挫しましたが)、
このサンデー版では戦いだけでなく、彼らの日常も描かれます。たんに戦いの日々以外にもサイボーグゆえに訪れる彼らの苦悩。そういった題材が、ときに一話完結、あるいは何話かに渡る中編、長編として描かれていきます。
作品中明示はされませんが、これまでのシリーズから年月が経過したと思われる大人びた様子です。常に戦闘服を着て臨戦態勢の戦闘マシーンとしてでなく、彼らの日常がベースとされています。彼らもふだんは戦闘ではない日々の活動、あるいは仕事について生きているのです。
そんな彼らの苦悩と戦いを追ってみましょう。
第1巻 黄金の三角地帯
北の巨人 コナン編
札幌にギルモア博士とともに助手として降り立ったジョー。巨大な石棺に見つかった巨人は、ネオブラックゴースト団のサイボーグだった。同じくつくられたサイボーグという意味では自らの“兄弟”ある巨人を致し方なく倒すジョーの哀しみ。再び蘇った悪の組織、ネオブラックゴースト団。
黄金の三角地帯編
再び終結するサイボーグ戦士たち。世界中に高純度の麻薬を流す東南アジアの黄金の三角地帯に、ネオブラックゴースト団の拠点を叩く。

第2巻 極北の幽霊
極北の幽霊編
世界の石油が固形化してエネルギー危機が。その答えを求めて、北極に向かうジョーらとギルモア博士、そして母との再会のため同行する女性安奈。かつてはギルモア博士の同僚であり愛し合った女性ジュリアが、その母であり、ネオブラックゴーストの手先として危機をつくり出した首謀者だった、、
眼と耳編
その能力のゆえに、自殺を図り怪我をした青年ユウジを助けたフランソワーズ。彼は超能力を持つゆえに苦悩し、、人と異なる能力を持つ者のそれゆえの、哀しみ。
父と子編
バイク事故の現場に居合わせたグレートとジョー。死にゆく男性は、遺した盲目の息子の手術に自分の角膜を使うように、二人に頼む。グレートが変身能力を使って、父と子にしてやれたことは、、

第3巻 アステカ
アステカ編
世界中で起こる原因不明の奇怪な現象。その中心点は古代アステカ王国の都があった地点だった。母を知らぬ孤児であるジョーの不安が増幅されるのも、その影響なのか。導かれるように向かったアステカの神殿でサイボーグ戦士たちが対峙したものは。人間は生まれながらにして罪に汚れた存在なのか、という大きな問い。
サルガッソー異次元海編
ギルモア研究所を襲った航空機は第二次大戦時のアヴェンジャー機、バミューダトライアングルで失踪した機体だった!謎を解きにトライアングルの一部であるサルガッソー海へ向かうジョーら。
誘拐編
フランソワーズが目を離した隙にイワンが消える。誘拐したのは幼子を亡くして錯乱した母親だった。イワンが彼女にしてやったことは、、

第4巻 未来都市
未来都市編
自ら思考する未来都市がアメリカの砂漠に建設される。そこを奪おうとしたネオブラックゴースト団から都市を救ったジョーたちだったが、なぜか都市は彼らに殺意を抱き亡き者にしようと襲いかかる。果たしてその真意は
愛の氷河編
「—ときどき、自分の“能力”がうとましくなることがある…」と、独り雪山を訪れたジェット。避難した山小屋で彼はエヴァという女性と出逢う。「生命のない女と—部品さえ交換しさえすればいつまでも生きられる男」の悲恋。
機械仕掛けの心臓編
まちで出逢った不良少女を助けたハインリヒ、彼は少女の甘えを諭し、強く生きることを教える。「…さみしい思いをしながらも…/それに負けずに…強く生きてる人がたくさんいる…/たとえば…/—ボクもその一人…」

第5巻 イシュタルの竜
イシュタルの竜編
中近東の石油プラントが襲われ、世界は石油危機に。父が精神に異常を来たし帰国、婚約者は行方不明となった美香を暴漢から助けたジェットは、父のうわ言にイシュタルの竜という言葉を聞き、彼女とともに調査に向かう。バベルの塔の復元現場で、ジェットはサソリ人間に襲われ、天牛に乗ったバビロンの女王イシュタルと名乗る女性と出逢うが。
血の精霊編
アメリカのインディアン保留区。“友人”のピューマ「ジョゼフ」と再会を果たしたジェロニモだったが、現地では吸血コウモリによって動物たちが人食いになっているという。
サイボーグ戦士 誰が ために闘う編
日本でともに新年を祝うために集まった9人のサイボーグ戦士たち。それぞれの能力を使って日本各地から材料を運び、迎春の準備をする彼らだったが、ささいなことからハインリヒとジェットが喧嘩に、、ギルモア博士の家を出て行ったハインリヒのもとにはジェットが、ジェットのもとにはハインリヒが現れ(!?)、喧嘩の詫びをいれる、、

第6巻 裸足のザンジバル
裸足のザンジバル編
海での一日を楽しむジョーたち。スポーツは人間の闘争本能から始まっている血なまぐさい行為、と言うハインリヒに、ピュンマが語る、アフリカに独立運動嵐が吹き荒び始めた頃の古い話—少年ザンジバルの「自分との闘い」
(もとは009シリーズにまったく関係なく描かれたハナシだったが、冒頭と最終ページに009の面々が登場するページを加え、シリーズの一篇としている)
機々械々編
頼まれてハインリヒそっくりの戦闘能力を持ったロボットを作ったが制御不能に。ギルモア博士に取り押さえてくれと頼まれたハインリヒだったが、、
凍る秋編
日本の地方の山村に小氷河が出現したという。張々湖は彼の中華飯店に茸を出荷している農家から頼まれ、ギルモア博士とジョーを伴い調査に向かう。
パッシング・ショット編
海で知り合った少女ジュンと仲の良い友人となったフランソワーズ。しかしこのところ、彼女がジュンに冷たい仕打ちを、、心配するジョーだったが

第7巻 コスモ・チャイルド
コスモ・チャイルド編
正体不明の異星人に母星を追われ地球に逃げてきた惑星フルルの子どもたち。闘うことを知らない子どもたちを助け、ついにハインリヒが彼らに闘うことを教えるのだが—

第8巻 スター・マーメイド伝説
スター・マーメイド伝説
深海艇に乗り込んでのタイタニック号の引き揚げを請け負ったジョーたちだったが、海底で巨大な構造物に飲み込まれ、そのまま宇宙へと連れ出される。内部には睡眠状態の異星の女性が。彼女は惑星レプチュームから流刑された女王だったのだ—
凍った時間編
施術台の上でジョーが目覚めると、世界は時間が止まっていた。加速装置の故障か?同じ家にいながら、動くことのないフランソワーズやギルモア博士、イワン。世界に一人だけの孤独のなかでジョーは、、

第9巻 アフロディーテ
アフロディーテ編(美と快楽の帝国)
クニドス、メディチのビーナス像が偽物に掏り替えられている。旅行に訪れていたハインリヒが知り合った美術評論家が見抜き、三大ビーナスの残る一つ、ミロのビーナスを守るべく、グレートが向かい変身してわざと盗まれて敵のアジトへ。同じ頃、世界中で美しい女性たちが失踪、フランソワーズも何者かに誘拐される。
メルヘン星のお花編
なにものかに“呼ばれ”、日本の田舎の村へと辿り着いたイワンとジョーら。その村の花畑にはクロソイド螺旋が描かれていた。自然には起こりえない、つまり人為的につくられたものである、、
ファラオ・ウイルス編
観光でエジプトのピラミッドにやってきたジョー、フランソワーズ、ギルモア博士だが、ミイラを“健康診断”のためロンドンに移送する準備で見学はできず。しかし“主治医”は博士の旧知であるハーシェル博士であった。その後ミイラは移送の途中、事故を装ってネオブラックゴースト団に奪われ、ひそかにサンプルを取られて戻される。ミイラは無事回収され、ロンドンに着いたが、ハーシェル博士はじめ関係者が謎の急死を遂げる事態に、、

第10巻 星祭りの夜
星祭りの夜編
七夕の夜、一度たりとも逢うことのかなわない母への憧憬を胸に、一人旅のすえ貴生川の里に辿り着いたジョー。彼は、遠い宇宙から届いた別れゆく恋人たちの思念を受け取る。
水霊(ディイデ)の泉編
後輩の頼みでアフリカ・ザイールに降り立ったピュンマ。大規模な密猟が行われていて、その解明に手を貸してほしいというのだ。水霊の泉には多くの動物たちの死体が、、
さらばネッシー編
日本の国会議員で書店社長という男が訪ねてくる。ジョーは自分たちの正体を公表すると脅され、ネッシー生け捕りの協力を強いられ、しかたなくピュンマ、ジェロニモとともにネス湖へ。金に明かした強引な遣り口に、地元の人間からは白い目で見られ、ネッシー保護団体の妨害も。保護団体のメンバーと接触し、危険な妨害を諭す一方、ジョーたちは、、
ザ・モダーン・ナルシス編
カメラマンにスカウトされたフランソワーズは、撮影スタジオでトップモデルのセリーヌと出会う。疲れて自分に疑問を抱くセリーヌに、フランソワーズは「—アタシだって実は、/自然な姿に…“人間”にもどりたい—と願っているのよ…!」と彼女に語る
山手線梅雨風景(スケッチ)編
梅雨。降り続く雨の憂鬱に東京のまちをさまようジョーだったが、目に映るのは人間の愚かしい風景ばかり、、
イルカと少年編
バカンスで五島列島に滞在しているジョー、フランソワーズ、イワン、ギルモア博士。地元の少年信次はフランソワーズにすっかり打ち解けている。イルカを追い込み撲殺する島の人々に、イルカと“友人”の信次は、捕えられたイルカたちを逃し、人々から責められる。そこでフランソワーズが思いついたあるアイデア、それをイワンに実行してもらうと—

第11巻 ザ・ディープスペース
ザ・ディープスペース編
9人とギルモア博士それぞれに宇宙からもたらされた夢の挿話。それは彼らの潜在意識にある哀しみを映し、人間の本性を見せつける。

第12巻 ベビー・ポピンズ
ベビー・ポピンズ編
みんなの用事が重なってしまったのでイワンの子守りにと来てもらったベビーシッターの女の子は、やる気はあっていい娘だが、やることなすことドジばかり。このままでは紹介所もクビに、、劣等感を大きく植え付けられて自信が持てない人間になってしまっているのだった、、そんな彼女にイワンは、、
張々湖飯店繁盛録編
張々湖の中華飯店に有名料理評論家が来ることに。ジェットとピュンマは張々湖のために中国からホンモノの食材を調達、彼は評論家氏に渾身の本場中華料理を提供する。ところが、、
赤い靴編
フランソワーズのバレエ赤い靴の舞台。相手役の男性には事故で踊れなくなってしまったバレリーナの恋人がいた。踊れないはずのその彼女が突然二人の舞台に現れ、くるくると舞い始める
七ツの子編
イワンを乳母車に散歩に出たフランソワーズ。通りかかった病院の医師団の会議を“聴く”二人。会議は、前例のない難しい七つ児出産の対処で、胎児2人を薬殺して残りを生かすという結論に。強者適応の自然や多胎児が自然でないことを諭すイワンに、納得できないフランソワーズ。イワンが試みるムズカシイ方法とは—
見えない糸編
家に戻ったところ、みんな出かけていて一人のギルモア博士。海辺で出会った少年に流木で人形をつくる約束をすることに。夜一人、人形を彫る博士の胸に蘇るのは、自ら行った9人への改造手術の記憶、、「…それから糸はつけないでね…!/自由でいたいの…!」
幻の蝶編
北海道大雪山高原。ギルモア博士の友人の山荘を借りて避暑に来ているジェットたち。知り合った蝶好きの少年に、山荘の主人のコレクションから幻の蝶「アカボシウスバシロチョウ」を見せてやるジェット。少年が翌日また幻の蝶を見せてもらいに行くと留守、見せてもらうだけと山荘に入り込んだ少年は思わず蝶を持って帰ってしまい、ボロボロにしてしまう。自慢気に見せてしまった自分にも責があると悔やむジェットは—
幻影島編
過去に人殺し細菌なる研究をジョーに打ち砕かれたフリードキン教授が、復讐のための招待状をジョーに送ってくる。研究所跡の島に呼び出されたジョー。島には他のゼロゼロナンバーの仲間たちも集められていたが、やがて彼らはジョーを襲ってきたのであった—!
変身編
観劇で隣り合った女性に昔の演劇仲間の面影を見て、変身した青年の姿で彼女と親しくなったグレート。しかし彼女は、、
硬軟バラエティに富んだ良シリーズ
—以上のように多彩な、少年サンデー版。全般に戦闘のハナシは少年サンデー、日常のハナシはビッグコミックに掲載されたものですが、この両方が読めてほどよく、画も洗練されていて、おススメのシリーズです。
昔読んだという方は再び、初見の方はなおのこと、読まれてみてはいかがでしょうか^^