日本の漫画史において、大自然の息吹をこれほどまでに鮮烈に、そして緻密に描き出した作家が他にいただろうか。2026年3月31日、株式会社三栄から一冊の特別なムックが刊行された。タイトルは『サンエイムック 矢口高雄の世界 ART WORKS 1969-2020』。惜しまれつつこの世を去った巨匠・矢口高雄の50年以上にわたる画業を凝縮した、まさに集大成と呼べる一冊だ。
ページから溢れ出す「自然の匂いと音」
矢口高雄の作品、特に代表作である『釣りキチ三平』を手に取った読者は、共通の感覚に陥るという。それは、ページをめくった瞬間に目の前の景色が消え、物語の舞台である美しい山々や清流の中に身を置いているような没入感だ。
描かれているのは、ただの背景ではない。そこには風の音があり、川のせせらぎがあり、土の匂いがある。そして、その厳しくも豊かな自然と対峙する人間や動物たちのドラマが、躍動感あふれる筆致で描かれている。今回の画集では、そんな「唯一無二の矢口ワールド」を、原画から最新の技術で高解像度再現。カラー原稿約200点という圧倒的なボリュームで、巨匠が遺した美麗なイラストを隅々まで堪能することができる。
ファン感涙の「単行本未収録」作品も収録
ファン感涙の「単行本未収録」作品も収録
本書の最大の目玉の一つは、『釣りキチ三平』の単行本未収録カラー作品が収録されている点だろう。長年のファンであっても目にする機会が少なかった貴重なカットが収められており、資料的価値も極めて高い。
収録範囲はデビュー当時の1969年から2020年に至るまでと幅広く、まさに「ART WORKS 1969-2020」のタイトルに相応しい内容となっている。初期の瑞々しい感性が光る作品から、円熟味を増した晩年のタッチまで、その進化の過程を追いかけることができるのも魅力だ。
代表作を網羅し、多角的に迫る「矢口高雄」の素顔
本書が網羅しているのは『釣りキチ三平』だけではない。
伝説のUMAブームを巻き起こした『幻の怪蛇バチヘビ』
厳しい自然の中で生きる人々を描いた『マタギ』
自伝的作品であり、昭和の原風景を伝える『おらが村』『9で割れ‼︎』
『釣りバカたち』『ニッポン博物誌』『蛍雪時代』
これらの名作群を改めて振り返るとともに、本書には矢口氏自身によるエッセイや、ゆかりのある関係者たちの証言も収録されている。作品の裏側にあった情熱や、彼が何を愛し、何を伝えようとしていたのか。その思想の一端に触れることで、作品への理解はより一層深まるはずだ。
全世代に贈る「永久保存版」の一冊
かつて少年時代に『釣りキチ三平』に胸を躍らせた世代はもちろん、デジタル作画が主流となった現代において、手描きによる圧倒的な描写力を学びたい若いクリエイターにとっても、本書は大きな刺激となるだろう。
オールカラー120ページ、A4サイズの迫力ある誌面で展開される「矢口高雄の世界」。それは単なる漫画の画集という枠を超え、失われつつある日本の美しい原風景を記録した「芸術書」としての側面も持っている。
自然と人間が共生していたあの頃の空気感を、矢口高雄の魂が宿るイラストを通して再体験してほしい。全国の書店およびオンラインショップで発売中の本書は、全ての漫画愛好家に捧げられた、まさに永久保存版の輝きを放っている。
商品情報
誌名: サンエイムック 矢口高雄の世界 ART WORK 1969-2020
発売日: 2026年3月31日
定価: 1,650円(本体価格1,500円)
仕様: オールカラー120P / A4平綴じ
発行元: 株式会社三栄